ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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懐かしき相棒

 エルフの里を囲む巨大な迷いの森にて、悪魔を名乗る少女の襲撃があったことは、瞬く間に里中に知れ渡った。

 

 その襲撃にて、風の一族のエースとも言える不知火フレアと次期雪の一族族長候補の雪花ラミィの旅の仲間である尾丸ポルカが敵の魔法に掛かってしまい、意識が戻らないことも当然知れ渡っていた。

 

「アキロゼさん、あんたも一時は敵の魔法に掛かったが、出てこられたと聞いたぞ? それならフレアも何とか出来ないのか?」

 

「いや、どうもこの魔法は夢の中に閉じ込められた本人の意思や行動が脱出に大きく関係してくるらしい。魔法を掛けた当人ですら、夢から出す方法はないと言っていたからね」

 

 風の一族族長に状況を説明するアキロゼの言葉に族長は頭を抱える。

 

「……それで、その犯人は今どこにいるんだ?」

 

「……ごめん、取り逃した」

 

「……はぁ」

 

 どうしたものかと、族長を始め、風の一族の面々が溜め息をつく。

 最後に常闇トワを取り押さえており、そして奇襲によってその手を放してしまったねねは、自分のせいで敵を取り逃がしたのだと口を開きかけるが、それをアキロゼが誰にも気付かれないよう手で制し、小さく首を振る。

 

「それにしてもよりにもよって精霊祭が行われるこのタイミングで悪魔の襲撃だなんて、偶然なのか?」

 

 族長の呟きに、アキロゼはいやと首を振って断言する。

 

「それはない。10年に一度の精霊祭のタイミングで精霊を最も憎むと言われている悪魔の襲撃。いくら何でも出来過ぎてる。このタイミングを狙ったに決まってるよ」

 

「しかし、何故その悪魔は精霊祭のタイミングを知っていたんだ? 精霊様がこの森にやってくるタイミングはこの里に住むエルフしか知りようのないことだぞ」

 

「…………」

 

 アキロゼは族長の言葉につい口を紡ぐ。

 その無言が全てを物語っていた。あの場にいた3人は当然、3人ともその答えに辿り着いている。

 

 この里の者しか知り得ない情報をこの里の者ではない悪魔が知っていた。

 ならその情報は、この里の者があの悪魔に教えた以外にあるはずもない。

 

 しかし、それをこの場で口にしてしまえば、恐らく3つの一族で成り立つこの里は崩壊する。

 

「明日の精霊祭は中止にすべきか?」

 

「いや、森の精霊が戻ってくる明日に彼女が再び襲撃してくるのはまず間違いない。それなら、アキロゼ達はいつも通り振舞っていた方がいい。でないと、最悪精霊様が何かに勘付いて戻って来ない可能性がある。彼女を確実に叩くためにも、精霊様には悪いけど、明日は囮になってもらってあの悪魔を誘き出す」

 

 まさか仮にも自分達に加護を与えてくれている精霊を囮に使うとは夢にも思っていなかった風の一族のエルフ達は、アキロゼの罰当たりな提案に難色を示す。

 

「いや……アキロゼさん、あんた、それはいくら何でも……」

 

「別に全員でやる必要はない。悪魔を叩くのは……アキロゼも含めてこの3人が適任だね。他の皆はいつも通り祭りを催せばいいだけだよ」

 

 アキロゼが指差したのは自分自身と横に立っていたねねとぼたんだ。

 

「元々アキロゼは森の精霊に別に感謝も何もしてないし、この2人はそもそもエルフでもないから、皆ほど森の精霊に負い目も感じないでしょ。それに何より、この子達の仲間があの悪魔にやられたんだ。この役はこの子達が適任だ」

 

 確かに今こうしている間も、ポルカは夢の中で恐ろしい目に遭わされているのだ。それを思うだけで、あの悪魔には報いを受けさせたくて仕方がない。

 

 ただ、アキロゼのその言い分は、半分以上が建前であることも確かだった。

 そしてそれをねねとぼたんも理解していた。

 

 この3人でやるしかないのだ。

 

 たったの1人だって、他のエルフを連れて行くわけにはいかないのだ。

 

「森の精霊やあの悪魔の目を欺くためにも、他の皆はいつも通り精霊祭を開催してほしい」

 

 そう伝えるアキロゼの瞳は何よりも真剣で、同時に、心の奥底で何かを訴えるような、そんな悲しい瞳をしていた。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

「フレア、2匹そっち行った!」

 

 前衛でメイスを振るう銀髪少女の掛け声にフレアは同時に2本の矢を放つ。

 矢には風の魔法が付与され、こちらに向かってきていた大型狼の眉間に突き刺さる。

 

「さっすがフレア!」

 

 やるねとサムズアップする少女──白銀ノエルはメイスを背中に戻してニカっと明るい笑みを浮かべた。

 

「いやー懐かしいね。こうやってフレアと一緒に狩りするの」

 

「そうだね」

 

 本当に懐かしい。彼女とこうして一緒に戦闘を行ったのはおおよそ80年も前の話だ。

 ノエルはうーんと伸びをしながら木にもたれ掛かるように腰を下ろすと、隣に座るようにとフレアに向けて無言で地面をポンポンと叩く。

 

 相変わらず愛嬌さについ笑みを零しながら、フレアも弓を下ろしてノエルの隣に腰を下ろした。

 

「そういえばさ、あれからどのくらい経ったの?」

 

「もう80年だよ」

 

「うっひゃー、じゃあ白銀聖騎士団の皆ももう死んじゃってるか」

 

「人間の寿命は本当に一瞬だね」

 

「80年が一瞬とか草」

 

 ケタケタと笑うノエルにフレアは懐かしさを覚えて若干目を潤ませながらも、それを勘付かせないよう視線を落として地面に指で落書きをしながらポツポツと語り出す。

 

「……あれから、白銀聖騎士団は5年と持たずに解体されたって聞いた。それだけ彼らにとっての団長様はかけがえのない存在だったんだよ」

 

「…………」

 

 フレアの言葉にノエルは無言で空を見上げる。

 今、目の前にいる彼女はいったいどういった存在なのだろうか。フレアの記憶から生み出された存在なのだろうか。今、ここにいる彼女は、いったい何を想い、考えているのだろうか。

 

「……あ、そういえばラミィは元気? 星詠みで団長の未来を見た時は凄い落ち込んでたけど」

 

「あの知らせが届いた時から、確か20年くらいは引きこもってたよ」

 

「おぉ……それ人間の感覚だとかなり引きこもり玄人になっちゃうけど大丈夫そ? ていうか、別にあの子はそうなるっていう未来を見ただけで、あの子が見たから死んだって訳じゃないのにね。順番が違うのよ順番が」

 

「……それはあたしじゃなくて、ラミィに直接言ってあげてよ」

 

「フレアが言ってあげて」

 

 突然真剣な声音を発するノエルにフレアもそれ以上は踏み込むことができなかった。

 

「……まぁ、ラミィは大丈夫だよ。もう60年も前に立ち直ってる。聞いてよ、あの箱入り人見知りお嬢様が今では外で知り合った仲間と一緒に旅をしてるんだよ」

 

「ほえー、まあそりゃ80年も経てば流石のあの子も変わりますよ」

 

「いやいやたった80年であそこまで変わるのは凄いことだよ」

 

「え?」

 

「え?」

 

 どこか嚙み合わないやり取りにお互い首を傾げる。

 

「それでもツッコミは相変わらずキレキレだったけどね。あの子の周りにはおのずとボケ担当みたいな人種が集まるのかも」

 

「確かに、あの頃もラミィを除いたらツッコミできるのなんて団長くらいだったもんね」

 

「え?」

 

「え?」

 

 ……まぁ、いい。そういうことにしておいてやろう。

 

「……さて」

 

 パンパンとお尻に着いた汚れを叩きながら立ち上がるフレアに、ノエルもメイスを持って一緒に立ち上がる。

 

「お、それじゃあそろそろ次の得物を探しに行く?」

 

「いや、ここからはあたし1人で行くよ」

 

「…………」

 

 何者かは知らないが、最後に、懐かしい想い出に浸らせてくれたことには感謝しよう。

 

「久しぶりにノエルと戦えて楽しかった。あれから色んな奴とコンビを組んだり、集団で戦ったりもしてきたけど、やっぱりノエルが一番相性が良いよ」

 

「……そっか。フレアはもうとっくに吹っ切れてるんだね」

 

「まさか。ずっとここに居ていいなら、いつまでだって居座るよ。でも、それと同じくらい、今は馬鹿な妹分のことが気になってんの」

 

「……フフッ、なにフレア、ラミィのお姉ちゃんなんてやってんの?」

 

「は? 昔からあたしはあの子の姉だが」

 

「いや、ちゃうでしょ」

 

 呆れたように苦笑するノエルの頭にポンと手を乗せるフレア。

 そして先程の戦闘で少し乱れていた髪を手櫛で直すと、満足げにうんと1つ頷き、そのままノエルの額に軽く口づけをする。

 

「じゃ、行ってくるわ。後衛のあたしはいつもノエルの背中ばっか見てたかんね。たまにはノエルがあたしの背中を見守っててよ!」

 

「ん、了解。いってらっしゃい」

 

 

 振り返ることはせず、過去を清算し、温かい視線に見送られながら、フレアは光の中に走り出した。

 

 

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