「それで、まずはどこに行くの?」
お世話になったシケ村を出てすぐ、前を歩くラミィとぼたんにねねは尋ねた。
2人と出会った際にあった腹部の裂傷は綺麗に治り、無事退院することができた。
今回は確かに大怪我ではあったものの、どちらかというと出血の方が危なかったらしく、あの時2人に出会っていなかったら助かっていなかっただろうと医者には言われた。2人には感謝感謝である。
「うーん、特に決めてないんだけど、ねねの記憶を戻すというよりは、これからどうすればいいかが教えてもらえるかもしれない場所に1か所心当たりがあるんだよね。だからとりあえずそこを目指そうかなって。ただ、少し遠いからそれまでに何か思い出すかもしれないし、そこに行ったからと言って記憶が戻るというわけではないからあんまり期待はしないでほしいんだけど」
正直ねねからしてみれば右も左も分からない状態なので、そんな風にほんの少しでも可能性があるところがあるのはありがたい。
「どんなところなの?」
「えっとね、ラミィのお師匠さんがいるところ。ただ、結構神出鬼没だから、絶対にいるとは限らないのが厄介なところなんだよね」
ふむ、師匠。
「それは、魔法が使えるとか?」
「んーん、まったく。ラミィって星の廻りを読んで、少し先の未来が見えたりすることがあるんだけど、その力の使い方を教えてくれた師匠」
……今さらっとおかしなことを言わなかったか? とねねは今のラミィの言葉を頭の中で反芻する。
「ししろんししろん、ラミィちゃんって天然以外にもちょっとソッチ系が入ってたりする?」
いわゆる厨二チック的なアレだ。
「言いたいことは分かるけど、これが困ったことに本当なんだわ。私、前に見せてもらったことあるもん。何かラミちゃんの里で伝わる占星術の一種らしい。ただ占いと言うより、アレは未来予知だけどね」
「その時ししろんは何を見たの?」
「次の日の天気」
「それただの天気予報士だよ! 田舎の人は天気の変化に敏感みたいな話だよ! 見たのも多分星じゃなくて雲だよ!」
「でもその時は真夏だったのに気温が20℃を切るという異常気象で、それを当てたんよ」
「お、おお? 確かにそれは凄いのか?」
晴れとか雨とかではなく、異常気象を正確に言い当てたというのは凄いのかもしれない。でも未来予知で天気って聞くとどうしても嘘っぽく聞こえてしまう。
「でも、そんな力があるなら、そのお師匠様のとこに行かなくても、ラミィちゃんが見てくれればよくない?」
「ラミィが見えるのは未来に何が起きるかという決定事項だけで、こうすれば吉みたいな助言はできないからさ」
「ふぅん。そうなんだ」
よく分からないが、そのお師匠様はそういった助言をしてくれるということだろう。この先どうすれば良いか分からないねねにとってはありがたい事だ。
特に急ぎの用がある訳では無いという2人はむしろ行き先が見つかって良かったと言ってくれているが、早いとこ記憶を取り戻して2人には恩返しをしないといけないな。
ねねは心の中で改めて気合いを入れ直した。
「うーん」
その頃、シケ村からいくつかの渓谷を超えた先にそびえ立つ標高2,000メートルを超える山――
天近くに建てられた由緒正しき神社の本殿にて、大きなオオカミの耳を生やした黒髪の少女がタロットカードの「死神」を見ながら唸っていた。
「どうかしたのミオ?」
「……フブキさ、仮にも神様のいらっしゃる場所でその格好はだらけ過ぎだと思うんだウチは」
涼しい場所を探すように畳の上をゴロゴロと転がりながら首だけこちらに向けてくる白髪狐耳の少女、白上フブキに対してお小言をこぼす。
「まあまあまあ、それで? うーんうーん唸ってどしたの?」
まあまあじゃないよまったく……と呆れながらオオカミ耳の少女、大神ミオは死神のカードに視線を戻す。
「いやね、お馬鹿な弟子がここに来るような気がして」
「弟子って、100年以上前に旅してた時に見つけたっていう?」
「そうそう。筋は良いし飲み込みも早いんだけど、如何せんお馬鹿だったからなぁ」
「ミオがそこまで言うなんて珍しいね。そんなに頭の方がよろしくなくて?」
「いや、頭が良い故のお馬鹿というか」
「…………?」
ミオの矛盾めいた言葉に首を傾げるフブキ。そんなフブキを他所に、ミオは何かを諦めたように天を仰ぎ、
「厄介事を持ってこなきゃいいけど……」
無理だろうなぁと1つ大きなため息を零した。