夜物語   作:freems3000

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晩景

 

 

 

「神さま…って、どういうことですか!?」

 

 

思いもよらぬ言葉に、ハルとユイは困惑する。

 

 

 

「あー、順を追って話すべきかなこれは。

少し聞くが、君たちがあの山で蜘蛛を退治した後、何か変化が無かったかい?」

 

 

「あっ… 夜にお化けが増えた気がします。動きも活発になったような、」

 

ハルが答える。

確かにあの日以降、不自然にお化けたちが多くなったように感じた。

 

 

「うんうん、そうだねぇ。

実は、そのお化けたちが増えたのは、神さまがいなくなったことが原因なんだよ。」

 

「神さまが…?」

 

 

「本来、あの手のお化けたちはそもそも人間に見えるほど活性化しないんだよ。

この地域は、元々2体の神さまによってバランスを保っていてね、人々から恐れられた悪縁を結ぶ神さまと、人々から信仰を集めた縁切りの神さまがいた。

そのうち一体が人々から忘れ去られ、大きく神性を損なったことでこの地域ではバランスが崩れ、お化けたちが活性化し始めた。」

 

 

「それって…」

 

コトワリさまのことだ。ハルはすぐに理解する。

 

 

「今回の件で、そちらの方はほんの少し神性を取り戻したようだけど、それ以上にもう一体の神が完全に機能停止した影響が大きかったんだよ。」

 

 

つまり、もともとバランスが崩れていたこの地域が、あの大蜘蛛がいなくなったことでさらにバランスを崩し、お化けが増えたということか。

二人は顔をしかめる。

 

 

「まあ君たちが気にすることはないよ。どのみちあの蜘蛛は退治せざるをえないほどの蛮行を働いていたからね。

ただ、バランスが崩れた状態が続くとまた良からぬことが起こりかねない。」

 

 

「それで、ユイを次の神さまにしたい、ってことですか?」

 

 

「その通り!」

 

 

伊豆湖は元気よく答えた。

ふとユイの方を見ると、まだ話についていけていないのか、困り顔をしている。

 

 

「あの、私を神さまに、って、そもそもそんな急に神さまになれるものなのかな?」

 

ユイが不安げにつぶやく。

 

 

「かなり異例ではあるけれど、前例はある。しかもけっこう最近にね。」

 

 

「神さまが必要っていうなら、私じゃなくてもいいんじゃ…」

 

 

「いいや、

 君でいい、むしろ君じゃないとダメなんだよ。」

 

 

「?」

 

 

ハルは、ユイが首を傾げるのを見ながら、もしユイが神さまになったらもう会えなくなるのではないか、という不安が胸に上がってきていた。

 

伊豆湖は話を続ける。

 

 

「神さまの引き継ぎは、無条件に、とはいかなくてね。

前の神様と異なる性質の後任を据えると歪みが生じて結局またバランスが崩れてしまう。

さっき言っていた“前例”では蛇の後継ぎに、蛇に対して相性のいい蝸牛を据えて抑え込む、という形態を取ったがね。

 

つまり、一度あの蜘蛛に利用されて、蜘蛛の性質を得たユイちゃんは適任だというわけだ。」

 

 

「私が、蜘蛛の性質を?」

 

 

「そうだよ。

蜘蛛の性質、糸、縁を結ぶ力。無意識かもしれないが、君は蜘蛛の性質を使って既に君とハルちゃんの縁を結んでいるんだ。

だからハルちゃんにだけ君が見える。」

 

「!!」 

 

 

二人は、驚いたが、確かに話には納得がいく。

しかし、少し引っかかったハルが質問する。

 

「…でも、じゃあ臥煙さんはどうしてユイが見えるんですか?」

 

「あぁ、実は私にもユイちゃんは見えていないし、声も聞こえていないよ。

でも私はユイちゃんがいつどこにいて何と言うか“知っている”。だから問題なく話せる。

まあ今はどうでもいいんだそんなことは。」

 

 

予想の斜め上の答えが帰ってきて二人は呆気にとられた。

普通なら何を言っているんだ、と突き返すところだが、この人の言葉、言いぶりに何故か全く嘘を感じることができなかった。

 

 

「もちろん、あの大蜘蛛のような立ち位置になってもらうってわけじゃなく、新しく神社を建てて、そこで人々から信仰を集める神さまになってもらうつもりさ。

あとついでにもう一体の神さまの神社も人目につく場所に移築するかな。」

 

 

 

コトワリさまの神社を移築するという話に、ハルは少し嬉しい気持ちになる。ただ、ユイがどうなるかが心配だ。

 

 

「あの、神様って、私にもできるような仕事なんですかね…?」

 

 

「問題ないと思うよ。ある程度殺らなきゃいけないことはあるが、基本的に君の尺度で人間の手助けをしてくれたりすればいい。神さまなんてたいてい大ざっぱなものだしね。」

 

 

ユイは少し表情が緩んだように見えた。

 

 

 

 

「あの、…神さまになっても、ハルには会えますか?」

 

 

「っ! ユイ…」

 

 

ユイがこんな質問をしてくれたことに、涙が出そうになる。

わがままかもしれないが、自分もユイと離れたくないと、心から思っている。

 

 

「神さまの形態にもよるかもしれないが、縁結びの神さまだし大丈夫だよ。君が自分とハルちゃんとの縁を結んでいれば見えるし、会える。現に今もそうしているだろう?」

 

二人はホッ、と安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

「ではユイちゃん、私の依頼、受けてくれるかな?」

 

 

 

 

「…はい、わたし、神さまやります!」

 

ユイがゆっくりと答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユイ、ユイ? いる?」

 

 

 

「あっ、ハル! 来てくれたの?」

 

 

あれから数日経ち、あの大蜘蛛の後継ぎの神としてユイを祀る神社が建てられ、同時にコトワリさまの神社も人里近くに移された。

 

 

「会えて良かった〜」

 

 

ハルは大丈夫とは聞いていたものの、実際にまたユイの顔を見ることができて安心する。

 

神さまになったユイは、いつもしていた絆創膏や包帯が外れていたこと以外は普通の人間にしか見えなくて、神さまだというのがまだ不思議な感じがする。

 

 

「それにしても、臥煙さんって何者だったんだろう…」

 

「本当にね…」

 

ユイは、伊豆湖についていって手続きを済ませ、神さまになったが、話が決まってから神社ができるまでがあまりに早すぎる。

しかも、神社ができるという話もすぐに人々に伝わっていた。

 

 

「もしかして、あの人めちゃくちゃ偉い人だったんじゃ…」

 

ユイがウンウン、と頷く。

 

 

 

 

 

 

「ハル、もうすぐ、引っ越しなんだよね」

 

「…うん。」

 

 

そうだ。

ユイにはまだ会える。

 

しかし、結局引っ越しは止められなかった。

 

ユイとずっと一緒には、いられない。

 

 

それでも、ちゃんと伝えよう。

 

あの日、言いかけた言葉を、もう一度。

 

 

「ユイ!」

 

 

「なに、ハル」

 

 

 

 

 

 

「ずっと一緒にはいられないけど、引っ越しても、絶対、ユイにまた会いにいくから!

 

何回も何回も、会いにいく!

 

毎年、毎年、会いにいく!

 

だから、また、一緒に花火見ようね!!」

 

 

 

「ハルっ、…」

 

ユイは、少し顔を下に向けて、涙をこらえる様子を見せたあと、いつもの元気な声で答えてくれた。

 

 

「うん! 絶対だよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ハルは、親友との約束を胸に刻み、街を離れた。

 

 

 

 

 





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