ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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三つ巴

「……っ」

 

 片手には大鎌を持ち、もう片方の手で脇腹を抑えながら街中を掛けるカリオペ。

 奴らが何者かは分からないが、まさかあそこまでの実力者達だとは思わなかった。

 自分の部下達に彼女達の捕獲、それが難しければ殺してしまっても構わないという指示を出したのも失敗だったかもしれない。

 恐らく、自分以外で彼女達に対抗できる者は組織の中にはいないだろう。

 

(くそ、好きにやれてた頃は楽だったのに、組織の長ってのはやっぱり面倒くさい……)

 

 昔、まだここギャングタウン地方がカリオペによって統治される以前の話。

 この地方はいくつかの派閥が常に抗争しており、死が直結する野蛮な地方で有名だった。

 

 そんな裏世界の掃き溜めのような地方の中心に位置するここギャングタウンで、殺し屋として名を馳せていた少女が2人いた。

 

 1人は大きな鎌と黒装束を身に纏っていることから、死神と恐れられた森カリオペという少女。

 彼女の鎌に狙われたら最後、首と胴が繋がったままの者はいないと言われていた。

 

 そしてもう1人はそんなカリオペと同時期に別の組織に所属していた白髪獣人の少女。

 組織に所属しながらも単独行動をしがちだったカリオペとは違い、こちらは組織のエースとして本名ではなく、その通り名のみが有名になっていた。

 

 ──『百獣の女王』

 

 白き獣の王であるホワイトライオンの獣人であることから、その二つ名が付けられたのだろうが カリオペは一度だけ彼女と対峙したことがあった。

 

 その瞳はまさに獲物を狙う獣の目をしており、生まれて初めて戦いの最中に死を予感させられた相手だった。

 

 その頃を思い出し、ぶるりと身体を震わせるカリオペ。

 

 先程対峙したラプラス・ダークネスという少女はその時以来の、本気で敵わないかもしれないと思った相手だったからだ。

 

(ロボ子を探していると言っていたな。私もまだ見つけられていないっていうのに……だが、あれほどの奴らが探しているということは、予想通りロボ子は私の野望に役立つはずだ)

 

 数か月前に突然手紙だけ残して姿を消してしまったロボ子。

 それから組織の者総出でロボ子の所在を追ったのだが、今まで見つかっていなかった。そろそろ捜索範囲を広げようかと思っていた矢先、holoXがこの街にやってきて、しかもロボ子がこの辺りにいると確信しているという。

 

(それなら、奴らよりも先に見つけられれば、色々と有利に進められるはずだ)

 

 カリオペは以前ロボ子に街を案内した際に回った場所を、辺りを警戒しながら順に探すことに決めた。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

 

「皆、ちょっと待って」

 

 警戒しながら高層ビルに向かっていたねね達一行はぼたんの一言で足を止める。

 

 あの高層ビルのような知らない建物あるとはいえ、ここで生まれ育って地形を一番把握しているぼたんが先頭を歩いていたのだが、1つの曲がり角を曲がろうとしたタイミングでストップをかけた。

 

「この先、異様な空気を感じる」

 

 ピコピコと獣耳を動かしながら異様な空気を察したらしいぼたんは曲がり角から少しだけ顔を覗かせ、その先の様子を窺う。

 

「……うわー」

 

「なになに? どうしたのししろん」

 

「あ、見ない方が──」

 

 さらに横から顔を出して、ぼたんの視線の先を追うねね。

 するとそこには緑色の謎の液体が広がり、8名程度の衣服が地面に落ちていた。

 

「え、なにあれ?」

 

「さあ? でも匂い的に、人間だったもの……だね」

 

 ぼたんの言った言葉の意味を上手く理解できないねねとラミィ。

 だが、その言葉を肯定するようにポルカも頷いていた。

 

 衣服以外をドロドロに溶かされた人間だったもの。

 ねねはそれを改めて見て、近しい薬品を思い出した。

 

「──っ、近くにいる!?」

 

「いや、この異臭でちょっと嗅覚は落ちてるけど、少なくとも近くにはいないよ」

 

 ねねの言いたいことをいち早く理解したポルカは、ねねを安心させるようにゆっくりと首を横に振った。

 ホッと一息つくねねだったが、改めてその死体を確認し、ロボ子に向き直る。

 

「ロボ子さん……きっとロボ子さんが探しているママはこれをやった犯人だと思います。それでも会いたいと思いますか?」

 

「んえ? うん、会いたい。それでボクの記憶を戻してもらうんだ」

 

「でも、もしかしたらですけど……ロボ子さんはあいつらから逃げてきたって可能性はないですか? だって、こんな風に人を殺す連中ですよ? もしそうなら記憶が戻ることで思い出したくない過去を思い出すことにもなるかもしれませんよ?」

 

「ねね」

 

 ラミィに肩を掴まれて制止を受けるが、それでもねねは止まらなかった。

 

「例えばですよ? 何かが原因でロボ子さんが必死にあいつらのところから逃げてきたとします。何とか逃げ切れはしたけど、記憶を消されてしまったとかだったら、そもそも記憶を戻してもらえないかもしれないし、言うこと聞かないロボットなんてって壊される可能性だって──」

 

「ねね!」

 

 肩を強く揺らされてねねはようやく制止する。

 ラミィに振り返るその瞳は、ロボ子に対する心配から来る瞳に見えた。

 

「……だって、こんなの見た後にあいつらのところに戻るなんて、怖いじゃん……」

 

「まだロボ子さんの生みの親が博衣こよりだってことも、これをやったのが博衣こよりだってことも確定はしてないし、仮にそうだとしても、ロボ子さんが同じ目に遭うとは限らないでしょ」

 

「でも、だって……」

 

 納得いかないねねにロボ子が小さく笑みを浮かべる。

 

「ねねちゃんちょっと勘違いしてるね。ボクはママに記憶を戻してもらおうとは思ってるけど、それからどうしようっていうのはその後の話。その後は自分で考えて、どうするかは決める予定だよ。その結果、そのholoX? に付いていくかもしれないし、付いていかないかもしれない。そこはちゃんと自分が決める」

 

 せっかく意思というものが備わってるんだから、自分で考えて行動しなきゃ損だしね~とおちゃらけて話すロボ子にねね達も自然と笑みがこぼれる。

 

 

「へぇ~、たった半年で成長したね~。それにしても、メモリ部分が破損していたんだね。その思考回路も破損が原因かな? それに他の機能もだいぶ損傷してるみたいだし、レーダーが上手く反応しなかったのもそれが原因か~」

 

 

 頭上から聞こえてくる、甘えるような優しい声。

 屋根の上にしゃがみ込み、膝についた手で顎を支えながらこちらを見下ろしているのは、見覚えのあるピンク髪の獣人。

 

 博衣こよりその人がいやらしい笑みを浮かべていた。

 

「……おまるん、近くにはいないんじゃなかったっけ?」

 

「匂いは確かにしてなかった!」

 

 小声で話すねねとポルカだが、獣人であるこよりに小声での会話は筒抜けだ。

 

「こよりの発明はお2人さんもその一端を見たと思うんだけど。自分の匂いを消すなんて、造作もないよ」

 

 チッと舌打ちをするねねとポルカ。

 その2人の反応にぼたんとラミィもすぐに臨戦態勢に入る。

 

 だが、一緒にいたロボ子はポカンとこよりを見上げたまま固まっていた。

 

「ママ……?」

 

「はぁい。正真正銘あなたを開発したママですよ~」

 

 ヒラヒラと優しく微笑みながら手を振る姿は本当に我が子を見つめる母親のようだった。

 

「そ、そう。ボク記憶が無くなっていて。ママなら戻すことできる?」

 

「余裕余裕。メモリの破損部分を修理すればいいんでしょ? 施設に戻れば一瞬だよ」

 

 だから、一緒に戻ろう?

 立ち上がり、手を差し伸べるこより。

 

 ロボ子はこよりと出会ったことで記憶の一部が蘇りつつあるのか、不思議な感情に包まれながら自分の手をこよりに向けて伸ばしていく。

 

 しかし、その手は横から掴まれ、一瞬ビクリと肩を震わせたロボ子はそちらに視線を向けた。

 

 

「見つけた。ロボ子、お前はそっちに行くな。私と来い」

 

 

 はぁはぁと肩で息をしながら、森カリオペはロボ子の瞳を見つめていた。

 

 

 

 

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