「おまるん! お父さんとすぐに連絡取る方法なんて、ないよね?」
『いやいや、この札がおかしいだけで、普通はこんな距離が離れてるのに連絡を取る方法なんてあるわけないでしょ。ねね、この札の便利さへの順応早すぎ』
「……だよね」
ねねはどうしたものかと考え込む。
素材を持ったラミィが戻ってくるならここで待っていても良かったのだが、わためがラミィに解呪の魔法薬のレシピと龍種の生き血以外の素材を売ってしまっているため、わざわざこの村まで戻ってくることはないだろう。
「ラミィもおまるんの実家がこの近くってこと知ってるの?」
『え? いや、話したことないと思うけど』
……! それならラミィが別の龍種を探しに出たり、レックスを探しに行ったとしても別の場所に向かった可能性も──
「あのー、ちなみにそのエルフの子には近くに有名なサーカス団がいるって話はしました……」
横から話に参加してくるわためを暫く見つめ──
……ちっ、と舌打ちをするねねとぼたん。
「……わ、わためは悪くないよねぇ……」
何やら小さな声で呟いているが、今は彼女に構っている暇は無い。
ポルカによるとポルカの実家はシケ村から歩いて数十分の所にあるらしく、数日前にわためから情報を得ているラミィなら既にポルカの実家にすらいない可能性がある。
「後手後手だなぁ……それでも、今の所手がかりはそれだけか」
「だね。いったんおまるんの実家に行ってみよう。本当にラミちゃんが来てたなら、その後どこに向かったとか聞いてるかもしれない」
ぼたんの言葉に頷き、ねねは通信札に向き直る。
「おまるん! 今からおまるんの実家に行ってみる。何か伝えておくこととかある?」
『ねーよ! ないない。別に私の話もしなくていいから、さっさと行ってきな。ホントに余計なこと言わなくていいから』
『座長、何でそんな焦ってるんです?』
『うっせハコ太郎。ほんとうっせ』
通信札から聞こえてくるポルカの声にねねとぼたんは顔を見合わせる。
かなたの話ではポルカは精神的ダメージが大き過ぎてそちらのリハビリにも時間がかかると言われていたが、ハコスが近くにいるのは思った以上に良かったのかもしれない。
「じゃあ、ちょっと向かってみるね」
『おー、気を付けて』
通信を切り、ねねは札を懐にしまう。
「その札面白いね。遠隔で通信できるの? どれどれ、ちょっと高値でわために売ってみない?」
「お前薬屋じゃないのかよ」
質屋みたいなことを言い出すわためについにタメ口になるねね。商売根性が据わっているわためはとりあえず無視して、ねねとぼたんはポルカの実家へと向かった。
× × ×
(……ねねの方がラミィより実力は上だ。あの時は、地の利に助けられたに過ぎない。そんなねねがラミィに殺されるなんて、想像もつかないんだけどな……)
ラミィは所々崩れたままになっている社をバックにひとり物思いにふける。それでも、星詠みが外れたことは過去一度だってない。
それが、雪花ラミィと百鬼あやめが結論付けた、星詠みの答えだった。
星詠みとは、対象者の未来を覗き見ることのできる予知魔法。
本来であれば、対象者が死ぬ未来が見えたのだとしたら、どうやって死ぬのか、いわゆる死因だって見ることができる。そしてそれを本人に伝え、忠告してあったとしても、それはそのまま現実となる。これは、80年前に白銀ノエルで実証済みである。
しかし、今回は何度試しても、桃鈴ねね、獅白ぼたん、尾丸ポルカの死体を見ることはできても、何故かその死因を見ることができていない。
一方で、星詠みにはもう1つ制約が存在する。
それは、星詠みの使用者、今回で言うところの雪花ラミィに関する未来を星詠みによって見ることはできないという制約だ。使用者自身の未来は星詠みでは決して見ることができない。
ここで再度話を戻そう。
これまで何度試そうとも、桃鈴ねね、獅白ぼたん、尾丸ポルカが他殺体となっている未来を星詠みによって見てきた。にもかかわらず、その死因に関してはついぞ見えたことがなかった。
星詠みで見ることができるのは、使用者自身が関わっていない未来のみなのだ。
つまり──、
桃鈴ねね、獅白ぼたん、尾丸ポルカの死因には、雪花ラミィが関わっている。
この結論に辿り着くのは時間の問題だった。
ドカッと近くにあった岩壁を殴りつける。
手は赤くなり血が滲む。
だが一向にその傷が治る気配は無い。
エルフに掛けられている精霊の加護は、死に直結する傷しか癒すことができない。
でも、もうそんなことはどうでもいい。もうじき全て終わる。
「これで、ようやく未来が変わる。レックスには悪いことしたけど……」
真っ赤な液体の入った魔法瓶を手に持ち、ラミィは神鏡山の社にある鳥居からの景色を一望する。
わためから買い取ったレシピ通りに調合した解呪の魔法薬。色味や入っている素材を知っているとあまり口に含みたくはないが──
「私が死ぬことで3人が助かるなら、安いもんだよね」
彼女らの死因に雪花ラミィが関わっているのだとすれば、その根本をこの世から排除すれば自ずと未来は変わるはずだ。
ラミィは覚悟を決め、指でポンッと瓶の蓋を外すと、その中の液体を一気に呷る
ドクンッ──!
心臓の跳ねる音がした。
血液が、魔力が、体内を逆流するような感覚。間違いなく、体内の何かが変化しているのを感じる。
だが、それ以上に──
「なに、これっ……! 体が、焼けるように、熱い……! 魔力が、一体……どうなって……!」
全身が燃えように熱くなり、身体の中から膨大な魔力が飛び出そうとしている。
(この魔力……膨大すぎるけど、間違いなく私の魔力だ……いったいどこから、こんな魔力が……!?)
元々ハーフエルフの中でも魔力量が多い部類のラミィだったが、これまで自分が所有していた、いや、所有していると思っていた魔力量の軽く数十倍は身体の内側から溢れ出ようとしていた。
(この魔法薬……まさか、解呪の魔法薬じゃなかった……!? 騙されたのか? それとも……)
一瞬で吹き出した魔力が徐々に落ち着いていくと、ラミィも深呼吸をして、うずくまるような体勢からゆっくりと立ち上がり、自分の手を何度か確かめるように握りしめた。
× × ×
神鏡山から1000キロ以上離れた社にて──
「あ、あやめ様……今のはいったい……」
「…………」
黒装束の言葉を無視し、百鬼あやめは一方向をじっと見つめる。
(……なんだ? 今の魔力は)
× × ×
神鏡山の麓にて──
「……ねねちゃん」
「……うん。おまるんのお父さんが言っていた通り、やっぱりいるんだ、この先に」
そう言って、ねねとぼたんは神鏡山頂上を見上げた。
× × ×
「………………へぇ」
そして、世界がその膨大な魔力を感じ取った瞬間と時同じくして、1人の少女がホロアースの地上に降り立った。