ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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君らの力

 

 

「うわあぁーー!! タンマタンマ! ヘルス! ヘルスミー!」

 

「ヘルプミーだよねねちゃん。あと、そのネタはちょっと危ないかも」

 

 ねねと一緒に隣を走るぼたんが楽しそうにケラケラ笑っている。

 絶対におかしい。何故一緒に隣で全力疾走しているのに彼女にはこんなにも余裕があるのか。

 

 今全力疾走しているねね達は、巨大猪の群れに追われていた。それもこれも、全てはあのねねの一言から始まった。

 

 

×  ×  ×

 

 

「ねえねえ、ししろんは魔法使えないの?」

 

 目的地までの道中、突然ねねからそんな話が切り出された。

 

「魔法?」

 

「ほら、ラミィちゃんは氷の魔法が使えるじゃん? だからししろんも何か使えるのかなって思って」

 

 出会いの時に初めて見て、3人でシケ村を出てからも何度か見せてもらった。何も無い空間から氷をあらゆる形で生み出すことができる。

 

「いんや、私は無理。そもそも魔力がないし」

 

「魔力?」

 

「魔法を使う為の力」

 

 魔法というものは魔力がないと使えないらしい。

 そしてその魔力は誰にでもある訳ではなく、ぼたんは魔法を使う云々の前にそもそも魔力がないとのこと。

 

「ラミちゃんはハーフエルフだから魔力も多いよ」

 

「まぁそれでも純血のエルフ相手だと足元にも及ばないけどね」

 

 ハーフエルフ。エルフと人間の間に生まれた子。

 元来エルフというのは魔法を得意とし、膨大の魔力を持つと言われている。ハーフエルフになるとやはりその魔力量は純血のエルフよりは劣ってしまうものの、ラミィはハーフエルフの中ではかなりの魔力量を誇るとのことだ。

 

「ま、そんなこんなで、私には魔力がないから魔法は使えないってわけ」

 

「そっかー。ちなみにねねに魔力ってあるのかな?」

 

「どうなんラミちゃん」

 

「んー? ないねー」

 

「……まったく?」

 

「うん。まったく。ゼロ」

 

 魔法は魔力がないと使えない。つまりはそういうことである。

 

「……ねねも魔法使ってみたかったなー」

 

 遠い目をして小さく呟くねね。実はひっそりと魔法を使うラミィの姿に憧れていたりしたのだ。

 

「まあまあ、魔法が使えなくても戦う方法はあるよ。ほら、これとか」

 

 そう言ってぼたんが掲げたのは長身のスナイパーライフル。

 彼女がこれを使っているところをまだ見たことがないため、心のどこかでまだモデルガンなのではと思っているのだが、彼女の口ぶりからまず間違いなく本物なのだろう。ただ、自分の目で見ていないものは信じられない質なのだ。

 

「それってさ、本当に撃てるの? 偽物とかじゃない?」

 

「む」

 

 ねねの一言にぼたんが顔をしかめる。

 獅白ぼたんという少女はいつも広い心でケラケラと笑っている印象だが、自分の好きな物に関してはプライドも誇りも持っており、それを馬鹿にされたり疑われたりした際には黙ってはいられない。

 

 数秒後、森の中に数発の銃声が鳴り響いた。

 

 

×  ×  ×

 

 

「ね、本物だったでしょ」

 

「それは分かったから! あの猪の群れをどうにかしてよ!」

 

「無理無理。一頭やってる間に他の猪にやられちゃうよ」

 

「もー! ししろんのバカー!!」

 

 銃声に驚いた巨大猪の群れが次々と現れ、興奮状態でねね達を追いかけ始めたのだ。

 

「そういえばラミィちゃんは!?」

 

「……?」

 

「もー!! ししろんちょっとマイペースが過ぎるよ!?」

 

 ねねが本気で涙目になって訴えて来るので流石にふざけすぎたかなーと1ミリくらい反省したぼたんは軽く笑みを作りねねを安心させる。

 

「ごめんごめん。大丈夫。ラミちゃんはちゃんと別で準備してるよ」

 

「準備!?」

 

「ねねちゃんの憧れの魔法が見られるよ」

 

 すると次の瞬間、辺りの気温が一気に下がった。

 それも並外れた下がり方ではない。それこそ一瞬で体感20℃近く下がったのではないだろうか。超冷気がねね達の周りを渦巻いている。

 

「な、な……!?」

 

 突然の奇妙な現象に言葉が出ない。

 冷たい空気が肌に当たり産毛が凍る。後ろから追いかけてきている巨大猪達も当然その影響を受けており、動きが鈍くなっている。ねね達とは違い厚い表皮と毛皮に守られている巨大猪達はまだ2人よりも寒さには耐性がありそうだが、急激な気温の変化に流石にねね達を追うのをやめ、身を寄せながら辺りを警戒している。

 

「十分。寒くても、銃は撃てるからね」

 

 自分たちを追って来なくなったのを確認すると、ぼたんは肩に掛けていたライフルを構え、先頭にいる巨大猪の額に銃弾を撃ち込む。

 

「わーヘッドショット……」

 

 銃の腕前に若干引いているねねを尻目に、ぼたんは次弾を装填する。

 

「次……」

 

 その目はさっきまでのねねをからかうのを楽しむ時の目とはまるで別物だった。

 それこそ、獲物を狙う肉食獣の目付きをしていた。

 

 二頭目も一発で仕留めると猪達も目の前にいるぼたんを敵だと再認識し、改めて突進の構えを見せる。

 流石にこの距離での突進だとぼたんの装填も間に合わない。

 

「し、ししろん!」

 

「ラミちゃん!」

 

「オッケー! あとは受け持つよー!」

 

 その声はねね達の上、上空から聞こえてきた。

 

(空……!?)

 

 ラミィは自分で空中に作り出した氷の上に立ち、巨大猪達に手を翳していた。

 そんなラミィの周りには数十の氷柱が出現しており、その先端は全て猪達に向けられていた。

 

 その後は、未だに周りを警戒していた猪も、今まさに突進を仕掛けようとしていた猪も、一頭の例外もなく、ねね達を追っていた巨大猪は全て氷柱に体を貫かれ、絶命した。

 

 

 

 

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