ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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私は待つよ

「おいお前、その右腕はどこで手に入れた?」

 

 ラプラスの魔力弾を刀で斬りつけながら問うあやめ。

 

「ああ? これはうちの優秀な部下のお手製だよ!」

 

「そのガワはな。余が聞いてるのは、その右腕に埋め込まれている光の力についてだ」

 

「……!」

 

 ラプラスは機械仕掛けの右腕にチラリと視線を送った後、不敵な笑みを浮かべる。

 

「……お前も、この力を知ってるのか!?」

 

「……見覚えがある程度、かな?」

 

「そうかそうか。いや、この力は凄いぞ。博士の最高傑作ロボ子(改)の腕で抑え込まないとあっという間に暴発してしまう。だが、この腕は良く出来てる。今のところちゃんと制御できてるからな」

 

「その力は何ができるのかな?」

 

「さあな。物理・魔法全ての出力上昇。傷の自動回復。きっとまだまだ解明できていない力がある。だが、この力を完全に解明し、そして制御できた時──この世界は完全に吾輩のものだ」

 

「そう。それは恐ろしい。でもさ、それってまだその力をまだ全て制御しきれてないってことだよね?」

 

「まあな。だが、今のままでもこの世界を征服するには十分──」

 

 本当に一瞬視線を外した次の瞬間にはあやめは目の前から姿を消しており、ラプラスの胸から2本の刀が飛び出していた。

 

「………カハッ」

 

 瞬きの間に背後に移動したあやめの持つ2本の刀がラプラスの心臓を貫いていた。

 

「それじゃ、君で予行練習させてもらおうかな。その自動回復って、どこまで回復できるんだろう? さっきは肩口から切り裂いてもあっという間に傷を治してたよね。そんで今度は心臓だ。もしこれも回復できるなら、そうだな……次は首を落としてみようかな」

 

 心臓を貫く刀を抜くと、支えを失ったラプラスの身体が重力に逆らえずに落下していく。

 その様子をまるで何が飛び出すか分からないプレゼントを開封する前の子供のような、ワクワクした表情で見守るあやめ。

 

「…………この、クソサディスティックが……」

 

 落下していく最中、小さく呟いたラプラスは右腕を上空のあやめに向けて突き出す。

 すると右の掌からアトランティスを覆いかねないサイズの魔力弾を一瞬で生み出す。

 

「……へぇ!」

 

 それを見たあやめは心底楽しそうにその魔力弾に向かって2本の刀を振り下ろした。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

「仲間の怪我を治せだぁ?」

 

 突然海から現れた沙花叉クロヱに対し、怪訝な表情を浮かべるかなた。

 

「そう。今沙花叉の仲間がガチ大怪我してんの。かなた先輩の治癒の力で治してよ」

 

「……どの面下げて僕たちの前に現れたかと思ったら、いきなりお願いか? お前さ、僕やあずちゃんに何をしてここを去ったのか、忘れたとは言わせねーぞ」

 

 明らかに怒気を含んだかなたの言葉にクロヱも冷や汗を流す。

 過去に何があったのか知らないねねとぼたんは2人の成り行きを見守るが、ここにクロヱがいるということは、まず間違いなく他のholoXのメンバーもいるはずだ。致命傷を負ったというのもあの中の誰かなのだろう。

 

 ねねは上空で戦っている2つの光に視線を向ける。

 holoXで空を飛べるのは確かラプラス・ダークネスと鷹嶺ルイの2人だけだったはずだ。それなら今アトランティス上空で戦っているのはどちらかだろう。そして、共闘せず何者かと1対1で戦っているということは、致命傷を負っているというのもそのどちらかの可能性が高い。

 

「……その怪我をしたっていうのは、鷹嶺ルイ?」

 

「「……!」」

 

 それを尋ねたのはぼたんだった。その問いにクロヱとねねも反応する。

 恐らくぼたんもねねと同じ考えに至ったのだろう。

 

「……そうだよ。お前らには関係ないだろ」

 

「holoX最速って言ってなかったっけ? そんな彼女に致命傷を与えるなんて、今あそこで戦ってるのは誰なの?」

 

「うちの総帥と、何か知らない奴。いきなり襲ってきたんだよ。そんなことより、早くルイ姉を治療してよ」

 

「待って。あんたらをたった1人で追い詰めてるってこと? どんな奴なの?」

 

 今度はねねの質問にクロヱはイライラした様子を隠そうともせず、頭をガシガシと掻きむしる。

 

「だから知らない奴なんだって! 確か百鬼あやめとか言ってたけど、沙花叉は見たことない奴だったし、でも異様に強いんだよ!」

 

「「……!? 百鬼あやめ!?」」

 

 今度はねねとぼたんが目を見開き、揃って上空を見上げる。

 

「じ、じゃあ、あそこで今戦ってるのは百鬼あやめとラプラス・ダークネスってこと!?」

 

「そうだって言ってんじゃん」

 

 ねねとぼたんは互いに頷くと、改めてクロヱに向き直る。

 

「百鬼あやめは1人だったの?」

 

「は? ああ、多分。沙花叉達の前に現れたのはあいつ1人だったけど?」

 

「そう……」

 

「さっきから何なの? ていうか、ルイ姉は治してくれるの? くれないの?」

 

 クロヱの焦った様子から、ルイの様態が相当悪いと窺える。

 流石にそこまで大怪我をしている人を天使として放ってはおけないのか、かなたはAZKiと顔を見合わせ、渋々といった感じで溜め息を吐く。

 

「……そのルイ姉ってのはどこにいるの?」

 

「治してくれるんだね! いろはちゃん! 出てきていいよ!」

 

 クロヱがかなたの家の上に呼び掛けると、屋根から片翼が切断されたルイを背負った風真いろはが飛び降りてきた。

 

(……っ! また、こいつの気配が一切察知できなかった……)

 

 恐らくクロヱが話を付けるまでずっと屋根の上にいたであろういろはだが、獣人であるぼたんの索敵から完全に気配を消して隠れていたということだ。

 

「これは……また、ひどい怪我だ」

 

「しかもこの怪我のまま一度海に落ちてる。今は布で無理矢理止血してるけど、もう相当血を失ってる」

 

「……流石にこれを見て治さないなんて、天使としてはできないな」

 

「治せる?」

 

「……僕の治癒能力はお前が一番知ってるだろ。お前の千切れた右足を誰が治したと思ってんだ」

 

「でもあの時は千切れた右足があったけど、今は斬られた左翼はないんだよ」

 

「あ、じゃあ無理だわ。傷を塞ぐことはできるけど、付いてた翼が無いなら翼を復活させることはできない。一度傷を塞いだらあとからその翼を持ってきてもくっつけることはできないし、でも今すぐに傷を塞がないと出血多量で多分死ぬよこの子。すぐに選んで。この子が死ぬ前に翼を見つけてくることに賭けるか、一生飛べない身体になるけど生き残ることを選ぶか」

 

 かなたの言葉に言葉を詰まらせるクロヱといろは。

 当然ルイを生き残らせる選択をするかと思ったが、ここで言葉を詰まらせるということは前者に賭ける何かが残ってるということだろうか。

 

「……あれ? そういえばあんたらって、もう1人いなかったっけ? あの白衣を着た」

 

「……今こんこよがルイ姉の斬り落とされた左翼を探してるんだよ。こんこよは薬品で海の中でも息ができるから」

 

 しかし、今その海の上空では激しいぶつかり合いが行われており、何度もその余波が都市や海に衝撃を与えている。その威力は簡単に命を落としかねないものだ。

 

「…………クロヱ」

 

 すると、いろはに背負われていたルイから小さな声が聞こえてきた。

 

「ルイ姉! 意識が戻ったの!?」

 

「……こよりが戻ってくるのを待つ。翼のない私なんて何の利用価値もない。翼を治してもらえるなら、ラプの援護に行ける。あいつは……1人で何とかできる相手じゃない」

 

「ルイ姉……」

 

 ルイがその決断をしたと同時に、あのギャングタウン地方での事件を思い出させる、水の都アトランティスを覆う魔力弾が突如ねね達の頭上を埋め尽くした。

 

 

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