どうやっていきなり目の前に現れたのかは分からない。
ただ、揃ってしまった──
「おま、るん……」
「やあラミィ。しばらく見ない間に、何か禍々しいもん纏ってんね」
まだ寝たきりの影響で痩せ細ってしまった体は、本調子の頃まで戻っていない。
それでも、それを感じさせない笑顔で、ポルカは戦場へ赴いてしまった。
これで、3人がラミィの前に揃った。
そして、確信した。
あの日見た星詠みは、今日、この日のことなのだと。
「ミオさんはみこさんに連絡取ったんだよね? 何でおまるん?」
「ちょうどポルカも、みこさんのとこにいたんだよ。そしたらミオさんから連絡が来たから、みこさんから御幣を借りて、転移魔法で送ってもらった」
ねねがミオに頼んだ伝言は、以前ラプラスの魔力隕石を吸収した御幣を持って、みこに助太刀を依頼するという内容だった。みこが転移魔法を使えることも知っていたし、伝言さえ伝えられればすぐにでも駆けつけてくれると思っていたが、まさかポルカが来るとは夢にも思っていなかった。
「にしても、間一髪だったね。何か吹雪いてるし、ここだけ世界が違うみたい。これ全部、ラミィの仕業?」
ポルカの問いにねねは小さく頷く。
粉雪が舞い、一面氷で覆われた辺りを見渡すと、つい苦笑いが浮かぶ。
「あ、そうそう。これ、みこさんから使い方教わった」
そう言って御幣をねねの頭にポンと触れさせる。
「……! これは」
御幣が触れた先から流れ込んでくるものに驚いていると、正面からラミィがゆっくりと近付いてくる。
「に、げて……間違いない。今日だ。今日が星読みで見た未来だ。このままだと──」
「ラミィがねね達を殺しちゃうって?」
「「……!」」
ラミィのセリフを引き継いだねねに、ラミィとポルカが驚きの表情を見せる。
「ラミィが自殺をしようとしていると分かってから、その動機をずっと考えてた。確か星読みっていうのは、術者が関わっている未来に関しては見ることができないんだったよね? だから、一向に見ることができなかったねね達の死因に、自分が関わっていると予想した。だから、自分が死ねばねね達が死なない未来に変わると予想した。だから、ねね達がラミィの自殺の邪魔をしないように、常闇トワを使って夢に閉じ込めようとした。だから──あの時、ねね達を殺さなかった」
それもそのはず。ねね達を殺さないために自殺をしようとしていたラミィが、ねね達を殺す訳がない。
「ところでラミィ。エルフの里でラミィに言った言葉覚えてる?」
「え……?」
「『悪いけど、ラミィの星詠みは外れる。約束するよ』」
「……!」
その言葉にラミィは目を見開く。
そうだ。星詠みの神殿にて星詠みをしたあの日。確かにねねはそう言った。
「でも、肝心のラミィちゃんはそんなねねの名言をまるで信じてなかったときた」
「そ、そんな……」
ねねはおどけた様子で肩を竦めているが、その目は笑っていない。
そして、鋭い眼光でラミィを睨みつけると、全身にこれまで以上のまばゆい光を纏い、おどけた口元の笑みは狂喜に満ちた笑みへと変化する。
「どうやら、おバカなラミィには言葉では通じないらしい」
パンッと拳を鳴らし、ねねは正面からラミィを見据える。
「来いよラミィ、全力で。言葉だけじゃ足りないって言うなら、お前の全力を打ち負かすことで、そんな未来──不可能だって証明してやる」
そう口にした瞬間、ねねの姿が消える。
ラミィには視認できない速度でラミィの懐まで移動したねねは、全力の拳をラミィの腹部目掛けて振るい、そしてその拳がラミィに接触する寸前で止めた。
「……? っ!?」
一瞬何が起きたのか理解できなかったラミィだが、数瞬遅れてまるで巨大猪に突進されたような衝撃を受け、後方へ吹き飛ぶ。
ねねの拳圧に吹き飛ばされたラミィは受け身を取りながら体勢を立て直すと、その時にはすでに目の前にねねのかかとが迫っていた。
「ぐっ……!」
即座に氷の壁を張るが、時間が足りず中途半端な薄い氷しか張れない。とはいえ、厚さでいえば240ミリはある氷壁なのだが、光を纏ったねねの攻撃をこの程度の氷で防げるはずもない。
ラミィはねねが氷壁を破壊すると同時に、後ろではなく横へ飛ぶ。
ねねの殺気を感知しているのか、ラミィの魔力は完全にねねを敵だと認識している。意識はあるのに体の自由は利かないという気持ちの悪い感覚を感じながらも、自分の魔力がどのような魔法を撃とうしているのかは把握することができた。
「ねね! 上!」
「言われなくても、影でバレバレだよ!」
ねねの頭上に出現した長さ約5メートルの巨大つららが3本、ねね目掛けて落下してくる。
そのつららをねねは避ける訳ではなく、その場に手を着き足を蹴り上げたと思ったら、そのまま回転をして自分に向かってくる3本の巨大つららを蹴りで弾き飛ばした。
これまでの力任せな戦い方とは違い、器用な戦い方をしているねねを目の当たりにしたポルカとぼたんは、その様子に息を飲む。
「おまるん、さっきねねちゃんに、何をしたの?」
「さっきラミィから吸収した魔力を渡した」
「魔力を? その御幣、そんなことまでできるの?」
「みたいだよ」
「……でも待って、確か昔、ねねちゃんには魔力がないって、ラミちゃんが言ってたはず。だからあの光の力は魔力とは全く関係のない力のはず。それなのに、魔力を渡した途端、あの光の力がまた戻ったって、おかしくない?」
「それもみこさんに聞いてきた。やっぱり、あの本の題材にもなったみこさん達の親友が使っていた光の力と、ねねの光の力はほとんど同じような力みたい。その星街すいせいって人も、みこさんの魔力を光の力に変換して使えてたらしいんだ」
「……それでやってみたら、本当にできたわけだ」
「うん」
ねねの力の謎についても気になるところだが、今はそれどころではない。ねねとの戦闘を見る限り、意識はあるものの、まだラミィの意思で魔力を制御できていない様子だ。
「おまるん、うちらがみこさんを呼ぼうと思ったのは、ラミちゃんの魔力をその御幣で吸い取ってもらおうと思ってたから。今ラミちゃんは暴走している魔力が制御できていない状態みたいなんだ。私も、今こんな状態だし、おまるん、できる?」
「……あの間に入って行けと」
「いや、魔力を譲渡することであの光の力の持続時間が延ばせると分かった以上、無理にとは言わない。ねねちゃんのあの力が切れたらまた魔力で補充を繰り返して、ラミィの魔力切れを狙ってもいい。それだとねねちゃんにばかり負担が掛かかるから、申し訳ないけど」
物凄いスピードで攻防を続けるねねとラミィに一度視線を向けると、ポルカは呆れたような笑みを浮かべて屈伸を始めた。
「冗談だよ。あんなカッコいい登場の仕方をしておきながら、後方待機ってダサすぎるでしょ。もちろん最初から、戦うためにここに来た」
そして、右手には御幣。左手には収納魔法で取り出した短剣が逆手で握られていた。
「ま、相手を倒さない・殺さない立ち回りってのは実のところ苦手じゃない。ようはヒット&アウェイの要領でチビチビラミィの魔力を吸い取っていけばいいんでしょ」
「厄介なのは、向こうは何の遠慮もなく殺しに来るところ、かな」
「おけおけ。んじゃ、ししろんはこれでも飲んでゆっくりしてな」
そう言って1本の謎の液体の入った試験管が投げて寄こされる。
ぼたんはそれをキャッチし、栓のされた試験管を見つめ、何の液体なんだと顔を上げると、既にそこにポルカの姿はなくなっていた。