「へぇー、ここからがギャングタウン地方かー」
ロボ子と出会ってから5日程西に向かって歩いた一行は、獅白ぼたんの故郷、ギャングタウン地方へ到着していた。
「ロボ子さん、そのママって言っていた人の場所って分かりますか?」
最後尾にいたロボ子はキョロキョロと辺りを見渡しながらラミィの問いに答える。
「うん。間違いなくここにいる。多分あっちの方……」
ロボ子が指差す方向を目線で追うと、その先には他の建物と比べると群を抜いて背の高い高層ビルが建っていた。今いる場所から数キロは離れていると思われるが、他に高い建物がないため一際目立っていた。
「……な、なんだかあのビルだけ異色を放ってるね。街並みに合ってないというか。趣味が悪いというか」
「前からあったのかな?」
ポルカとねねが視線でぼたんに問うと、ぽかんとそのビルを見上げていたぼたんは首を横に振る。
「いんや、初めて見た」
「ちなみにボクがいた数か月前はもうあったよ」
この地方出身のぼたんが見たことがないということはここ数年で建てられたビルということだろう。そしてぼたん曰く、ぼたんがこの地方を出るまでは今の領主とは違う者がこの地方の領主をしていたという。
「つまり、新しい領主の誕生と同時にあのビルも建てられたのかな。だとしたら、あそこは現領主様がいるのかな?」
「その通りだよラミィちゃん。ボクがここにいた時はあのビルでお世話になってたからね。その時領主さんもあそこにいたんだ」
なるほど、と一同が納得しながらビルを見上げていると、突然ビルの最上階から数キロ離れたここまで届く爆発音がギャングタウン地方に鳴り響いた。
× × ×
「ボス。例の連中を連れてきました」
それはねね達がギャングタウン地方に着く30分程前。
ギャングタウン地方の領主、森カリオペの執務室でもある高層ビルの最上階にて、黒スーツにサングラスの部下がカリオペに伝える。
「遅い。連れてこいと言ってからもう5日だぞ」
「も、申し訳ございません。すぐに見つかりはしたのですが、少々ごねられまして」
「言い訳は聞いてない。ごねられようが何だろうが私が連れてこいと言ったんだから、お前らがやることはさっさとその連中を連れてくることだろう?」
「は、はい。大変申し訳ございません」
普段はその見た目によらず温厚な一面を見せることも多いのだが、5日も待たされたためか長い足を組み、机を指で叩きながらかなりイライラしている様子である。
そんなカリオペにひと睨みされた部下は冷や汗を流しながら頭を下げる。
「おー怖い怖い。組織のトップがそんなピリピリしてたら下の奴らは付いてこないぞ? 吾輩みたいにおおらかじゃないと」
「おおらかというか、我儘というか」
「おい幹部、うるさいぞ」
「き、貴様ら、何勝手に入ってきている! まだ入室の許可は出していないぞ!」
カリオペの横に立っていた部下の男が突然ノックもなしにドアを開いて入室してきた少女達に激昂する。
「はあ? こっちは忙しいのにわざわざ来てやったんだぞ。1秒だって待たせるんじゃねーよ」
「貴様! ボスを前に何だその態度は──」
「うるさい」
ヒュンという風切り音が聞こえたと思ったら、ごとりと男の首が床に落ちる。
「……うっはー、容赦ねぇ」
遅れるようにして倒れる首から上が無くなった男の身体を一瞬だけ見て、その後ろの大鎌を肩に担いで席を立つ少女に改めて視線を移すラプラス・ダークネス。
「貴様らが最近この地方にやってきた5人組か」
「それが何か?」
「……私は今イライラしている。こうなりたくなければもう少し口の利き方を考えろ」
大鎌で倒れた部下を指し、いつでもこうすることができるんだぞという意思を示すカリオペ。
しかし、そんな脅しに怯むはずのないラプラスは狂気的な笑みを浮かべる。
「それはこっちの台詞だボケ。頭が高ぇぞ」
一触即発。
今にもぶつかりそうな2人を見かねて、秘密結社holoXの幹部でもある鷹嶺ルイが間に入る。
「まぁまぁ、ラプも落ち着いて。すみませんね、うちの総帥が。それで、私達をここに呼んだのって何か理由があるのでしょうか?」
ルイの丁寧な物言いにカリオペも少し殺気を抑え、大鎌を床に突き刺す。
このカリオペという少女の力は知らないが、ラプラスの実力を知っている4人はこんな狭いところでラプラスに暴れられると大変困ってしまうので、カリオペの行動にホッと肩をなでおろす。
「最近この辺りで貴様らが怪しい動きをしているという話を聞いた。それ自体は別に構わない。何をしようとそちらの勝手だからね。ただ、数日前、うちの若い者が何者かに殺害されたという連絡が入った」
「ふむふむ。それで?」
「一応外から来た貴様らにこの地方の領主である私が直接話を聞こうとここまで呼んだ。この地方でうちの者に手を出す奴らは滅多にいないからね。今のとこと貴様らが第一容疑者だ。もし容疑を晴らすことができるのであれば、次は何かその事件について知っていることはないか聞こうと思っている」
「あー……なるほど……」
「吾輩が殺した」
「……なに?」
「……ラプ。あのさ、今私が何か良さげな言い訳を考えてたでしょ? 何でいきなり暴露しちゃうの? 何なの? 暴露系総帥なの?」
「何だ暴露系総帥って。別にいいだろ、正直に言えば。1週間くらい前のあの絡んで来た奴だろ。前々からたまに絡んできてはいたが、あの日は酔っ払ってたのか吾輩の角を汚い手で掴んできたから外傷を付けずに内臓だけをぐちゃぐちゃにして殺してやった。面白かったなあれは。人間ってあんな色んな場所から血を吹き出すもんなん──」
ラプラスは言い終わる前に口を閉じる。床に突き刺した大鎌を抜いたカリオペが一瞬でラプラスの目の前まで移動したからだ。
するとそれに反応した風真いろはがカリオペと同等の速度でラプラスの前に出ると、横凪で振り払うカリオペの大鎌を鞘から抜いた刀で受け止める。
「───っ!?」
しかしその瞬間、予想だにしていなかった現象が起こり、いろはは強引なバックステップを取って、ラプラスを巻き込んで後ろに倒れ込んだ。
「いったー! いきなり何ぶつかってきてんだお前! ──あん?」
いろはに押し倒された衝撃で床に頭を打ち転げ回るラプラス。
しかし、そんなラプラスには一切反応を見せず、いろはは手にした刀をジッと見つめてワナワナと震えていた。
「か、風真のチャキ丸がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
絶叫するいろはの手には、刀身の真ん中からスパッと綺麗に折れた刀が握られていた。