ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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雷雨の中に陰る思い

「かなたん!! もうやめて! これ以上、家族が傷つくとこなんて見たくないよ!!」

 

 ラミィが作った氷の橋を走ってきたのか、息を切らしながらAZKiが大声を上げた。

 この声には上空の氷の足場にいたねねも、今まさに突撃しようとしていたあやめも、そしてそれに対抗しようとしていたかなたも目を見開いて動きを止めた。

 

「あず、ちゃん……?」

 

「AZKiさん! 危ないから離れて!」

 

 突然現れたAZKiにねねが叫ぶ。

 しかし、AZKiは聞く耳を持たず、なおもかなたに語りかける。

 

「かなたんは天使失格なんかじゃない! あのままただ死ぬだけだったAZKiの手を取ってくれて、今日まで大事に愛情持って育ててくれて! そんなかなたんが、天使失格なわけない! 誰が何と言おうと、かなたんは立派な天使で、AZKiのかけがえのない家族なんだよ! あの日、沙花叉がこの都市を出て行ったあの日からずっとかなたんが後悔してること知ってる! ずっと傷ついてるの知ってる! だから、だから……! 大事な家族が、これ以上傷つくのは見たくない! だって、かなたんはもう十分すぎるほど傷ついたじゃない……! これ以上、かなたんが全部背負う必要ないじゃない!」

 

 AZKiの言葉にかなたはズルっと肩を落として、どこか調子が狂ったような微妙な表情をしながらAZKiを見つめていた。口元は何か言いたげにムニムニと動かし、翼は徐々に漆黒から綺麗な白に戻っていく。

 

「……あずちゃん。あずちゃんには敵わないよ……」

 

 決死の覚悟を決めてあやめに戦いを挑もうと思った矢先に今の言葉だ。

 これを本気の本音で正面から言ってくるのだから、やる気が削がれないわけがない。

 

 かなたの戦意が削がれたことであやめも纏っていたオーラを霧散させる。そんなあやめが一瞬見せた安堵の表情を、ねねは見逃さなかった。やはりholoXとの戦闘でかなり消耗していたのだろう。内心では彼女も今の状態でかなたと本気の戦闘は避けたかったようだ。

 

 AZKiの後ろからぼたんが氷の橋をこちらに向かって走ってくるのが見える。

 AZKiの事を見ていていたはずだったが、隙をついてAZKiが飛び出してしまったのだろう。獣人のぼたんを出し抜くとは彼女も意外とやり手かもしれない。

 

 何はともあれ、かなたの戦意が削がれたことであやめも戦う意思を失くしている。

 ねねもその2人の様子を確認し、フッと肩の力を抜く。

 

 

 

 ──そこで、何かが全員の意識から完全に外れていたことに気が付いた。

 

 

 

 AZKiに駆け寄るぼたんが突然姿を消す。

 氷の橋の横に広がる海面から突如として伸びる氷の柱がぼたんの身体を吹き飛ばした。

 

「ししろん!!」

「あずちゃん! そこから離れ──」

 

 氷の足場から飛び降りようとするねねも、AZKiの下へ駈け出そうとするかなたもその動きを止める。

 2人に向けて、制止するように右手を突き出す人物が、もう片方の手で氷の剣を持ち、それをAZKiの首元にあてがっていたからだ。

 

「誰も動くな。感動的な家族ごっこはそこまでにしてもらう」

 

 かなたに吹き飛ばされて海に落ちていたはずのラミィが海の中からぼたんを吹き飛ばし、AZKiの背後を取って場を支配した。

 

「天音かなた、最後にもう一度だけ言う。ラミィと一緒に来てもらう。それが聞けないのなら、今この場でこの子を殺す」

 

 ラミィが持つ氷の剣がAZKiの首筋を軽く擦り、そこから血がツーっと流れる。

 

「……おい、お前は何か僕に頼みごとがあったんじゃなかったか? それが人にものを頼む態度か?」

 

「頼み? 一体いつラミィが貴女に頼みがあると言った? ラミィがしたのは、貴女にやってもらいたいことがあるからついてこいという命令だけだが?」

 

 海水で濡れた前髪をかき上げながらラミィはかなたを半眼で見つめる。

 

「安心してほしい。人質としてこの子も一緒に連れて行くし、貴女が言うことを聞くのであれば、この子と一緒に開放もする。ただ、言うことを聞かないのなら、容赦はしない。だからししろん。こっちに構えてるその銃を下ろして。ねねは……今すぐその光をしまって」

 

 ラミィに吹き飛ばされて30メートル程離れた海面から顔半分だけ出して銃口を向けていたぼたんと、氷の足場から見えないように両足に光の力を溜めていたねねへ視線も向けずに忠告をするラミィ。2人が取る行動などお見通しだと言いたげなラミィに心の中で舌打ちをしながらその忠告に従うねねとぼたん。

 

 全員がかなたの答えを待つ形で静まり返る。

 当の本人は怒りで握った拳を震わせるが、現状を打破する方法が思いつかずラミィを睨みつけることしかできない。

 

 そんなかなたの怒りが天に届いたのか、小雨が降っていた雨空から雷が鳴りだす。

 ゴロゴロと雷が鳴り響く中、口を開いたのは意外な人物だった。

 

「今いいとこなのにー、今すぐ行かないといけないの? 父上」

 

 その声はこの緊迫した雰囲気の中ではあまりにも気の抜けた声だった。

 

「心配しなくても、ラプラス・ダークネスと鷹嶺ルイはちゃんと排除したよ。え? 何それ。ちぇー、面倒くさいなぁ」

 

 ねね達には見えない聞こえない何かと話をするあやめ。

 だが、あやめが話している内容から誰と話しているのかは明白だった。

 

 ──この星の全ての生物の祖。

 

 

「ラミィちゃん、悪いけど余は先に行くね。ちょっとややこしいことが起きてるみたいで、招集がかかっちゃった」

 

「……別に初めからお前と一緒に行動しているつもりはない」

 

「くっくっく、それもそうか」

 

 何がおかしいのか楽しげに肩を揺らすと、あやめは一瞬だけねねに視線を向けると髪につけた鈴をシャランと鳴らして煙のように姿を消した。

 

「ラミィ、これで3対1だ。悪いことは言わないから、AZKiさんから離れて」

 

「……3対1だろうが形勢は変わってないけど?」

 

「……あっそ、どうなっても知らないから」

 

「……?」

 

 ねねの意味深な台詞に首を傾げるラミィ。

 先程、ラミィがAZKiの背後を取り、その状況を救おうと両足に光の力を溜めた瞬間、氷の橋の下、つまり今AZKiとラミィが立っている場所の海底から、見覚えのある光が見えたことに一番高い位置にいるねねだけが気付いていた。

 

 一瞬、瞬きよりも短い時間だけ、ねねは最大出力で全身に光の纏わせる。

 フラッシュのように眩しい光がその場にいたねね以外の全員を一瞬だけ怯ませる。

 

「何のつもりで……!」

 

 しかしねねの狙いは目くらましではなく。

 

「……ッ!」

 

「かなたさん、AZKiさんを! 197.235.505!」

 

「……!」

 

 ラミィはAZKiを抱えてその場から飛びのくように海に飛び込む。

 次の瞬間、先程までラミィ達が立っていた氷の橋が、海底から吹き上がった爆風によって吹き飛んだ。

 

 その隙にねねの言葉に反応して翼を広げたかなたが一瞬でラミィとの距離を詰めると、その腕からAZKiを奪い取ると、呪文を口ずさむ。

 

「転移魔法……! 待て!!」

 

 AZKiを奪われたラミィは瞬時に海面に新たな足場を作りかなたに手を伸ばすが、その手は空を切る。

 

「…………」

 

 ラミィはその伸ばした手をだらんと下ろすと、上空にある氷の足場から吹き飛んで海に浮かぶ氷の塊の上に飛び降りたねねに鋭い視線を向ける。

 

「……何をした?」

 

「前、ギャングタウン地方でロボ子さんが暴発した時、ねねの光の力と共鳴したことがあったでしょ。さっき海の底からその時と同じ感覚を感じた。holoXがいたんだからもしかしたらロボ子さんの力を使っていたんじゃないかと思って。一瞬だけ力を暴走させて、海底にあったその何かと共鳴させて爆発させた」

 

「ギャンブル過ぎるでしょ。もしラミィがあの子と一緒に回避してなかったら、あの子死んでたよ」

 

「いや、仮にラミィがAZKiさんを置いて回避してたとしても、かなたさんが間に合ってたよ。それに、ラミィならAZKiさんごと回避すると思ったし」

 

「…………」

 

 ざぱっと水音を立てながら、ぼたんも海からねねのすぐ近くにある氷の橋に上がってきた。

 

「さっき言ってた数字は座標?」

 

「そ。アキロゼさんから聞いてたエルフの里の座標」

 

「……そう」

 

 ラミィはハァと大きく溜息をつく。

 わざわざこんなところまで来たのに結局ねね達に先を越され、とんだ無駄足だ。

 ラミィは雨粒を全身に受けながら、目の前のねねとぼたんに視線を向ける。

 そして今度は気付かれない程度に小さく溜息を零した。

 

「ようやく3人だけになれたね。ラミィ、お前には聞かなきゃならないことが山ほどあるぞ」

 

「ラミィは別に話すようなことは何もない」

 

 ラミィの突き放すような物言いに、ねねは苛立ちを隠そうともせず全身に光を纏わせる。

 この7か月間、溜まりに溜まったものが腹の底から溢れ出すのを感じる。

 

「話すことは何もないだと? 常闇トワをねね達のところに差し向けたことも、フレアさんの記憶を奪ったことも……、突然ねね達の前から姿を消したことも……! まだ何一つ説明してもらってないぞ!!」

 

「何度も同じことを言わせないで。それをねね達に説明する義理はない」

 

 もし視線が可視化できるとしたら、間違いなく2人の間には激しい火花が散っていたことだろう。

 一瞬俯いたねねが腰を落とすと足場にしていた氷の塊にヒビが入る。ねねの戦闘態勢にラミィも複数の氷柱を身体の周りに出現させる。

 

「……なら、力ずくで喋らす」

 

「……やってみろ」

 

 雷鳴が轟くと同時に、両者が飛び出した。

 

 

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