ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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※今回若干の閲覧注意


666

 首が飛んだ。

 確かにその感触が残っている。

 それなのに私はここにいて、首も繋がっていて──

 

「──ッ!? ガァッ!?」

 

 右腕に激痛が走る。

 慌てて痛みの先に視線を向けると、ぼとりと自分の右腕が地面に落ちるのを見る。

 それを認識したことで更に痛みが増す。切断された右腕を抑えながら、ポルカは辺りを見回す。

 

「何だここ……! 一体どこから攻撃された!?」

 

 先程まで迷いの森の中でトワと名乗る悪魔っ娘を相手にしていたはずなのだが、いつの間にか靄のかかったような謎の空間に立たされていた。

 

 間違いなく一度首を刎ねられたはずだ。一瞬だけだが、それでも確かに感じた死という感覚を思い出し、恐怖から身体が震える。

 ボトボトと切断された右腕から血が溢れ出し、身体が段々と冷たくなっていくのを自分でも感じる。

 

 辺りを見回し、自慢の聴覚を最大限にまで集中させるが、聞こえるのは自分の鼓動だけだ。

 

(ここまで静かな空間なら、本来なら息遣いですら私の耳なら聞こえるはず。それなのに本当に無音ってことは近くには誰もいないはずだ)

 

 それなら自分の腕を切断したのは一体誰なのか。

 気配を感じることができないことに余計恐怖を感じたポルカはその場に留まることはできず、あてもなく靄の中を走り出す。

 

「……っ!!」

 

 しかし、一歩足を踏み出そうとした瞬間、踏み出すはずだった足がないことに気が付く。

 左足が太ももの真ん中あたりから右腕と同じように綺麗に切断されているのだ。

 

 痛みを感じるよりも先にバランスを崩して倒れ込む。

 そして遅れてくるように、地面に衝突した痛みが掻き消える超激痛が左足に襲い掛かる。

 

「……ッア、…………ガッ──!?」

 

 想像を絶する痛みに声を発することができず、大量の出血とあまりの激痛のショックに脳の処理が追い付かず、ポルカの命はそこで静かに尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────っ!?」

 

 気が付くと、両手両足がベルトで固定された状態で椅子に座らされていた。

 口には布が巻かれており、声を出すことができない。

 

「んーー! んーー!!」

 

 誰かいないかと声を上げてみるが、その声に応えるものはない。

 だが、先程と違うのは今度は近くに人の気配を感じる。

 

 靄がかかっていてはっきりと視認はできないが、十数メートル先に誰かがいる。

 

 必死にその影に向かって声を上げるポルカ。

 するとその声がようやく通じたのか、その人影がゆっくりとポルカに近付いてくる。

 

「────」

 

 だが、ソレが視認できる距離まで近づいてくると、ポルカは目を見開いて息を飲んだ。

 ソレが一歩近づくにつれ、ガチャ、ガチャと音が鳴る。

 

 完全に全身が見えた時にはポルカの目には大粒の涙が浮かび、ガタガタと音を立てながら全身を震わせ、必死に何度も首を横に振る。

 

 全身に拷問器具を付けたソレは、辛うじて人の形をしてはいるものの、どちらかというと化け物と形容した方が近いと思える見た目をしていた。

 

 

 それから数分も経たないうちに、絶え間なく続いていた悲鳴がピタリと止んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──恐ろしい夢を見た。

 今は傷も痛みもないのに、その時のこの世のものとは思えない激痛は今でも容易に思い出せる。

 指が無くなる感覚も、脚が無くなる感覚も、目玉が無くなる感覚も、全てを鮮明に思い出すことができる。

 

 それでも真っ赤に染まったはずの自分の服は綺麗なままで、それを見るとやっぱり夢だったんだと確信できた。

 

 だから、今まさにレックスによく似た肉食獣に頭を嚙み千切られているのも、夢なんだ──。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

 はぁ、はぁと息を切らしてねね達がトワに追いついた頃には、既に手遅れだった。

 フレアを連れて里に向かっていたはずのポルカが地面に倒れ、トワは何事もなかったようにパンパンと服に着いた汚れを払っている。

 

「……おい、おまるんに何をした?」

 

「……ん? おお、凄い。3人ともこんなに早く出てこられたんだ。まぁ、この子と違って3人とも出る方法は割と簡単な夢だったけどさ」

 

 ねね、ぼたん、アキロゼの登場にパチパチと拍手をするトワ。

 そんなトワの態度にねねは一瞬で距離を詰めるとトワを大木に叩きつけ、腕で首を押さえつける。そして聞いたことのない低い声で再度尋ねる。

 

「……もう一度聞くぞ。おまるんに何をした?」

 

「お前らと同じく夢の中に招待してあげただけ。ただお前らと違うのは、運が悪いことにトワが見せる夢の中でもダントツトップの悪夢に選ばれちゃったってだけ」

 

 飄々と答えるトワに腕の力を強めるねね。

 その後ろでは倒れているポルカの胸にぼたんが耳を当てていた。

 

 そう、地面に倒れ伏すポルカの様子は、目を瞑り眠りについていたフレアやねね、ぼたんやアキロゼとはまた違っていて、両目を見開き、ボロボロと涙を流しながら身体を震わせており、それでも意識がここにはないということだけは見て取れた。

 

「今すぐおまるんを夢から出せ」

 

「それは無理な相談だ。トワができるのは夢の世界へ連れていくことだけ。たとえトワが死のうとも、その夢のから出る条件を達成しない限り、夢から解放されることはない」

 

 たとえば、そこに出てくる敵を倒すこと。

 たとえば、過去の思い出を清算すること。

 たとえば、夢に出てくる人の願いを叶えること。

 

 その中には良い夢も、悪い夢も、幸せな夢も、不幸な夢もある。

 

「なら、おまるんが夢から出るための条件を言え」

 

 

「666回死ぬこと」

 

 

「…………は?」

 

 トワの返答に、つい気の抜けた声が出てしまう。

 その数字があまりにも馬鹿げていたから。

 

「言ったでしょ。トワが持つ夢の中で、ダントツトップの悪夢に選ばれちゃったって。こればっかりはランダムだからどうしようもないのさ。大丈夫大丈夫、多分今頃3、4回死んでるんじゃない? 敵を倒さないと出られない夢はワンチャン一生出てこられない可能性もあるけど、この夢は100%いつかは出てこられる夢だから。ま、この夢から覚めて正気を保ってた奴は過去たったの1人だっていなかったけどね」

 

「…………」

 

 初めて見る大粒の涙を流しながら恐怖に顔を歪ませるポルカに、ねねは沸々と怒りが沸き上がってくるのを感じる。

 

 無意識にトワの首を絞めつける力が強まり、全身に淡い光が纏い始める。

 

 

「………へぇ、それが話に聞いてた、光の力か」

 

 

「……なに?」

 

 苦しそうに呟いたトワの言葉に大木に押し付けていた腕の力を弱め、一瞬で冷静さを取り戻すねね。

 

 ──こいつ、今なんて言った?

 

「お前、今なんて──」

 

「ねねちゃん、上!!」

 

 トワに問いかけようとした時、アキロゼの声にバッと上空を見上げる。

 するとそこには視界を埋め尽くさんばかりの氷の柱が目前まで迫っていた。

 

 咄嗟に押さえつけていたトワから離れ、バックステップで回避するねね。

 

「氷……!?」

 

 この氷の柱には見覚えがあった。

 秘密結社holoXの地下施設で飛び掛かろうとしていたラプラスの足を止めたあの氷の柱と酷似している。

 

「……っ、ラミィ!!」

 

 大声でその名を口にするねね。しかしその呼び掛けに返答はなく、咄嗟に放してしまったトワも森に響くねねの声と共にいつの間にかその姿を消していた。

 

 

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