ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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森の精霊

「ここにはいないみたいだし、やっぱりまた外に出ようか」

 

 ポルカの発言にそうだねとねねとぼたんも頷く。

 エルフの里にはラミィはいないということでまた外を探しに行くことになるが、ラミィがいなくなった理由のあたりも付け、百鬼あやめを探せばラミィも見つかるのではという結論にいたった。

 

「あー、ちょっと待って。里を出るにしても明後日以降の方がいいかも」

 

「え、何でですか?」

 

 しかし里を出ようというねね達にフレアが待ったをかけた。

 

「多分戻って来ないとは思うんだけど、念のため明日の精霊祭まで待ってみてもいいんじゃないかな」

 

「精霊祭?」

 

「そう。エルフの里では10年に一度、精霊祭っていうのが行われててね、ちょうど明日がその日なんだよ」

 

 フレアの説明を聞いてねね達はこの家に来るまでの里の様子を思い出すが、以前この里に来た時となんら変わった様子もなく、とても明日祭が行われるような活気は感じなかった。

 

「祭りって言っても屋台が出てお酒を飲んで皆で盛り上がる祭りじゃなくて、森の精霊様がエルフの森に帰ってくるのを里の全員で静かに見守る日って感じだね」

 

「森の精霊?」

 

 エルフの森というのは里を囲む迷いの森のことだろうが、そこには精霊が住んでいるのだろうか。

 ねねが森の精霊について尋ねると、その問いにはぼたんが答えた。

 

「そういえば以前ここの大図書館で星詠みについて調べようと思ってエルフの歴史を調べた時に、森の精霊って言葉が出てきてた」

 

 ぼたんは記憶を辿りながらその時に読んだ書物の内容を語っていく。

 

 エルフという生物が長寿である理由。

 それはかつて森の精霊に不老不死を願った1人のエルフが関係しているという。

 

 時は星天戦争まで遡る。

 当時のエルフ族は魔法に長けた生物ではあるものの、今のように長寿ではなくそれこそ平均寿命は人間族とそこまで変わりはなかった。

 

 エルフは仲間意識が強く、何よりも仲間を大切にする愛情深い種族として知られていた。

 そんな中、戦争に巻き込まれて次々と死んでいく仲間達。そして、仲間の死に耐えきれず自殺をするエルフが後を絶たなかった。

 

 そんな悲劇を終わらせたいと、ある時毎日のように精霊に祈りを捧げていた1人のエルフが森の精霊に願ったという。

 

 

 ”どうか、最初で最後の我儘をお聞きください。どうか、どうかエルフを自殺ができない身体にしてください。もう、愛する仲間が自分で自分の命を絶つところは見たくないんです。少しでも長く一緒にいられるようにしてください……!”

 

 

「献身的なエルフに心打たれた森の精霊は彼の願いを聞きとげ、世界中のエルフ、そしてその後に生まれてくるエルフにも全て長寿を与え、さらには自殺のできない身体を与えた」

 

 ぼたんから説明を引き継いだアキロゼは、そこでいったん話を区切る。

 まさかエルフの長寿にはそのような歴史があったとはと、ねねとポルカは初めて聞く話に聞き入る。

 

「長寿は分かりますけど、自殺ができない身体ってどういうことですか?」

 

「そのままの意味だよ。自分で命を絶とうとすると精霊の加護によって絶対にそれが阻まれる。いや、自殺だけじゃない。己の死を望んだり受け入れた瞬間、その加護は自動的に発動される」

 

「お2人もその加護に守られたことがあるんですか?」

 

「あたしはないけど……」

 

 ねねの問いにフレアは首を横に振る。

 そして、200年以上生きているフレアの更に何倍も生きているアキロゼに全員が視線を向ける。

 

「……ま、これだけ生きてたらそりゃあるよ。それも一度や二度じゃない。戦争の先頭に立っているとその機会には腐るほど遭遇する。とてもじゃないけど、そんな良いものじゃないよ」

 

「……? そうなんですか?」

 

 そう願ったエルフの気持ちも分からないでもない。誰だって親しい者、愛する者が目の前で自ら命を絶つ姿など見たくない。それが出来なくなるなら、そこまで悪い事とも思えないのだが。

 

「……初めてこの加護がアキロゼを守ったのは、それこそアキロゼが初めて戦争の最前線に立った時の事。敵軍にとてもじゃないけど敵わない相手がいてね。次々に仲間が殺されて、アキロゼも本気で死んだと思った。ここが自分の死に場所になるんだって本気で思った。……でも、アキロゼは生き残った。それもたった1人だけ。加護の話のことは知ってたけど、あの時ばかりは流石に自分を守った加護の事を恨んだね。何で自分だけ生かしたんだって。必死に戦った仲間は死んだのに、早々に諦めて何もせずに死を受け入れたアキロゼだけが何で生きてるんだって。怒りと罪悪感でおかしくなりそうだった」

 

 ──自分の死を望んだり受け入れた瞬間、精霊の加護によって守られる。

 

 それはつまり、死にたくても死ねないということだ。

 

「しかも質の悪いことに、死を望んだり受け入れていない時──つまり死にたくない、もっと生きたいって思っている時は普通に死ぬからね」

 

 不意の事故や絶対に生きて帰ると誓った戦いの場では、加護は発動しないという。

 奇しくも、”自殺のできない身体”という願いがこのような形で現れたとのことだ。

 

「でも、今のを聞いたらエルフはその精霊にそこまで感謝していないように思うんですけど、それでも祭りをするんですか?」

 

「どちらかというと、そっちの加護より長寿に対して祈りを捧げる日だからね」

 

「というと?」

 

「エルフが長寿なのは森に生きている他の生物の寿命をいただいてるからなんだよ」

 

「寿命を……?」

 

「そ。精霊様でもタダでエルフの寿命を延ばすことはできなかったみたいでね。この精霊の息が掛かっている森に住んでいるエルフ以外の生物の寿命を減らして、その分をエルフに分け与えたんだよ。……フッ、他の生物からしたら何してくれてんねんだよね。だから、エルフはいつだって森の生き物に感謝の祈りを捧げてるし、森の精霊が戻ってくる10年に一度のこの日には森に生き、そして死んでいった過去現在未来すべての生き物に感謝を捧げるんよ」

 

 エルフにとって明日という日はかなり重要な日ということだ。

 200年この里で暮らしていたラミィがその日の事を知らないはずがない。なので、もしかしたらこの日に合わせて戻ってくるかもしれないということらしい。

 

 ただ──、

 

「……エルフにとって明日がどれだけ大事な日かっていうのは分かりましたけど、それに合わせて戻ってくるくらいなら、初めから私達の前からいなくなってないと思いますよ。それこそ、私達がこの里に来ることくらいラミちゃんだって予想できてるでしょうし」

 

 ぼたんの意見にだろうねとフレアも苦笑いを浮かべる。

 

「ただ、もうそろそろ完全に森への出入りが禁止される時間なんだ。だから悪いけど今日明日はこのまま里に泊まっていってほしい。あたしはまた森に戻るけど、その間、あたしの家は自由に使ってくれていいから」

 

 森への出入りが禁止されるのに今から森に入るという矛盾を説明することなく、フレアは弓矢を持って家を出て行ってしまった。

 

 戸惑うねね達にアキロゼが説明してくれた。

 

「フレア達風の一族は狩猟を中心とした種族っていうのは知ってる?」

 

 以前ラミィから聞いたことがあったねね達は素直に頷く。

 

「この狩猟ってのは迷いの森に住む生き物を狩ってるんじゃなくて、むしろその逆で迷いの森に入り込む害獣・害鳥なんかを狩ってる、いわば最もこの森の生き物に感謝をしている一族なんだよ。だからこの時期になると風の一族が森への立ち入りを禁止して徹底的に外からの侵入者を排除するんだよ」

 

「あ、それで……」

 

 森の上を超えて里に入ろうとしたねねが撃ち落されそうになったのもそれが原因らしい。

 

「ま、急いでるのは分かるけど、フレアが言った通り、今日明日は悪いけどここに泊まっていってほしいな」

 

 ねっとウインクするアキロゼ。

 この里に住むエルフにとって10年に一度の大切な日の前日に急に来たのはねね達の方なので、そこまで我儘も言えない。

 

 ねね達はアキロゼとフレアの言葉に甘えて、明日の精霊祭が終わるまではこの里に留まることにした。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

「──……っ!?」

 

 バッと目を覚まし起き上がる。

 

 自分の身体を確認すると服は真っ赤に染まり、その染み方からして内側からの染みであることが分かった。

 にもかかわらず、己の身体には傷ひとつなく、その気味の悪い違和感に吐き気が込み上げてくる。

 

「この3ヶ月で何回目? いい加減諦めなよ」

 

 部屋の入り口から聞こえるその声には振り返らない。

 

「……だったらあんたがやってよ」

 

「無理だって。余にもその加護は破れない」

 

 この3ヶ月、毎日のように試みているが、一向に成功する兆しが見えない。

 

「……でも、これだけ離れてれば……」

 

 魔力を込め、魔法を発動させる。

 

「変わった? 未来」

 

「…………」

 

 無言が答えだ。

 何度も何度も何度も何度も! この未来を見た……!

 

 

「……やっぱりラミィが死ぬしか方法がないのに……! 何で死ねないの!!」

 

 

 雪花ラミィの悲痛な叫びに応えるのは静寂のみだった。

 

 

 

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