ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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フィクションとは

「…………っ」

 

 目を覚まし、バッと体を起こす。

 寝汗でシャツが肌に貼り付き、あまり良い気分ではない。

 

「起きた?」

 

「……!?」

 

 隣からいきなり声を掛けられ、びくりと肩を震わせる。

 まさかこんな至近距離に人がいたのに声を掛けられるまで気が付かないとは。随分と余裕がないんだなと、心の中で自虐する。

 

「アキロゼさん……」

 

 薄暗い中パタンと読んでいた本を閉じ、眼鏡を外してこちらに微笑むアキロゼ。

 ポルカは余計な探りを入れられることを避け、素早く話題を提供する。

 

「何読んでたんです?」

 

「ん? 『桃太郎』」

 

「……ももたろう? 何ですか、それ?」

 

「んー……一言で言うと、3人の獣人をお供に連れた剣士が鬼退治をするお話、かな?」

 

 アキロゼが本の表紙を見せながら説明する。

 それは表紙に可愛らしいイラストが描かれたフィクション小説だった。

 

「この里のエルフは大図書館にある本、大体全部読んじゃってるからね。たまには刺激のある作り話が読みたくなるのさ」

 

 そう言ってアキロゼは、ポンとボルカの布団の上に小説を放る。

 

「リハビリ合間の休憩時間は暇だろうし、貸したげる」

 

「アキロゼさんが読んでたんじゃないんですか?」

 

 アキロゼはうーんと伸びをしながら椅子から立ち上がると、扉の前へ移動し、興味なさげに言い放つ。

 

「アキロゼはそれ、暗記するほど読んでるからもういらなーい」

 

 かなたん呼んでくるねーと言って部屋を出ていくアキロゼの背中を見送った後、布団の上に残された1冊の本に視線を移す。

 

 ふと、以前この里で借りた本、『光の星の勇者』を思い出した。

 

(この里にある小説は、実話が題材になっている事がある……)

 

 ペラとポルカはページを捲った。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

 背後に生物の気配を感じ、ラミィは振り向く。

 そこには見知った服装をした少女が1人、うつ伏せの状態で血溜りに沈んでいる。

 

「……ししろん?」

 

 白いラインの入った黒のシャツにジャケット、グレーのミニスカート。

 銀色の長髪からは猫科の獣耳が生えており、その耳も赤く染まって力なく垂れ下がっている。

 

 心の奥底から絶望という感情が溢れ出す。

 状況証拠から、彼女をこのような目に遭わせた人物など1人しか思いつかない。

 

「あ、あ……ああぁぁぁ……!」

 

 膝を付き、両手で顔を覆う。

 

 星詠みが、あの日見た未来がついに現実となったのだ。

 この魔力暴走の原因はどう考えてもあの魔法薬だ。

 

 つまり──、

 

(……私が、皆から離れて死のうとしたから、そのせいで、ししろんが……?)

 

 ねね達の死因に自分が関わっている。

 だからこそ、自分が死ねばねね達の死という未来は変わると、そう信じて自殺に邪魔な精霊の加護を必死に解呪しようとした。そして、やっとの思いでそれを解呪したがために、長寿という寿命に充てていた膨大な魔力が暴走し、結果──、

 

「ラミィ!! ししろんはまだ死んでない!! だから、意識が戻ったんならさっさとこの魔力を抑えろ!!」

 

「……!?」

 

 突然頭上から聞こえてきた声にバッと顔を上げる。

 そこには氷でできた龍に拳を叩き込む光を纏った少女の姿があった。

 

「ねね……!」

 

「くっそ……、この龍、速い上に硬い! ラミィ! この龍、どうにかできないの!?」

 

 傷口は塞がっているようだが、ねねの服の腹部も赤黒く染まっており、ぼたんと同じく明らかに一度その部分を貫かれた跡がある。

 光の力を治癒に充てるのにもかなりの消耗を伴うことはもう周知の事実だ。恐らく軽傷はそのままにして、それ以外の致命傷のみを治癒しているのだろう。口の端や額から血を流しながらラミィが作り出したと思われる巨大な氷の龍と現在進行形で戦っている。

 

「くっ……む、無理! 私じゃこの魔力を抑えられない! 勝手に溢れ出してくる!!」

 

「……くそ!」

 

 ねねは氷の龍の顎を踏み台にすると、ラミィの目の前に着地する。

 

「ねね! 避けて!」

 

「……っ!」

 

 ラミィの身体から伸びる氷に即座に反応できず、庇った左腕を貫かれる。

 氷に貫かれた箇所から鮮血が氷の上に飛び散る。

 

「ねね!」

 

「……だい、じょぉぶ!!」

 

 左腕に刺さった氷を右手で砕くと倒れているぼたんの傍に駆け寄り、意識を失っているぼたんを抱きかかえる。

 

「絶対に助ける……ししろんも、ラミィも! だから待ってて」

 

 ラミィの瞳を見つめて力強くそう伝えたねねは、自動的に放たれる氷棘の追撃を躱しながらラミィの前から距離を取った。

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

(これは……!)

 

 ベッドの中でアキロゼから借りた小説『桃太郎』を読んでいたポルカは、難しい顔をしながら何かを考え込んでいた。

 

「そんな難しい顔をしてると表情筋が疲れるよ」

 

「……! かなたさん」

 

 部屋の入り口にはいつからいたのか、かなたが立っていた。

 一瞬ポルカの手元に視線を落としてから部屋の中に入ってくる。

 

「あれ? アキロゼさんは?」

 

「フレアちゃんの様子を見に行った。んで? 何読んでたの?」

 

「あ、これ、アキロゼさんから借りた本で……」

 

「……? 『桃太郎』? そんなフィクション読んで面白い?」

 

「……これって、やっぱりフィクションなんですかね?」

 

「はぁ? 人が桃から生まれるわけないでしょ。何言ってるの?」

 

「……ですよね」

 

 神妙な面持ちで手元の本を見つめるポルカにかなたは首を傾げる。

 しばらく本を見つめていたポルカだが、突然顔を上げると、かなたの瞳をジッと見つめる。

 

 

「あの、かなたさんって、転移魔法使えますよね?」

 

 

 いきなりのポルカからの質問に、再度かなたは首を傾げた。

 

 

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