突然現れたラミィによって超小型未確認危険生命体が一匹残らず氷漬けにされたのを見て、かなたはアトランティスを覆っていた結界を解除する。
結界の頂上に立っていたラミィは自ら氷の階段を生み出し、1段1段ゆっくりと下りてくる。
氷の階段はねね達の元まで続き、それを辿るように雪花ラミィがアトランティスへ降り立った。
「ラミィ……!」
自分の名を呼ぶねねの声は無視し、ラミィはかなたへ視線を向ける。
「はじめまして、天音かなたさん。今日は貴女に用があってお尋ねしました」
「……僕に用? 君ってエルフだよね。もしかして君もアキロゼの差し金? ねねちゃん達と知り合いっぽいし、君もお友達の呪いを解いてもらいたくてここまで来たの?」
「…………」
かなたの言葉にラミィは一瞬ねねとぼたんに視線を向ける。
この2人がここにいる理由が、かなたの言葉を聞いて得心がいったというところだろう。
「………いや、そんなことはどうでもいい。それより貴女にやってもらいたいことがある」
「そんなこと!?」
目を見開いてねねが一歩前に出る。
そんなねねの肩を掴み、今にも掴みかかりそうなねねをぼたんが止めた。
「まぁまぁねねちゃん落ち着いて。それよりラミちゃん。近くでholoXと百鬼あやめが戦ってなかった? 高いところにいたから見えたんじゃない?」
ラミィは短く溜息を吐くと、目線を外しながら小声で呟いた。
「holoXなら百鬼あやめに全員殺されたよ」
「「「「…………!」」」」
その場にいたラミィ以外の4人が目を見開く。
少し沈黙した後、ぼたんが再度口を開く。
「それは……間違いないの?」
「ええ。百鬼あやめも無傷とはいかなかったみたいだけどね」
淡々と簡潔に返答するラミィ。
すると、瞳孔を開いて固まっていたかなたがねねに尋ねる。
「……ねえ、holoXって何?」
先程までアトランティスの外で彼女達の元家族である沙花叉クロヱとその仲間が、百鬼あやめという人物と戦っていたということは理解している。
──だが、holoXという単語自体は初めて聞く単語だ。
もしかしたら、何かの間違いという可能性も。
そんな僅かな願いを込めて尋ねるかなた。
「……沙花叉クロヱが属していた組織です」
しかし、無慈悲にもねねの回答はかなたの僅かな望みを打ち砕いた。
AZKiはその場に崩れ落ち、両手で顔を覆いながら嗚咽を漏らす。
「天音かなたさん。貴女には一緒に来てもらう」
「……あん?」
先程までここにいた沙花叉クロヱが死んだということをまだ受け入れられていないかなたは、空気を読まないラミィを睨みつける。
「待てラミィ。ラミィは何が目的でかなたさんを連れて行こうとしてるの」
「それをねねに言う義理がラミィにあるの?」
一蹴。
ねねの質問には一切答える気のないラミィは半眼でねねに視線を向ける。
ラミィの態度にねねの視線も鋭くなるが、そんな2人の険悪な空気を破ったのはかなただった。
「……2人の目的が別なら先に約束していたねねちゃんを優先させる。その後に君の話を聞いて、どうするかを決める。ただ……」
そこでいったん言葉を区切ると、かなたは白い翼を大きく広げる。
「ただ、その前にやることができた。悪いけど、今はそれを優先させてもらう」
「──ッ、待て!」
ラミィの制止を聞かずに、かなたは天使の翼を羽ばたかせると大空へ飛び立つ。聞くまでもなく、アトランティスのすぐ外で百鬼あやめとholoXが戦っていた場所へ向かったのだろう。
「チッ!」
ラミィは舌打ちをすると、かなたが飛び立った方向へ走り出す。
それをねねとぼたんも追おうとするが、その場に座り込んでいるAZKiをこのまま置いて行っていいものかと一瞬足を止める。
「……ねねちゃん! AZKiさんは私が見てるから、ラミちゃんを追って!」
「……! 了解、任せた!」
ぼたんの言葉に甘え、ねねは両足に光を収束させる。
かなたは間違いなくholoXを全滅させたという百鬼あやめの下に向かったのだろう。それは沙花叉クロヱの死を確認しに行ったのか、それとも負傷しているらしい百鬼あやめへ勝負を挑みに行ったのかは不明だが。
「……! ラミィ! 待て!」
海の上に氷の橋ができている。
その先には空を飛ぶかなたを追うラミィの背が見えた。
ねねは両足に力を込めて一気にラミィとの距離を詰めると、走っているラミィの左手を掴む。
「……っ!? 何!?」
「かなたさんを止めるんでしょ! だったらねねも一緒に行く! そんだけ!」
ラミィの手を掴むとさらに足に収束する光を強めるねね。ラミィを引っ張りながら海に向かって走り出すねねに、ラミィは慌ててまだ氷の橋ができていない海面を凍らせていく。
「ちょ、速いって! 氷が追い付かない!」
「知らん! 海に落ちたくなかったら意地でも凍らせていけ!」
「それで落ちるのはねねも一緒だけどね!?」
思わず出た半年以上ぶりの素でのやり取りにねねとラミィの間で一瞬気まずい空気が流れる。
「……いた。一気に飛ぶよ。頼んだからね」
ラミィの返事を待たずに、ねねは空を飛ぶかなたへ向かって思い切り跳躍する。
ラミィなら意図を汲み取ってくれると信じての跳躍に見事応える。かなたを飛び越えるように跳躍したねねとラミィの足元には、ちょうどかなたの正面に着地できるように海面から伸びた氷の足場が作られていた。
「……ねねちゃん、どいて」
「何をしに行くのかを教えてくれたら、考えます」
「……そこの彼女が言っていたことを確認しに行くだけだよ」
「holoXとどういう関係か知らないけど、その目で彼女達の死を確認して、それでどうするの?」
ラミィの問いにかなたは顔を俯かせる。
どこから出しているのかという低い声で呟く。
「……その時の自分の感情に任せるさ」
そう答えるかなたの右翼が根元の方から徐々に黒く染まっていくのが見える。片手で顔を覆い、指の隙間からねね達を睨みつける。
「……悪いけど、それなら貴女をここで止めさせてもらう。貴女に死なれたらラミィが困る」
「かなたさん、それに関してはねねも同意かな」
完全に黒翼と変異した右翼がかなたの身体を覆い隠す。
左翼はまだ天使然とした白翼のままだが、逆にその左右のモノトーンが不気味さを増していた。
ねねとラミィは氷の足場の上で腰を落として構える。
「いいから、そこをどけ……!」
綺麗な青色をしていた両目が右目のみ紅く輝き、オッドアイとなったかなたが、白と黒の翼を広げながら2人へ突撃を仕掛けた。