忍野メメは、あの影から依頼を受けたあと、改めて情報を整理し、この町の怪異・神などについて調べ上げた。
どうやらこの町の異変に触れるには、夜に活動すべきだと判断し、花火大会の日の夜、町を歩いて調査を開始。
一般にお化け、幽霊、などと呼ばれる存在はどんな町にも少なからず存在するが、この町のそれらは多くが夜になると生きた人間に影響を及ぼせるほど実体としての力を得ている。あの影が言っていたような神の状態の不安定さがこれに影響している可能性もある。
深夜というべき時間、忍野の横を灰色の塊が高速で通り過ぎた。
「なかなか速いね」
何か手がかりになるものかもしれない。目で追うのもギリギリなほどのスピードで移動するそれを追う。それは、ゴミだらけの森に入っていき、一人の少女の前で止まった。
見た目、動きから見るに、その子を攫おうとしているようだ。
“よまわりさん” というやつか。ならばある程度調べてある。
忍野は“よまわりさん”と少女の間に割って入り、少女が攫われるのを阻止、そして少女の横に立って言い放った。
「ぼくがこの子の保護者だから、君は心配する必要無いよ。」
怪異には、特定の役割がある。本能といってもいいかもしれない。状態や時代の変化によって凶暴性が増したりすることはあるが、基本的には本来の役割から逸脱した行為はできない。
予想した通り、夜に歩いている子供を保護するという役割を持っていた“よまわりさん”は、子供に保護者がいる事実を認識し、果たすべき役割を失って姿を消した。
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「あっ…」
ハルは、驚いて動けない。それもそのはず。大きなお化けに襲われかけたところ、謎の男が間に入り、どういうわけかお化けもいなくなった。
助けてくれた…?
「ところで、こんな時間に何をしてるんだい?お嬢ちゃん」
話しかけられる。しかし、見た目からして普段イメージにある“怪しい人”という風にも見えてしまう。この人に色々話をしても良いものだろうか。言葉に詰まる。
「ええと…その…」
「まあ、もう分かってるかもしれないけど、夜に出歩いてちゃ危ないよ? 早くお家に帰りな」
…駄目だ。
あの手紙、ユイの手がかりがもうすぐ掴めるかもしれないし、一刻も早く会わなければならない。
「帰りません!!」
気づけば声が出ていた。ユイと会うまで諦めるわけにはいかない。この人も、少し怪しいが、どうも助けてくれたのは間違いなさそうだ。ハルは、意を決して男に事情を話した。
「…なるほどね」
その男はどこか合点のいった、というような表情を見せ、頷く。
「わかった。君がまだその子を探すっていうなら、僕もついて行かせてもらうよ。」
「助けて、くれるんですか?」
「いいや、助けない。力を貸すだけ。君たちが勝手に助かるんだ。」
言っていることはあまりよくわからなかったが、一緒に来てくれる人がいるというのは正直なところとても心強い。
「あの、名前は…? あっ、私はハルです」
「僕は、忍野メメ」
名前を聞いた後、手紙を読むため子犬が走っていった方へ歩き出す。道を歩きながら、少し質問を投げかける。
「さっきのお化け、何なのか知ってたんですか?」
「ああ。僕もこの町に来てから調べたんだが、どうも“よまわりさん”というやつらしいね」
「よまわりさん?」
「そう、なんでも、夜に出歩く子供を攫ってしまうとか」
「その、よまわりさんは、どうしてそんなことを?」
「意味があるかはわからない。昔は何か理由があったのかもしれないけど、あまり深く考えなくていいよ。世の中、全部が意味や理由の上で動いてるわけじゃない。あれはそういうもの、それくらいの見方でいい場合だってあるさ」
その答えにハルは不思議と腑に落ちた気がした。
アン!アン!
歩いていると、手紙を咥えたユイの子犬が嬉しそうに吠えながらこちらへ向かってくる。
「わんちゃん!よかった…」
さっそく手紙を受け取り、開く。『ハルへ』、その3文字しか見えなかったが、ユイの字だったし、きっとあの子が手紙をとばしてくれたのだ。無事を伝える手紙なのか、きっとそんな内容だろう。そう期待しながら読み進める。
ハルへ
わたしをずっと、さがしてくれてるんだね。
こわいおもいをさせちゃってるね。けがはしてないかな。
ハル、なかないでね。
わたしはもう、しんじゃったみたいなの。
これを書いている今のわたしは、たぶん、ゆうれい。
よるって、こんなにくらいんだね。
こんなにさびしくて、つめたいんだね。
わたしはいつしんだのかな。あの山へいったときかな。
なにがあったのかおもいだすために、山へいってみます。
ハル、わたしをさがしてくれて、ありがとう。
でも、もういいよ。
ありがとう。
ごめんね。
・・・
…嘘だ。
そんなはずがない。今日一緒に花火を見たじゃないか。
手紙は、読み終えた途端、役割を終えたのか、花弁のように散って夜に消えた。手紙の幽霊だったようだ。
「ねえ、わんちゃん、ユイは元気だよね!?」
溢れる涙を抑えながら子犬に呼びかける。
クゥーン
子犬は困惑したように周囲を見渡す。
「ユイがしんじゃったなんて、うそだよね?」
ユイになにか良くないことがあったのを察しているのか、子犬は鼻先を真っ直ぐ上に向けて悲しげにハルを見つめる。
怖いくらいに涙が止まらない。ユイに会いたい。ユイに会いたい。そう思うほどに涙が溢れる。
「ユイに、ユイに会いたいよお。幽霊でもいいから会いたいよお!」
「なら、会いに行こうか」
忍野から、意外な言葉が発される。
「…えっ?」
「幽霊なら、まだこの世にはいるさ。それに、山に行くって書いてただろう? 目的地も明白じゃないか。」
当然だろう、というように言う忍野を見て決意を固める。
少女は、涙を拭き、立ち上がる。
「行こう」
ユイのところへ。
たとえ幽霊でも。ずっと一緒にいれるかわからなくとも。
もう一度、会わなければ。
全然内容と関係ない雑談になりますが、個人的にCö shu NieのasphyxiaとかリゼロのStay Aliveって何となく深夜廻の雰囲気に合ってる曲な気がしてます。