ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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敵対のハーフエルフ

 吐く息は白く、袖の無い腕には鳥肌が立っている。

 

 しかし、そんな寒さはお構い無しに、光を全身に纏ったねねは足場の氷を爆破させる勢いでラミィに肉薄する。

 

 脅威的なスピードではあるがあまりにも直線的なねねの動きは読みやすく、ラミィはその動きを読んでねねが動き出したと同時に自分の正面に分厚い氷の障壁を作り出す。

 

 何も無い場所から魔法で氷を生み出すことのできるラミィだが、氷の原料となる水がある場所ではその生成速度は数倍まで跳ね上がる。いわばその原料が無限にあるこの場所では、地の利は完全にラミィにある。

 

 ねねは一瞬で自分とラミィの間に作り出された氷の障壁に拳を叩き込む。

 

 厚さ30センチはある氷の壁を、踏ん張りの効かない空中で放った拳の一振で粉々に破壊するねね。

 しかし、今度は破壊され粉々になった氷の障壁のひとつひとつがつらら状に形を変えると、足場がなく空中で身動きの取れないねねにその鋭い先端を向ける。

 

 回避出来ないと悟ったねねは顔の前で腕をクロスにし、できるだけ身体を小さく丸めるが、無数のつららがねねの身体に切り傷をつけていく。

 

(ダメだ、光の力を纏ったねねちゃんのスピード、そして破壊力は計り知れないものが確かにある。だけど、その動き全てがラミちゃんに読まれてる……!)

 

 ラミィが作り出した氷の橋の上からスナイパーライフルを構えて隙を窺うぼたん。圧倒的な力を纏い、その力量差はねねに軍配が上がるにも関わらず、戦況は誰が見てもラミィに傾いている。

 

 それこそ、ねねのことを良く知る者の戦い方だ。

 

 無数のつららに集中砲火を浴びたねねは、全身に切り傷を負いながら海に落ちる。

 

 3人の中で海上でも自由に動き回れるのは足場を生成できるラミィのみ。特に接近戦の術しか持たないねねはとことん不利な戦場だ。

 

 しかし、ねねが暴れているおかげで、ラミィの意識はそちらばかりにいっている。

 

「──今がチャンス。ししろんなら、そう考えるよね?」

 

「……っ!?」

 

 氷の橋の上で匍匐状態でスコープを覗いていたぼたんだが、その声が聞こえた瞬間立ち上がり、転がるようにしてその場から移動する。

 

 その数瞬後、先端が鋭く尖った氷の柱が橋の下から勢いよく飛び出し、先程までぼたんがいた氷を粉々にしながら突き上げた。

 

 連続して氷の橋が破壊されていくのを背中に感じながらぼたんは橋の上をアトランティスの方角へ駆け出す。

 

(……っ、まずい、このままだと橋が壊され続けて距離を詰められなくなる。私はライフルがあるけど、ねねちゃんの足場が……)

 

 この2人とラミィとでは明らかに相性が悪すぎる。それも普通の平地ならまだしも、水が無限にあり、自然の足場がない場所では尚更だ。

 

 ぼたんを近付かせないようにするためか、次々とかなたを追いかけるために作った氷の橋を壊していくラミィ。その鋭利な氷の柱に追いかけられるように戦場から遠ざけられているぼたんは、このままではアトランティスまで逆戻りになってしまうと考え、足を止めて方向転換すると、なおも海底から突き上がってくる氷の柱にタイミングを合わせて器用に飛び移った。

 

 確かに平らな橋は破壊された。

 だが、獣人であるぼたんからしてみれば、先端が鋭利に尖っていて隆起の激しい氷の足場でも、足場であることには違いない。なんなら、平坦の橋よりも死角を多く作れるこちらの方が、ラミィの隙を窺いやすくもある。

 

(おまるん程じゃないにせよ、私もいっぱしの獣人だ。これくらいの足場の悪さはどってことない……)

 

 ただ疑問なのは、それをラミィも分かっているはずだということ。

 まだねねと出会う前、2人で旅をしていた時に何度もぼたんの獣人らしい動きは見せてきた。それを知っているラミィなら、平らな橋を壊した後、この剣山のような氷の柱を残しておく必要性はない。結局、先程よりも隆起は激しいがが死角を多く作る足場を作り直しただけにすぎない。

 

(いや、今までのラミちゃんの魔法を思い出せ。確かラミちゃんが作り出した氷は全て、自然に溶けていたはずだ。何もない場所から氷を生み出すことはできるし、その形状を変えることもできるけど、生み出した氷の体積を自分の意思でマイナスにすることはできないんだ)

 

 では、何故ラミィはわざわざぼたんの様子がよく分かる平らな氷の橋を破壊してまで、別の形、しかも死角が多く出来ることからぼたんが有利になるような足場を作り直したのか。

 

 ぼたんは氷の柱に身を隠すようにラミィの死角に入り、考える。

 そして、1つの結論を出すと、チラリと一瞬だけアトランティスに視線を向ける。

 

「…………汲み取れってか」

 

 ぼたんは1つ小さく溜息をつく。

 だが、すぐに意味深な笑みを浮かべると、甘いなぁと呟く。

 

「あの子がそんなことを汲めるわけないでしょ。そんなのお構いなしに、ラミちゃんの希望通りになるよ、どうせ」

 

 誰にも聞こえないぼたんの独り言が呟かれた直後、海底からの大きな揺れを感知する。

 海面全体に波紋が生じ、海底火山の噴火でも起きたのではと錯覚させるほどの爆発音が遅れて聞こえてくる。

 

 その正体にいち早く気が付いたラミィとぼたんは、ラミィが立つ氷の足場周辺の海面に意識を向ける。

 

 このタイミング、そんな芸当ができる人間は1人しかいない。

 

 海底から爆発音が聞こえた数瞬後、1つの光が海底から物凄い勢いで上がってくるのを目視する。

 しかし、ラミィがそれを認識してからその光が海面から現れ顔を摑まれるまでの時間がコンマ数秒となく、ラミィが可能な反応速度を遥かに超えたソレは、その勢いのままラミィをアトランティスの対岸の丘に叩きつけた。

 

「ガハッ……!!」

 

 あまりの一瞬の出来事に何をされたのか理解が追い付かないラミィ。

 だが、誰にやられたのかは見えなくても分かる。

 

(海底を蹴り上げて、対岸まで一足飛びで飛び跳ねたのか!?)

 

 ラミィは頭を地面に強く打ち、飛びかける意識を何とか持ちこたえながらゆっくりと立ち上がると、目の前に着地したねねに睨みつけるような視線を向ける。ねねは頭から海水で濡れ、全身のいたるところある切り傷から真っ赤な血が流れていた。

 

「……何で、治してないのさ、その傷」

 

「別に、もったいないと思っただけだよ。そんなことより、いい加減目を覚ました?」

 

「……なるほど、その光の力も使う効果によって消耗量が違うんだ。それは知らなかった」

 

 ねねはもったいないと言っているが、明らかに肩で息をしている様子を見ると、もしかしたらもう回復に回すだけの力が残っていないのかもしれない。

 ねねの光の力の弱点といえば何と言っても持久力だ。それはさくらみことの特訓の際に明らかになっており、それをカバーするべく手足などの部分的に力を纏わせるという戦闘スタイルを取っていた。だが、今日1日色々あったせいか、都度都度全身に光を纏わせる場面が多く見られた。その分かなり消耗しているのだろう。現にラミィと対峙してからはずっと全身に光を纏わせている状態だ。

 

 ねねの問いに答えようとしないラミィにねねは青筋を浮かべる。

 

「いい加減……目を覚ましたかって聞いてんだよ!」

 

「うるさいなぁ」

 

 鬱陶しそうに呟くラミィは複数のつららを生み出し、いつでもねねに向けて撃てるように構える。

 しかし、それを見たねねは逆に全身に纏っていた光の力を収めていく。

 

「……どういうつもり? その力無しじゃラミィは殺せないけど?」

 

「そりゃ、ラミィを殺す気なんかないからね!?」

 

 正直、もう光の力を纏わせておく余力がなくなっていた。

 先程息もできず、身体も上手く動かない海底で最大出力を出した時に力を使い切ってしまった。

 

 だが、ここまでくれば、アトランティスに被害が及ぶことはないだろう。

 アトランティスの住人でも何でもないこの3人のいざこざに、彼らを巻き込むわけにはいかない。

 

「そう。でも、ラミィはあなた達を殺す気でこの場に立っているけどね」

 

 ラミィの周りに浮かぶつららの鋭さが、その言葉の信憑性を裏付けていた。

 

 尾丸ポルカは、ラミィが差し向けた常闇トワの魔法によって、死よりも辛い呪いに掛かっている。

 獅白ぼたんは、ラミィがいなくなり、そしてポルカがやられてから、より一層笑わなくなった。

 

「ラミィ……!」

 

 どこで行き違いが起こってしまったのか。

 もう、4人で馬鹿やって笑い合っていたあの頃には戻れないのだろうか。

 一体何がラミィを変えてしまったのか。

 

 何も分からない。ヒントが少なすぎる。

 ただ、その原因はねね達にある気がしていた。少なくともきっかけは間違いなくあの星詠みからだ。

 

 ねねはそれを暴くまでは殺されるわけにはいかない。

 もちろん、ラミィを殺す気も毛頭ない。

 

 2人が話している間に移動していたのか、ねねの背後からぼたんが現れる。

 

「ねねちゃん、ここは一旦引こう」

 

 ここまで一緒にラミィと対峙していたぼたんが、視線は前方のラミィに向けたまま小声でねねに話しかける。

 

 ねねの様子を見て既に余力がないことを見抜いたのだろう。それとは逆に、ラミィの方は先程の脳震盪は残っていそうだが、魔力にはまだまだ余裕がありそうだった。ここまでかなりの大技を使っていたように思えるが、流石はエルフといったところだろう。魔力量がケタ違いだ。

 

「このままやってもジリ貧だよ。一度体勢を立て直そう」

 

「……っ」

 

 それはねねも感じ取っていた。

 地の利もあったかもしれないが、まさか敵対する雪花ラミィがこれほどまでに手ごわいとは思っていなかった。

 

「あれ? あれだけ言っておきながら、まさか逃げるの?」

 

「ラミィ……!」

 

「そんなに煽んないでよラミちゃん。ねねちゃんは煽り耐性低いんだから。大丈夫、近いうちにまた会いに行くから」

 

 ねねはラミィの攻撃でできた切り傷を抑えながらラミィを睨みつける。

 

「そんな怖い顔で睨まないでよ。大丈夫だって、2人も直におまるんと同じところに送ってあげるから」

 

「ラミィ!!!」

 

 ポルカがどのような状態でいるかを知っているはずのラミィがそれを口にしたことで、ねねは怒りを隠そうともせずラミィに殴りかかろうとする。光の力を使えない状態で敵うはずのないねねを、ぼたんが羽交い絞めにして何とか止める。

 

 流石に、今の言葉は見過ごせない。

 必死に止めるぼたんを振りほどかんばかりに全身に力を込めてラミィに大声を上げる。

 

「ラミィ! お前は絶対に一発殴る! 足りないならもっと殴る!! そんでもって、絶対に改心させる!! もう流石のねねも怒ったかんな!!! 次会う時には顔腫らす覚悟しとけよ!! この……っ、大馬鹿野郎が!!」

 

 怒りに身を任せても、もう光の力を出せないねねはぼたんに引きずられるようにして撤退する。

 2人が退く間、ラミィが2人を追撃してくるようなことはなかった。

 

 

 

 遠ざかるねね達を冷たい表情でただ見つめる彼女の心境を、この時のねねとぼたんは知る由もなかった。

 

 

 

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