ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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あの村か

「その情報は確か?」

 

 とある街で知り合った人間の少女と向かい合わせにテーブルで食事をしながら、ラミィは片眉を吊り上げて問う。

 

「ええ。彼女は私の友人だもの。以前本人から聞いたわ」

 

 ラミィはできるたげ自分の目の前に置かれたパスタにのみ視線を向け、反対側に置かれている蜘蛛の姿焼きが視界に入らないよう努めながら会話と食事を続ける。

 

「確かに"解呪の魔法薬"って言ったんだね?」

 

「ええ。それにしても、どうしてそんな事を聞くの? 誰か知り合いが呪いに掛かったとか?」

 

「……まぁ、そんなところ。でも助かったよ。ありがとう赤井さん」

 

 この街で出会った金髪の少女──赤井はあとに頭を下げる。話を聞いていると、彼女の友人に薬屋がおり、その薬屋が解呪の魔法薬を持っているらしい。

 

「どういたしまして。彼女は確か、今はシケ村って所にお店を構えてるんじゃなかったかしら。しけた名前の村よね」

 

「え! シケ村?」

 

 聞き覚えのある村の名前にラミィがバッと顔を上げると、ちょうどはあとが蜘蛛を齧る瞬間を見てしまい血の気が引いていく。

 一瞬手放そうとした意識を何とか保ち、ラミィはテーブルに肘をついて何とか身体を支えながら目線を逸らす。

 

「うん? 知ってるの?」

 

「ま、まぁ、以前少しだけその村にいたことがあって……ていうか、シケ村の薬屋って、もしかしてあの羊飼いさん? 金髪で羊の獣人の」

 

「あら、その通りだわ。本当に知り合いだったのね」

 

 それは初めてねねと出会った時に大怪我をしていたねねが数日入院した病院のある村。

 ラミィはそこの村にある薬屋の羊飼いからいくつかの薬を購入していた。まさかあの時の彼女が解呪の魔法薬を持っているとは。

 

「彼女の名前は角巻わため。あなたの言うように薬屋でもあり、羊飼いでもあるわ。会ったことがあるなら話が早いわね。わための顔も知ってるんでしょ。何なら私の名前を出してもいいわ」

 

「そっか……あの時の羊飼いさんか。うん、ちょっと尋ねてみるよ」

 

 そうしなそうしなと言いながら、最後の一口で蜘蛛の姿焼きを食べきるはあと。

 ラミィは申し訳ないと思いながらも、食欲が湧かず目の前のパスタを半分以上残して席を立った。

 

「ああ、そうそう。わために会うならこれを彼女に渡してもらえないかな?」

 

 はあとから封のされた小袋を渡される。

 奇食好きの彼女から渡されたブツに息を飲むラミィ。

 

「こ、これは?」

 

「いや、そんな変な物じゃないわよ。数か月前に彼女から頼まれ事をしていて、それを渡すだけ。それを渡してもらえば私の知り合いだってすぐに分かるから」

 

 ただ、彼女に渡す前に絶対に開かないでね。そんな妙に気になる捨て台詞吐いて、はあとは手を振りながらラミィの前を去っていった。

 

「ふぅ……シケ村か。久しぶりだな」

 

 ラミィははあとから受け取った小袋をしまいながら1年近く前のあの日の事を思い出し、そして、その顔からは表情が消える。

 

 彼女との旅はあの村から始まった。

 いわば始まりの地とも言えるあの場所へ、誰よりも覚悟を決めた雪花ラミィは歩を進めた。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

 シャランと銀色の髪に着けられた髪飾りの鈴を鳴らしながら、巨大な鳥居をくぐる百鬼あやめ。

 あくまで人間サイズのあやめを10人縦に積んでもなお届かない高さの鳥居はこの奥にいる者のために作られた鳥居だ。

 

 奥にはこれまた通常の5倍はある神社のような木材建築があり、あやめはその建物の前で立ち止まると、閉じられた襖の向こう側に声を掛ける。

 

「戻ったぞ。父上」

 

 アトランティスでの戦いの後、緊急招集をかけられたあやめはそのままの格好で自分の家に戻ってきていた。

 真っ暗だった襖の奥に明かりが灯り、1人の影を浮かび上がらせる。

 その影は肘を付きながら横になり、恐らく口に咥えているキセルからは煙が上がっている。

 

『戻ったかあやめ。先程も伝えたが、少々厄介事が起きそうだ。お前にも出てもらいたい』

 

 あやめが父上と呼ぶその影は確かに人の形はしているものの、明らかに普通の人には存在しない影が額から伸びており、身体のサイズそのものも、ポルカの相棒であるレックスと並んでも遜色ない大きさをしていた。

 

「ラプラス・ダークネスと鷹嶺ルイを排除したばかりだっていうのに、人使いの荒い……と言いたいところだけど、珍しいね。父上がそこまではっきりと厄介事って言うなんて。まさか、あのクソ神がまた動き出したとか?」

 

 この星の全ての生物の祖であるあやめの父──鬼神は既に最前線からは退いており、均衡者の役割は娘であるあやめに任せっきりというのが最近の常だ。

 

 そんな鬼神があやめに対して緊急招集を掛けること自体、ここ数百年では一度もなかったことだ。

 

『いいや、奴はもう既にこの星に対しては完全に静観を決め込んでいる。今回は奴ではない……が、我の危険予知がかつての星天戦争以上のものを観測した』

 

「星天戦争以上? おいおい、それってこの星の危機じゃないか。何が起きるんだ?」

 

『分からん。何かがこの星に迫ってきていることは分かるのだが、それ以上のことが何も分からん。こんなのは初めてだ』

 

「余は何をすればいい?」

 

 ただ事ではなさげな鬼神の様子に、あやめも真剣な表情になる。

 

『……あやめ、お前相当消耗しているな?』

 

「……あ?」

 

 唐突な話題転換に拍子抜けのような声を漏らす。

 いきなり何の話だ? ボケたかこのジジイ? と首を傾げると、襖の向こうからカツンとキセルの灰を落とす音が聞こえた。

 

 それが合図だったのか、あやめの周りに10人ほどの黒ずくめの者達がいきなり姿を現した。

 

「……! 何の真似だ?」

 

『恐らくすぐに休んでいる暇はなくなる。3日でその傷を癒せ。話はその後にする』

 

「おいおい。緊急招集だったんだろ? 3日は休み過ぎだろ」

 

『逆だ。3日が限度だ。お前には万全の状態で出てもらわないと困るからな。3日で完全な状態にしろ』

 

 そう言い残すと、鬼神がいた部屋の灯りが消え、それに伴い鬼神の影も消える。

 あやめは小指の無くなった左手に視線を向けると、突然その場に尻もちを着くように座り込む。

 

「……! あやめ様、大丈夫ですか?」

 

 黒ずくめの1人が座り込んだあやめに近付くと、あやめはその声を無視して両手両足を放り出すように大の字になって地面に寝転がりだした。

 

「大丈夫じゃなーい! 手もお腹も痛すぎて死にそう! もう余は一歩も動けない! 連れてって! 早く余を治療室まで連れてって!」

 

 急に駄々っ子になるあやめに驚きを隠せず互いに顔を見合わせる黒ずくめ達。

 だが、そんな黒ずくめ達を余所に1秒前まで駄々をこねていたあやめは、いつの間にかすやすやと寝息を立てていた。

 

「ど、どういうことだ?」

 

「聞いたことがあるぞ。あやめ様は深い眠りにつくことで傷を癒すことができると」

 

「じゃ、じゃあ、起こさないようにそっと運んだ方がいいのか?」

 

「た、たぶんな」

 

 いきなり子供のように眠ってしまったあやめを起こさないようにお姫様抱っこで治療室へ連れていく黒ずくめ達だった。

 

 

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