己に向かう魔法を打ち消し、ラミィの周りを蠢く魔力を吸い取り、隣に立つ仲間の光が消えれば魔力を譲渡する。
そんな行動を続けること、およそ60分。
(この……化け物どもめ)
息付く暇もなく続く攻防に、ポルカは大量の汗を流しながら心の中で悪態をつく。
光の力が回復しても体力が回復するわけではない。ここまで動き回り続けて減った物理的体力も、集中を切らせば一瞬で殺されるという命のやり取りをしている中ですり減っていく精神的体力も、御幣からの魔力譲渡で回復する訳では無い。
それなのに──、
(……笑ってる)
ポルカの隣に立つ少女は、その口元に実に楽しそうな笑みを浮かべている。
そんな少女に頼もしさを感じ、今度は尊敬の念を込めて悪態をつく。
「化け物どもめ……」
「……? 何か言った?」
「……ラミィのあの魔力、減ってると思う?」
「減ってはいるはずだよ。ただ、確かにキリがないと言えばキリがない」
ねねは隣で息を切らすポルカを横目で確認する。
彼女はまだ病み上がりだ。持ち前の運動能力と反射神経で何とか対応できているが、このままずっと動き続けるわけにもいかないだろう。
「次で決める」
「……? どうやって?」
「ラミィの魔力に大技を使わせる。おまるんは今ある御幣の魔力を全部ねねにちょうだい。その後はししろんを連れて余波に備えて」
「いやだから、どうやってその大技を使わせるの? ラミィの意思で魔法は使えないんでしょ?」
「そこは考えがある」
氷の大津波を作った時。氷の龍を作った時。
この2つの状況には共通点がある。
「宿主にヤバいと思わせりゃいいんよ」
それはどちらも、敵から宿主であるラミィの身を隠すために使われた魔法だ。それにしては些か攻撃力が高すぎる訳だが。
「……よく分からんが、悪いこと考えてることだけは分かった。いいよ、任せる」
そう言ってポルカはねねの頭にコツンと御幣を添える。
御幣が触れた部分から力が流れ込んでくるのを感じながら、ねねはトントンと爪先で地面を叩く。
「ししろんを頼んだ」
「ラミィを頼んだ」
互いに頷き合い、ねねは前方へ、ポルカは後方へ走り出す。
これまで以上にポルカから魔力を受け取り、ねねは再び全身に光の力を纏わせる。
「本気で防いでもらうぞ……!」
グンッと加速したねねは、一瞬でラミィの懐まで入ると、体勢を低くし、胸の前で腕をクロスしたラミィをその間に展開された氷壁ごと蹴り上げる。
「ぐっ……!」
「死ぬなよ! ラミィ!」
「ええっ!?」
体が勝手に動いてしまうだけで意識はしっかりとあるラミィは、自分を救うと言っておきながら殺すつもりで攻撃すると宣言するねねに驚きの声を上げる。
空中にかち上げられたラミィの体を追いかけるように跳び上がったねねは、全身の光を右腕1本に集約させる。
(これは……っ、本気でヤバいやつ……!)
己に突っ込んでくる少女の攻撃を防ぐための魔法の発動を、己の意思で試みるラミィ。
その答えがひとりでに動くラミィの魔力とリンクしたからなのか、自分の意思とは関係なく、勝手に自分の魔力を使って魔法が発動するという気持ち悪い感覚ではなく、以前のように、自分の手足のようにイメージ通りの魔法がスムーズに発動する。
(…………そうか)
「……! それだよ、ソレェ!!」
ラミィとねねの間に、氷で象られた女騎士が出現する。
それも、一瞬で、高さ10メートルは超える氷の大剣を上段に構えた女騎士だ。
宿主であるラミィを護る女騎士。
ねねの視界を、頭上から振り下ろされた大剣が埋め尽くす。
恐らく、ラミィが現在創造できる最大火力の防御兵だろう。
口角をこれでもかというほど釣り上げたねねは、光を極限まで集めた拳を、振り下ろされる大剣に正面から殴りつける。
「オラァァァァァァァ!!!」
衝突した部分から激しい光と余波が生まれ、遠目でそれを見ていたぼたんとポルカは、近くの岩に掴まり、腕で視界に陰を作りながらも、その一部始終を見逃さない。
(今、ラミちゃんが自分の意思であの氷の女騎士を作り出したように見えたぞ……?)
目を細めながらも、ぼたんはねねの拳が氷の大剣を殴り砕く瞬間を、その目に焼き付ける。
今の拳に全ての力を使ってしまったのか、着地したねねの右腕からは既に光が失われていた。
しかし、大剣は失われたものの、10メートルを超える氷の女騎士は依然、ねねの前に立ち塞がっている。
「……っ、おまるん! ごめん、ヘルプ!」
ねねが後方に呼びかける。
その声を聞いたポルカは御幣を持って再びねねの元へ駆けつけようと岩陰から飛び出すが、その肩をぼたんに掴まれる。
「……!? 獅白!?」
「様子がおかしい」
「……?」
ぼたんの視線を追うと、その先には微動だにせず、ただじっとねねを見下ろしている氷の女騎士がいる。
確かにこれまでの傾向なら、大剣を破壊されたからといって、ラミィの魔力が攻撃の手を止めることはなかった。あの氷の龍の時もどれだけ殴り付けられようが、直ぐに追撃体勢に入っていたはずだ。
「まさか……」
「もう大丈夫。理解できた」
その声は氷の女騎士の足元から聞こえた。
足元の陰から出てきたラミィの手が氷の女騎士の足に触れると、数拍置いて氷でできた全身が砕け散った。
「制御できるまで、魔力を減らせられた?」
「それもあるけど……多分、今なら過剰魔力状態でも、制御できる。そういう意味で、理解出来た」
ねねの質問に淡々と答えるラミィは、自分の手を見つめ、そして、そんなラミィを突然できた影が覆う。
「……!?」
「ありがとう、ねね。これで、やっと死ねるよ」
長寿のメカニズムである寿命に充てられていた膨大すぎる魔力が解放された。つまり、精霊がエルフに施した加護は、ラミィの体から消え去っている。
何ヶ月もの間ラミィを苦しめていた自殺のできない力も、ラミィの体から消え去っているはずだ。
悲しそうな笑みを無理に浮かべたラミィの頭上に、小さな小屋程度なら軽く潰せそうな氷の塊が落下した。