「ラプちゃ〜ん、本当にやるの?」
「ああ」
全身に電極を繋がれ、ベッドで横たわるラプラス・ダークネス。ベッドの横では8枚のモニターを前に腕を組み難しそうな顔をする博衣こよりの姿もあった。
「ラプちゃんがあの子から吸い取った力の一部分を解析したけどさ。流石のラプちゃんの体でも多分オーバーヒートを起こすよ? 明らかに器と出力が合ってないもん」
「だが、奴の体はどこからどう見てもただの小娘だったぞ?」
「うーん……」
それも確かにその通りなんだよなぁと頭を悩ませるこより。そんなこよりの様子を見て、ラプラスは考えるのを放棄する。holoXの頭脳を名乗る彼女が分からないことを自分が分かるはずもない。それなら考えるだけ無駄だ。
「まあいい。とりあえず始めろ」
「ヤバそうなら止めるからね」
こよりはカタカタとコマンドを入力していき、最後にエンターキーをターンと打つ。
すると電極から目視できる程の電気が流れ、ラプラスの体内へ侵入していく。
「──ぐっ!」
全身に走る痛みに顔を歪めるラプラス。
先日の戦いで桃鈴ねねが持つ不思議な力に気が付いたラプラス・ダークネス。
戦いの中でねねから力の一部を奪い、それをこよりに調べさせていたのだが、こより曰く彼女の持っていた力はこの世界の生物が持っていていい質量を超えているとのことだった。
この力にどのような効力があるのかは解析しきれていないのだが、それが莫大な力であることは間違いないらしい。
(そんな話を聞いたら、余計手に入れないと気が済まないよなぁ!)
流れ込んでくる莫大な力に全身を震わせていると、突然フッとその力を感じなくなる。
「ラプちゃん!? 大丈夫?」
「…………あん?」
肩を揺さぶってくるこよりを薄目を開けて確認する。
必死な形相で声を掛けてくるこよりに何を大げさな反応をしてんだと声を出そうとするが、そこで自分の身体の異変に気が付いた。
「ラプ。当分安静にしてなさい」
「………かん、ぶ?」
モニターの前にはいつの間に来ていたのかルイが立っており、ラプラスの体内環境を映し出していたモニターと睨めっこしていた。
「ラプちゃんの身体でもこの有様って……何なのこの力」
「さあ、少なくとも普通の人間にどうこうできる力じゃないね。エネルギー量が桁違い過ぎる」
目を覚ましたラプラスに一安心したのか、こよりとルイはモニターに釘付けになり、あらゆる推測を立てて話し込んでいく。そんな2人を尻目に、全く動かず横たわる自分の身体を感じながらラプラスはラプラスでこの力について考えていた。
(力が流れ込んできたと思ったらこの有様か。つまり吾輩の身体がこの力に耐えきれなかったということだ。おいおい嘘だろ。マジでそんな力聞いたことねぇぞ)
「なあ……あの力を、どんなもん吾輩の身体に入れたんだ?」
「2.78秒」
「…………何?」
こよりの回答に耳を疑うラプラス。
体感では10分程度はあの苦痛に耐えていたつもりだったからだ。
「電極を通して彼女の力をラプちゃんの身体に流し込んでいく。スタートする直前にルイ姉も来て、2人で見守りながらスイッチを押したけど、速攻でラプちゃんの身体に異変が生じたからすぐに実験は取りやめた」
「まて……吾輩の身体に異変? 確かに全く身体が動かないが、いま、どうなってんだ?」
こよりはラプラスの問いにふぅと一息つくと、手に持ったタブレットをポチポチいじり、それを寝た状態のラプラスの顔の前に持っていく。
「……わぉ」
「わぉじゃないよ。あんたマジで死ぬよ」
タブレットに映し出されたのは現在のラプラスの姿。
鼻と耳から血を流し、顔、腕、足には所々に大きなヒビが入っていた。恐らく今無理に身体を動かそうとすればヒビの箇所から身体が崩れていくことだろう。
「ラプちゃんはしばらく絶対安静。これから集中治療に入るよ。この力については……またどうするか考えようか」
身体が動かせないのであれば仕方がない。
こよりの言葉にああとだけ返事をすると、ラプラスはそこから2週間程の眠りについた。
× × ×
「何てことがあったのが1か月くらい前の話かな」
「……いきなり、何の話だ?」
うずくまるカリオペの前にしゃがみ込んで急にひと月前の話をし始めたラプラスに、怪訝な表情を浮かべるカリオペ。
「そして我々は考えたのさ。あの力は到底この星の生物とは釣り合いが取れていない。あの小娘が特別というよりも、そもそもあの小娘及びあの力がこの星とは違う概念で生きているんじゃないかと」
「……?」
会話が成り立たなくなったラプラスにカリオペは頭の上にハテナを浮かべる。
「じゃあさ、この星の生き物じゃなかったらどうだろうか? 生きているから拒絶反応が出るのでは? そう思い立った我らholoXは、とある探し人を求めてこの地にやってきたのさ。ただ、その捜索が思ったより難航しててさ。あんなに目立つ奴だからてっきりすぐ見つかるもんだと思ったんだけど。そこで、この地方を治めている奴に話を聞いてみたら何か知ってるんじゃないかと思ったわけ。吾輩達がわざわざお前の呼び出しに応じたのも、それが理由だ」
ここまで話してようやくラプラスと目が合う。
つまりラプラス達holoXも近いうちにカリオペの下へ訪ねる予定だったようだ。
「探し人だと? 特別広いわけでもないこの地方ですぐに見つけられないなら、その探し人はここにはいないという可能性の方が高いんじゃないの?」
「いいや、うちらには一応あいつの反応を追う方法があるんだ。だが、どこか故障でもしてんのか、上手く見つけられねぇんだよ」
ラプラスはこよりに視線を向けると、こよりはそれに応えるように白衣の内ポケットからレーダー探知機を取り出す。
「確かにこの地方にいるはずなんだよー。でも、時折消えたり、また現れたり……バグってるのかな?」
レーダー探知機を見ながら首を傾げるこより。どうやらそのレーダーを頼りに彼女達はここまで来たらしい。
「人間を、レーダーで探知する? そんなことできるはずがないだろ」
「は? 人間を探してるなんて言ったか? 吾輩達が探しているのはこの星の生き物じゃない奴だ」
「……意味が分からん」
「まあ別に意味は理解してもらわなくてもいいよ。それよりこちらの質問に答えろ」
「──ッ」
カリオペの髪を掴み無理矢理顔だけ持ち上げると、10センチ程の距離まで顔を近づけてラプラスは爽やかな笑顔を見せてこう尋ねた。
「お前、ロボ子って名前に聞き覚えはあるか?」