あの日──手紙も、伝言も、予兆すら見せず突然ねね達の前から雪花ラミィが姿を消したあの日から既に3ヶ月が経った。
桜神社でラミィに割り当てられていた部屋からはラミィの荷物も綺麗に消えていたことから、神隠しなどにあった訳ではなく、自分の意思で姿を消したのだろうとミオ達は言っていた。
何の前触れもないあまりにも突然の失踪に、ねね達は現状を理解するのに流石に少し時間を要した。
部屋には争った形跡はなく、荷物を纏める時間はあったにもかかわらず、手紙やメモのようなものを残すことはしなかった。
つまり、誰かに連れさらわれた線は薄く、行き先を告げない所を見るとねね達に後を追わせないようにしているように見受けられる。
翌日、ねね達はすぐに桜神社を後にし、ラミィを探す旅を開始した。
流石に何の言伝もなくいきなり姿を消す理由が分からなかったからだ。
しかし、ラミィの捜索は何の手掛かりも掴めぬまま、3ヶ月が過ぎてしまった。
「さて、あと心当たりがある場所なんてここしかないんだけど……」
ねね達はこれまで2人であるいは3人であるいは4人で、立ち寄ったことのある街を転々と探し回ったのだが、いずれもラミィの情報を得ることは出来ず、残す心当たりは彼女の故郷のみとなってしまった。
1番初めに思い付きそうなところなのに何故最後になってしまったのかというと、エルフの里に行くためにはその周りに広がる迷いの森を抜ける必要があるからだ。
以前来た際には行きも帰りもラミィが案内をしてくれていたため、何の問題もなく抜けることが出来ていたのだが、今は肝心のラミィがいない。
「迷いの森か……確か全ての木が同じ形をしてるんだっけ?」
「さて、ここをどう抜けていくかだね」
ぼたんとポルカが森の入り口の前に立って腕を組みながら対策を練る。
ラミィ曰く、この森は道順を知っていないと下手すると一生出られなくなる可能性もあるのだとか。
多種族からの迫害というこの森が作られた経緯から考えると、確かにそれぐらいやってもおかしくないのかもしれないが。
「じゃあさ、ねねが先に行って誰か呼んで来るっていうのは?」
「「……?」」
ねねの提案に首を傾げる2人。
ラミィ以外のこの3人は当然迷いの森を抜ける道順は知らない。一度通ったことがあるとはいえ、あの時はラミィの背中にくっついていっただけだ。
まさかその1回でねねが道順を記憶したとも考えづらい。
「何か失礼なこと考えてるでしょ。違うよ、この森はあくまで迷いづらく工夫がされているだけで、絶対に迷わせる魔法みたいなものがあるわけじゃない。なら、その森を通らなければ抜けられるでしょ」
「森を通らずにどうやって里にいくのさ」
ポルカの問いにねねは上空に向かって指をさす。
「森の上を跳んで素通りしていく。流石に2人をおぶってジャンプは出来ないから、先にねねが里まで行って、ラミィの親御さんとかを連れてくるよ」
考えてみれば確かに単純な話だ。
エルフの里の上空には普通に鳥が飛んでいるし、エルフを迫害してきたのは主に空を飛べない人間族だ。エルフの里に入るために何も馬鹿正直に森の中に入る必要がないのだ。
ただ、この中でそれを可能とするのはねねしかいない。
「……なるほど。確かにそれなら最短距離でも行けるし、ある意味一番無難かも」
ぼたんがそう言うとポルカもそれに賛成と頷き返す。
2人から賛同を得たねねはそれじゃ行ってくると言って両足に光の力を集めると、一気にそびえ立つ木々の約2倍の高さまで跳躍する。
(里は……あっちか)
ねねは里の位置を確認すると、無傷で着地し勢いそのまま連続で跳躍をし、森の入り口にいるぼたんとポルカからその背中はあっという間に見えなくなってしまった。
× × ×
里を目指し連続で跳躍を続けるねねは次第に近付いてくるエルフの里を見ながら着地する。
(あと10回くらいで行けるかな?)
着地の反動を使いぐっと膝に力を入れて、再び木の上まで跳躍する。
そして高さが完全に木より高い位置まで到達したその瞬間だった。
「──っ!?」
動きが制限され、遮蔽物もない空中に飛び出した瞬間、ねねから見た左下の森の中から1本の矢が迫ってきていることに気が付いた。
気付くのが遅れたねねは回避を諦め、両足に集めた光を右手の拳に移して高速で迫る矢を殴り付けると、矢はその矢が射られた方へ勢いよく方向を変える。
まるで爆撃が降ってきたと勘違いするほどのねねのカウンターに地上から一瞬息を飲む音が聞こえた。
ひしゃげて曲がった矢が落ちた瞬間、爆音と土煙が上がる。
しかし突然飛んできた矢に驚いて力の加減を間違えたねねも、パンチの勢いで崩れた体勢を立て直せないまま土煙の中に墜落してしまう。
右肩から地面に落ちる寸前、ギリギリのところで全身に光の力を纏ったねねは墜落の衝撃で一瞬激痛と右肩が砕ける感触を感じるが、数秒後には何事もなかったかのように右肩が元通りになっていた。
「……これはこれで気持ち悪い感覚だなぁ」
全身に光を纏いながら自分の自動治癒能力にドン引きしていると、再び正面から向かってくる高速の矢を今度は首を傾げる形で躱す。
「──弓兵隊、構え!」
土煙の向こうからそんな号令がかかる。
どうやら相手は1人ではないらしい。だが、今はそんなことどうでもいい。
その声に聞き覚えがあったからだ。
「フレアさんですか!? あたしです、ねねです!」
「……? 放て!」
「え、ちょ、待っ──」
名乗ったにも関わらず構わず命令するフレアに困惑するねねに向かって多方面から同時に矢が放たれる。
やはりその矢は先程までと同様普通の弓矢からは出せるはずのない速度でねねに迫ってきた。
フレアがいるということは、以前ラミィから聞いたエルフの里の中でも狩猟を中心とした生活をしている風の一族で間違いない。弓矢に風の魔法をエンチャントし、高速の矢を操っているのだろう。
風の魔法がエンチャントされた同時に襲い掛かる高速の矢を、ねねはでたらめに腕を振るうことで発生させた風圧で全て弾き落とした。
「ちょっ、フレアさん! ねねですって! ラミィの仲間で、ねぽらぼの”ね”担当の桃鈴ねね!」
「へ? ねねちゃん?」
「そうですそうです。だから弓を下ろさせて!」
土煙が晴れて姿が明らかになったねねの姿を見てようやく動きを止めるフレア。
以前里にいた時のようなラフな格好ではなく、今はチャイナドレス味のある躍動的な服装に身を包んだフレアは周りにいたエルフ達に弓を下ろさせる。
「ていうか、絶対さっきねねの声聞こえてましたよね? なのに撃ちましたよね」
「いや、確かにねねって名前は聞こえたけど、まさかねねちゃんだとは思わなくて」
「何でねねって名前が聞こえたのにねねだと思わないんですか!?」
ボケ担当のねねにツッコミさせるとは流石だと感心半分呆れ半分のねねだが、対するフレアはジッとねねを見つめる。
「そりゃそうでしょ。以前会ったねねちゃんは空を飛んだり、エンチャント矢を弾き飛ばしたりできなかったからね。ねねちゃんの名前を語る侵入者だと思うよ」
──あまりの正論にぐうの音も出なかった。