ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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見ィつけた

「森、カリオペ……?」

 

 自分の名前を呼ばれたカリオペはロボ子の手を掴んだまま、そちらに視線を向ける。

 そして、そこに映る人物を確認すると、目を見開いて驚愕する。

 

「──獅白ぼたん……!?」

 

 互いに驚きの顔を見せる。

 ぼたんはその目で見るまでは確証が持てていなかったし、カリオペにいたっては彼女は数年前に死んだものと思っていたから。

 

「……っ」

 

 しかしカリオペはすぐに視線をロボ子に戻すと、一瞬だけ屋根の上にいるこよりを確認してからそのままロボ子を担ぎ上げ、足の裏に魔力を溜める。

 

「ちょっとちょっと! その子うちの子なんですけど!? どこに連れてく気!?」

 

 そんなこよりの言葉は無視して、カリオペはロボ子を肩に担ぎながら空気を蹴った。

 怪我が響くのか万全の速度は出せていないものの、ここには空を飛べる者はいない。強いて対処できる者がいるとするのなら、ラミィが氷の足場を作って追いかけるか、ぼたんが狙撃するしかないだろう。

 

 ただ、ラミィの場合は氷で足場を作ったとしても、追いかける足は普通の少女程度の速度しか出せないし、ぼたんに至っては空を駆けるその姿を眺め、何かを思い出しているようなそんな呆けた表情をしていた。

 

 手負いながらも誰も追って来られない場所へ離脱するカリオペ。

 ヒビか、最悪折られている肋の痛みに耐えながら、カリオペは空を駆ける。

 

 この地を治めるようになってから、その想いは更に遠くへ向けられ、その為には力が必要だった。それも、自分と同じ想いを持った新しい力だ。

 

 記憶を無くしているからか、それともロボットだからか。

 

 今肩に担いでいるこの少女型ロボットはロボットらしからぬ感情を有していた。いや、逆にロボットだからなのかもしれない。それはあまりにも綺麗で、純粋な心だった。

 

 それに加え、彼女にはロボットらしさもあった。

 彼女のその力には自分の目を疑った。

 

 カリオペが必要としていた力と心を、このロボットは確かに持っていた。

 

 この地方1つなら、自分1人でも変えられる。変えてみせる。

 

 だが、今となってはそれすら小さな野望だ。

 

 

 この国の、いや、この世界の闇を消し去る。

 地獄で生まれ、地獄で育ったからこそ、地獄の苦しみは誰よりも知っているつもりだった。

 

 別に誰かに褒めてもらいたいわけじゃない。

 誰かに認めてもらいたいわけでもない。

 

 ただ単純に、もうどこにも自分と同じような境遇の子供を作りたくない。

 

 これは自分がやるべきことだと確信していた。

 自分がやらずして、一体誰がやるのか。

 

(私が、この世界を──)

 

 一瞬、目の前が光った気がした。

 

 そして次の瞬間には、胸に穴が空いていた。

 

 あの場にいた者達では、空を駆けるカリオペに追いつくことが出来ない。

 

 それもそのはず。

 空を飛べる者は初めから、空から彼女を探していたのだから。

 

「見ィつけた」

 

 墜ちていく中、不敵な笑みを浮かべる2本角の悪魔が視界に入る。致命傷を負ったカリオペはそのまま受け身も取れないまま、上空20メートルから落下した。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

 一部始終を見ていたねね達は急いでカリオペとロボ子が墜落したと思われる場所へ駆けつけた。

 先頭に立って駆け出したのはぼたんだった。

 

「ハァ……ハァ……っ」

 

 昔の彼女なら、反応できていたはずの攻撃だ。

 何せ、完全な死角からの跳弾狙撃を防ぎ切った実績を持っているのだ。

 

 正面からの魔法弾を防げないはずがない。

 

 現場に到着したぼたん達は息を飲む。

 おびただしい量の血と、あらぬ方向を向いた両足。

 

 それでも、ロボットであるロボ子を守るようにその両腕で強く抱きしめていた。

 

「…………百獣の……女王……死んだんじゃ、なかったのか?」

 

「あの日、あんたが私を殺さなかった理由をずっと考えていた」

 

 肺を貫通している大きな穴は間違いなく致命傷だ。

 その状態での高所からの受け身を取れない墜落は即死していないだけで奇跡だった。

 

「あんたの印象はイメージが先行し過ぎている。そのキツイ目つきもだが、何より言葉が圧倒的に足りなさすぎる」

 

「……あいにく、そんなものを習う前に、その日を生きなきゃいけなかったからね……」

 

「私は殺しから足を洗った。だから『百獣の女王』は死んだ。あんたが見逃した1つの命は、あんたの理想とする世界に住人になれてる?」

 

「…………!」

 

「初め聞いたときは信じられなかった。権力者とそいつが囲う殺し屋を殺しまくっていたあんたがこの地方の権力者になっているんだから。相変わらず空気は汚いし、汚い格好をした子供も歩いていた。……でも、銃声は聞こえてこない。空は、だいぶ明るくなってるんじゃない? やるじゃん」

 

 口下手で、言葉足らずなカリオペの野望を知っている人間は、みんな死んでいる。

 

 別に誰かに褒めてもらいたいわけじゃない。

 誰かに認めてもらいたいわけでもない。

 

 ただ単純に、もうどこにも自分と同じような境遇の子供を作りたくない。

 

 そのために、多くの人を殺したし、到底褒められないようなこともしてきた。

 

 ずっと孤独で未来だけを向いて歩いてきた。

 それでも全然光は見えなくて。果てなき荒野を進んでいるような、そんな感覚に陥るときも確かにあった。

 そんな時、ロボ子に出会い、改めてあの頃の気持ちを思い出した。だから是非とも彼女にも手伝ってほしかった。

 

「……うん……?」

 

「…………ロボ子、目を覚ましたか?」

 

「カリオペ、さん?」

 

 カリオペの腕に抱かれた状態となっていたロボ子は自分の下敷きになっているカリオペの姿を確認し、上空で起こったことを思い出す。

 

「だ、大丈夫……!?」

 

「……ごめん、お前にもお前のやりたいことはあるはずだよな……、無理に付き合わせるのは、違った」

 

「な、何の話……? いや、それより早く病院に」

 

「大丈夫……、あとは私1人でもやれるよ……お前に会って、曇りない心を持ったお前に肯定されて、またモチベが上がった……大丈夫、まだ、やれる……」

 

 大丈夫、大丈夫とうわ言のように小さく繰り返すカリオペ。

 

 もう、意識は途切れていた。

 

「終わったか?」

 

 聞こえたその声には一切の感情が乗っておらず、ただ淡々と現状の確認を求める声だった。

 

 ラプラス・ダークネスは瀕死状態のカリオペと、カリオペのおかげで軽い擦り傷のみで済んでいるロボ子に近づくと、ロボ子の髪を掴み無理矢理顔を上げさせる。

 

「お前……涙を流す機能なんて付いてたのか」

 

「涙……?」

 

「おい博士。この機能いるか?」

 

「まぁ……より人間に近付けるように造ったからね」

 

 ぼたん達の後ろから付いてきていたこよりの返答にふぅんと興味なさげにロボ子が流す涙を眺めるラプラス。

 

「おい、その手を離せよ。ラプラス・ダークネス」

 

 ロボ子の髪を掴むラプラスにねねが明らかな怒気を含んだ声を放つ。

 その声に反応したラプラスは目を見開くと反射的にロボ子の髪を離す。

 

「おいおい……何でこんなところにいんの? 何これ奇跡? ロボ子だけじゃなくて、本人登場じゃん!」

 

 ねねの姿を見て急にテンションを上げるラプラス。本当に今の今まで彼女の視界に入っていなかったらしい。

 

「ああそうだ。お前から抜き取った光の力の一部、ちょっくら調べさせてもらったぞ。それを試すために我々はロボ子を探していたんだ」

 

「は……?」

 

「おいロボ子、お前の身体使わせてもらうぞ」

 

 ラプラスはこよりから投げて寄こされた小指大の結晶を受け取ると、それをロボ子の口にねじ込んだ。

 

「うっ……ゴホッゴホッ……!」

 

「ロボットが咳き込むなよ……、で? どんな感じだ?」

 

「はい? いきなりやってきて何……?」

 

「あー、ラプちゃん。ロボ子今記憶失くしてるみたいだよ。メモリが破損してるみたい。多分他にも色々と破損している機能もあると思う」

 

「はあ? じゃあ吾輩達のことも覚えてないのか?」

 

「みたいだよ」

 

 人よりもより多くの情報を記憶できるのがロボットの良いとこだろとツッコミを入れようとも思ったが、ならこいつを捨てたのも忘れてるってことか? ならちょうどいいや、そのままにしておこうと1人うんうんと頷くラプラス。

 

 すると、そんなラプラスを余所に、結晶を飲み込んだロボ子の身体が次第に光を放ち始めた。

 

「ぐっ……、なに、これ……体が、熱い……」

 

「おっ、反応が出始めたか。流石機械の身体、吾輩より耐えられてるな」

 

 しかし、溢れ出す光は更に光量を増していく。

 ロボ子の身体から煙が上がり始め、その光景は誰が見てもソレの前兆だった。

 

「ラプ!」

「ししろん!」

 

 近くにいたラプラスとぼたんはルイとねねに引っ張られる形でその場から離脱する。

 ラミィ達も急いで距離を取り、頭を抱えて体勢を低くする。

 

 

 体内に取り込まれた結晶が生み出すエネルギーに耐えきれなくなったロボ子の身体は、近くの家屋も巻き込みながら爆音とともに粉々に弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

『森カリオペ様へ

 

 突然こんな手紙だけ残して出ていくことになって申し訳ありません。やっぱり記憶がなく使い勝手のないボクをタダで住まわせてくれるのはあなたにとって負担にしかならないと思いました。

 初めてこの街でボクを見つけてくれた日、記憶がないと知って色んな昔話を聞かせてくれましたね。お師匠さんと貴族の屋敷に忍び込んだ話は凄く面白かったです。あと、ボクのロケットパンチを見た時のカリオペさんの表情は傑作でした。

 何で会ったばかりのボクにこんな色んな話をしてくれるんだろうとずっと思っていました。

 でも、少しの間でしたが一緒に暮らしているうちに、あ、この人ただの口下手な人だってことに気が付きました。多分記憶がなくて初対面かつボクがロボットだからこそ、色々心の内を話すことができたんでしょ? カリオペさんはせっかくの美人なのでもう少し笑えば、心を許せる人がもっと増えると思います。だって、カリオペさんはこんなにも素晴らしい夢を持っているんだから。

 今からボクは記憶を取り戻す旅に出ようと思います。

 過去を話すカリオペさんの表情を見て羨ましいと思ったのと、こんなボクを拾ってくれて色んな話を聞かせてくれたカリオペさんに恩返しをしたいと思ったからです。

 ずっと聞くばっかになってしまっていましたが、記憶を取り戻した暁には次はボクの昔話と新しく仕入れた旅話を聞いてください。

 あなたは優しい人だから、きっと言葉で伝えると気にしなくていいと言ってくれると思います。

 だから、何も言わずにこのような形の報告になってしまい申し訳ございません。記憶を取り戻してあなたのもとに戻ってきたときにいっぱい叱られます。

 どうか元気で。次会う時はもう少しあなたの笑顔が増えていることを楽しみにしています。

 

 ロボ子より』

 

 

 

 

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