全身に光を纏ったねねが、あやめと打ち合いを続ける。
休む暇なく攻撃を続けているのは、あやめに修復させている暇を与えないためだろう。
当初は確かにあやめに傷を与えて、何度も修復能力を使わせることで疲労を狙う予定ではあった。
だが、ぼたんとポルカの奇襲により、あやめの左半分の視覚を奪ったのはかなり大きい。明らかにあやめの反応が悪くなっている。
既に両腕は修復されてしまっているが、あの左目だけは修復されないようにねねは攻撃の手を緩めないようにしていた。
「桃鈴ねね。聞いたぞ、その力に似た力を大昔にいた女も使っていたようだな」
「あ!?」
「余の父上と神を同時に敵に回して、星天戦争を止めたと言われている女の事だ」
「…………」
あやめの言葉にねねは以前みこが話していた星街すいせいという名の女性の事を思い出した。
「お前はその女と同じ星出身か?」
「んなもん、ねねが知ってるわけないでしょうが」
「そうか。どちらにせよ、お前とその女とでは決定的な違いがある。お前の戦闘スタイルでは、鬼である余は殺せないぞ」
そう言いながらも激しい打ち合いが続く中、徐々にねねの攻撃が当たる回数が増えてくる。急に視界の半分が狭くなるというのは、百鬼あやめのあの戦闘センスを持ってしても、やはりかなりのハンデになってしまうらしい。
(……ちっ、と言いつつ直撃でなければどうとでもなると思っていたこいつの攻撃だが、流石にノーダメージとはいかないか。このまま削られ続けるのは面倒だな……!)
あやめは今まで正面で受けていたねねの拳を、刀の柄でいなす。いきなり今までとは違う動きをするあやめにねねは体勢を崩される。
「……へ?」
すぐにカウンターが来ると思い両腕を顔の前でクロスさせるが、あやめからの攻撃がいつになっても来ない。
当のあやめはねねの体勢を崩した隙に両手の刀を鞘に納め、バックステップで距離を取っていた。
「っ、しまった……!」
距離を取ったと確認したねねはすぐにあやめに追撃を仕掛ける。
しかし、ねねの拳があやめに届く前にあやめの左目が開く。
「……っ」
「おせぇ……!」
ねねの拳があやめの右手に掴まれる。
あやめの左目は真っ赤に充血しており、まだ完全に修復されていないように見える。だが、ねねの拳を捕まえたということは、多少視力は戻っているようだ。
「ったく、余計な力を使わせやがって。修復時間の短縮は余分に力を使うんだぞ」
「つまり、私の仲間達はお手柄だってこと?」
「ああ、余に余計な火を点けた」
あやめは掴んだねねの右手を引っ張り、下から膝を入れることで腕の骨を折る。
「ガァっ……!」
「まずは邪魔な奴等を消す」
「……!」
そう言い残し、折られた腕を抑えながら膝を付いたねねの前からあやめは姿を消した。
× × ×
「だから、ラミィのこの氷の騎士で百鬼あやめの胴体をぶった切るんだ。首は無理でも、首以外は他の攻撃でも傷つけることはできたんだ。なら、殺せなくても動けなくすることはできる。流石にそのレベルの傷なら、修復にもかなりの力と時間が必要なはず」
氷の龍の上でラミィとぼたんに作戦を伝えるポルカ。
「おいおい、なんつー恐ろしい会議をしてるんだよ、貴様らは」
「「「……!?」」」
ポルカの背後から聞こえた声にラミィ達は目を見開く。
即座にポルカの背中に氷の壁を展開させるラミィだが、あやめはそれを無視し、足場となっている龍の頭に刀を振り下ろす。
「……わっ!」
「……っ!」
たったの刀一振りで氷の龍の頭を破壊するあやめ。
その頭の上に乗っていたラミィとポルカは足場を崩され、あやめと一緒に地面に落下する。
「ラミちゃん! おまるん!」
女騎士の肩の上に乗るぼたんが落下していく2人に手を伸ばすが、当然その手が届くことはない。
ラミィは落下速度が加速する前に氷の足場を出現させ、地面に落ちる前に空中で着地する。ポルカは獣人の身体能力で何回転かしながら問題なく地面に着地した。
ポルカと同じく地面に着地をしたあやめはすぐ横のポルカには目もくれず、ぼたんが肩に乗っている氷の女騎士の足元へ移動すると両手の刀を横凪に振り、同時に女騎士の両足を切断する。
足を切断された女騎士は支えを失い、そのまま前方に倒れてしまう。
「邪魔な2体はさっさと破壊させてもらったぞ。見るところ、余の身体を壊せそうなのはその2体の攻撃ぐらいだ。貴様ら自身の攻撃では、穴を開けるので精一杯のようだしな」
すっかり治った右手をふらふらと振って見せるあやめ。
ねねがあやめと打ち合いをしている間にラミィに応急処置をしてもらったぼたんが、片目となった左目であやめを睨みつける。
「……あなた、心臓とかないの?」
「うん? もちろんあるぞ? ただ、心臓だって修復できる。それだけだ」
彼女達鬼が唯一修復できないのは首のみだ。
「それでも、手を貫くよりはあなたにとって致命傷でしょ? それなら修復に使う力も手よりは大きいはず」
ライフルを左手に構えて言うぼたん。
そのぼたんの姿にあやめはキョトンとした顔になる。
「……まさか、さっきもそうやって撃ったのか?」
「……? 何が?」
「右目を潰されたから、左で撃ったのか?」
「戦場では何が起きるか分からない。どちらでも撃てるようにするのは当然でしょ」
へえとあやめは改めてぼたん、そしてポルカに目を向ける。
ねねとラミィにばかり気を取られていたが、この2人も獣人特有の反射神経や動体視力、運動能力と見事な連携であやめに大ダメージを与えている。
あやめが2人に気を取られている隙に、氷の剣を持ったラミィがあやめの背後から攻撃を仕掛ける。
「ラミィちゃん、君は遠距離から魔法だけ打ってれば良いんだよ」
しかし、ねねやポルカの動きにも簡単についていくあやめはラミィが振るった剣をスルリと躱すと、ラミィの腹部に回し蹴りを入れる。
「ぐっ……!」
吐血をしながら吹き飛ばされるラミィを、自分の腕を回復させたねねがキャッチする。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫? ラミィ」
「……大丈夫」
肩で息をしているラミィに、ねねはこれまでの戦いを思い返す。
(流石のラミィの魔力でも、ここまでの連戦と大技の連発。ねねにもかなりの魔力を渡してるし……もう限界が近いか……ん?)
「…………」
ねねがどうしたものかとあやめに視線を向けると、両手に刀を持ったまま仁王立ちしているあやめに違和感を覚えた。
先程まで纏っていた赤いオーラは鳴りを潜め、小さくだが肩で息をしているようにも見える。
彼女は彼女でここまでかなりのダメージを修復しているはずだ。修復に力を使うことは彼女自身が言っていたことだ。
「ラミィ。ねぽらぼで百鬼あやめの首を刎ねられるような攻撃手段を持ってるのはラミィだけだ。何か方法は思いつく?」
ラミィが創り出したあの氷の騎士はどちらかというと防御を意識した傭兵だ。
だが、間違いなくラミィが繰り出せる魔法の中でもトップクラスの攻撃力も誇っていた。
にもかかわらず、あやめはその攻撃を、その身一つで受け止めた。
「……さっきおまるんも言ってたけど、最悪首じゃなくても、例えば胴体や足を潰すことができれば、戦闘不能に追い込むことはできる。あの首を落とすのは一筋縄じゃいかない。まず彼女に攻撃を当てることすら困難なのに、さらに警戒心を強めている今の彼女に、さっき以上の連携をまた成功させるのは厳しい。いったん首を狙うのは諦めて、百鬼あやめの戦闘不能を狙った方が──」
「それじゃ駄目だ」
「……? 何で?」
ラミィの案を、ねねは一蹴する。
「今それで乗り切れても、あいつがうちらを狙うことは変わらない。何なら次は鬼神も連れてくるかもしれない。あいつを殺すなら、今しかないんだ」
「ねね……」
ねねからはっきりと殺すという言葉を聞いたのは、何気に初めてかもしれない。
ラミィは今までここまでハッキリと殺害予告をされ、命を狙われたことはない。いつも気丈に振る舞っているねねでも、いつどこから命を狙われるか分からないという状況に置かれるのは精神的にキツイものがあるのだろう。
「……残念だけど、あの攻撃で傷すら付けられないなら、攻撃特化にした魔法でもあの首を落とすのは難しいかもしれない」
「…………」
「でも、やってみるよ。ねねはできるだけ隙を作ることに集中して」
「……了解。信じてるよラミィ」
ラミィの手を握り立ち上がらせるねね。
ねねは最後の力を振り絞り全身に光を纏わせ、ラミィは自分達の背後に千手の氷像を2体造り出す。
「今度は手数で勝負か? いいぞ、かかってこいよ。ねぽらぼ」
軽く腰を落とし、2本の刀を構えたあやめが楽しそうに小さく笑みを浮かべた。