「座長! 座長ぉー!」
「……ん、あれ……? ハコス?」
アキロゼの転移魔法でエルフの里に戻った一同はすぐにポルカがいる病室に向かった。
ねねとぼたんも約4か月ぶりにポルカに会う。最後に見た時よりも明らかに痩せ細ってはいるが、ポルカが目を覚ましたことによる安堵が表情に現れる。
「ま、4か月寝たきりだったんだ。栄養失調なのは仕方がない。筋肉も相当落ちてるけど、身体的には命に関わるような状態ではないから、いっぱい食事を摂ってゆっくりしていればいずれ元通りに戻れるよ」
ポルカを夢見の魔法から覚まさせたかなたが、ポルカの額に手を当てながら言う。
「かなたさん、ありがとうございました」
「別に。それより、あの後どうなったのさ」
ねねのお礼にそっぽを向きながら応え、話を変えるかなた。
確かに、現場にいたかなたとAZKi、そして、トワとラミィが繋がっていることを知らないポルカにも、今回の一連の説明をする必要があるだろう。
ねねとぼたんから、ミオ達にしたようにこれまでの流れが説明される。
「……ふぅん。確かに、エルフが精霊を殺して、その後にボクにやって欲しいことがあるなんて言ってきたってことは、まず間違いなく精霊の加護を解呪してほしいんだろうね」
「そもそも、かなたんの魔法で精霊の加護って消せるわけ? 一応呪いじゃなくて加護なわけだけど」
アキロゼの言葉に一同は確かにとかなたに視線を集める。
「その加護ってのはエルフが勝手につけただけ。それがバフになるのかデバフになるのかは本人次第。ボクの解呪魔法ならなんら問題はないよ。いや、そもそも解呪魔法って名前が勘違いを呼んでるのかな」
解呪魔法と聞くと呪いしか解くことができないというイメージになってしまいがちだが、かなたが使用する解呪魔法はいわゆる外付けされた特殊効果を解くことができる魔法だ。今となってはエルフは生まれた時から精霊の加護をその身に宿しているが、元を正せば長寿というのも自殺ができない身体というのもエルフ族にはなかった特殊効果である。
「それにしても厄介だね。死ぬ覚悟をしたエルフは言ってしまえば最強だからね。2人ともよくあのエルフから無事に逃げて戻って来れたよ」
「……? どういう意味ですか?」
「精霊の加護はエルフ自身でコントロールすることは不可能だからね。あの加護が発動する条件は死への恐怖に死ぬ覚悟が上回った時だ。それを己で自由にコントロールできる生物はこの世には存在しない」
つまり、その覚悟が上回っている間は自殺はもちろん、他殺も不可能だという。
以前、アキロゼから精霊の加護が発動したのは、戦場で本気で自分の死を覚悟した瞬間だったと聞いた。
その時は一瞬便利な加護だと思ったが、自分で死ぬ覚悟と死への恐怖の天秤をコントロールすることができない以上、そんな基準が曖昧な加護に頼ることは出来ない。
「それが、自殺のできない身体にする加護の発動条件……ですか」
「そ。本気で死にたい時に限って、自分で死ぬことも、誰かに殺してもらうこともできない。それをバフと取るか、デバフと取るか……ね、もう何が加護で何が呪いかなんて、わかりゃしないでしょ」
少なくとも、ラミィはそれを呪いと取った。
だから、それを解呪するためにかなたの下を尋ねたのだ。
「……ねね、ししろ……2人は、これから、どうするの?」
ポルカがぐったりと天井を見つめながら小さな声で呟く。
ねねとぼたんは一瞬互いに目を見合わせると、小さく頷いてベッドの縁まで移動する。
「もちろん、ラミィを探す。自殺しようとしている仲間を見捨てるわけがない」
「まぁ救いなのはラミちゃんが自殺のできない身体だってことだけど、かなたさん以外にも解呪魔法が使える人がいるかもしれない。だからゆっくりしてる暇もないかな」
ぼたんの言う通り、解呪魔法を使うことのできる者がこの世界にかなた以外存在しないというのも考えづらい。
「確かにその通りだけどさ、お2人さん。それにはラミィが自殺しようとしている根本的な理由から解消する必要があるよ」
アキロゼの言う通り、ラミィを見つけてラミィに解呪魔法を掛けさせないようにするだけでは根本的な解決にはならない。
「それに、もう1つ。フブキちゃんが言っていた通り、あの子は君達を殺す気でいると言っていたにも関わらず最後は見逃した。かと思えば、夢見の魔法に閉じ込めようともしていた。この理由も突き止める必要もあるよね」
「でもそれはアレなんじゃない? 自分が自殺しようとしているってバレたら止めに来ちゃうから、それまでは静かにしといてもらいたいけど、殺すつもりはないとか」
かなたの言葉に一同なるほどと頷く。
確かにラミィが自殺をしようとしていると聞いたら、ねね達は黙っていないだろう。
「何にせよ、まずはラミィを探してからです。そこでちゃんとラミィと話す」
「だね」
ねねとぼたんが互いに頷き会うのを見て、ポルカは痩せ細った腕を支えにゆっくりと身体を起こしていく。
「……そっか、なら、ポルカも一緒に、行かなきゃね」
「ええ!? いや、おまるんはまだ寝てないと──」
言い終える前にかなたがポルカの額を指先で軽く押す。
「あうっ」
全く力を加えていない小突きにも耐えきれずベッドに倒れ込むポルカ。そんなポルカを見て、かなたは呆れたように溜息をつく。
「しばらくは絶対安静。今は食っちゃ寝してなさい。ある程度肉が付いたらリハビリ開始」
ポルカの場合、怪我をして入院していたなどとは訳が違う。本当に意識がなく、寝たきりで食事も摂っていなかった4ヶ月だ。すぐに以前のように動けるはずがない。
「で、でも……」
「大丈夫だよおまるん。あのアホはねね達が連れ戻してくるから。おまるんはそれまでにある程度動けるようになっておいて。じゃないと、お仕置のお尻ペンペンもできないでしょ」
ねねの軽口にぼたんとポルカが軽く微笑む。
じゃあ、任せたよとポルカは頭の下に手を組んで気楽に構える。ねね達なら大丈夫だと信頼しているのだろう。
もう少し話をさせて欲しいと手を挙げたハコスを残して、他のメンバーは病室を出た。ハコス達座員と別れてから1年近く経っているのだから積もる話もあるだろう。
病室から廊下に出ると、不意にかなたがねねの袖を神妙な面持ちで掴んできた。
「……? 何ですか?」
「皆が来たから気丈に振舞っていたけど、目を覚ましてすぐの彼女は到底見せられるものじゃなかったよ。ボクとあずちゃんは初めましてだから分かるけど、一緒にいたアキロゼにも怯えきっていた。さっき、命に別状は無いと伝えたけど、身体以上にメンタル面でのリハビリに時間がかかる。きっと夜になっても怖くて眠ることはできないと思う。できる限り誰かがそばにいるようにしておくよ」
「そんなに……分かりました。おまるんをお願いします」
夢の内容をポルカから聞く、なんて残酷なことはできない。嫌でも思い出させることになる。ねねもぼたんもアキロゼも一度はあの魔法に掛かり、今でもその内容はハッキリと覚えている。夢だから起きたら忘れる、なんて都合のいい魔法ではない。
ポルカが全快するまではまだまだ時間がかかる。もしかしたらその恐怖心は死ぬまで付き纏い、忘れることは出来ないかもしれない。
「……やっぱり、ちゃんと話を聞かなきゃだね」
その小さな呟きは目の前にいたかなたにも届かず、かなたは首を傾げている。そんなかなたに何でもないと小さく首を横に振るとかなた、AZKi、アキロゼはフレアの様子も見に行くと別の病室に向かった。
廊下に残されたねね、ぼたん、そしてミオとフブキ。
偶然にもここに残った、人間よりも聴力に優れた獣人3人にはしっかりとねねの呟きが聞こえていた。
ぼたんは何も言わずに突然ねねと肩を組む。ぼたんの珍しい行動に驚いたねねは思わず近くに来たぼたんの顔を覗き込むが、ぼたんの視線はねねではなく真っ直ぐ前を向いていた。その先にいる何かを見つめているのだろう。
「ねねち、ぼたん。ウチらもラミィ捜索を本格的に手伝うよ。ウチらとそっちの2組で手分けして探そう。ウチらは顔もそれなりに広いし、解呪魔法が使える人が居ないかどうか探してみる。そこにラミィがいる可能性もあるから」
「ミオさん、助かります」
「あ、そうそう。これも持っててよ」
そう言ってフブキが懐から1枚の御札を取り出す。
「何ですか? これ」
「通信札。これを持ってればどれだけ離れてても通話することができるんだよ」
試しにともう1枚取り出した札にフブキがもしもーしと話しかけると、ねねが手に持った札からフブキの声が聞こえてきた。
「すごい! これがあれば何時でも情報交換ができますね」
「何か手掛かりが見つかればすぐに連絡すること」
4人は頷き合うと、ラミィ捜索の準備に取り掛かった。