ぼたんのトドメにより気を失ってしまったみこを置いて、ミオは改めてねね達に向き直る。
「それで……ねねち、君は本当にねねち?」
「……はい?」
突然のミオの発言にねね達4人は揃って首を傾げる。
しかし、ミオの発言にフブキも、そして寝転がっていたみこも体を起こしてねねを見つめ始めた。
「え、いや、どういう意味ですか?」
「数か月前にあったねねちと今のねねちは違い過ぎる。正直なところ、最初見た時は冗談抜きで別人だと思った」
「それは白上も同意見だね。あの時のねねちの面影が全くと言っていいほど無くなってる。別人が変装してるって言われた方が納得できるね」
2人の言葉にラミィ、ぼたん、ポルカもねねの顔を見る。
それを受けてねねも自分の顔に何か付いているのかとペタペタと自分の顔を触る。
「ミオちゃんから聞いてたけど、その子があやめるに狙われてるっていう子?」
「そうだよ」
肯定するミオにみこはジッとねねの瞳を覗き込んだ。
「……あ、あの」
「……なるほどね。こりゃ均衡者のあやめるは動くよね。むしろ、2人は何でその時に原因が分からなかったの?」
「だから、数か月前と今とでは全然違ってたんだって」
「そうそう。ここまで酷似してたら流石の白上もミオも気付くよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
3人でどんどん進んでいく話に置いて行かれそうになるねね達を代表してラミィが3人に待ったをかける。
「あの、皆さんは何の話をしてるんですか?」
「そりゃあ、ねねちの力の話だよ」
ミオの返答に4人は目を見開いて互いに顔を合わせる。
まさか、ここに訪ねてきていきなりその核心に触れることになるとは思っていなかった。何故なら先程からミオとフブキが言っているように、ねねの力の正体が今分かるのなら、数か月前初めて出会った時に気付けなかった理由が分からないからだ。
「数か月前に会った時は本当に普通の人間の女の子だったからね。白上にも力は何も感じなかったし、なす術なく百鬼あやめにやられてたし」
「むしろ、あの時にこの力を感じてたらあやめが見逃すとは到底思えない。むしろ命拾いしたかもね」
それほどまでに今のねねは3人の言う力が漏れ出しているらしい。
「そういえばラプラス・ダークネスも言ってたね。その光の力はなんだって」
「あーそういえば」
ポルカとねねは秘密結社holoXに地龍のレックスが攫われた際に、ラプラスからねねに不思議な力があるということは言われていた。
そしてその時に力の一部を奪われ、数時間前には──
「それにしても、ここまで似ることってあるのかな?」
先程から酷似しているだったり、似ているといった言葉がやたらと出てくるミオ達の会話に流石のねね達も少しずつ勘付いてくる。
「みこも初めギャングタウンにテレポートした時、マジで本人だと思ったからね」
「あの……さっきから言ってる、ねねが誰かに似てるっていうのは」
ねねの問いに、ミオ、フブキ、みこは机の上に置かれた本に視線を落とす。
『光の星の勇者』
この星が創り出されて以来最初で最大の超大戦──星天戦争。
その大戦争の終結を綴ったこの物語は、1人の少女にスポットライトを当てたノンフィクションだった。
× × ×
『いま私に出来ることをやっていこう』
それは戦に向かう彼女が発した何気ない言葉だったが、みこの最も深いところに残っている言葉でもあった。
この星の人間として生まれ育ったにも関わらず神の力の一部を宿してしまったことで神が率いる天界軍にも、鬼神が率いる地上軍にも属すことが許されなかったさくらみこにとって、同じくどちらの軍にも属さず自由気ままに戦場で暴れ回る彼女はとてつもなく眩しく見えていた。
「やっぱりこの話は昔本当にあった出来事なんですね」
「そう。彼女の名前は星街すいせい。この本ではわざと名前を出していないんだけど、過去に起きた超大戦をほとんど1人で終わらせた馬鹿な女の話だよ」
みこが呆れたように、しかしどこか懐かしむように答える。
ミオとフブキもみこと同じ表情をしていた。
「星街、すいせい……」
「ねねち、その名前に聞き覚えはある?」
フブキに聞かれ、ねねは素直に首を横に振る。
「そりゃそうだ。何千年前の話だと思ってるのさ。いや、何万年前か?」
「師匠、淡々と天文学的な数字を出してこないでください」
そんな会話も程々に、みこは本を手元に引き寄せて表紙を軽く撫でる。
「ま、皆読んだみたいだから内容は省略するけど、彼女はこのタイトルの通り光の星からやって来た異世界人だった。結局最後の最後まで何をしにやって来たのかは言わなかったけど、文字通り命懸けであの戦争を止めて、そしてこの世界を救った。それこそ、まだあやめるとかも生まれる前の話だよ」
「その光の星っていうのは?」
「正式な星の名前は知らない。ただ、すいちゃんが扱っていた力が謎の光を身に纏う力だったから、みこが勝手にそう呼んでただけ」
「光を身に纏う……」
ポルカがねねを横目で見る。
つい数時間前、ポルカだけでなくラミィもぼたんも同じような姿であのラプラス・ダークネスと互角以上に渡り合っていたねねを見ている。
「あの光の力は目で追うことも難しいほどの速度と、山河を砕く拳と、傷をたちまち癒していく治癒力。他にも動体視力や反射神経の上昇なんかもすいちゃんに与えていた。あの時のすいちゃんは流石の神様や鬼神も手を焼いていたね」
そして、ついに星街すいせいという少女はその光の力を存分に振るい、何十万という死者を出した大戦争に終止符を打ったと、この本には描かれていた。
「確かに、ねねの力と似ている点が多いですね」
ラミィは顎に手を当て、光の力を身に纏った時のねねを思い出す。
時に両腕両足に貫通していた傷が数時間で塞がり。
時にholoX最速を誇る鷹の獣人、鷹嶺ルイと同スピードでぼたんを救い出し。
時に変幻自在に予測不能な動きを見せる高速魔力弾を目視で躱し。
時に普通の人間には考えられない跳躍力を見せ。
時に踏ん張りの利かない空中で、弾丸のような速度でラプラス・ダークネスを殴り飛ばした。
「似てるどころの騒ぎじゃないよ。もし2人が並んだ状態で目隠しされたらどっちがどっちか分からないレベル」
「さっきみこさんその方に命を救われたとか言ってませんでした? 流石にそこは分かってあげましょうよ」
ラミィのツッコミにいやマジでと真剣に返すみこ。それほどまでにその星街すいせいと桃鈴ねねが纏っている光の力が酷似しているらしい。
「で、ねねちは記憶がないんだっけ?」
「あ、はい」
「でも、以前ミオちゃん達に会った時と比べると、もうその力も使いこなせるんでしょ?」
「はい」
「え!? そうなの!?」
即答するねねにラミィが驚愕する。
何せここに来る前にいたエルフの里では全く光の力が出せなくなっていると聞いていたからだ。
「……ロボ子さんの爆発と共鳴するように、体の中から力が溢れてくる感覚があった。それ以降、どうすればどうなるのかが分かるようになったんだ」
「あ、確かに、ねねがししろんを助けたのってロボ子さんが光り始めた直後だったもんね……」
確かにこの力は早いうちに取り戻したい、制御できるようになっておきたいとそう思っていた。この力が強力であることは間違いないし、あの星詠みの結果に対抗する手段として役に立つ力だと確信していた。
しかし、ねねもこのような形で取り戻したくはなかっただろう。
ラミィ達は黙り込んで自分の右手を見つめるねねにどう声を掛けていいか悩んでいた。
「でも気を付けた方が良いよ。その力の事を知っているのは今やウチらとあやめの父親である鬼神くらい。神様はもうこの星には不干渉を貫いているからいいけど、もしあやめを伝って鬼神にその力の事が知られたら、まず間違いなく鬼神は均衡者としてねねちを殺しに来るだろうから」
ミオからの注意喚起にねね達も小さく頷く。
そう、もし仮に百鬼あやめを退けられたとしても、その次には生物の祖であり、均衡者百鬼の一族の長である鬼神と対峙することになる。
幸い、この力を良く知る者、間近で見てきた者達が目の前にいる。
ねね達は約1年のタイムリミットまでに、神と対等に戦う者と同等の力を手にする必要があるということだ。