ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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水の都アトランティス

 水の都──アトランティス。

 昔アキロゼが世界を旅していた際に辿り着いた、天使の住む都と呼ばれている海上都市だ。

 

 そこに訪れた者は誰もが、世界で最も美しい都だと口を揃えて言うらしい。

 

 それはアキロゼとて例外ではなかった。

 

 アキロゼから聞いた話では、エルフの里からはかなり遠方だが、生きているうちに一度は行った方が良い場所だと教えられた。ただ、今回は綺麗な景色を見るためではなく、アキロゼの旧友に会うために向かったのだが、そんな海上都市にねねとぼたんは約4ヶ月という時間を掛けてようやく辿り着いた。

 

「マジで遠かったね。まさか本当にこんなにかかるとは」

 

「だね。アキロゼさんの伝書鳩の魔法がこの4か月間来なかったってことは、未だにおまるんは夢の中で苦しんでることになる。1秒でも早くその天使を見つけてお願いしないと」

 

 長かった道のりにふぅと一息つくぼたんにねねも頷き返す。

 もしアトランティスに向かう最中にポルカを目覚めさせる方法が見つかったり、もしくは夢見の魔法を掛けた常闇トワが言っていた通り666回夢の中で殺害されることで目を覚ました場合でも、アキロゼから以前見せてもらった伝書鳩の魔法で知らせてもらう手筈になっていた。だが、その連絡も今のところ来ていない。

 

 ポルカが掛けられてしまった悪夢の厄介なところは、夢の内容がどういったものか分からないため、仮に666回ポルカが殺されてしまうのを待つという選択を取ったとしても、いつ頃目を覚ますかが分からないというところにある。

 

 ぼたんもアキロゼも夢の中で自由に動けたし、魔法も自由に使えた。つまり、ポルカも夢の中で自由に動けるのだとしたら、当然自分を殺しに来る何かから逃げるという行動を取るはずだ。そうなれば666回という頭がおかしくなる回数殺されるまでどれ程時間がかかるのか分かったもんじゃない。

 

 そもそも、666回も痛みも感覚も恐怖もリアルに感じながら殺されたら、普通の人間では正気を保ってはいられない。そんな苦痛からは1秒でも早く解放してやらないといけない。

 

「行こう、アトランティスに」

 

 互いに頷き合い、ねねとぼたんは水の都に足を踏み入れた。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

「さて、例の天使様はどこにいるんだろう」

 

「天使なんだから目立つよね? その辺の人に聞いてみる?」

 

 海上都市に入った2人は早速目的の天使をどうやって探すか模索していく。

 都には普通に人間や獣人も関係なく住んでいるようで、外から見ると美しい景観を誇る海上都市ではあるが、一歩踏み入れればそこは大陸にある街とそこまで違いがあるようには感じられない。

 

 ねねとぼたんは近くを歩いていた1人の少女に声を掛けてみることにした。

 

「あの、すみません」

 

「……? はい」

 

「ここに天使様が住んでいるという噂を聞いたのですが、どこにいらっしゃるか知っていますか?」

 

 ねねが声を掛けた少女はピンク色のメッシュが入った黒髪ロングで、白とベージュを基調としたワンピースを身に纏っており買い物袋を抱えている。

 

「あー、ごめんなさい。天使様に会いに来る人って結構多くて、天使様自身が許可した人でないと通さないようにご本人から言われているんです……」

 

「えっと、一応天使様の昔のお知り合いから紹介してもらったんですが、それでも駄目ですかね?」

 

「天使様のお知り合いですか? ちなみにその人のお名前をお聞きしても?」

 

「アキ・ローゼンタールさんです」

 

 運良くいきなり天使様に話を通せる人にヒットしたみたいだったが、どうやら天使様には誰でも会うことができるというわけではないらしい。何とか話を通してもらえないかアキロゼの名前を出してみると、少女はんーと人差し指を頬に当て、何かを思い出すような素振りを見せる。

 

「アキ、アキ……どこかで聞いたことがあるような……」

 

「あの、お手数かと思うんですが、よろしければその名前を天使様に伝えてはいただけませんか?」

 

「そうですね。その方が早そうですし、これから天使様の所に戻る予定でしたので構いませんよ」

 

 にこりと優しく微笑む少女。

 今までに出会ったことのないザ・清楚なタイプの少女に若干困惑しているねねに代わって、ぼたんが会話相手を交代する。

 

「ありがとうございます。私は獅白ぼたんって言います。こっちは桃鈴ねね」

 

「私はAZKiです。天使様のお世話係をさせていただいております」

 

「お世話係?」

 

「はい。天使様は業務が多くお忙しいので、家事等のお世話はAZKiがしてます」

 

「へぇ、AZKiさんも天使っていうわけではないんですよね?」

 

「AZKiは普通の人間ですよ。まだ物心も付いていない頃に親を亡くしてしまったAZKiを天使様が引き取って育ててくださったんです。当時名前が分からなかったもので、このAZKiという名も天使様から付けていただきました」

 

 歩きながら懐かしむように過去を話すAZKiにふむと得心がいった表情をするねね。

 

(なるほど。人が天使に育てられるとこうなるのか。あれか、トラが猫に育てられると獰猛さを忘れる的なやつか)

 

 それか一緒に歩くこと数分。

 他の家屋や商店が立ち並ぶ場所からは少し離れた場所に1つだけポツリと建てられた2階建ての家の前に着いた。

 

「着きました」

 

「え、ここ?」

 

「はい。この時間はいったん家に戻ってらっしゃってるかと思います」

 

「へぇ……ここが家なんだ。意外と普通というか、何というか……」

 

「あ、確かに外観はそうですね。この都の景観を損なわないように、他の家屋と似せて造っております」

 

「外観は……?」

 

 AZKiの言葉に首を傾げるねねとぼたんだったが、AZKiはその反応には軽く笑みだけを返すと玄関の扉を開ける。

 

「かなたーん。戻ったよー」

 

 先程まで丁寧な話し方をしていたAZKiがいきなり砕けた口調になったことにぎょっとするねねとぼたんだが、そんなことが吹き飛ぶくらい開かれた玄関の扉の先を見ると目を見開いて驚いた。明らかに外から見た家のサイズには見合っていない広さの空間がそこには広がっていた。恐らく玄関の扉がワープゲートになっているのか、扉の外と中で別の空間に繋がっていることは間違いない。

 

「あずちゃ~ん。待ってたよぉ、お腹すいたぁ」

 

 AZKiの声が聞こえたのか、真っ白な壁や家具で統一された家の奥からスリッパの音をペタペタ鳴らしながらこちらに向かってくる少女の声が聞こえてきた。

 

 そこに現れたのは寝癖の付いたショートカットにロングTシャツを着た少女だった。頭の上には天使の輪にしては鋭利な手裏剣のような形の物が付いていた。

 

「……あれ? どちら様?」

 

「この方々、かなたんに用があるみたいで。アキ・ローゼンタールさんという方から紹介されたみたいだよ」

 

「また懐かしい名前だね……あのエルフまだ生きてたの?」

 

「あの、アキロゼさんのお知り合いなんですよね? ねね達どうしても天使様の力をお借りしたくてここまで来たんです。話を聞いてもらえませんか?」

 

「うーん。僕の力を貸したら、アキロゼも喜ぶのかな?」

 

「……? そりゃもちろん──」

 

 

「そ。じゃあ、嫌だ」

 

 

「…………へ?」

 

 そう言う天使様の顔は清々しいほどに、良い笑顔をしていた。

 

 

 

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