小説の林堂 三次創作 小説 「ソードアート・オンライン ──The adventure persons of virtual world──」   作:イバ・ヨシアキ

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 お久しぶりです。

 色々とありました……本当にありました。

 そのわけを活動報告にてさせていただきます。

 では、本編をどうぞ。

 


第四章 才覚秘めたる仲間達。

 

 互いの手を固く、握り締め合うキリトとアスナ。

 最初、このデスゲームに囚われ、第一層からキリトと出会ってからアスナにとっては、それはキリトと幸運を互いに共有する為の、小さなおまじないみたいな感覚だったが、いつの間にかそれが特別な絆になっていた。

 

 ──俺はここにいるよ。

 

 ──私はここにいるよ。

 

 と、互いに存在を確認し合う為に、自然と握り合ってしまう。

 その握り締め合う手はあまりにも自然で、それでいて当たり前のように思えるその共有の力のせいか、先程までの廃墟の隠遁と鬱蒼とした雰囲気は既になく、甘々しい空間が出来上がってしまっていた。

 あれでアスナの事をどう思っているのかなんて、この甘々しい雰囲気を見れば一目瞭然だが、やはりキリト自身、いまだにどこか自分の気持ちを整理つけられないんだろうなと、兄弟子として察してしまう。

 そしてハクヤとヴァルは改めてキリトの怖さを理解し、

「……あれは、からかちゃダメですよね」

「ああ……あいつ、真剣なんだな……」

 感慨深く言うハクヤとヴァルの声の後に、

「何をやっているんだ……お前らは」

 呆れながらにキリュウが二人の頭を小突き、

「てぇ!」

「むぅぐ!」

 小突かれた頭をさすりながら、

「あんまり、あいつをからかってやる」

「はは、つい……」

「あんなキリトさんを見るの初めてだったから……なんかうれしくて」

 嘘なく笑う二人を見て、

「あんなキリト……か」

 キリュウは確かにと、最初の頃のキリトに比べたら、今のキリトはどこか落ち着いているように思えた。

 殺し合いを受け入れていた、あの眼差し。

 あんな眼差しをあの歳で抱き持つことが出来るのかと、キリュウはキリトと言う少年の心奥に抱いている底知れぬ言い表せない何かに戦慄を覚えていた。

 たぶんそれを押さえているのは、アスナが傍にいるからこそ、それは心奥に押し込められているのだろうと、キリトの底知れぬ才覚と彼女アスナの存在を改めて知る。

 それにキリュウの知らない頃のキリトをよく知る付き合いの長い二人から見ても、そう見えるなら間違いはないのだろう。

 思い返してみれば第一層。

 キリトと出会ったのは、この世界に来た時の最初のフィールド・ボス戦だった事を思い出し、あの時のキリトと今のキリトの差は、確かに変化があると思わざるおえない。

 命を懸け合う殺し合いに魅了され始めていた顔立ちや雰囲気はなく、何かを守ろうとする、そして互いに守り、生き抜こうとする強い意志と絆を持っていた顔をしていたキリト。

 それはやはり。

「……アスナのおかげか」

 察したようにキリュウは呟く。

 アスナ。

 キリトの手を細くその小さな手にしっかりと握り、キリトもまた守るべき少女の手を離さないように固く握りしめていた。

 二人の絆はこの世界では誰よりも固いものだと、今日まで共に戦い抜いていたキリュウは知っていた。

 このデス・ゲームが開始された直前の彼女は、死ぬ事を厭わない程に戦闘に取りつかれ、そのまま砕けてしまうような儚さがあったが、今は自分の手を繋ぐ彼のためにその命を懸けるように、キリトの傍で常に戦っている。

 現に、住まいも今は第二十二層のログハウスで一緒に暮らしているらしい。

 最初一緒に住んでいると聴いたときは、10代で同性をしているとは遺憾としがたいところもあるが、明日も知れない世界だ、それもいいだろうと、どこか納得してしまう自分がいた。まさかお前らまだ子どもだろうと野暮なことを言うつもりはないが、これで二人の間に何の想いを抱いていないと思わないのは、相当な唐変木.でしかないだろう。

 まあ、マジマの兄さんは終始あっけにとられ、リュウジも複雑な顔をしていたなと、普段見られない意外な一面を見て自分も笑っていた事を思い出してしまう。

 そう思えば、あの時の、張りつめていた第一層のフィールド・ボス戦に一人で挑み、そのまま相手と差し違える覚悟で戦っていたアスナの憑りつかれた様な雰囲気は微塵もなくなっていたなと、キリュウはキリトの手を静かに握り締める今のアスナを見て何気にそう思った。

 第一層のフィールド・ボス戦。

 あの二十人以上の犠牲者を出した戦闘を生き残れたのはキリトの存在があったからこそのもので、自分はただの切っ掛けでしかない。

 二人には感謝はされてはいるが、結果としてお互いに助かっただけでしかない。

 あの時の自分の目的はもっと他のところにあったのだから。

 感謝されるのも、あの時の自分は、誰かを守るために戦ってなどはいない。自分の守るべき者の為に戦い、その結果で助けただけでしかないのだから。

 結果は、何も二人にはしてやれなかった。

 またキリトや黒衣衆の加勢がなければ、あそこで自分は既に終わっていただろう。

 自分よりも年下の、まして遥かと同じ年の瀬だろうこの少年に助けられたことは、この世界が容易ならざる世界であることを再認識させ、あいつが創ったこの世界は、ゲームなどの作り物の一括りで語れるような軽い世界ではない事を、キリュウに思い知らせた。

 そしてこの世界は決して作りもではない。紛れもない、もう一つの現実だと理解せざる得なかった事実だった。

 この半年で嫌と言うほどに、この世界の恐ろしさをキリュウは知っていた。

 法律はなく、理屈もなく、ただあるのは殺すか殺されるかの戦場と同じ命のやり取り。ましてや刀や剣をかち合わせ、斬り合う事を平然と行う世界。

 出来るならこんな残酷な世界からこの二人を守ってやりたいと思うが、この世界ではそれすらも容易ではない。

 自分もまた死ねないのだから。

 生きてこの世界から、自分の家族と共に抜け出ることが自分の目的だ。

 このゲームに救出隊として参加したのも、それが理由だった。

 だが攻略が25層まで続いた今でも尚、僅かながらの犠牲者は存在し、中には、同じプレイヤー同士で殺し合いをするオレンジ、レッド・プレイヤーも出始めている。

 攻略を求め、その果てに怪物に殺されてしまうプレイヤーの他にも、同じプレイヤー同士でも殺し合いをする現状。

 ただ混沌としていくこの世界を、あいつはどう想っているんだろうか。

 こんな世界を、あいつは望んでいたのか。

 命を懸け、誰かまわずに騙し殺し合う世界を、あいつが望んでいたのかと、キリュウはどうしようもない憤りを覚えていた。

 このふざけたゲームが終わるまでに後、75層を攻略しなければいけない。

 その攻略の果てに、一体何人の人間が死ぬのか。

 あいつはそれを知ってこそ、この世界を創ったのかと、どうしようもない怒りがふと湧き上がってしまう。できればこれ以上の死者は出したくはないが、攻略組として参加しているプレイヤーを誰も死なせずに戦い抜くことは不可能に近い。

 そんなのは解っている。

 だが、どうしようもないのかと、憤りを感じずにはいられない。

 救出隊からもすでに6人の犠牲者は出ている。

 一般プレイヤーからの攻略の助成と協力がなければ、とても100層まで行くことは不可能だろう。

 たった19人の生き残った救出隊でどう戦い抜いても、このゲームの攻略などできはしないのだから。

 一般プレイヤーからの協力を募り、壁、回復、攻撃と連携を取りながら、犠牲者をなるだけ出さずに攻略を進めているのが今の現実だ。

 その中には、キリトやアスナのような子どもまでいる。

 普通なら今頃は学校に通い、それなりの人生の先を考える時期に入るだろう年齢の子どもを犠牲にしてまでも戦いぬかなければいけない今の自分のあまりの無力さを、キリュウは歯がゆく思っていた。

 まして今の自分はキリトやアスナと連携を組み、戦い抜いている。

 まさかこんな子どもに背中を任せる日が来るなんてと、この世界においての自分とキリト、アスナの繋がりはどこか奇妙な巡り会わせだと覚えてしまう程、この世界の存在は確かなものだった。

 いつもなら一人で、どんな敵にだって立ち向かえる意志はあったが、この世界では、それは通じはしない。

 ここは、仮想では無い。

 紛れもない現実だ。

 例え、自分の命を捨てても、それはこの世界を終わらせることにはならない。

 生きて、この世界を創った創造主──茅場明彦を、奴を殺さなければ、この世界を終わらすことはできない。

 その途中、いつどこで自分が行動を間違い、二人を散らせ死なせてしまうのではないかと、恐怖を押し殺して剣を振るっている。

 いや、もしかしたら、自分が死ぬのではないのだろうかとの確かな恐れもあった。

 いつも戦い抜いていた筈の空気がまるで違い、自分が今まで敵対したどの敵とも比べようのない、まるで格の違う怪物が、この浮遊城にはまだ数多に存在している。

 先程の戦いも普通ならあり得ない戦いだ。

 あんな禍々しい牙を生やした凶暴な馬と正面から日本刀で斬り合い、隙を見て拳を叩き込み、できうる限りの方法で生き残りをかけ、怪物と殺し合う命のやり取りを、普通ならあり得ない事だと、切って言えることだが、この世界ではそれは通用しない。

 この世界に戸惑いをいまだに抱く、その心内を知られまいとつくろう自分。

 何と情けない事であろうか。

 そんな心持をこの二人には悟られたくないと思っている今の自分の気持ちは、昔、いつも身近に感じていた当たり前だった筈の感覚と同じだった。

 そう、錦と由美。

 キリュウにとって、かけがいのなかった二人に、キリトとアスナを重ね見ていた。

 顔立ちに背格好や性格などまるで似てはいないが、この二人を見ていると、あの頃の事を思い出してしまう。あれはまだ先の事を考える必要のなかった、まだ子どもだった若い頃の自分と錦、由美と一緒にいるような感覚だと言えばいいのか、懐かしい郷愁が二人には存在していた。

 三人といつも一緒にいた時間。

 今に思えば短く、儚い時間でもあったが、あの頃はまだ何の野心もなく、ただ漠然と将来に希望を思い描き進めば良いと信じていた。

 先を考える間もなく、今を考えるだけが精一杯の、無いも知らない子どもだったからこそ、楽しく思えたのだろう。

 いつしか錦も由美も大人になり、錦は金と権力をひたすらに求めてしまい、東城会の上に立つことを切に望み、由美は、多くの野望の渦中に身を置き、娘である遥を守るためにその命、全てを懸け戦うようになっていた。

 ただ、恩人だった風間のおやっさんの背中を追いかけて突き進んでいった結果、誰かを守ることを誓い生きていた筈なのに、いつの間にか取り残され、這うようにしか戦うことのできない自分の無力さが、あんな結末を迎えさせてしまった。

 どこで運命が壊れてしまったんだろうかと嘆く間もなく、自分を慕ってくれる人間が代わりに死に、自分だけがいつも生かされ、そして今は、この世界、アインクラッドに来てしまった。

 家族を救う為に。

 この世界に来て、キリトとアスナに出会い、あの頃の気持ちを思い出してしまい、いつしか攻略の時は互いに背中を任し合う仲間へとなっていた。

 最初の頃は戦うなと二人に忠告はしてはいたが、今はそんな気持ちすら抱けないでいた。

 第一層のフィールド・ボス戦やフロア・ボス戦など、この世界の容易ならざる現状を前には、二人の才能が必要不可欠だと、キリュウ自身が身にもって知っていたからこそ、二人を同列の仲間として見ていた。

 キリトに至っては、ただの子どもではないのも理由としてある。

 正直、あの時は驚いたものだ。まさかあの神霆流師範の時井八雲の弟子だったとは、今思い出しても、世間は狭いものだと思わざる得ない。

 流石に道理でと思い知るしかなかった。

 あの歳で神霆流の技を使い戦い抜くキリトの才能は間違いのない本物だった。

 そのパートナーであるアスナに至っては、いまだに現実世界ではどんな人生を歩んでいたかは知らないが、その才覚に容姿に仕草などを見れば、彼女自身もすぐれた素質を持っているのだろうと、察しはつく。

 この世界に立ち向かえる、少年と少女。

 キリュウも、この二人にいつしか希望を抱いていた。

 希望かと、ずいぶん重いものをこんな子どもに背負わせているんだなと、今更ながらに自分の身勝手さを感じざるおえなかった。

 いや、今この二人に希望を抱いていない人間はいないだろう。

 この世界からの解放を望んでいる人間ならば、今、前線で戦うキリトとアスナを英雄として見るのだろうなと、思う。

 そう、奴が望んでいる英雄。

 

 ……茅場、お前はいったい……

 

 この世界の終焉である100層にいるだろう、この世界の創造主の名を呟く。

 お前は満足なのか。

 こんなことを望んでいたのかと自答のできない、また答えが返ることはない問いを呟く中で──

「キリュウちゃぁ~ん、キリトちゃぁ~ん、おつかれさぁんやぁのぉ~」

 と、急に現実にキリュウは戻されてしまう。

 聴きなれた笑い声の主に視線をやると、左目に白蛇の眼帯を付けた、テクノカットの黒髪に、残る右目に有り余る狂喜を演じる眼差し宿した、マジマが声をかける。

「……マジマの兄さん」

「キリュウちゅあん、やったのぉ、鍵を手に入れたみたいやなぁ、お疲れさんやでぇ。ま、流石キリュウちゃんとキリトちゃんとアスナちゃんの最強トリオ。ちゅうことかのぉ」

 かかっと、笑うマジマ。

 その後ろから、赤い長髪を一つに束ねた、女性に見間違えてしまいそうな容姿を持つハジメと、怜悧な眼差しと肩まで伸ばした髪をこめかみあたりで髪留めに纏めていた可愛らしくもどこか冷静な面持ちを持つ少女のシノンがキリュウ達の元へ寄ってくる。

「ハジメ、シノン……無事みたいだな」

「問題はない」

「うん、大丈夫」

 と、報告し合う二人。

「あるわけないにきまっとるやぁろぉ。二人の背中を守っているのは誰や思うとんのやぁ? 心配性やのぉキリュウちゃんは?」 

「確かに、マジマの兄さんなら安心だな」

 納得するように笑うキリュウに、

「ははは、せやろぉ! じゃあ、このままフィールド・ボスも殺ってまおかぁ」

「……マジマさん、全員が揃うまでは……」

「マジマさん……調子乗り過ぎ」

 どこか真剣なハジメとシノンの忠告に、

「なんやぁ冗談に決まっているやろがぁ、本気にぃしちゃダメやでぇ二人ともぉ! 特にシノンちゃん、そんな仏頂面やとべっぴんさん台無しやでぇ! 笑いやぁ こんな風にのぉ」

 これが手本だと言わんばかりに、不敵な笑みを作るマジマ。

 見本にもなっていないそんな笑顔に、

「そんな風に笑えるわけないでしょ!」

「でも、笑ったシノンちゃんもべっぴんちゃんやでぇ、のおハジメちゃん」

「……否定はしない」

「ハ、ハジメ!」

 照れるシノンをからかう二人に、ぷいっと拗ねてしまうシノン。それを見て余計に声を高くして笑うマジマ。

 この三人も先程まで殺し合いに身を投じていた筈なのに、こんなにも笑いあえるのだろうと、キリュウはどこか不思議な思いがあった。

 確かにマジマが付いていればフィールド・ボス戦は大丈夫であろうとは思えるが、ここは容易ならざる世界。たとえマジマがキリトと同じベーター・テスター上がりだと言えても、これから迎えるだろうフィールド・ボス戦は、何が起きるかはわからない。

 ハジメもベーター・テスター上がりで、黒衣衆全員はベーター・テスターの集団だが、それでもなお不安は拭えない。

 何が起こるかまるで分らない戦闘。

 死ねばそれまで。

 なのに、なんでマジマは何故に笑いあえるんだ?

(……なんだ、俺は……怖気ついているのか?)

 ボス戦を迎える度、変な胸騒ぎを覚え、焦燥を抱く自分に嫌な感覚を覚える。別に手が振るえているわけではない。怖いと言う気持ちがあるわけでもない。だが一体なんなんだ。

 このわだかまりは、一体なんだ。

「──キリュウさん、遅れました。大丈夫ですか?」

「……ミネ?」

 攻略ギルド新撰組の副長を務めるミネの声に反応し、キリュウが振り向くと、そこにはミネが率いるキバオウ、コーバッツに同じギルドメンバーである三名の仲間が向かってきていた。

 最後尾の一人はご丁寧に『誠』の一文字の旗を掲げているが、今更気恥ずかしい気持ちが抱けないでいた自分にまた辟易してしまうも、それを推奨した本人が、

「おお、ミネちゃん。キバオウたちはいちびったことせんかったかぁ?」

 笑顔であるも、どこか威圧ある睨みを利かせるマジマの声に、

「す、するわけないでっしゃろ。マ、マジマの兄さん! へ、へん、変なこと言わんといてくださいや!」 

「お疲れ様です。キリュウ隊長。マジマ隊長」

 マジマの問いかけに慌て顔を引き攣らせるキバオウに、それとは対照的に流麗な動作で直立し、ぴしりと軍人みたいな敬礼をしてくるコーバッツとその部下達。誰も欠けていないことを確認すると、抱きかけていた不安が拭えてしまう。

「おう、ご苦労さんやぁコーバッツ。で、誰も欠けとらんようやのぉ」

 指でひいふうみいと数えながらに仲間の数を確認するマジマに、

「そら、ミネの副長の的確な指揮やったら、誰も犠牲にはなりませんて──あたっ!」

 胸を張るように言うキバオウの頭をパンと掌ではたき、

「そんなのはあたりまえやろぉ。ミネちゃんやからこそお前らを任したんやないかい、ほんまに迷惑かけてへんやろうなぁ」

 さらに迫るマジマの真剣な声と張りつめるような威圧。

 キバオウはたじたじとしてしまうも、

「はい、キバオウにコーバッツの連携は見事でした。このままなら五番隊を任せられそうです」

 ミネの落ち着いた声にマジマは、 

「ミネはん!」

「そうかぁ。まあ、使いもんになるんやったら、越したことはないのぉ。さすがはミネちゃんやのぉ」 

 また機嫌よく笑うマジマに、

「いえ、自分だけの活躍ではありません。途中、ティアさんとシャインさんに加勢してもらったからこそ、できた事です。ここのModは油断できませんからね」

「なんやぁ、シャインちゃんとティアちゃんと一緒やったんか?」

「はい、あちらに」

 ミネが出てきた影の方から、二人の人影が姿を現す。

 どこか日本人離れした容姿を持つ、透き通る淡い艶の髪を揺らし、まるで朝霧のような美貌を持つ美少女のティアと、その彼氏でもある、兄貴分な顔立ちをした凛々しい男児のシャインがようやくに追い付いてくる。

「おおぉ、二人とも、こんなとこでデートでもしとったんかぁ?」

 マジマのわざとらしいからかいに、

「ええ、ここまでくる間にしっかりとシャインといちゃつきましたわ」

 これ見よがしにシャインにしっかりと腕を組むティアに、

「野暮なことは言うなよマジマさん」

 どやっと笑うシャインに、

「そうかぁ。こらぁおじさん照れてまうわぁ。お熱い二人やのぉ、ちゃんと見らなわなきゃいかんでぇ、シノンちゃん」

「な、何を言っているのよっ! へ、変なこと……言わないでよ!」

 頬を膨らますシノンにさらに笑うマジマ。

「マジマさん、あまりシノンをからかわないでやってくれ」

「ハジメちゃんに言われると弱いなぁあ、まあ、この調子やったら今回も大丈夫やろ。はよぉみんなとボス片づけて、しっかりとおじちゃんの居ないとこでイチャつきや」

「……もうぅ……」

「シノン、そんなにむくれるな」

「……ふん」

 プイッとするシノンの頭をそっと撫でるハジメの手の暖かさに少し顔を緩ませてしまうシノンと、なにやら甘い空気が充満しようとしていた。

 いや、既に十分に甘い空気だなと、キリュウは何気に笑う。

 こんな世界に堕ちているのに、全然気をやさぐれさせない面々の笑顔に、救われていた。

 そして、

「なんや、ここでも甘い空気が流れとるの」

 と、野太く、どこか不敵な豪胆さが混じり込んでいる声量が響くと、そこには自分と同じ新撰組の装備を着込んだリュウジと、黒の鎧に身を包んだクォータの少年のルナリオと、キリトの妹であるリーファが姿を現す。

「リュ、リュウジさん」

「だからいちゃついていないっすよ」

 追いつくように声を挟む二人に、

「よう言うで、さっきまで手を繋いどったやないかい」

「「リュ、リュウジさん」」 

 声を合わす二人の連携に、

「……ホンマ、仲がええの」

 小さく笑うリュウジは、こちらを見ているキリュウを見返しながら、

「やったみたいやの……キリュウ」

「ああ、キリトとアスナのおかげだ……ルナリオとリーファを守ってくれてすまないな、リュウジ」

「ふん……ワシがおらんでも二人なら大丈夫や」

 かつての殺し合いを演じた宿敵同士の奇妙な会話のやり取りに、自然と空気が張りつめてしまう。一触即発の空気と言うべきなのか、形容しがたい緊張感があるが、それが敵対へと変わるものではなかった。

 互いによる確たる信頼感と、再び会い共闘し、背を任せ合う互いの心境は、いまだどこか複雑だったが、今もそれはなれた空気になっていた。

「で、キリトとアスナはどこや」

 でも、そんな変な空気を払拭したくリュウジが訪ねると、

「ああ、扉の前だ」

 手を固く繋いでいたキリトとアスナを見て、リュウジは一息ため息をつき、どこか呆れ顔で、

「……兄ちゃんもイチャついとるんかい……」

 突っ込みを入れながら、ポリポリとむず痒い金髪を掻く。そして今のリュウジの溜息に気づいていたのか、それよりも前に全員の気配に気づいていたようにキリトは、

「ようやくみんな集まったみたいだな」

 後ろを振り向き、揃った全員の元へと向かう。アスナもどこか名残惜しそうにキリトから手を離して、キリュウ達の元へと向かう。

「よぉ、キリトちゃぁん。もう、ええのんか?」

 と、マジマのお調子な問いかけに、

「ああ、幸運はしっかりと補充したさ。互いにな」

 先程までアスナと繋いでいた左手を見せながら、何気に言葉を返すキリト。

「キ、キリトくん!」

 顔を真っ赤にするアスナ。

 相変わらずどこか落ち着いている物腰に、

「……幸運って、ようはアスナちゃんと手を繋いでいたいだけやないんかい」

「ま、否定はしないさ」

 冷静に問いかけを返すキリト。

「あーあー、ほんま若いのぉー、熱すぎて、おじさん言うことないでぇ」

 かかと笑うマジマ。

 そんなマジマ相手に普通に接することのできるこの黒の剣士と既に噂の通る少年の豪胆さには、キリュウを始め、ここに居るプレイヤー全員が認めているところだった。

 普通、左目に本物の眼帯を付けた、背中に般若と白蛇の入れ墨を背負っている、絵にかいたような正真正銘の極道者と、顔見知りたる隣人のように会話のできる子どもがいるのだろうかと、ここにいる存在すら疑いたくもなるが、同じゲーマーの感覚でいるキリトの持って生まれた性質の大きさなのだろうと、誰もがいつの間にかそう理解していた。

 特に黒衣衆のメンバー達は、別にマジマが極道者だからと変に気づかう様子もなく、普通に接していたりする。特にハジメやシノンはマジマに気に入られているらしく、攻略戦やレベル上げ、ダンジョン攻略なども一緒に行くなど、変な隔たりはなかった。

 それに黒衣衆全員はキリュウやリュウジ、ミネの現実の事情も承知の上で接している。攻略に必要だからと割り切った感覚ではなく、共に戦う仲間として普通に接していた。

 キバオウ、コーバッツや新撰組に在籍している隊員達も、キリュウ達の現実での立場を知った上で新撰組に入隊し従っている。

 それもこの四人の持つ、それぞれの漢侠に憧れ、男として目指したいだろう位置にいたいと、共に戦いたいと慕われてているからこそ、入隊している隊員達には、キリュウ達を極道者と身差別することは無い。

 風林火山も同じでクラインを始め、キリュウ達を慕っているので、特に問題はないが、中にはキリュウ達を敵視している攻略組も存在している。

 今、こうしてフィールドボス戦を新撰組、風林火山、黒衣衆のメンバー達で行っている背景も、そういった攻略組との軋轢によって生じているものだった。

 否。

 攻略組事態、様々な思惑でこのゲームクリアを目指している。

 別にキリュウ達が極道者の集まりや、黒衣衆がベーターテスターの集まりで構成され、他の攻略組やプレイヤーに敵視されているなど理由の一つでしかない。

 アインクラッド解放軍や血盟騎士団に青竜連合など、大手や中小ギルドも、取り込みや吸収でそれぞれの拡大を広げ、権力闘争に明け暮れているのが今のこのゲーム内の現状でもあったりする。

 キリト曰く、ネットゲームで派閥ができるのは、現実と同じで、ごく当たり前の現象だと言い、軽く流してはいるが、この今の囚われている世界で派閥を争って何が得られるのかとの疑問をキリュウは抱いてはいるが、どうにもならない事も知っていた。

 中にはその派閥争いこそが、より攻略を推進しているのだと言う輩もいる。

 ただ、いつかそれが別の向き方をしなければとの不安もあったが、今のこの時流の流れの中では、自分の声などは簡単に誅殺されてしまう。

 キリュウにとって、今のここに居る仲間達が、この世界に打ち勝つための重要な要だった。

 だからこそ、

「……みんな、準備はいいか」

 キリュウの発した声に、ふざけ合っていたキリトとマジマや、アイテムチェックをしていたアスナやリーファに、弓の強度を上げていたシノンとそれを手伝っていたハジメ、ステータスチェックを行っていたミネやキバオウ、コーバッツ。クライン率いる風林火山のメンバー達など、キリュウに視線を向ける。

「俺たちはやっと25層まで来ることが出来た。そして、今から俺たちはフィールド・ボスに挑まなければいけない……ここにいる俺たちだけでだ……引き返すなら今しかない。ここに居る全員は、本当に挑んでも後悔はないんだな……最後に、それだけを聴かせてくれ」

 と、キリュウが告げる。

 そう、本来ならもっと数の居る戦いになる。黒衣衆が居るからと言って、容易に勝てる相手ではない。

 ここ25層はクォーター・ポイント。

 今までの階層とは異なり、Modは強化され、安易なレベルで戦い抜ける保障などは無い。まして相手はフィールド・ボス。

 フロアボスと戦う為には、どうしても攻略しなければいけない強敵がいる。

 だが今までの下の階層で戦ってきたフィールド・ボスとは違い、下手をすれば、下の階層で戦ったフロアボスよりも強敵なのかもしれない。

 100層に連なるこの城のいわば分岐点に位置している、もっとも重要な拠点となるこの25層のフィールド・ボスが簡単に倒せる筈はない。

 今ここで戻り、他の攻略組と連携を募れば、それ相応の安全は確保できるかもしれないが、今のこの攻略組の派閥争いの中に、他の攻略組を入れて戦い抜けるのかとの不安もあるが、少ないよりも多いに越したことは無い。

 その心内を察しているかのように、

「……後悔があったらここまでは来はしないよ、キリュウさん」

 キリトが言葉を返し、

「みんな、お互いを信頼してここまで来たんだ……いまさら拍子抜けすることなんてしないさ」

 と、全員の心中を代弁するかのように言葉を返す。

「後悔なんてありません。みんなで生きて帰りましょう」

 アスナの声の後に、

「キリュウちゃん。まあ、そういうこっちゃ……はよぉ行こうかぁ」

 にかっと不敵に笑うマジマ。

 ここに居る全員がこれからの戦いにすでに覚悟を持っていたことを察して、

「解った……行こう」

 静かに歩を進め、フィールド・ボスの居る門扉へと向かう。その背には、キリュウの後に続くキリト達の足音が聞こえる。

 その足音の背を押されるようにして、キリュウは門扉に手を添える。そしてそれに続くように、キリト、アスナと門扉に手を添えた。

 キリトはアイテムストレージを開き、手に入れた二つのカギを取り出す。

 アイテム化し、それを手にし、扉のカギ穴へと二つのカギを射し込む。

 互いに視線を合わせながら、

「いくぞ、みんな!」

 門扉を押し広げ、フィールド・ボスの居る王室へと入り込む。

「新撰組は周囲を警戒! 陣形を組め!」

 コーバッツがキバオウと共に隊員達と前に出て、扇状に陣形を組みながら、周囲を警戒する。

「俺たちも警戒しろ」

 クライン率いる風林火山のメンバー達もコーバッツの陣形に入り込むようにして展開する。

 陣形を組み、周囲を警戒しながらフィールド・ボス・エリアに全員が入り込んだ。

 朽ちた王室。

 天井は全てが崩れ落ち、天頂には晴天の空が広がり、これから殺し合うのにも、清涼な空の色が王室を眩く照らしていた。

 そして、瓦礫に埋もれたる床にはかつての王室の威厳を放っていただろう大理石の光沢が失われ、血に染まったかのような色で点々と汚れてもいる。

 入る者に警戒心を与え、恐怖を煽るようなそんな空間で、

「なんや、えらい散らかっている部屋やのぉ」

 と、まるで本当にゴミでも散らかっているような軽い声でマジマは地面の小石を蹴り、

「それに天井にあないな穴が開いているんやったら、あそこから降りたらよかったんとちゃうんかい」

 身もふたもないことを言うマジマに、シノンが一本矢を弓にかけ、それを天頂の大穴へと向かって放つと、フィールド・ガードの見えないシステムの防壁が矢を弾き、直線を描いた矢が弧線を描きながら落下し、そのままポリゴンの粒子として砕け散ってしまう。

 それを見てシノンは、

「……マジマみたいなことを考えるプレイヤー対策は万全みたいね」

「こういうことはしっかりしとるのぉ……このゲームは……」

 ポリポリと頭を掻くマジマ。

「楽はできないと言うことか……」

 ハジメの一言に気まずそうにしながら、

「まあ、気を取り直していこうか」

 横に流しながら先に歩くマジマ。コーバッツ達の周囲警戒を無視して、気にせずに先へと進む。

「マ、マジマの兄さん、そんなに前に出たら危ないでっせ!」

 思わず声を上げるキバオウに、

「なんやぁ、お前びびっとんのかい?」

「いや、ビビるビビらへんの違いやのおて、どこにフィールド・ボスいるか解らへんのに、そないにさきさき進んだら危ないでっせ」

「んなもん、出てきた方が都合いいやろ」

 お気楽に手を振りながら、ひょいひょいと前を進むマジマ。

「ちょ、ちょっとマジマさん危ないですよ」

 クラインも押しのけて前に進むマジマの歩行は早く、近くの瓦礫の山をひょいひょいと昇って行ってしまう。

「まるでおサルね」

 と、シノンが呟き、

「意外にハマっているの」

 リュウジが声を合わせる。

「あーあー、マジマさん先に行っちゃったよ」

 シャインが眺めるように言い、

「追いかけようか?」

 と、シナダの声に、

「変に追いかける必要はあらへん。あいつの事や、大丈夫やろ」

 リュウジが慣れたように言い、全員が一応に納得してしまう。まあ、それもマジマと言う男のことを知っての納得だった。

「兄さん……あんたって人は……」

 キリュウもどこか呆れながら、いつものマジマのマイペースさに、どこか納得してしまっていた。

 彼はどこに行っても縛られない。

 例え、それがここアインクラッドでも、だ。

「キリト君……いいのかな?」

 アスナの心配そうな問いかけに、

「ま、偵察って事で、な」

 キリトもマジマのマイペースは嫌いではないので、特に気にはしない。

「アスナ、後ろ任せた」

「うん」

 傍から離れないように互いの間合いを警戒する二人。敵の気配と殺気は無く、ただ静かな空間が続いていた。

 不思議と緊張はしない。

 でも、違和感があった。

「……たぶん、この先に居る筈だ……」

 そう、この先に居る筈なのだ。

 だがなんで動かないと、疑念が沸く。既にフィールド・ボスのエリア内に侵入しているのに、なぜに動かないまま、フィールド・ボスが俺たちを待っている? 

 今まででこんなパターンがあっただろうか。そんな疑問が脳裏にいくつも浮かぶ。いつもなら入った途端に、すぐにボス戦が始まっていた筈だ。

 なのに、このフィールド・ボスは俺たちを待っている?

 キリトの内の警戒心が何かを伝えてくる。

 

 わざわざ俺たちを奥まで入れる必要はなんだ?

 

 逃亡の防止と、一つのキーワードが浮かぶ。

 だが入口が遠くなるも、まだいざとなれば逃げ出せる距離に出口はある。もしこの王室の奥へと入り込んでも、今のこのレベルなら十分に入口まで逃げることが可能だ。

 それにもし逃亡を塞ぐなら、入口を完全に閉じてしまえばいい。

 だが門扉は開いたままで、閉じる様子はない。それにもし閉じたとしても、転移結晶を使えば、すぐにこの部屋から抜け出ることは可能だった。

 それともここは既に結晶無効化空間なのか?

 いくつもの疑念が沸く。茅場なら、この25層に何を仕込んでいると、自分が茅場ならと、思考を働かせる中、

「おぉーい、キリトちゃん、キリュウちゃん、ボスめっけたでぇ!」

 マジマの大声が響く。

「ば、馬鹿。マジマ何やっているのよ!」

 シノンが声を上ずらせて怒鳴ってしまう。

「ま、マジマの兄さん!」

 キバオウもそれにつられるようにあわあわとしてしまうも、

「で、どこにいるんだマジマさん」

 キリトの落ち着いた問いに、

「いやぁ~、見つけたことは見つけたんやけどなぁ、なんか様子おかしいやけど、まあ、説明するのめんどいから、ちょっと来てくれへんか?」

「?」

 手招きするマジマに、キリトはひょいひょいと瓦礫の山を登る。

「あ、キリト君、まって」

 アスナも続くように後を追うが、積み重なった瓦礫のせいか上手く歩けずに、すぐに追い付けずにいると、

「ほら、アスナ」

「え、きゃあ! ちょ、ちょっとキリト君!」

 ひょいっと軽々と身体を持ち上げられてしまい、そのまま抱きかかえ上げられてしまう。俗にいう〝お姫様抱っこ〟と言われる体勢になってしまい、大慌てするアスナに、

「喋ったら舌を噛むぞ」

「し、舌を噛むって……こんなの恥ずかしいぃ」

「こっちの方が安心してアスナを運べるんだ、少しは我慢してくれ」

「ううぅ……」

 何をやっているんだと、はたから見たらイチャつきながら瓦礫の山を駆け上がっている二人に、キリュウは、

「……いくか」

 ため息交じりに二人の後を追いかけるも、キリトとアスナを追い越すことはせずに、二人の後へと続く。

 その間も、

「うううぅうぅ」

「ん、アスナ? 顔真っ赤だぞ」

「……もうぅ、知らない」

 わざとらしく尋ねるキリトのいじわるに、顔をむくらせるアスナ。

 本当に何をしているんだ、あいつら。

 そんな甘い空気に周りも感染したのか。

「……シノン、どうした?」

「なんでもない……」

 キリトとアスナの熱気に酔ってしまったのか、頬を赤らめているシノンにハジメが問いかけ、

「シャ、シャイン! あの、いきなりするのは……」

 いきなりアスナと同じように抱きかかえ上げられてしまうティアは、抱きかかえてくるシャインに顔を真っ赤にしてもう議するも、

「じゃあ、抱えて良いティア?」

「……はい」

 などのやり取り、甘い空気がすぐにほかのメンバー達にも感染してしまう。

「なんなんや……この空気は……」

「……ミネ副長、リュウジ副隊長、わてら、今からボス戦なんですよね……」

 気重そうな声で訊ねてくるキバオウに問いかけられてミネとリュウジは、

「いつもの事だろう」

 と、どこか冷静に流すミネ。

「まあ、緊張がほぐれてええやろ……はよ行こうか、ルナリ──」

「リーファちゃん……手を繋いでいこうか」

「うん」

 ここもかいぃ! と、リュウジが思わず胸中で叫んでしまう。

 純情なルナリオが精一杯に勇気を振り絞ってリーファに声をかけ、それに素直に返事を返すリーファ。

 なんの青春なんやこれはと、思わず関西人の血なのか一人突っ込みを胸中で入れながら、まあ手を繋豪だけであんなにどぎまぎするなんて、なんか純情やなと頭を掻きながら、

「とりあえずキリュウ達を追いかけよぉか」

 気を取り直したリュウジの声に、

「全員、すぐにキリュウさん達を追いかけるぞ」

 あくまでも冷静なミネが新撰組隊員達に命令を出し、

「へい……コーバッツたちもいくで」

「はい!」

 まといつく甘い空気を振りほどくようにして瓦礫を登りながら、キリュウ達の後を追いかけるミネ、リュウジとキバオウ以下の部下達。

「ああ、ちょっと警戒は? しなくていいの?」

 甘い空間にも関わらずにマイペースなシナダの声に、

「とりあえずここには敵はいねーみたいだし……先に進んでみるか……おい、オヤカタ」

「はい」

「お前たちは、ここに残って扉を警戒しといてくれ。シナダは俺と一緒に頼む」

「うぃっす!」

「了解」

「まかせてよ、クライン君」

 風林火山のメンバー達の返答の後にクラインは、

「カノンさん……」

「はい?」

「あ、あの……カノンさんの背中は俺が守るんで……俺の背中を頼んでも良いですか?」

「はい、喜んで♪」 

 微笑むカノンの声に駆け出すクラインとカノン、

 それを見てヴァルとハクヤも、

「俺たちも早く行こうぜ」

「僕たちもキリトさん達を追いかけなきゃ」

 クラインたちの後を追いかけ、その姿を見守りながら最後に駆け出すシナダは、

「おーい、ちょっと待ってぇ!」

 あわてて追いかけた。 

 

 他のメンバーたちよりも瓦礫の山の登り切り、マジマの元へと到着するキリトとアスナ。

 ただアスナはキリトの腕の中で完全に真っ赤になっていた。

「大丈夫か、アスナ?」

「……もぅ、おろしてぇ……」

 照れで意識を鈍くしながらに、顔を茹でていたアスナ。

「どうしたんだ?」

「……うぅぅ」

 知っていながらもからかうキリトに、

「……早く下ろさないとアスナが気絶するぞ」

 追いついたキリュウが後ろから何気に言い、

「そうみたいだな」

 と、優しく抱いていたアスナを地面に下ろし、瓦礫上でもなるだけなだらかな地面にしっかりと両足を立たせながら、身体を支えながらにアスナを立たせてやる。

「立てるか?」

「うぅん」

 もじもじしている彼女に優しく微笑むキリト。

 一人置いて行かれてしまうキリュウはむず痒い頭をポリポリと掻き、とりあえず二人の邪魔はしないようにと成り行きを見守っていると、

「おーい、キリトちゃぁん、イチャついとらんでぇこっちにきてなぁ」

 二人の世界を崩すマジマの声に、

「ああ、解った。ほら、アスナ」

「……うぅん」

 まだぽっと顔の紅いアスナの手を持ち、マジマの元へと連れ合うキリト。その後ろをついていくキリュウと、どこかシュールだったりする。

 数歩ほど歩いたらマジマの元へと付き、

「ほんま、いっつも仲良しさんやのぉ」

 見てからかわれて、

「ううぅう……」

 さらに湯気が立つ顔を隠すようにケープ・マントを深くかぶり、顔を隠すアスナ。

「で、何を見つけたんだマジマさん」

「……あれや」

 と、ふざけた声音を変えてしまうような、どこか真剣な声音で視線で指し示す方向へと、キリトが視線をやると、そこには巨大な窪みに沈む、何かに押し潰され、乾ききった骸と化した巨人の姿があった。

「……」

 キリトは何もいわずにその巨人の屍骸を検分する。

 魔術師の様ないでたちをしていると言えばいいのか、漆黒のローブを身にまとい、その下には黄金の鎧を身につけた巨人。

「あれは、ここのフィールド・ボス……フレイズマルだ」

 キリトの発言に、

「そやのぉ……でも、もう殺る必要はないみたいやのぉ」

 冷静にマジマも声を返す。

 

 ──二人はベータ・テスター時代に、すでに30層までの攻略を進めていた。

 マジマはキリトや黒衣衆達とパーティを組み、テスター期間中に多くのModと戦闘を行い、フィールド・ボス等との戦闘と攻略を進めていた。

 公式では8層までとはあるが、テスターだったマジマやキリト達が思いのほか攻略を進めてしまい、アーガス側がこの件は公表しないでほしいと嘆願もあって、その事実を知っているのは当事者ぐらいのものだったが、このゲームがデスゲームと化したあの日以降、そんな活躍は既に過去のものとなってしまう。

 キリトたちの持つ情報や経験はいくつかが新しく書き直され、フロアボスにいたっては、その特徴と仕様すら際プログラミングされ直され、イベントすらも内容がいくつも変わり、かつてのテスターの情報が当てにならないほどに、このゲームの内容の全てはいくつも改竄されていた。

 そして今いるこの25層のフィールド・ボス──フレイズマルに至っては、完全にその存在すらを朽ちらせ、攻略の内容すらも変えられてしまっていた。

 倒すべきフィールド・ボスの亡骸を見て、

「……ぺちゃんこやの」

 と、あくまでもただ冷静につぶやくマジマに、

「もう……誰かが倒したの?」

 アスナがその巨人の亡骸の凄絶さに声音を震わせながらも、気丈さを失わないように声に出す。

 それに対して、

「いや、今日ここに入ったのは俺たちが最初だ……それにもし誰かが倒しているのなら、こいつは既に消滅していなきゃおかしい……いったい、なんなんだこれは?」

 キリュウがこの現状に警戒し腰に下げた刀の鯉口を切る。

 ただ一人、

「もうフレイズマルは死んでいる。それだけのことだろ」

 この現状をあらかたどこか予想していたのか、キリトはどこか冷静に言う。

「……で、キリトちゃんはどう見るんや?」

「そうだな」

 潰されたかつてのフィールド・ボスの亡骸。

 それが消えずにその場に残っている。

 まるで何かを知らせるようにだ。

 かつての攻略内容とは違うぞと、遠まわしな茅場からのメッセージ?

 違う、あいつがそんなことを伝えるためにこんなことはしはしない。

 思い返せ。

 ここに来るまでの、この廃城の変化をと、キリトは思考を働かせた。

 至る所が破壊され朽ちた城の内部。βテスト版の時は普通の内装だった筈。Modも獣系だった筈だ。

 何でそれが全部変わってしまった。

 フレイズマル。

 確か北欧神話やゲルマン神話に登場するファフニールの父親の名前だった筈。そしてファフニールは、この階層のフロアボスの名前だった筈。

 確か、フレイズマルには……三人の息子がいた筈。

 この窪み。

 まるで槌を振り下ろしたかのような痕だ。

「……もしかしたら」

「? キリトちゃん、なにかわかったんか?」

 マジマの質問に、

「確証はもっていえないが……ここのボスが変更された可能性がある……」

 キリトのその言葉に、

「変更?……だったら、こいつを殺ったのは、そいつってことになるな」

 キリュウの言葉の後に、

「それって……どこにいるの?」

 アスナがレイピアを抜き、身構える。

「まあ……それはあの屍骸に近づけば、出てくるんとちゃうか?」

 よっと、気楽な掛け声に、マジマが大きく凹んだ窪みの中へと入り込み、そのまま

 たたっと、打ち倒されたフレイズマルへと近づいていく。

「マ、マジマさん!」

 アスナがあわてて呼び止めるも、

「大丈夫やって、おじさんのこと心配せずに、アスナちゃんはしっかりとキリトちゃんのこと心配しとり」

「そ、そうじゃなくて! キ、キリト君も」

「マジマさんなら大丈夫さ……それよりもアスナ、構えておいたほうがいいぞ。キリュウさんも」

「……そうだな」

「え?」 

 刹那。

 二人の空気が変わった。

 

 ピリ……

 

 ピリ……ピリ……

 

 髪がざわつく様に、また冷たい何かが張り付き、そのまま神経を這う様な、鋭利な感覚が身体をすくませるようにアスナの身体をこわばらせていく。

 

(……キリトくん……)

 

 彼と共に戦い、共に命を預けあい、今日まで戦い抜いてきたアスナ。

 それでもなお、キリトのこの発する気概はいまだに慣れはしない。でも、それでいてこの気概を心地よく受け入れ始めている自分がいる。

 なんなんだろう、この感覚。

 

 キリュウの発する気概とは違う、キリトの持つ気概は、自分のうちに呼応するかのような感覚だった。

 狂おしいほどに、彼を求めているかのように乾く、この感覚は……

「……アスナ、大丈夫?」

 そっと手を出してくれるキリトの自然と手を掴み、胸中に疼く感覚を抑え込みながら、

「うん……大丈夫だよ」

 微笑み返すアスナ。

 キリュウをもし焔で連想するなら、蒼と紅、そして白色の焔を連想できるが、キリトを焔で連想するなら、この焔をどう連想すればいいんだろうと、キリトの手を握りながら、アスナは何気に考えてしまう。

 その焔に身をすべて焦がしてしまいたいと考えているこの気持ちは、一体と……悩ましている中で、キリト越しに感じる殺意の気配。

「? マジマぁ! 気を付けろ!」

 キリトが叫び、キリュウが、

「上だぁ!」

 両手にその身の丈に余り過ぎる、巨大な鎚を振り上げながら、その巨人は崩れたる瓦礫の闇から現れ、フレイズマルの亡骸に向かって歩んでいたマジマへと振り下ろす。

 その巨人の姿にキリトは、

「やっぱりか……まさか末の弟がフィールド・ボスなんてな……」

 

 鎚を振り下ろしたるその巨人の姿を瞳に通した時、その名前にはこう記されていた。

 

 ──It is criminal Regin as the homicide in father(実父を殺めたる罪悪人レギン)と。

 

 第4幕 END。

 

 





 やっと更新できました。

 最近更新が全然できずに、本当に申し訳ありません。

 あと、感想を返せないで申し訳ありません。

 今日は無理ですが、明日の朝には必ずお返事を返しますので……

 最後まで読んでいただきありがとうございます。
 
 では、活動報告にて近況を報告いたします。
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