ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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死神VS総帥

「びええええええええぇぇぇぇん! チャキ丸ぅぅ!!」

 

 室内にいろはの絶叫が響き渡る。

 自分の手の中にある刀を見つめてカタカタ震えていた。

 

「あーあー、どれどれ見せて。ていうか、こよが改良した刀を折るって、どんなパワーしてるのあの人──ん?」

 

 いい加減うるさいとラプラスからゲンコツを受け、シクシク泣いているいろはから刀を奪い状態を確認するこより。しかし、その刀を見たこよりが首を傾げる。

 

「こより? どうしたの?」

 

「うーん、この刀を折るには相当な力と力をぶつけないと折れるはずないんだけど……この刀、折られてるっていうより、斬られてるんだよね。断面が綺麗過ぎる」

 

 ほらと言って断面をルイに見せるこより。

 その断面は確かに折れたようなガタついた断面ではなく、紙をハサミで切ったような綺麗な断面だった。

 

 こよりといろはとルイで刀の断面を覗き込む様子を見て、クロヱが呆れながら前に出る。

 

「ちょっと、ここラボとかと勘違いしてない? 敵さん目の前にいるんだよ?」

 

「そうだぞお前ら。一応この人吾輩らを殺そうとしてきてるんだからな」

 

 クロヱとラプラスの声にハッと我に返る3人。

 いろはの刀からカリオペに視線を戻し、臨戦態勢を取る。

 

「この大鎌は万物を切断する鎌だ。間違っても体に触れないように気を付けるんだね」

 

 カリオペの言葉を聞き、ルイがばさりと翼を広げてクロヱの横に並ぶ。この中で中・遠距離攻撃ができるのはルイとラプラスだけだ。さらに刀の無くなったいろはは彼女の攻撃を避けることはできても攻撃戦力としては数えられなくなった。

 

 飛び道具としても使えるルイの羽で一番近距離タイプのクロヱのフォローをするつもりなのだろう。

 

「待て、吾輩がやる。お前らは吾輩のバックアップだ」

 

「ラプが? 自分から前に出るなんて珍しいね」

 

「聞いただろ。こいつの鎌はお前らには流石に分が悪い」

 

「ラプなら大丈夫なの?」

 

「問題ない」

 

 ルイとクロヱを下がらせ、前に出るラプラス。

 今の会話が聞こえていたのか、カリオペはハッハッハと笑い声を上げて大鎌を肩に担ぐ。

 

「貴様がどれほどの実力者かは知らないけど、私の鎌を相手できると?」

 

「対峙しただけで吾輩の実力が分からないようじゃ、所詮その程度だ。御託はいいからさっさと来いよ。いーや、吾輩から行くわ」

 

 そう言い前に翳したラプラスの両手に黒い渦が収縮し始め、頭サイズまで膨れ上がった段階でカリオペに向けて発射される。

 

(魔力の塊か?)

 

 10メートルもない距離で超高速で迫る魔力弾をカリオペは冷静に大鎌で切断していく。

 その隙に懐まで接近したラプラスは掌底をカリオペの鳩尾に叩き込んだ。

 

「ぐっ……!?」

 

 込み上げてくる吐き気を強引に耐え、崩れかけた体勢も何とか持ちこたえる。

 だがラプラスの手はそのままでは止まらず、バク宙する要領で体を回転させてつま先でカリオペの顎を正確に狙っていく。

 カリオペはその蹴りをギリギリで避けるが、着地したラプラスは回避行動で顎が上がっているカリオペの視線から消えるように体勢を低くし、足払いを仕掛ける。

 

 だがカリオペもやられてばかりではなく、その足払いを読んでいたのかラプラスの動きを視認しないまま机に手を着いてバク転で足払いを回避する。そのまま机の反対側へ着地し、机を挟んだ状態でラプラスとカリオペは互いに動きを止めた。

 

「ラプちゃんって意外と接近戦も強いよね」

 

「元々ラプは近接格闘得意だよ」

 

「近接は風真の役割でござるよ!」

 

「沙花叉も近接タイプなんですけど」

 

「だから最近は前に出ることはしてないでしょ。ていうか、そもそも2人だってラプに近接で負けてholoXに入ったんだから、ラプが近接も得意なのは知ってるでしょ」

 

「え、そうだったの!? こよりは普通にスカウトされて面白そうだから入っただけだけど、2人は一回ラプちゃんにボコされてるんだ!」

 

「「思い出したくない過去を引っ張ってきおって……!」」

 

 ラプラスの戦闘を目の前で見ながら何のバックアップもせずに会話に夢中になっている4人の会話を背中で聞き、若干イライラするラプラス。それは彼女達からすればラプラスなら大丈夫だろうというある意味信頼の現れではあるのだが、もう少し何かこう、あってもいいのではないだろうか。

 

「さて、万物を斬るんだっけ? さっさと斬ってくれよ」

 

「…………」

 

 来いよと指をクイクイと動かすラプラスにふぅと一息つくカリオペ。

 そして鋭い視線をラプラスに向けると腰を落として集中モードに入る。

 

「──っ」

 

 ドカッとラプラスに向けて蹴り上げられた机を回し蹴りで吹き飛ばすラプラス。先程のラプラスと同じようにその隙に懐まで接近するカリオペだが、その動きを予測していたラプラスは右手に用意していた魔力弾を接近するカリオペの顔面目掛けて発射する。

 

 ひらりとその魔力弾を躱しながら、カリオペは横凪に鎌を振り抜こうとするが、その前にその腕が止まる。鎌の刃が体に当たる前にラプラスはカリオペの手首を掴み、腕ごとそのスイングを停止させていた。

 

「その小さい体のどこにこんな力があるんだい?」

 

「密度が違ぇんだよ。膨大な力がギュッと凝縮されてんの、この身体には」

 

 ビクともしないラプラスに掴まれた手首に驚きの表情を見せるカリオペだが、すぐにその右手から鎌を落とし、右足で器用に蹴り上げると掴まれていない左手に持ち替えてラプラスの首筋から斜めに斬りかかる。

 

 突然の曲芸に反応が遅れたラプラスはガードすることもなく刃がその首筋に接触する。

 

「ラプラス!!」

 

 後ろで見ていたルイ達が流石にやばいと思ったがもう遅い。

 万物を切断する大鎌は間違いなくラプラスの首左側面に当たり、そのまま振り下ろされようとしていた。

 

 

「…………おい。どういうことだこれ?」

 

「言ったはずだが? 吾輩なら問題ないと」

 

 

 振り下ろされるはずだった大鎌はラプラスの首筋にぶつかり、そのまま停止していた。

 そこには全くと言っていいほどダメージが入った形跡はなく、当然斬れている様子も、血の一滴でさえ出てはいなかった。

 

 ラプラスはその状態のままカリオペを前方の窓ガラスへ蹴り飛ばす。

 窓ガラスに叩きつけられたカリオペは血反吐を吐き、その場にうずくまる。今の蹴りのダメージもそうだが、なのより自分の鎌が通らない物質に初めて出会った衝撃の方が大きかった。

 

「万物を切断する大鎌か……久しぶりに聞いたなその二つ名」

 

「……なに?」

 

「それさ、確かグリム・リーパーの鎌だよな? 何でお前みたいなのが持ってんの?」

 

「……!? 何故それを?」

 

「グリムの奴なら昔殺り合ったことがあるんだよ。当時は確かに厄介な鎌だったな」

 

 

 ──グリム・リーパー。

 大きな鎌と黒いマント、そして骸骨の面を被ったかつて死神と呼ばれた大量殺人鬼だ。

 そしてそのグリム・リーパーが愛用していた大鎌こそ、”万物を切断する大鎌”と恐れられていた。

 

 

「グリムの大鎌は無機物・有機物・魔法に限らず、全ての物質を切断することができる。だが、そのカラクリは実は単純で、鎌の刃が触れた先からその物質の化学構造・魔法式を崩壊させる呪いが付与されてるんだろ?」

 

「…………」

 

「沈黙は正とみなすぞ。仕組みが分かっていれば、その対策を取るのは当たり前だろ? ぶっちゃけ、その鎌を見た時からずっとどこかで見たことあるとは思ってたんだ。そして、お前の部下の首を刎ねた時、確信した。普通の刃物が首を刎ねるときの斬れ方ではなかったからな」

 

 万物を切断する大鎌の謎を解明していくラプラスにカリオペはギリっと歯を食いしばる。

 まさか実際にグリム・リーパーと対峙したことがあり、自分以外にこの鎌の性能まで完璧に理解している者がいたことに驚きを禁じ得ない。

 

 何を隠そう、この森カリオペという少女はかのグリム・リーパーの一番弟子であり、この鎌はグリムが死んだ際にカリオペが譲り受けた物である。

 

「あれ? ちょっと待つでござるよ。ラプ殿? 今そこの部下が殺された時には確信したって言ったでござるか?」

 

「ん? ああ。それが?」

 

「つまり、風真があの攻撃を受ける時には既にあの鎌の正体を見破ってたってことでござるよな?」

 

「……まぁ」

 

「対策があるのなら何故それを風真のチャキ丸に施してくれなかったでござるか?」

 

「滅多に折れないお前の刀が斬られた後に吾輩の身体がその刃を通さなかったら、より吾輩の凄さが際立つと思って」

 

「…………」

 

「…………」

 

 一瞬の沈黙。

 

 

「うわああぁぁぁぁぁぁ!!! チャキ丸の仇ぃぃぃぃ!!!」

 

 

 刀身が半分になったチャキ丸を振りかざして、いろはがラプラスに突進を仕掛けた!

 

 

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