小説の林堂 三次創作 小説 「ソードアート・オンライン ──The adventure persons of virtual world──」 作:イバ・ヨシアキ
イバ・ヨシアキです。
……すっかり遅れてしまいました……
本当に申し訳ありません。
まさかこんなに遅れてしまうとは、自分の執筆の遅さを本当にどうにかせねば。
この作品をお気に入り登録された方々本当にお待たせいたしました。
次は必ず2月に!
今度こそは……では、本編です。
フレイズマル城の跡地最下層。
フィールド・ボス・フロア入り口の大門前にても、せめぎ合いたる剣戟の音は響いていた。
赤い甲冑に和装に身を包んだ紅のバンダナと、どこか癖のある尖った髪型をし、兄貴分のような雰囲気を持つもどこかだらしなさそうな無精髭の男──クラインは、ハーケンを持つ二体のマリオネット兵に対峙し、必死の斬り合いを続けていた。
「うぉりゃあ!」
懐に入り込み、マリオネット兵の胴に渾身の斬撃を食らわせ、再度繰り出される反撃を予期し、数歩ほど距離をとりながら二体目の振り下ろされたハーケンの連撃を避けていく。
「とっと! おぉ!」
首、胸、手脚を狙う曲線の刃を避け、途中頬をかすめ、腕や脚を斬り落とそうとする人形の殺意から逃れようと必死に身体を動かし避けていく.。
緊張なのか、それとも向けられた無機質な殺意に対する恐怖なのか解らないが、全身を濡らすほどの汗を激しく流し、身を激しく動かしながらハーケンの反撃を避け、敵との距離を取る為に懸命に身体を動かす。
普通なら颯爽と避け、途中反撃をくらわすような恰好の良い戦いを望みたいが、実際はそうはいかない。
あいつとあの人ならと、自分よりも格好良く戦えるだろうと、この廃城のどこかで戦っているだろうキリトとキリュウの事を考えてしまう。
キリトなら、こんなハーケンに怯むことなく避けながら、その間に二体のマリオネット兵なんてすぐに片づけてしまうだろう。
キリュウさんも同じように、いやもしかしてあの時みたく素手で二体を倒してしまえそうな気がする。
それなのになんて自分は何のとりえのないただの人間なんだろうと、改めてあの二人の強さに憧れている自分がいた。
半年前までは普通に会社に通い、満員電車に揺られ、バスに乗りながら、時たま社用車を運転し、取引先や上司に頭を下げ、毎日をせわしなく動き、空いた休みにはゲームやビールを飲み、ただの一介な社会の雑踏にもまれていた一人のサラリーマンとして、なんの変哲のない生活をしていた筈だった自分。
今はこうして、赤い和甲冑を着込み、刀を持って無機質な透明な人形と殺し合いをしている現実は虚構ではない、本当の殺し合いだった。
命がけの殺し合いにいまだに慣れず、どこか怯えながらも必死に剣を振るい戦う自分とは違い、疲れを知らぬマリオネット兵には差があった。
相手は死ぬ事を恐れていない。
なのに自分はいまだにどこかで怖いと思う気持ちが剣を鈍らせている。
現在のレベルに余裕のあるにもかかわらず、マリオネット兵二人を相手取るなら大した問題ではないにも関わらず、相手の持つ武器に恐怖していた自分がいた。
クリティカル率の高い斬撃系武器大鎌──『ハーケン』を装備している二体のマリオネット兵、油断など論外。
しかし今のこの自分の中に張りつめる余裕のなさはいったい何だ。
いや、余裕がないのは解っている。
もしあの武器──ハーケンのクリティカルを一発でも食らえば、相当なダメージになる。まして相手は二体。
もし、もしも二人掛かりで喰らえばHPの全損は決定的だった。
確実に一閃を入れ、自分に与えられるダメージを極力減らして戦わなければと、どこかで恐怖が生まれている。
無論、もっと、踏み込めるのではと、焦る気持ちがある。
攻めと、守り、ざわめく心痛の中でもせめぎ合いはあり、それが焦りとなって、今のクラインの余裕を奪っていた。
でも今はその気持ちを押さえなければいけない。
なのにHPにはまだ余裕があるにもかかわらず、どこか自分の中では焦りと恐怖が混濁し、冷静な判断を鈍らせている。
(……駄目だ。こんなんじゃ、あいつに会わす顔がないな)
ふと脳裏に自分より年下の黒髪の少年──キリトと、その隣に何時も付き添う栗色の髪の美少女──アスナと、その二人を守るように戦う、眼光の鋭きあの男──キリュウの事を思い出し、
(……やっぱ、あの人のようにはいかねえかなぁ)
できれば、キリュウさんみたくあの二人を守る立場に立ちたかったが、今の自分にはそんな事はできはしない。
キリュウさんとくらべても、自分ではあの人の足元にも及ばないだろう。
あの三人はこのデス・ゲームにとって唯一の希望だと、身勝手ではあるが、ゲームクリアの希望を抱いているのは間違いない事実だ。
百層に連なるこの城を攻略できる可能性があの少年と少女、そしてあの人ならと、今日までこの絶望的な状況を何とかしてくれると、自分を今日まで奮い立たせてくれているのは、あの三人のおかげだった。
でも、あんな子どもに自分の命と解放の希望を背負わせてしまう罪悪感と、その二人を守る役目をあの人に任せている自分の頼りなさに、どこかやるせない思いがあるのは事実。
だったらいま、ここで焦るな。
目の前の事に集中しろ。
俺のできることを今するしかないだろうと、クラインは思い出す。
あの日。
デス・ゲームの宣言がなされた日から、クラインは懸命にゲーム仲間達を率いて戦っていた。
途中、紆余曲折の果てに一人の団員──シナガワを得て、7人のギルドへと成長したが、攻略組としてはまだ不安要素のあるギルドだった。
現に、今自分がこの25層のフィールド・ボスのエリアに連れ込めるメンバーは7人中、自分を含め四人だった。
四人。
戦力としてはあまりにも頼りないが、実際問題、レベルの足りていないメンバーを連れていくのは自殺行為に等しい。
今、前戦で活躍するキリト達に追い付くにはもっと頑張らなければと焦りもあるが、あの日、自分は仲間を引っ張ってこのゲームをクリアすると誓った。
絶対に仲間を守って、生きてこのゲームをクリアしてやると決意し、自分を奮い立たせ、仲間を鼓舞し、誰一人欠けさせることなく戦い抜いてきた。
結果、風林火山をギルドとして立ち上げるまでに至り、アインクラッド解放軍、青竜連合、血盟騎士団、新撰組、黒衣衆など、ここ半年の間でトップの攻略メンバーにまで成長していったが、連なるその攻略ギルドの中でも風林火山は黒衣衆、新撰組の次にメンバーが少ないギルドだった。
自分は、はたしてキリト達に追い付けるのだろうのかと、どこか焦りが生まれ、剣に迷いが生じている事に、クラインは雑念を払い、目の前の戦いに意識を向ける。
あいつに追いつくなんて考えるな。
あいつは大切な彼女を守るために、強くなったんだ。
守るべき者を抱え込み、互いに戦いあうそんなあいつを どうしても助けてやりたい、追いついてやりたいと、思っているんだろう。
だったら──追いついてやらないとな。
そう、自分を奮い立たせながら再び刀を向けようとすると、メールが飛び込んでくる。
戦闘中にメールがと思うが、それは確認をする必要のない合図だった。
「リーダー! メールが届きましたよ!」
「ああ、キリト達がやりやがった。鍵が手に入ったぞ!」
それはキリュウ・キリト・アスナ組のフィールド・ボスの部屋のカギを入手の合図だった。クライン率いるギルド・風林火山組の面々へとメールが送られ、
「よっしゃあ!」
クラインの声に風林火山のメンバーは、
「やった。これでフィールド・ボスと戦えますね」
風林火山メンバーの証であるバンダナを帽子みたく頭に巻く小太りの男が言い、
「戦った後は、フロアボス戦。これで25層を攻略できる!」
「喜ぶ前に、今はこいつらをどうにかしなきゃいけねえけどよ」
クラインの声に、再び緊張が戻る。
そう今は浮かれている場合ではない。
ギルドリーダーのクラインを筆頭に、廃城の広間へと通ずる通路にて、数にして計八名のマリオネット兵との戦闘は続いていた。
クライン率いる今の風林火山のメンバーは4人。残りの3人は今、
他の層でレベル上げに勤しんでいる。レベルが足りないというわけでもないが、現在25層のフィールド・ボス戦に対応できるレベルメンバーとしては、心もとないレベルで連れてくるわけにはいかなかった。
3人はまだレベルが40を超えてはいない。
無論、あいつらが命のやり取りである戦闘に怖気づき、レベル上げをサボり、攻略を侮っていたとは思うつもりは毛頭ない。
クライン自身でも、今のこの現状には辟易しているのだ。
まして25層において、50以上のレベルが必要だとは誰も思う筈もなく、情報を知るベータ・テスターの情報ですら、もうここまで来たら役に立つかどうか怪しいほど、現在のゲーム内の情報はベータ前以上の困難な内容になっていた。
レベル50以上がないと25層のフィールドModすら手強く、下手をすればHP全損の憂き目にもあいかねない程、現状は困難を極めていたのだ。
あの攻略組で有名なアインクラッド解放軍や青竜連合、血盟騎士団ですら10人ほどの1チームを組み、フィールドでのレベル上げにいそしまなければいけない程に、25層の現状は混沌としていた。
今のクラインを始め、風林火山メンバー達はすでに50を超えてはいるが、安易な戦いができないのが現状だ。
50以下のレベルでもし25層に訪れてしまえば、苦戦は必至だった。
40レベルの後半にいてもフィールドのModすら一人で倒すのは困難で、50レベル前半でようやくに安定した戦闘ができるが、それでももしクリティカル率の高いModに出会ってしまったら、間違いなくと、その危険もあった。
階層を跨ぐ度により多くのレベル。
より強力な武器。
より鉄壁な防御。
より精強なスキルと、必要な問題が増えだしていくのが今のこの攻略の全てだった。
果てのないようなこの湧き出す問題に対応できる攻略者は限られ、ましてこの半年で攻略組が少しずつ減り続けている問題も出始めている。
もし。
もしもだ。
この25層のフロア・ボス戦において何らかの被害が出て、多数の攻略組から犠牲者が出るようなことがあれば、このゲームの攻略を断念するプレイヤーがさらに加速される可能性があると、この廃城に入る前にキリトがキリュウとアスナに言っていたことを思いだす。
自分はその話に入ってはいなかったが、かすかに聞こえたその会話の重さは十分に理解できていた。
キリトがあの二人にだけ、その不安を相談していたのも、変にあの二人を気負わせよとはせずに、互いに支え合う為に告げていた言葉だからこそ、発したものなんだろうと、クラインは察していた。
もし、自分が言われていればと、どう答えてしまうのかと考えてしまう中で──
「遼太郎くん! 前!」
「ん……あ!」
打撃系武器であるメイスを持ったマリオネット兵が、背後からクラインにそのメイスを力任せに振り下ろそうとしていた。
スキルの発動は見えないが、もし喰らえば致命的なダメージなってしまう。
刀で受け止めるかと、空いた手を盾に防ぐか、その二択に迫られる中で、
「伏せて!」
第三の選択肢を投げかけられ、その言葉のままに、クラインは地面に伏せる──否、転がった。
刹那。
だんっと、勢い良く投げ込まれた手裏剣がメイスを持ち上げたマリオネット兵の喉に刺さり、一瞬の隙を生む。
その隙を、
「いまだ、遼太郎くん!」
好機と訴えてくる仲間の声に、
「おい、今はクラインだって、言っているだろう!」
横薙ぎにマリオネット兵の胸を一閃し、四散させる。
「ああ、ごめん。つい」
「……とりあえず、ありがとうよ、シナダ」
「いいってさ。おっと」
と、気さくに笑う男──シナダは自分の相手するマリオネット兵の突き出される槍を避けながらに答えた。
少しだらしなく見え、ひょうきん者な顔立ちをし、性格も無頓着に無神経と一見良いところが何も無いように思えるが、性格はいたって真面目で飾るところはないと、クラインは知っていた。
だらしなく見えてもその筋骨と体躯は逞しく、現役のプロ野球選手として鍛え上げられた身体を持つシナダにクラインは奇妙な縁を感じていた。
まさかこのゲームの中であいつに会うなんてな、と。
昔、高校時代の同級生だったシナダこと品田辰雄がまさか自分と同じゲームをしていたなんてと、偶然出会ったあの日以来、どこか奇妙な縁を感じていた。
久しぶりに出会い、どう言葉を交わせばいいかと悩むこちらの気持ちなど構わずに、シナダは気さくに、高校時代のノリで『遼太郎くん』と、相も変わらずの呼びっぷりに、何も変わらないなと呆れ、その後流れるようにクエストを攻略し、その後の紆余曲折の後、シナガワが風林火山に入ると言ったときは、相変わらずのマイペースっぷりで、何も変わっていない高校生の頃と同じままで、それでいて妙な穏やかさがあるままだと、相も変わらずのキャラクターに、クラインは心底呆れてしまっていたが、どこか安堵するものもあった。
甲子園に行き、活躍し、見事優勝を果たし、ドラフトでプロ野球選手になるほどの有名人にもかかわらず、あの頃と何も変わらない、この世界に閉じ込められてもなお、自分を自分として押し通せる奴だからこそ、現実世界で成功できたんだなと、クラインは今更ながらにこのシナダの凄さにも憧れを抱いていた。
そういえば、同じ堂島も今は現実で何をしているんだろうか?
他校の生徒との傷害で高校を退学し、風の噂を聞けば家業を継いだと聞いてはいるが、まさかあいつもこのゲームにいたらと考えるが、それはないだろうと、その考えを払拭した。
あいつがあんまりゲームに興味がない真面目な奴だったからなと、既に遠くなった現実の頃の事を思い出しながら、もし生きて戻れたら、久しぶりにあいつに連絡を取ってみるかと、何気に考えてみた。
まあ神室町で自営業をしていると言っていたから、堂島で調べてみたら見つかるかもなと、そういえば実家の電話番号をまだ持っていたかなと、色々と思考を働かせて行く中で、焦っていた気持ちが落ち着いていたことに気づく。
先程まで自分にあった先行きの見えない不安に、もし今ここで自分のギルドのメンバーが死んでしまったらと、恐怖を抱き焦っていた自分が落ち着いていることに気づいていた。
……馬鹿、余計なことを考えるな。
……今の現実を見ろよ。
……今ここで戦う俺がこんなんでどうすんだよ。
と、シナダの余裕に自然と救われていたことに、何か納得いかないところがあるが、今は目の前の戦いに集中しろと、意識を眼前のマリオネット兵に向けた。
ましてデス・ゲームと化したこの仮想世界で死ぬことは、本当の死を意味しているのだから。
自分を叱咤するように、
「おい、絶対死ぬんじゃねーぞ! てめーら!」
「それはリーダーだって同じでしょ!」
「ノッポおめえ!」
小太りの体系をしながらも、俊敏に動き、マリオネット兵を翻弄していた──ノッポは突っ込みするかのように、
「お願いだから無茶は辞めてくださいよ!」
「そうそう、一番無茶をするのはリーダーなんすっから!」
赤い頭巾にチョビ髭を生やした男性──オヤカタも、同じように言い、続くようにして、
「じゃあみんなで無茶せず頑張って生き残りましょうよ! それに無茶しちゃったらカノンちゃんが泣いちゃうよ」
「う、うるへー、しっかり気合い入れていくぞてめーら!」
シナダの一言に照れて動揺しながらも、ハーケンを振り回しながら向かってくるマリオネット兵二人に、クラインは正面から斬りかかる。シナダの何気ない一言が、身に沸いていた緊張をほぐしてくれたおかげか、強張った動作はなく、抜刀を流動させる自然な流れで、
「てりゃあああぁぁぁっ!」
初期型刀系ソードスキル《残刃》を繰り出す。
クラインの持つ刀──打刀《洞爺》の刀身が光り、袈裟懸けの一線が一体目のマリオネット兵の横腹を斬りつけ、逆袈裟の一撃が二体目の胴を薙ぎ払う。
ソードスキル・システムのおかげか、普通なら行えない剣術動作をなれた動作で行い、まるで自分の中で長年培ったような剣技を繰り出すことに、もう違和感はなかった。
まるで昔からずっと剣をふるっていたような感覚にさせてしまうこのシステムに、すでにクラインはなれてしまっていた。
最初の頃はソードスキル発動を失敗し、硬直などの失敗で難儀しながらにも必死にソードスキルや戦闘方法になれるために頑張っていたが、この半年ですでに自然と使いこなせるほどに、練度が上がっていたが、いまだどこか緩慢なところがあるせいか、途中、マリオネット兵によるハーケンが一撃、二撃と繰り出され、クラインの肩と頬を数回ほど斬りつけられた。
連携し、交差するようにして一閃を抜き通ると再度距離をとり、クラインは息を整え、中段に刀を構え、相手の出方を待つ。
このフレイズマル城跡地に生息するマリオネット兵は人型のパペット系モンスターだった。無機質な半透明のボディは決して脆くは無く、その防御力は高い。そして攻撃性の高い『鎌』や『斧』などを装備し、シークレット・レア・ウェポンである『弓』を扱う事のできる厄介な敵でもある。
レベル51を超えたクラインでも、やや手こずるモンスターであり、厄介な防御力が戦闘を長引かせてもいる。
斬りつけたマリオネット兵二体のHP残量全てを減らすことはできず、赤線ぎりぎりまで減らすことができなかった。
「チッ!」
舌打ちながら二撃目を繰り出そうと刀を構える──刹那。頭部にめがけられて放たれた矢が頬をかすめ、体勢を崩してしまう。瓦礫まみれの床に尻餅をつき、頬に裂けたエフェクトが不快感を与える中、矢の飛んできた方向に視線をやると、瓦礫の山の上から弓を構えたマリオネット兵がクラインに狙いをつけていた。
弦を離し、矢をクラインへと放とうとするその動作は、無機質ながらも冷血な殺意に満ちていた。
再度、ニ撃目の矢が放たれようとしていた瞬間。
クラインは反射的に目を瞑ろうとするも、すぐに驚きに見開いてしまう。
「あぁ……」
自分に弓を射ぬこうとしていたマリオネット兵の胴から白刃が突き出され、一撃でマリオネット兵のHPを全損させてしまった。一閃の元に貫かれたマリオネットは力なく四肢をだらんと垂らし、いましがた自分を殺そうとしていた弓矢を落とし、そのままパリンと四散する。
砕け散るポリゴンに身を輝かせながら細い剣身を振りおろし、瓦礫の山から急いで傍に駆け寄ってくる腰まで伸ばした黒髪を揺らす美少女は、
「クラインさん、大丈夫ですか?」
「ああ、カノンさん……その、助かりました……」
駆け寄り、自分を気遣ってくれる美少女にクラインは情けないなと自分の至らなさに痛感してしまう。ましてほのかに恋い焦がれている自分よりも年下の彼女に助けられるなんてと、男として頼りがないなとうなだれる中、
「敵、きます。クラインさんは右を、私は左の敵を打ちます!」
うなだれる間もなくに、マリオネット兵の追撃にカノンが反応し、クラインもその後に続くように、
「せぇい!」
左の敵に意識を集中し、掴みなおした《洞爺》を構え、斬撃強化方ソードスキル──光破を操出し、マリオネット兵の腰を一刀一閃で両断し、塵へと変える。
その動作の後に続くように、カノンが右側からハーケンを振り下ろそうとしていたマリオネット兵の喉を高速刺突攻撃型スキル──《ワン・ポイント・レイン》を発動させ、高速化した細剣の刃をマリオネットの無表情な眉間に突き立て、その刺突の勢いに頭部が引きちぎれ、ボトリとマリオネット兵の頭部が落ちる。
互いの背を預けるようにして両敵を屠り、マリオネット兵の消滅を確認し、その二人に続くように残りのメンバー達も、
「おりゃあ!」
ノッポの刃が斧を持つマリオネットを胴を一刀のもとで薙ぎ払い四散させ、
「どりゃあ!」
つば競り合うメイスを力で押し上げ払い除け、距離を数歩ほどとりオヤカタは、投擲スキルを使い、手裏剣を二発、マリオネット兵の頭部、胴に撃ち込み破損させ、
「あらよっと!」
シナダの野球のフルスイングの要領で振り下ろされた打刀の一撃がマリオネット兵の胴を両断し、空中に弧線を描かせながら切り落とされたマリオネットの上半身が地面に落ち、そのままゴロゴロと転がり、砕け散らせた。
クラインに負けず劣らない、風林火山の主力メンバー3人の戦闘動作には一分のムラはなかった。
「こっちも終わりましたよリーダー」
ノッポがクラインを見て手を振り、
「リーダーは大丈夫ですか?」
「ああ、見ての通りだ」
オヤカタの声に、手を振って応えるクライン。
「シナダも大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。りょ……じゃなくてクライン君も大丈夫かい」
「ああ、なんとかな……カノンさんに助太刀してもらって命拾いしたよ」
気楽に手を振りながら強がるクライン。
実際その場に座り込みたいほどに疲弊していたが、ギルドリーダーとしての意地で、何とか立ち上がってはいたが、疲労の色は消せずにいた。
「ほんとに、ありがとうございましたカノンさん……助けてもらえなかったら、今頃どうなっていたか……」
「私の力なんて大したことありません。クラインさんの仲間達のおかげです」
「仲間か……」
飾らないカノンの言葉に、クラインは少し照れながら、、
「いやいや腐れ縁の続く連中なだけですよ」
と、笑うクライン。
すると、
「イチャついているところ悪いんですけど──」
「ば、馬鹿言ってんじゃねーぞ! イチャついて──」
「また新手がきますよお二人さん!」
打刀を片手に再度出現するマリオネット兵に刀を構えるシナガワの声に、クライン、カノンがシナダが指し示す方向に視線を流すと、新たに出現するマリオネット兵の姿を確認する。
獲物は槍にロングソードと数にして5体。
「くそ、またかよ」
クラインが刀を再び構えるも、
「大丈夫……後は、あの二人に任せてください」
「二人?」
刀を握るクラインの手をそっと触れ、構えを解くように微笑むと、
「いたいたカノンさん、追いつきましたよ!」
薄い黒髪を首筋に束ねた、無邪気かつも子どもらしい表情を持ち、黒い軽装型の鎧と黒の陣羽織を身にまとった、さながら少年剣士といった雰囲気の少年──ヴァルが跳躍し、マリオネット兵の後方から薙刀──『清瀧霽月刀』を振り上げ、一刀両断にマリオネット兵を斬り裂く。
「俺もいるぜっ!」
ヴァルの隣から黒のジャケットにマントといった、一見すれば暗い雰囲気のあるも、切りそろえた茶髪をオールバックに纏め、その上からヘアバンドをし、顔は精悍かつも性格は真面目かつ時折冗談などで場を和やかす心持を持つ容姿を持つ年上で、黒衣衆の副リーダーを務める少年──ハクヤは、大鎌『ブレイブ・リッパー』振り下ろし、二体のマリオネット兵を両断し、
「あら、よっとぉお!」
繰り出した斬撃の勢いに遠心力をつけるように『ブレイブ・リッパー』を振り回し、大鎌系武器のスキル──6連撃を目標に刻み込むデット・オールを発動させ、大鎌の5連撃で最初のマリオネット兵を手足や身体の全てをバラバラに刻み込み、クリティカル率の高い最後の一撃を最後のマリオネット兵の脳天に振り下ろし、真っ二つに両断する。
ガラス細工のように砕け散り、消滅したマリオネット兵達。
再びリポップされるような雰囲気もなく、完全に制圧したとクラインをはじめとする全員が警戒を解いた。
「ふぅ、やっと片付いたかぁ。お疲れさん二人とも」
と、気を抜くシナダ。
「ありがとうよ。ヴァル、ハクヤ。助かったぜ。それにしても相変わらず、すごい攻撃だな」
クラインが礼を言い、今の戦闘に忌憚のない賛辞を述べた。
「へへ、そんなことないさ」
気さくにハクヤが笑い、
「相手の隙をついて叩き込んだだけですよ」
と、ヴァルが子どもらしくはにかむ様に言う。
「相手の隙ね……」
相手の隙をついて攻撃を叩き込むとは、やけに簡単に言ってくれるなとクラインは、キリト率いる黒衣衆のその発言にほとほと驚嘆していた。
──バックアタック。
と、言われる強襲攻撃方法を簡単にやってのける二人の今の練度の高さに、クラインは素直に驚いていた。
フィールドにポップされたModに存在を気づかれずに攻撃を食らわせることは、隠蔽スキルと隠密スキルのほかに速度系の高スキルがいくつか必要不可欠になる。
相手の行動動作を見極め、その隙を突き、確実に致命的な一撃を与える事、それがバックアタックの基本である。
ゲーム開始の最初の頃。
第1層のフィールドではよく使われていた戦法だった。安全にレベルを上げるならこの戦法は望ましいが、第2層からはこの戦法は難しくなってしまい、今では高レベルプレイヤーのみの戦法として使われるようになっていた。
まして、バッグアタックの初撃で確実に敵を倒すことは難しい。
ましてここはフィールド・ボスのエリア内。
徘徊するパペット系Modであるマリオネット兵の警戒力は常に強く、この朽ち果てた城の侵入者発見を第一とし、索敵力は相当に高い。
現に、物音をたてずにそっと忍び寄っても、わずかな息遣いすら察知し気づいてしまうほどにその警戒力は高かった。
クラインたちも多少の隠蔽、隠密、速度などを上げてはいるが、レベル50であげられる限界の一般的なレベルでも簡単に発見されてしまうほどに、それは難しい技術だった。
まして一撃で相手を屠るバックアタックを成功させるのは、今の段階では不可能に近い。
まあ、レベルを上げてスキル値を上げれば確かにできないことはないのかもしれないが、それができるのはあくまでもフィールド内を徘徊している一般のモンスターレベルなら可能かもしれないが、フィールド・ボスのエリア内であるここでそれを行うなんてと、相も変わらずの黒衣衆のメンバーの凄さには驚くしかなかった。
外敵者を倒すように警戒しているModの索敵力は凄まじく、物音ひとつでさえ発見されるにもかかわらず、それを難なくに熟し、バックアタックを敢行し、そのまま倒してしまうなんてと、クラインは黒衣衆の相変わらずの凄さに感嘆した。
自分も最初の頃は右も左もわからないただの初心者だったが、ベーターテスターだったキリトに教えを乞い、初期的な操作方法を覚えたあの時、今ながらに思えばすごい人物に教えを乞うたものだと思う。
最初の頃は、第一層の初期型Modのフレンジーボアにすら手こずっていたが、キリトの的確なアドバイスおかげで基本を覚えれたのは、自分のとっては幸運だったのかもしれない。
もしキリトに何も教わらずに、一人でフィールドに出ていたのなら、間違いなくHPをとうの昔に全損させ、既に死んでいた。
あのデス・ゲーム宣言からキリトと離れ、ひたすらに自分の仲間たちと共にキリトの教えてくれた情報と戦闘方法をもとにレベルアップをし、生き残ることに必死だった。
ゲーム開始一週間後に救出隊がゲーム内に訪れた時も、決して安堵はせずに手探りで実践し続け、第一層においては必死にレベル上げを行い続けた。
そして救出隊との共同攻略戦に参加し、フロア・ボス「イルファング・ザ・コボルド・ロード」の攻略戦に挑んだが、自分と仲間達だけでは、あのボスの攻略なんてできはしなかった。
キリト、アスナ、キリュウ、マジマのあの見事な連携攻撃がなければ……また、黒衣衆やミネやリュウジ達の助力がなければ、今こうして立っている事すら怪しくて仕方がない。
いや、すでにこのゲームから、この世からログアウトしていた。
あの時の自分は、あのフロア・ボスに圧倒され、何もできないでいた。
目の前で救出隊のプレイヤーが蹴散らされ、HP全損で何人かが散らされたのを見て、このまま殺されてしまうのかと、諦めようとしていた。
なのに自分よりもレベルの低いキリュウが決死の突破口を開き、それに続くようにキリトとアスナが連携を駆使し、それでようやくに奮い立ちながらリポップされた取り巻きのコボルド・ナイトに立ち向かえたのは、あの三人のおかげだった。
ボスを倒した時、心無いプレイヤーからの叱責すらものともせずに、今もなお戦い続けることのできるキリトとキリュウの心持と、それに見合う仲間達。
黒衣衆の全員がもとベーターテスターの集まりで、それだけ戦闘に特化していたスキルを有しているということになると、それだけの戦闘を繰り返していたのかと考えてみたら、追いつくまでにはまだ大分かかるなと、目標としている相手の凄さを改めて思い知ってしまう。
「……ほんと、がんばねーとなぁ」
「ん? どうしたのクラインさん?」
「あ、いや、あ、ところでハクヤよ。キリュウさんからのメールはみたか?」
自分の何気ないつぶやきを聴いたのか、クラインは誤魔化すように訊ね、
「ああ、確認したぜ。キリトの奴は相変わらず当たり運つえーよな。まさか三つのカギを全部手にいれられるなんてよ」
「さすがはキリトさんですよね」
ハクヤの後、ヴァルも同じように言う。
そして、
「まったく、最後のカギはこっちが手に入れるはずだったのに、あっちに当たっちまうなんて、ほんと運がいよキリトの奴はよ」
強がるようにクラインは言うが、実際もしキリト達が相手にしたModを、自分たちが相手にしたら勝つことはできないなと、何気に笑い、ウィンドウ画面をだし、ステータスをチェックするクライン。
「それに、昔に比べてけっこう丸くなりましたよね彼」
ふふと、笑うカノンの声を後に、
「……それって、やっぱりアスナさんのおかげなのかな?」
と、ヴァルの問いかけに、
「ええ、アスナさんと出会ってからのキリト君はだいぶ変ったように見えるわ」
「あれは間違いなく……だな?」
「間違いなく……あ! なるほど」
カノンの一声に、ハクヤの一言にヴァルは察したかのように声を上げ、妙に盛り上がりだす。
その盛り上がりにクラインは、
「な、なんだよ……あいつ何かあったのか?」
経験値とコルを確認していたせいかよく聞こえていなかったので尋ねるが、
「……ま、色々ですよ。とりあえず、ゆっくり待って英気でも養っておきましょうよ」
ハクヤは近場の瓦礫の山に腰をおろし、背をもたれさせる。
「キリトさんがか……だからか……はは」
楽しそうに笑うヴァル。
「な、なんだよ? いったいどうしたんだよ?」
「それは内緒です。はい、クラインさん」
「あ、どうもありがとうございます!」
カノンからポーションを手渡され、どぎまぎとするクライン。
それを見てハクヤが、
「……やれやれ」
と、ウィンドウを操作し、回復薬を選択し、ポーションをアイテムとして出した。
ヴァルも同じようにポーションを飲み、先程までの戦闘が嘘のように、どこかのんびりとした雰囲気に包まれていた。
ノッポにオヤカタ、シナダも近場の瓦礫に腰かけ、ポーションや経験値にステータス確認を行っていた。生死のやり取りをしていた場の雰囲気を和ませてくれたキリトの仲間たちの穏やかさに、やっぱりキリトの仲間だなと、クラインは再認識した。
「キリトにはだいぶ差をつけられちまったな……こっちもがんばねーと」
ぐびっとレモン水のような味を感じることはできる回復薬ポーションを飲みながら、独りごちるが、
「クラインさんも今の時点で十分なレベルなんですから、キリトさんとそんなに大差はありませんよ」
カノンから言葉に思わずクラインはポーションを吹きだしてしまい、
「カ、カノンさんにそう言ってもらえると光栄です。はい」
どんな偏屈な男でも懐柔してしまう優しい笑顔を向けられ、あたふたとするクライン。6人と勢揃うクラインと同じような出で立ちをした面々は、
「あーあ、また鼻伸ばしてるよ。カノンさん、気をつけなきゃ襲われますよ」
「甘やかしちゃ駄目ですよ。ただでさえウチのリーダー調子乗りなんですから」
と、オヤカタにノッポが言い、
「リアルで彼女いないのがモロばれです、だらしないですよ。ただでもだらしないのに」
「キリトさんと比べたら勝てるわけないでしょ」
「てめえぇらぁ!」
畳み込む様に言うノッポとオヤカタに顔を真っ赤にしてクラインはポーション瓶を投げつけ、逃げだし散らばる二人に向かって、
「少しはリーダーに敬意を持ちやがれぇ!」
叫びクラインは追いかける。そんな彼を見て微笑むカノン。
「照れたらダメですってリーダー!」
「カノンさんにバレちゃいますよ!」
「いっやかましぃ! だまりやがれぇ!」
近くに落ちていた小さな瓦礫を掴み投げるも外れてしまい、
「投擲スキルのレベル上げたほうがいいですよリーダー!」
ノッポの声に、
「そうそう。リーダーは投擲レベルを上げた方が良いですよ」
オヤカタもそろって言う。
「そうかよ……でもなぁ! 素早さはこっちが上だぞ、こらあぁ!」
走り追いかけるクラインに逃げる二人と、少し騒がしい雰囲気だが、
「クラインさん頑張れー」
と、ヴァルが応援し、
「しっかり逃げろよ二人とも」
と、ハクヤが逃げる二人を応援する。
「ほんと元気だな、みんなは」
シナダはのんびりとその光景を眺める。
やんややんやと騒がしい中、
「お前たち、にぎやかだな」
と、誠一文字の蒼の陣羽織と和甲冑で身を固めるキリュウが姿を現して、今のこの盛況っぷりに感想を言い、
「あ、キリュウさん! お疲れ様です!」
ピタッと逃げる二人を追いかけるのを止め、ビシッとまっすぐに姿勢を正して頭を下げるクライン。それに並ぶようにノッポとオヤカタも姿勢を正して、
「キリュウさんお疲れさまです!」
「キーアイテム入手ありがとうございました!」
まるでヤクザの舎弟みたく礼儀正しく頭を下げる二人。
クラインとの対応とは天と地のほどの差があったが、クラインは別に気にした様子もなく、当然のように頭を下げ、
「本当にお疲れさんでした!」
深々と頭を下げるクライン。
それを見てキリュウは、
「おい……その返事の仕方はよしてくれ。それにこれは俺だけの成果じゃない」
やれやれと少し困った表情をしながら後ろに視線をやると、暗がりの中に二人の影が浮かんでくる。
光に照らされ影が拭われると一人は、
「よ、クライン。大丈夫そうだな」
キリュウの後ろから、気楽な声を上げてキリトが手を上げ言葉を交わし、クラインはいつもの慣れ親しんだ声音で、
「おめーこそ。キリュウさんに迷惑をかけちゃいねーだろうな?」
「それはどうかな」
と、いつも通りの冗談を交し合う。
そのキリトの後ろからひょこっと顔を出すように、
「お疲れ様みんな」
ケープから顔をだしたアスナの笑顔がみんなを労う。
「アスナちゃん。お疲れ様」
「あ、カノンさん。お疲れ様です」
アスナがカノンに声をかける中で、ささっと立ち上がったハクヤがキリトに近づき、
「キリト。やったな!」
「キリトさん、すごいです」
ヴァルと共にキリト達の活躍を讃える。
「鍵を全部手に入れるなんて、ホントすげーよお前は!」
「へへ、ありがとな」
屈託なく笑うキリト。
「でも三つも同時に手にいれるなんて、ほんと、ツイてるよな。お前」
ハクヤの言葉に、
「どんな敵が持っていたんですか?」
と、子どもらしく興味ありげにヴァルが訪ね、
「ああ、馬系のModだった。攻撃力と防御力が20層のフロアボス並みだったけど、キリュウさんとアスナのおかげで助かったよ。現にトドメはアスナのソード・スキルの一撃だったしな」
と、アスナの活躍を隠さずに言うキリトの声に、
「そ、そんなことないよ。キ、キリト君の最初の攻撃とキリュウさんのオリジナル・ソードスキルのおかげだよ。ラストアタック経験値も沢山手に入ったし、二人に助けてもらっただけだし、私なんて……二人についていくのがやっとだったし……」
「アスナは十分強いさ、自信を持てよ」
「ん……あ、ありがとう」
顔を真っ赤に照れるアスナ。
何やらむずむずとする甘い空間にキリュウはまたかと頭を掻きながら、とりあえず他の奴らはまだかと、あたりを見回しながら、時間を潰していた。
そんな甘い二人に、
「へえぇ、アスナちゃんのおかげでかぁ?」
何かを含んだような笑みをこぼしながらがしっと逃げられないようにキリトの首を腕で掴み、
「な、なんだよハクヤ」
「いいから答えろよキリト」
耳元でひそひそとアスナに聞こえないように話しながらニヤニヤと笑うハクヤは、
「なんかおまえ、最近変わったよな?」
「そうか?」
「そうだって、なあヴァル?」
「ええ、だいぶ変わりましたよね」
傍によりひそひそと話すヴァルは同意し、
「そうかな。あんまり実感はないけど……」
あくまでしれっとするキリトに、
「隠すなって! おまえアスナちゃんの事、どう思っているんだよ?」
「……」
むすっと押し黙るキリトの反応を見てハクヤは、
「なあ、キリトよ。ちゃんと答えろよ。さもないとアスナちゃんに──」
「──ハクヤ……とりあえず黙ろうな」
視線で十分に、これ以上質問するなら解っているよなと、脅しながらに一言いうキリトの冷淡な声に、ハクヤはすっと手を離し、拘束を解いた。
「? キリト君? どうしたの?」
「ん、ああ、この後のフィールド・ボスの打ち合わせをしていたんだ」
と、本当に何もなかったかのように自然と答えるキリト。
その答えの後、アスナは傍によって、
「フィールド・ボスか……この扉の奥にいるんだよね」
目の前の大仰な扉に視線をやり、不安を押さえながらも強がろうとする声音で言うアスナ。
キリトはそんなアスナの心中を察したのか、
「ほかのメンバーが来たら、しっかりと計画を練らないとな」
「うん。もう誰も欠けてほしくないから……頑張ろうねキリト君」
朽ち果てた瓦礫の居城にも関わらず、いまだにその強固さを保った黒曜石のような光沢をもった大門。表面は無数の蛇の群れの彫刻がなされ、勇敢なる騎士を食らい尽くす禍々しい図面で描かれていた。
まるでこの門を開けし者は、全てこうなると暗示しているような、そんな殺意に満ちている。
この先に、どんな相手がいるのか。
もし、またあの時と同じような事が起きてしまったらと、アスナは手に力をギュッと籠め、目の前の扉を睨んだ。
そんなアスナの不安が伝わったのか、
「大丈夫アスナ……君は絶対に死なない、いや死なせない」
「うん……私もキリト君を絶対に死なせない。絶対だよ」
「ああ、絶対だ」
手を絆のように強く握りしめながら、これから来るだろう恐怖を緩和させていく互いの温もりを感じていた。
第四章へ続く。
あとがきです。
品田さんクラインの元・同級生にしました。一応堂島さんの今の御職業の事は彼は知っていません。
なぜ品川さんがSAOに……それはまた追々と……本当に、今度こそ本当に月一更新に二月に出せるように頑張ります。
こんな作者ではありますが、なにとぞお付き合いのほどを。
では、また。
平成27年2月5日。改稿と修正をいたしました。
品川って……品田さんなのに!
大好きなキャラの名前を間違ってしまうなんて……今後Kのようなこと無いように気を付けたいですが、一体なんかいやれば気がすむんだろうか。
本当に気を付けます。