ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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鬼の弱点

「獅白が狙撃した時の弾痕が消えてる?」

 

 ねねが投げ飛ばされ、ポルカとともに吹き飛ばされたすぐ後、瓦礫の陰に身を隠しながら様子を伺っていた時に、ねねが突然そんなことを言い出した。

 

「そう。おまるんも見てたでしょ? ししろんの銃弾を左腕で受け止めて、その後弾を取り出すために自分の腕に刀を刺してたのを」

 

「いや、見てたけど……」

 

「その時の傷が無くなってた」

 

 あやめに背後から不意打ちを仕掛けたが見破られ、投げ飛ばされた際に間近で確認したので間違いない。

 その時の左腕の傷が跡形もなく消えていたのだ。

 

「ねねのこの力と似たような治癒能力があいつにもあるのかもしれない。そういえばアトランティスで百鬼あやめに会った時も、恐らくholoXにやられて小指が無くなってたはずなのに、今はちゃんと10本あるみたいだし」

 

「それだけ聞くとトカゲの尻尾みたいだな」

 

「笑い事じゃないよ。ねねだって傷は塞げるけど、無くなった指をまた生やすことはできないよ。そんな治癒能力があるとすると、マジで不死身なんじゃ……」

 

「いや、そんなことは無いと思う」

 

 ねねの不安げな言葉に首を横に振るポルカ。

 

「何でおまるんにそんなこと言えるの?」

 

「鬼も生物だってこと。リハビリの間、エルフの里にあった本に書いてあったんだ。鬼はありとあらゆる傷を完全に修復できる能力を持ってるんだと。ただ、その修復にはかなりの体力を消耗する。それがどんな小さい傷でもそれなりの体力を使うらしいんだ。つまり彼女の撃退方法は、できるだけ沢山の手傷を追わせて、その修復を何度も使わせる。そうすることで、いつか彼女の体力が切れるのを待つ。聞いた話だと、アトランティスではholoXとやりあったことで相当消耗してたんでしょ?」

 

 確かに、あの時の百鬼あやめの消耗具合は相当なものだった。

 そんな修復能力があるにも関わらず、致命傷にも見えた外傷をそのままにしていた。もしかしたら、もっと致命的な傷を負っていて、そちらを修復したために力が残っていなかったのかもしれない。

 

 治癒能力にはそれ相応の体力が削られることは、ねねが良く知っていた。

 

「ま、大きな傷であればあるほど、その修復にはより多くの体力を使うはずさ。そっちの致命傷は君ら2人に任せるよ。陽動と地道なボディーブローは私と獅白に任せな。ああ、それから──」

 

 

 

        ×  ×  ×

 

 

 

(陽動とボディーブローにしちゃ、十分すぎるダメージだよ……!)

 

 着火性の高い特殊な油の入った麻袋を銃弾が貫通する。

 その一瞬の摩擦と熱により、百鬼あやめの顔の横で爆発が起こる。

 

 その爆風がポルカの生み出した煙幕も晴らし、そこには爆発をモロで受けた百鬼あやめがうめき声を上げながら何とか2本の足で立ち尽くしていた。

 

「…………やってくれるなぁ、ええ!? 獣人コンビぃ!!」

 

 爆発によって左半身に大火傷を負ったあやめが、空気を震撼させる程の怒号を上げる。

 

 ぼたんの跳弾にやられた右手は刀を握れず、爆発にやられた左手は火傷で感覚がない。顔の左半分も高熱に焼かれて白い肌が真っ赤になり、左目は光と高熱で潰され、血を流しながら強く瞑られていた。

 

「さっきまでの余裕綽々な態度の方がよっぽど絶望感あったよ」

 

「……!?」

 

 誰もがその威圧感に二の足を踏む中、あやめの死角となった左サイドから接近したねねの拳があやめの左頬を捉える。

 

 光を纏った拳があやめの身体を吹き飛ばし、その先には超大剣を上段に構えた氷の女騎士が待ち構えていた。

 

 

 ──それから、鬼が唯一修復できない部位があるんだと。きっと、あの里にずっといたラミィなら、知ってるはずだ。

 

 

 鬼が唯一修復できない部位。例え背骨を砕かれようと、心臓を抉られようと修復してしまう鬼だが。

 

((唯一、首を刎ね飛ばせば、その生命活動を終える!))

 

 ねねとラミィの心の声が重なる。

 あの里にいるエルフはその長すぎる寿命のおかげで、大抵が里の大図書館にある書物全てに目を通している。

 

 それはアキロゼも、フレアも、当然ラミィも。

 

 ねねの拳により吹き飛ばされるあやめにタイミングを合わせ、氷の女騎士が大剣を振り下ろす。

 ぼたんとポルカのおかげで両手は使い物にならない。

 ねねの拳をまともにくらい、その吹き飛ぶ体の勢いは止まらない。

 

 防ぐ術なし。

 

 長さ10メートルの大剣があやめの首に向かって振り下ろされる。

 その刃があやめの首に触れ──、

 

 

「──余が何故、弱点をこんな剥き出しにしてると思う?」

 

 

 うわ言のように呟かれたその声を、獣人であるぼたんとポルカは確かに聞いた。

 

 あやめの首に振り下ろされた氷の大剣は、あやめの首に触れ、その首を落とそうと力が加わった瞬間、ガラスが割れるような甲高い音と共に根元から折られた。

 

 

「弱点じゃないからだよ」

 

 

 百鬼あやめの右手は、ぼたんの銃弾で穴が開いた。

 百鬼あやめの左半身は、爆発によって大火傷を負った。

 沙花叉クロヱに左の小指や右脇腹も食い千切られた。

 ラプラス・ダークネスの攻撃により、背骨だって砕かれた。

 

 ──それでも、唯一の弱点である首だけは、そのどの攻撃よりも威力の高いラミィの造り出した氷の女騎士の大剣が上段から振り下ろされても、傷一つ付けることができなかった。

 

 真っ赤な蒸気を纏いながらゆらりと立ち上がるあやめに、ポルカは苦笑いを浮かべ、ぼたんは冷や汗を流し、ラミィは絶望に表情を歪める。

 

 

 そんな中、あやめと視線が交錯したねねだけは小さく息を漏らし、全身に光を纏った。

 

 

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