ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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神に選ばれし巫女

 ギャングタウンにある孤児院を出て、ねね達は改めて出雲の国の長であるさくらみこに向き直った。

 

 ピンク色の髪に白とピンクを基調とした巫女装束。

 あの時聞いた鈴の音は、彼女の髪留めに付いている鈴が鳴った音だろう。

 

 そして、あれを見たほとんどが死を覚悟したラプラス・ダークネスの魔力隕石。

 それを触れただけで吸収、消滅させてしまった彼女の御幣は、間違いなく人智を超越した神器だった。

 

「あの、改めて自己紹介を──」

 

 ラミィがそう口にすると、みこは手を前に出して待ったをかける。

 

「まぁまぁ。ここじゃなんだし、とりあえず移動しようよ」

 

 そう言って手を空へかざすと、そこから桜の花びらが舞い始める。

 

(これは……あの時と同じ)

 

 渦のように舞う桜の花びらを見て、みこが現れた時の情景を思い出すねね。

 桜の花びらはどんどん数を増していき、みこだけでなくねね達全員を覆うように渦巻いていく。

 

「うわっ」

 

 桜の花びらで視界を遮られたねね達は、反射的に一瞬だけ目を瞑る。すると、その一瞬で辺りの景色が変化していた。

 

 そのまま風に流されるように桜の花びらが飛んでいくと、ねね達の視界には大きな拝殿が映りこんだ。

 

「え、ここは!?」

 

「うちの神社。ようこそ、桜神社へ」

 

 両手を広げて向かい入れるみこに、ねね達は驚きの表情を隠せない。

 ミオとフブキが何事もなかったようにお互いの頭に着いた桜の花びらを取り合いっこしているところを見ると、今みこが行ったいわゆるテレポートの魔法に慣れている様子だった。

 

「ラミィ200年以上生きてるけど、テレポート初めて体験した……」

 

「もっとふわっと浮遊感みたいな感覚があるのかと思ったけど、どちらかというと、景色の方が移動してきたような感覚なんだね……」

 

 ラミィとポルカがキョロキョロしながら初めて体験したテレポートに感嘆の息を漏らす。

 

「えーと、改めて自己紹介だっけ? みこはここ桜神社の巫女をしながら、出雲の国の統治もしているさくらみこという者です。ミオちゃんとフブさんとは昔からのお友達かな」

 

 場を仕切ってくれるみこにねね達もそれぞれが自己紹介をしていく。

 

「師匠達のお知り合いって、いつからのお知り合いなんですか?」

 

「え、いつだろ?」

 

 みこがミオとフブキの方を振り返るが、ミオとフブキからは首を傾げるという反応しか戻ってこなかった。そんなミオ達の反応を見てラミィが訝しげに目を細める。

 

「いやぁ、そんな大昔のこと忘れちゃったよ」

 

「大昔……? 見たところさくらさんって普通の人間ですよね? 失礼ですけど、今おいくつなんですか?」

 

「レディに年齢を聞くのはナンセンスだよ。ていうか覚えてない」

 

「でもそれで言ったらミオや白上より年上じゃない?」

 

「え!?」

 

「そんなことないもん! みこは18歳だもん!」

 

「それは肉体年齢がでしょ。神様に神託を受けた時の年齢が18歳だったってことは、その時生まれた白上達よりやっぱり年上だよ。やーいオバさーん」

 

「たあーー!!!!!!!」

 

 会話がぶっ飛びすぎていてねね達には内容が半分も入ってこないフブキの弄りに対して、両手を振り上げて威嚇をするみこ。先程までのピリピリと張り詰めていた迫力はすっかり鳴りを潜めていた。

 

 追いかけっこを始めてしまったみことフブキを尻目に話に付いていけないねね達にミオが補足をしてくれる。

 

「みこちはね、この世界で神様に選ばれた唯一の人間なんよ。それまでは本当に小さな神社の巫女さんをやっていただけの普通の女の子だったんだけど、ある日とある事故がきっかけで神様の力の一部をその身に宿してしまった。それからあの子は年を取ることなくずっとその時の姿のままってわけ」

 

「……それって、いつの話ですか?」

 

「さっきフブキが言ってた通り、ウチらが生まれた時だよ」

 

 ねね達は以前、ミオから彼女達はこの星を創造した神に仕える者だと自己紹介を受けた。

 それは暗にこの星とほぼ同年代であることをほのめかす言い回しだった。

 

 そんな2人が生まれるよりも18年長く生きている唯一の人間。

 

 この地に初めて誕生した生物の祖は、百鬼あやめの父親でもある鬼神であることは誰もが知っている神話であるが、彼も分類上では人間ではなく鬼にカテゴライズされる。

 

 さくらみこは恐らく、この星が誕生してから最も長い生を経験している人間だ。

 

「……え、もう規模がでかすぎでわけわかんないんですけど」

 

「安心してねね、ラミィもだから」

 

 200年以上生きているラミィですら、理解が追い付かない程の悠久の時を生きる者達。普通の人間の寿命など、本当に彼女達にとっては瞬きよりも短い時間に感じられるのであろう。

 

「ま、みこちのことは置いといて、君らはあんなところで何してたのさ」

 

「あ、そうだ! ラミィ達、師匠に会いに出雲の国まで来たんでした!」

 

「ウチに会いに?」

 

 そう言ってラミィはポルカの収納魔法から取り出した小説『光の星の勇者』をミオに見せる。

 

「うぇあ!? 懐かし~! それ『光の星の勇者』じゃん!! 何、これどうしたの?」

 

「え、師匠やっぱり知ってるんですか!?」

 

「知ってるも何も……それの作者、そこにいるし」

 

 ミオの視線の先にはうつ伏せに倒されたフブキの上に跨り、コロンビアポーズを決めるさくらみこの姿があった。

 

 

 

       ×  ×  ×

 

 

 

「なっつ! それなっつ! みこちの本じゃん!」

 

「やめてやめて! 何でそんな本がここにあるの!? みこの黒歴史なんだが!?」

 

 一行は本殿に上がり、和室で『光の星の勇者』を机の上に置いて出されたお茶を飲んでいた。

 

「えっと、この本はエルフの里の図書館にあった本なんですけど、これってさくらさんが書かれた本なんですか?」

 

「さくらさんって気持ち悪いから下の名前でいいよ。あと、そんな本知りません」

 

「これね、みこちが初めて書いた本なんだよー」

 

「カァッ!!」

 

 親切に教えてくれるフブキに再び威嚇をするみこ。

 既にねね達を救ったあの時の威厳は完全に消え去っていた。

 

「それじゃあみこさん! この本について聞きたいことがあるんです!」

 

「あーあー、聞こえませーん」

 

 ラミィが机に身を乗り出しみこに迫るが、みこは耳を塞いで声が聞こえませんアピールを見せる。

 何を頑なに自分が書いた本について話そうとしないのか分からないが、ラミィ達にとってはまさか作者が目の前に現れるとは思っていなかったので話を聞かずにはいられないのだ。

 

「あー、確かにその物語って、ほんの少しだけみこちの妄想も混じってるもんね」

 

「あーあー! 聞こえなーい!!」

 

「そうそう、実際は白上達だって一緒に戦ったのに、ほとんどあの子の手柄になってるし」

 

「きーこーえーまーせーん!!」

 

「ま、でもしょうがないんじゃない? 実際みこちは彼女に命を救われたんだし。多少美化されてても許容範囲だとウチは思うよ」

 

「もう殺せ! 誰か! 早くみこを殺すんだ!!」

 

 バンと畳に仰向けに倒れ、両手を広げながら殺せと叫ぶみこ。

 そんなみこを見て、何を思ったのかぼたんは机の上の『光の星の勇者』をおもむろに手に取ると、パラパラと適当なページを開き──

 

 

「『彼女の背中は誰もが憧れた。彼女が放つあの目を覆いたくなる程の眩い光は、きっと彼女の持つ力とは別の、輝かしくて温かい彼女の心そのものだった』」

 

 

「────、」

 

「あ、みこちが死んだ」

 

 ぼたんのトドメによって、悠久の時を生きた少女が白目をむいて気を失った。

 

 

 

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