「そ。じゃあ、嫌だ」
天使のような笑顔で拒否られ、ねねとぼたんは呆気に取られてしまう。
「お帰りはそちらです。あずちゃん、お2人をお見送りしてあげて」
AZKiから買い物袋を受け取り、そのまま家の中に入っていってしまう少女に何も言えないまま、3人はポツリと玄関に取り残されてしまった。
「え、えっとぉ……」
ねねとぼたんが困惑気味にAZKiに視線を向けると、AZKiはAZKiでポリポリと頬を掻きながらえーとと苦笑いを浮かべる。
「ありゃりゃ……ま、気にしないでください」
「えっと、一応確認なんですけど、あの子が天使様で合ってますよね?」
「はい。それは間違いありません。彼女は天使族の天音かなた。この水の都アトランティスを創った方と言われております」
かなたには帰れと言われてしまったが、AZKiは追い出すつもりは無いのか、どうぞと言って家の中に招き入れてくれた。
玄関入ってすぐが客間となっているようで、そこに通されたねねとぼたんは飲み物を用意しますので少々お待ちくださいと言ってAZKiが出ていったことで、2人だけで広々とした部屋に取り残されてしまった。
「ししろん、あの天使どう思う?」
「うーん、正直その辺の女の子にしか見えなかったけどなぁ。ただあの悪魔を名乗ってた常闇トワも普通の女の子にしか見えなかったし、見た目では判断しない方がいいのかね」
「そうなんだよなぁ、天使ってもっと神々しいものだと思ってたんだけど……」
「ふふっ、ああ見えて彼女は大昔の戦争で最も攻撃力の高いヒーラーとして名を馳せた天使なんですよ? もちろん、私はそんな昔の戦争は見たことはありませんが」
いつの間にか客間の入り口に立っていたAZKiが2人の後ろからクスクスと笑いながら声を掛けてくる。その手にはお茶が乗った盆を持っている。
「……うん? それ、どこかで聞いたことがあるような……?」
AZKiの言葉を聞いて首を傾げるぼたん。
ねねは特に気になった部分はなかったので、そんなぼたんに首を傾げている。
「……そうだよ。その謳い文句、あのパリピエルフも言われていたでしょ」
その声はAZKiの背後にある廊下から聞こえてきた。
「あずちゃん。その人達には帰ってもらってって言ったよね?」
「まぁまぁ、お話を聞くくらいいいじゃない」
AZKiの返答にぷくぅと頬を膨らませながら天音かなたは客間の中に入ってくる。
そしてねねとぼたんが座っているソファの対面のソファに腰を下ろす。
「あずちゃん、僕も冷たいお茶!」
「はいはい」
AZKiは苦笑いを浮かべながらねねとぼたんの前にお茶を置くと、再び客間を出て行った。
どうやらかなたも本気で出て行けと言ったわけではなく、AZKiが買ってきた物を代わりにキッチンに置きに行っただけだったようだ。AZKiが2人をちゃんと持て成すことも見通していたのだろう。
「……それで? 実際のところあのパリピエルフからどんな話を聞かされてここに来たわけ?」
「そのさっきから言ってるパリピエルフって何ですか?」
「パリピエルフはパリピエルフでしょ。あのいけ好かない金髪エルフだよ」
恐らくアキロゼの事を言っているのだろうが、ねねとぼたんは互いに顔を見合わせ首を傾げる。
「アキロゼさんがパリピってあまり印象ないんですけど……確かによくお酒に酔ってるイメージはありまけど、どちらかというと面倒見の良いお姉さんって感じ?」
「私もそんなイメージ」
「はぁー? あのアキロゼが面倒見の良いお姉さん? 2人ともそれ騙されてるよ」
どうもかなたの言うアキロゼと、ねね・ぼたんが知っているアキロゼが合致しない。
「ちなみに天音さんがアキロゼさんを嫌ってる理由って、さっきの二つ名が被ってるからですか?」
かなたから聞いてねねも思い出した。
確かに初めてアキロゼとフレアと会った際に、フレアがアキロゼは戦場で最も攻撃力の高いヒーラーとして名を馳せたエルフと言っていた。
確かに天使と言えば味方の傷を癒すイメージがある。これでかなたにも高い攻撃力があるのなら確かに戦闘スタイルは似ている。
「それだけじゃないけどね」
「でも、キャラが被ってたってことは味方同士ではあったんですよね?」
「……一応その時の戦争でエルフと天使族は同盟を結んでたからね」
「仲間に高火力のヒーラーが2人もいたら心強いじゃないですか」
「全然そんなことない。敵であったらどれだけよかったかと何度思ったことか。敵だったら思いっきり叩きのめせたのに」
当時を思い出しているのか血管が浮き出るほど力強く拳を握りしめるかなた。
「戦場には二日酔いで来るわ……寝ぼけて敵にヒールを掛けるわ……挙句の果てには、僕の一張羅にゲロをぶちまけるわ……!!」
なるほど、昔からお酒が大好きなところは変わっていないようだ。
「今は知らないけど、昔はガングロ金髪ギャルパリピエルフだったんだよ、あのエルフは。戦場を映えスポットとしか思ってなかったね」
「陰キャのかなたんとは真逆だね」
「誰が陰キャだ!」
ストローを刺したお茶を持ったAZKiが客間に戻ってくる。
アキロゼから聞いていた話ではそんな関係だったとは思わなかったが、これはどちらかというとかなたが一方的にアキロゼに敵意を剝き出しにしており、むしろアキロゼは仲の良い友達と思っていたまである。
流石のアキロゼでも心から信頼できる仲間がいなければ戦場に二日酔いでは来ないだろう。……多分。
「もう僕の話はいいよ。それより2人は何しに来たのさ? 遠路遥々来たんだし、仕方ないから話くらいは聞いてあげるよ」
何だかんだで彼女も面倒見が良いのか、拗ねるような態度を取るものの話は聞いてくれるようだ。かなたの後ろに立ってニコニコしているAZKiの表情を見るとAZKiは初めからこうなることが分かっていなのかもしれない。
「そうだ、ねね達のんびりしてる暇はないんです。すぐにでもおまるんの夢を解いてもらいたくて」
「……?」
首を傾げるかなたとAZKiに4か月前に起きた事を説明していく。
「夢見の魔法? あんなの夢の内容をクリアするだけじゃん。簡単に出て来れるよ」
「それが、おまるんに掛けられた夢っていうのが666回殺されるまで出られない夢らしくて……」
「……! よりにもよって幾百ある夢の中からトップクラスの悪夢を引くなんて、その子運悪いね」
「表情を歪めて涙を流しながら眠るおまるんを、あれ以上見ていられないんです……!」
「……………………………………………………………ふぅん」
「……?」
ジッとねねを見つめて目を細めるかなた。
ねねはそんなかなたの言動に首を傾げる。
「まぁ、夢見の魔法は夢の中でも痛み、感触、恐怖感など全てリアルに感じることができてしまうからね。ただ作業のように666回殺されるだけなら4か月も経ってたら出てこられてるんだろうけど、まだってことは夢の中である程度自由に動けて、自分を殺しに来る何かから必死に逃げてるんだろうね。だとしたら……もし仮に自力で夢から覚めた場合、きっとその頃にはもうその子は、廃人になっているだろうね」
「……何でですか?」
「生きることを諦めたからだよ」
もし、仮に全身を拘束された状態で機械的に首を刎ねられ続けているのだとしたら、4か月という時間はとっくに夢から覚めていてもおかしくない程の時間経過だ。それでも未だに目が覚めていないのだから、きっとポルカは夢の中で殺されないように何かから逃げているということになる。
そうなると、もしかすると現実世界にある体が衰弱死してしまうまで夢から出られない可能性もあるだろう。逆にここまで逃げてきたのに、急に夢から覚めた場合、それは、逃げるのを諦めて666回殺されたということになる。強制的に無抵抗で殺されるのではなく、逃げることはできるのに逃げずに殺された。それも666回殺されれば夢から出られるということを知らないポルカがだ。
つまりそれは、生きることを諦めたということになる。
そんな状態で仮に夢から覚めても、きっと正気を保ってはいられないだろう。
「ハァ……そんな話を聞かされたら、行かないわけにもいかないか……でも、会いたくないなぁ」
どんだけ嫌われてんだよとアキロゼを呪う2人だったが、そんな時だった──、別空間に繋がっているはずのこの家にまで振動が届くほどの衝撃と爆音が鳴り響いたのは。