それでも彼女は贖罪を続ける   作:みかん汁

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第1章:国境都市の陰謀論
プロローグ


 間違えたのは何処からだろう。

 

『俺』の全てが始まり、『私』の全てが終わったあの日。

 あの日、あの日から──俺はただ、剣を振り続けた。

 

 理由も、意味も、そこにはなく、残ったのは復讐心と殺意だけ。

 

 だから、全てが終わったその後も……『私』は苦しんでいる。

 苦しみ続けることこそが、多分、俺の贖罪なのだろう。

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃん。着いたよ」

 

 秋の来訪を知らせる、心地の良い風が吹く。

 俺はその風と、知らせを伝える声に目を覚ました。

 

「すまない……少し寝ていたみたいだ」

 

 馬車に揺らされたことで痛む腰をさすりながら立ち上がって、近くに立てかけていたサーベルを手にする。

 その手に馴染む感覚を確かめながら馬車から降りた。

 降りるとすぐ、俺を目的地まで連れてきてくれたおじさんが心配そうに声をかけてくる。

 

「随分とうなされていたけど、大丈夫かい?」

「まぁ……いつものことだから、大丈夫。多分ね」

 

 何とも言い難い笑みを作りながら、周囲を見渡す。

 本来ならば稲が実り始め、少し緑がかった田んぼが果ての先まで見えるはず。

 だが、そこにあったのは戦火によって燃え尽き、カスしか残らない跡地だけだった。

 

 俺はこのような場所を巡って、世界中を旅している。

 その理由を話すと、少し長くなるが……最もわかりやすく言うならば、自分のやってきたことを、この目で見たかったからだ。

 なにもかも燃え落ちたとしても、それでも目に焼けつけておきたかった。

 

「しかしここら辺も酷い有り様だねぇ。先の戦争じゃこの辺、激戦地だったから」

「……元々、この辺は別の土地だった」

「ああ。十年であっという間に変わっちまったけどね」

 

 ……そうだ。

 確か、この辺の田んぼだったはずだ。

『私』の家は。

 

「そもそも国自体が滅んじまったからね。まぁ、それも……必然と言うべきか」

「……」

「そんじゃ、そろそろ行くよ。元気でな、お嬢ちゃん」

「……ああ」

 

 馬車で先への道を進む、その背を見送る。

 そしてもう一度、改めて周囲へと視線を向けた。

 

 ……本当に、なにも残っていない。

 残っているのは焼け焦げた匂い。

 思い浮かぶのは、懐かしい光景だけ。

 

 本当に、なにも、なにもかも──。

 

「ぅ……ぐっ……」

 

 景色を思い出したことに、気分が悪くなって口を押さえる。

 うずくまりながら膝をつくが、気分は悪くなって行くばかり。

 

 そこで俺は、肩掛けのカバンに手を突っ込んで、中から一本の小瓶を取り出す。

 中には緑から赤へ変色を続ける液体が入っている。

 それを開けて、一気に飲み干した。

 

 その瞬間、まるで頭がスッキリしたかのように、気分も良くなって行く。

 

 伴ってきたのは忘却と、焼却であり、つまりそれは──

 それは、多分。

『自身を失う』と言うことなんだろう。

 

 自分が掠れて行くのがよくわかる。

 

「……どうせ、長くない命、だしな」

 

 手に持っていたサーベルを杖代わりにして立ち上がる。

 

 もう一度、かつての記憶を思い出す。

 さっきのように気分が悪くなることはなく、掠れながらも記憶が蘇ってきた。

 

 俺はかつて、この世界の人間ではなかった。

 地球──そう呼ばれる、もう一つの世界。

 そこで男として生きていた。

 

 死因は……もう今となっては思い出せないが。

 ともかく、死んでしまった俺は、気づいた時にはこの世界にいた。

『女の子』として。

 

 女の子として生まれ変わった俺は、今いるこの場所で貴族家の次女として生きていた。

 長女に三女、後兄と弟が何人かいたのを覚えている。

 あの日は、幸せだったな。

 まぁ……ほとんど死んでしまったが。

 

 その理由は革命だった。

 貴族に対する庶民の革命、それによって家族のほとんどは死に絶えた。

 燃え盛る屋敷に、首だけ置かれて。

 

 生き残ったのは俺と妹と、兄と弟が一人ずつ。

 姉は特に酷かった、陵辱の限りを尽くされて、その果てに亡骸を吊るされていたのだから。

 

 そしてそこから俺は、ある傭兵団に拾われた。

 小さな傭兵団だが、大陸では名を轟かせるほどの強さを誇る傭兵団。

 民衆に雇われ、革命を先導した傭兵団に。

 

 団長に『テメェの目で見て、全てを確かめろ』。

 その言葉に惹かれ、いつか奴らを殺すために。

 俺はそれだけを狙って、傭兵団へと入った。

 

 最初は慣れない仕事の連続だった。

 少女だと言うのに、奴らは容赦がない。

 息絶え絶えの人間の『後処理』をさせてきたり、稽古だと言われ剣術を叩き込まれたりした。

 そのおかげで今の今まで、生きてこれたんだが。

 

 それから……何年か経った頃、俺は傭兵団を抜けた。

 団の掟に従い、団長と決闘し、勝利して、俺は傭兵をやめた。

 

 その頃には既に復讐を終えていたこともあり、ほとんど俺は燃え尽きていたからだ。

 いや、それは今も、か。

 

 とにかく燃え尽きた俺は、それから仕事や復讐に巻き込んだものを見ておきたくて。

 こうして、世界中を回っている。

 

 ……だが、ここにこうやって戻ってきたのは初めてだ。

 長い、長い旅だったな。

 

「……ただいま」

 

 一言だけ、そう呟いた俺は、その景色に背を向ける。

 そして道なりに進んで、その先に見える街へと向かって、歩き出したのだった。

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