「あの連中がこの国に?」
ロボ子の言葉に4人とも警戒を強める。
何と言っても以前彼女達を苦しめた張本人達だ。実際、あの時地下ではねねの光の力が発動しなければどうなっていたか分からないし、地上でもあの光を見て風真いろはと沙花叉クロヱが引いたおかげでラミィ達も助かったところがある。
そんな彼女達、秘密結社holoXの一員である、博衣こよりが出雲の国にいると言うのだ。
流石に警戒せずにはいられない。
「連中? いや、複数かどうかは分からないけど、ママはいると思う。あ、でもあれだよ。この国って言っても、この街からは結構遠いと思うよ。方角的にはもっと西に行った方かな?」
ロボ子が西の方角を指差しながら言う。
「あ、ならよかった。ラミィ達が向かおうと思ってたのはここより北にある神社だし」
「ちなみにここから西の方角って、何があるの?」
何気ないねねの質問に答えたのは、これまでずっと無言を貫いていたぼたんだった。
「ギャングタウン地方だよ」
「え……?」
「ここから西に行くと、ギャングタウン地方がある」
ギャングタウン地方はぼたんの出身だ。3人はその名前だけは聞いたことがあるものの、そこがどういった場所かまでは知らなかった。
「いやー、てことは入れ違いになっちゃったかな。ボクも数ヶ月前まではそこにいたんだよ」
ぼたんの獣耳がピクリと反応する。
「……大丈夫だった? 物騒な所だったでしょ?」
「うん? いや、特にそんな風には感じなかったけど……記憶喪失のボクにも優しくしてくれたし」
「…………」
ロボ子の言葉に目を見開いて口を閉ざすぼたん。その様子を見てねねとラミィは首を傾げるが、ポルカはまた2人とは違った様子でぼたんを見つめていた。
『……私が育ったところは人に優しくした人から死んでいく世界だった。人に騙された奴から死んでいく、そんな世界だった。それなのに心の中では誰もが誰かの優しさを求めてて、だけど、この世界で一番警戒しないといけないのは優しさだと、そんな矛盾を教わって生きてきた』
以前エルフの里の大図書館でぼたんが零した言葉を思い出す。
「あそこの領主さんが記憶喪失のボクに住むところを用意してくれたからね」
「領主がわざわざ?」
それはそれでまた仰々しい話だとポルカは肩をすくめる。所詮はたまたまその地方を訪れただけの記憶喪失の少女(ロボット)をわざわざ領主が率先して助けるとは。
それだけ聞けば何ともハートウォーミングな話で素晴らしい地方だなぁとなるところではあるのだが──
それを聞く獅白ぼたんの様子を見る限り、あまり素直に聞き受け入れられる話でもなさそうだ。
「……その領主ってどんな奴だったん?」
「へ? えーと、長くて明るいピンク髪の綺麗なお姉さんだったよ。見た目は少し怖かったけど、話すと優しかったし。あ、あと──でかい鎌を持ってた」
「──っ!?」
ロボ子の説明に再度目を見開くぼたん。
「……ちなみにさ、私みたいな白い髪で獣耳を生やしたゴツいおっさんとか見なかった?」
自分の髪を指差しながら尋ねるぼたんにロボ子は首を傾げ、少し考える素振りを見せてから、首を横に振った。
「ううん、見てない」
「……そう」
ぼたんはそれだけ返すと、目の前にあるお茶を飲み干して一息入れる。
すると、そんなやり取りを見ていたねねが最後の1つになった団子を飲み込むと、ガタリと音を立てて席を立つ。
「さて、それじゃあそろそろ行きますか。ロボ子さんも一緒に行きますよね?」
「うえぇ? えっとどこに? 君達はここから北に行くんでしょ?」
「どこってもちろん、ギャングタウン地方ですよ!」
腕を組み、うんうんと1人頷いているねね。そんなねねをぽかんと見上げているのはロボ子と、ぼたんだけだった。
「ラミィは行ったことあるん? ギャングタウン地方」
「ないない。ていうかラミィもこの国自体初めてだよ。位置関係は地図を見て知ってるけど」
ねねに続いてポルカとラミィも立ち上がり、出発の準備を始める。
「ねねちゃん……?」
「ほらほら、ししろんも食べたんなら行くよ。ロボ子さんも準備してください。外で待ってますからね」
それだけ伝えてねね達は先に店を出てしまう。
置いていかれたロボ子とぼたんはその背中をぽかんと暫く見つめていた。
「えっと……ボクも一緒に行ってもいいのかな?」
「──あの3人が良いって言ってるならいいんじゃない?」
「……君は?」
「私は……あの子達が行くと言う場所ならどこへでだって付いていくから。さ、行くよ」
ほんとに困った子達だよと1つため息を吐いて席を立つぼたん。
困ったという言葉とそれを言う彼女の嬉しそうな表情が一致しているようには見えず、ロボ子の中の喜怒哀楽という感情プログラムがバグりそうになりながらも、ロボ子はぼたんの背中を追った。
× × ×
~ギャングタウン地方~
まるでマフィアのボスが居そうな高層ビルの最上階の一室。
そこの窓際に置かれているデスクに背を向け、椅子の背もたれに体重を預けながら窓の外を眺めている少女。
少女の膝の上では1匹の猫が大きなあくびをしている。
「ボス。報告がございます」
「……?」
本当にマフィアを思わせる黒スーツにサングラスの男が少女のデスクの前で両手を後ろ腰で組み、姿勢を正している。
ちなみにこの高層ビルも、この男を含む部下達にこのような格好をさせているのも全て彼女の趣味だ。
「最近この地方に怪しげな5人組が居着いているとの噂がございます」
「怪しげな5人組? それはどういった具合に怪しいの?」
「なんでも、探し物をしてこの地方にやってきたようなのですが、その探し物というのが物なのか人なのかよくわからず」
「……?」
要領を得ない部下の報告に少女は綺麗なピンク色の髪を垂らしながら首を傾げる。
「まあ問題なのはここからで、その探し物というのがなかなか見つからずイライラしているのか、うちの島で好き勝手動いてるというのもあって、元々気の短いうちの若いのと喧嘩している姿をたまに見かけるという報告が入っております」
「喧嘩って……好きにさせればよくない? そんなことまで報告しにこなくていいよ。なに? うちの馬鹿達に怪我させられたとかそいつらが言ってきてるとか?」
「……いえ、それが……、今朝、うちのが1人、死体となって発見されました」
「……は?」
「確かに若い奴らの中ではとりわけ気の短い奴でしたし、そいつらとも度々ぶつかっていたみたいなのですが、昨夜は帰ってこなかったようで今朝数人で探しにいったところ……」
「……おいおいマジかよ。そいつらに殺されたっていう確かな証拠はあるのか?」
「いえ……完全に証拠隠滅されており、確証は持てません」
「なるほどな……そいつらがここに来てからどのくらい経つんだ?」
「2週間程だと思われます」
「そうか……別にこの地で人が死ぬのは珍しい事じゃないが、うちのモンがよそ者に殺されるのは黙っておけないな」
そう言い少女は猫を床に優しく下ろすと、椅子から立ち上がり壁際に歩いていく。
「──よし、そいつらを私の前に連れてこい。私が直接話を聞くことにする」
そして壁に掛けてある愛用の大鎌を手にし、ギャングタウン地方の領主──森カリオペは不敵な笑みを浮かべた。