少女は、自分がすでに死んでしまっていたことに気づいた。
自分の死について思い出すため、山へと向かう、
その前に、思い出の場所を回ることにした。
山へ行って全てを知ってしまえば、そこで全てが終わってしまうかもしれない。だから、家の近くの大きな木、落書きのある塀、空き地、近所のスーパー、公園、ハルとの思い出が詰まった場所をもう一度見ておきたかった。
そして、最後に自分の“家”に寄ることにした。
家には、母親以外にも誰かが入った形跡があった。母が定期的に誰かを連れてきているのだろう。
「ユイ、帰ってる?」
「…!?」
ユイが家に入った直後、母親が帰ってきた。
「お母さん…」
「そう、まだ、帰ってないのね…」
ユイにとって家は、決して帰りたい場所ではなかった。ユイの父が突然いなくなった後、母はどこか変わってしまった。家にあまり帰らず、ユイには1000円札を1枚置いてこれで何か買って食べて、とご飯も作らなくなった。
ユイはナイショで空き地に犬を2匹飼っていたが、その世話を夕方までして家に帰っていたが、少し帰るのが遅れると、母は大声を上げながらユイを叩いた。
「ごめんなさい、ユイ!そんなつもりじゃ…」
そのくせひと通り怒りが冷めると毎回謝るのだ。ユイの母は、ものを捨てることができなかった。どれだけ娘に強く当たっても、嫌われたくはなく、許してもらおうとしてしまう。
「ユイ… どこにいるの?
痛い思いしてない? 怖い思いしてない?」
「お母さん、私はここにいるよ」
「ユイ… 私の、せい?」
「・・・」
「ごめんなさい、こんなお母さんを…」
許して
ユイに、その言葉を受け入れることはできなかった。
それでも、一人は嫌だ。お母さんにでもいい、自分に気づいてほしかった。だが、それも叶わない。
ユイは泣いた。枯れるまで涙を流し、もう未練はない、といった気持ちで山へと歩き始める。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
忍野は、ハルと共に山へと向かっていく。
「そんな…」
ハルが落胆の声を漏らす。
それもそのはず、山の入口には巨大なお化けが道をふさぎ、その周り、奥にも町とは比べものにならないほどお化けが多い。
「別ルートから行くしかなさそうだね」
忍野は別の方角を指差す。こちらの地下水路を通れば山に入れるだろうというのはすでに調べてあった。
「ハルちゃん、これを持っておくといい」
「これは?」
「お守りだよ」
忍野がそう言って手渡したものは、言葉の通りお守りであり、普通に神社などで売っているようなものと同じ見た目だった。
お守りを渡した後、忍野は再び山の入口の方へ注意を向ける。
疑問が浮かぶ。自問自答しながら考えをまとめていく。
Q.あの入口からの怪異の量は何か異様なのではないか?
A.そうだ
Q.一度あの入口から入って周りを調べるべきだろう?
A.そうだ
「…とはいえ、少しさっきの入り口周りが気になるな」
忍野が呟く
Q.ハルは先に水路から行かせることにして、1度二手に分かれればよいだろう?
A.そうだ
「ハルちゃん、この先の水路を通っていけば山に辿り着くんだが、少しここのお化けたちが気になってね。僕はもう少しここで調べるから先に行っておいてもらえるかい?」
「あ、はい。 わかりました!」
ハルがそういうと、先に子犬が駆け出し、追うようにハルが水路の方へ続いていった。
「…さてと、」
Q.入口から山に入ってみるべきだろう?
A.そうだ
忍野は入口の巨大な怪異を避けつつ山へ足を踏み入れ、怪異を避けながら進んでいく。
Q.崖が見えるあの地点まで行くべきだ
A.・・・そうか?
違和感
どこかおかしい。自分で意思決定し、行動したはずなのにも関わらず思い返せばどの選択も最良といえるものではない。
怪異数が明らかに多いこちらを通るメリットは特に無く、怪異の量が多いとはいえ、調べやあの影の証言から考えてここを調べて元凶につながるということもなさそうだ。さらにはハルを一人にすべきでも無かっただろう。
「…なるほど、こりゃ嵌められたかな」
状況を整理する。
自分の頭で考えて動いていたつもりが、全てあの“山の神”とやらに誘導されていたようだ。まだ山に踏み入っていない上、まさか呼びかけが自分の思考であると思い込ませるほどの力があるとは思っておらず、油断していた。
Q.この崖から飛び下りれば元凶に辿り着けるだろう?
A.いいや、違う
Q.探している子はこの先だろう? …来てあげて
A.いいや、行かない
Q.イッショニキテアゲテ
「いや、遠慮しておくよ」
忍野は、そう言うと一斉に飛びかかってきた蜘蛛の群れを払い除けながら山を一気に下る。おそらくハルと自分を引き離すために向こうから動いてきたのだろうが、かなり時間を稼がれてしまった。
それにしても、山の入口に踏み入れる前からこちらの思考にまで干渉してくるのは想定外。
あの影も生前このような神を研究していたようだし、自分も調査をしているうち、認知を強めていったことで“あれ”も怪異としての力が増したのかもしれない。
あの“お守り”を彼女に渡しておけたのは不幸中の幸いだった。
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ハルは、道中でネズミの死骸に導かれたりしながらも、何とか水路を抜けた。
「ここは…?」
抜けると、少し先に石階段のようなものがあり、上には神社の鳥居が見えた。
ガサガサッ
「なに!?」
草陰から物音がし、ハルが振り返ると、大きい蜘蛛が無数に現れ、ハルを取り囲んでしまった。人間より大きい、というようなサイズではないが、普通の蜘蛛にしてはあり得ない大きさだ。
叫ぶ間もなく、蜘蛛たちはハルに一斉に飛びかかる、
しかし、一匹としてハルに届くことはなかった。
蜘蛛たちは、ハルに届く直前で、止まり、何かに怯えるように後退る。
「…?」
「これって、もしかして…」
ハルは、蜘蛛が襲ってこないのを見て、さっき忍野に貰ったお守りを蜘蛛たちに向けてかざす。
すると、蜘蛛たちは山の方に向きを変え、一目散に逃げていった。
ありがとうございます。そう一言心のなかで呟き、ハルは石階段を登り始めた。
前回投稿後にコロナで寝込んでしまい、治った頃には色々忙しくなっていたので今回の投稿までかなり期間空いてしまいました。ペースはともかく何とか完結まではいきたいと思いますm(_ _)m