「……!」
カツンという音が聞こえてそちらを振り返ると、ルイ達の前に拳サイズの爆弾が落ちていた。
「ちょっ、手榴弾!?」
「下がれ!」
それを確認したラプラスはカリオペを窓ガラスに投げつけると、床に落ちた手榴弾とルイ達の間に一瞬で移動する。
次の瞬間目を覆う程の光と共に軽々と部屋1つ吹き飛ばす威力の爆発が起きる。
「ちっ……! めんどくせぇ!」
ラプラスは魔力の壁を展開してルイ達を爆発の衝撃から守るが、その隙にカリオペは爆発の衝撃で割れた窓から外に脱出していた。
(……っ、あばらをやられたな。それにしても、何者なんだ奴らは……それにロボ子って確かに言っていた)
あばらを抑えながら空中を蹴って移動するカリオペ。
あそこまで自分を圧倒する奴らだとは思わなかった。
(いや、厄介なのはあのチビだけ。他の4人はこの鎌が効くならやりようはいくらでもある)
空を駆けるように移動するカリオペは建物の影に隠れ、先程まで自分のいたビルの最上階の様子を窺う。
一方、爆発が起きたビルの最上階では爆発によって発生した煙の中、誰かがケホケホと咳き込む。
「おい、お前ら大丈夫か?」
「うん。ラプのおかげでね」
爆風も衝撃も熱風も完璧に防いだラプラスは後ろに控えている4人に振り返る。
「まさか手榴弾なんて使ってくるとは思わなかったな」
見る影もなくなった室内を見回し、カリオペの姿がないことを確認するラプラス。ただ特に焦る様子を見せることはない。長距離移動が出来ない程度には痛めつけたし、何より彼女はここを統治する領主だ。おいそれと外に逃げ出すことも出来ないだろう。
ちょうどいい遊び相手が出来たとラプラスはいやらしい笑みを浮かべる。
「いろは、さっきのお詫びに新しい刀をお前にやるよ」
「新しい刀?」
「ああ、飛びきり斬れ味の良いやつをな」
そう言いながらゴキゴキと首を鳴らすラプラス。
「それにさっきの反応。間違いない。奴はロボ子の存在を知ってる」
ロボ子の名前を出した時に見せたカリオペの表情を思い出す。そして、この地方に来てから感じていた違和感もそれで説明がつく気がした。
「ルイ、奴を追うぞ」
「はいはい」
ルイはラプラスの脇に手を入れて抱えると、吹き飛ばされた窓際に立ち、大きな翼を広げる。
「お前らは3人で地上から奴を探せ。ロボ子の居場所を吐かせたら、あとは別に奴の生死は問わん。ああ、でもあの鎌は奪っておけよ。博士に加工してもらっていろはの新しい刀にしてやれ」
「おお! 万物を切断する刀でござるか!」
身を持って体験した斬れ味が自分のモノになると分かるとテンションが上がるいろは。そのまま部屋を飛び出していくいろはをこよりとクロヱが追いかけて行った。
正直あの鎌に対応出来るのはこの中ではスピード的にもラプラスとルイといろはだけだろう。クロヱとこよりがタイマンで遭遇してしまうと、逆に真っ二つにされるのがオチだ。ラプラスとルイが上空から探索する以上、残りの3人は一緒に行動する必要がある。
「奴はロボ子の存在を知っていて、その上でその存在を隠していた可能性がある」
高層ビル最上階の強風に長い髪をはためかせるラプラスがポツリと呟く。
「……? 匿ってたってこと?」
「ここに匿っていたかどうかは知らんが、それに近しいことはしていただろうな」
「何でわざわざそんな事を?」
「そりゃあお前……ロボ子の性能を知ったからだろ」
「ポンコツとか言ってあんたが捨てたんじゃなかったっけ?」
「吾輩は掃除機能がポンコツだって言ったんだ」
「そもそもそんな用途で造ってないのに、あんたがメイドみたいなことさせるからでしょ。ちょっと熱々のお茶を頭から被せられたくらいでこんな奴捨てろって大騒ぎして」
「1回頭から熱々のお茶被せられてみ? マジ熱いから」
「それでも自我を持つように設計されてるんだから、アレは傷ついたと思うなぁ」
「う、うるさいなぁ。だからこうして探しに来てんだろ。ていうか、何でこんな場所に捨てたんだ博士は」
「さぁ? あんまり近いと戻ってくると思ったんじゃない? 流石に自我のある子をスクラップにするのもはばかれるし」
「そんな優しさあいつにあったか?」
「少なくともラプよりはあるでしょ」
「…………」
「…………」
「とにかくだ」
「うん」
「あいつの奉仕性能はポンコツだが、戦闘能力に関して言えば、吾輩と肩を並べる」
──そもそも、そういう目的で造られたのがあいつだからな。
ラプラスの言葉と共に、2人はビルを飛び立った。
× × ×
「クシュンッ!」
ロボ子のくしゃみに突然爆発したビルをポカンと見上げていた4人は我に返る。
「え、ロボットなのにくしゃみとかするんですか?」
「するよー。でも風邪は引かないから、誰かが噂してるのかも」
鼻水を垂らすロボ子に驚愕の表情を見せるねね。本当にロボットなのかますます疑わしいといった表情だ。
「え、ていうか爆発したんですけど!? ビルが爆発!」
「ラミィちょっと落ち着きなって。するでしょ、爆発くらい」
「普通しませんけど!? サーカスか何かと勘違いしてらっしゃいません尾丸さん!?」
ラミィ達以外にも今の爆発音に反応した住民達が集まってきて、何事だと数キロ先のビルを見上げている。
そんな中、獅白ぼたんだけは、未だ煙の上がっているビルの最上階を見つめていた。
(……気のせいか?)
目を凝らすように細めるぼたん。
爆発直後、煙の中から何かが飛び出したように見えたのだが、ねねやラミィはともかく同じ獣人のポルカも特に気にした様子がなかったので、気のせいで終わらせようかと思ったのだが、そう思った矢先、再び未だにモクモクと上がる煙の中から先程よりも大きな何かが空に飛び出しきてきた。
「……!」
目視でそれを確認したぼたんはすぐに肩に掛けてあったスナイパーライフルをケースから取り出し、スコープを覗き込む。
ねね達含め周りにいた人達は突然のぼたんの行動に度肝を抜かすが、そんな周りの反応には取り合わず、煙の中から飛び出し、そのまま空を滑空している物体に焦点をあてる。
「ちょっ、ししろん!? 何してんの!?」
「今あの煙の中から何か出てきた。ほら、今も空を飛んでる」
「ええー、どこどこ?」
想像通り、ねねとラミィは目を細めてビルの方を見るが、その物体にすら気付けていない様子だ。
だが、ポルカとそしてロボ子はぼたんの言っている謎の物体を目視で確認した。
「ホントだ。何か飛んでるね。ししろんそれで見えてる?」
「うん。大きな赤い翼を広げた女と、その女に抱えられた2本の角を生やした女の子だね」
「「……!!」」
ぼたんの言う特徴に心当たりがあると反応を見せたのはねねとポルカだった。あの時、地下にいて彼女達と間近で対峙したのはこの2人だ。一応ラミィも見てはいるはずだが、ラミィが地下に入った時にはかなり切迫した状態だったためハッキリと特徴まで覚えていないようだった。
「やっぱり、2人から聞いてた特徴と似てるよね。多分、例のholoX……だっけ? そいつらじゃないかな」
ロボ子の話を聞いていたので彼女達がこの地方にいることは予想していたが、到着して早々、どう見ても何かしら問題が起こっている中心に彼女達がいると思うと、あまり近付きたくはないと思ってしまう。
ただ、これでロボ子を製造したと思われる博衣こよりがあそこにいるという可能性もかなり増した。
「ロボ子さん。多分あそこにあなたのママがいると思いますけど……どうします?」
「え、そうなの? でも何か危なそうじゃない?」
「多分滅茶苦茶危ないと思います」
そもそもロボ子が記憶を失っているせいで、何故ロボ子が生みの親であると思われるholoXと一緒にいないのかが不明なため、そこは危険でもある。
もし仮に、holoXが何らかの理由でロボ子を敵視している場合、戦場になっていると思われる場所にロボ子を放り込むのも自殺行為だろう。
「会いに行くのは少し様子を見てからの方がいいかもです」
ねねの提案に素直に頷くロボ子だった。