一般人時々バーサーカー 作:黒カム
「──フェルトはここの奥の突き当たりを右に曲がったとこにいるらしいぞ」
「そっか、じゃあ行こか」
そうして荒れた土地を踏みしめ並んで歩く2人。
ここは貧民街。ここの住民に聞き込みをすることでフェルトの居場所を特定した2人。状況は1歩ずつ進展していた。
「ねえ、見てナツキスバル。たんぽぽが咲いてるぞ。ヤダカワイイ」
「……いや、マジであんたの情緒どうなってんだよ」
先程までナイフを握り、人を殺す目をしていた人物とは同一人物に見えないほどに綻ばせた顔で道端の花を眺めるタイヨウ。
そんな彼を見ながらナツキスバルは呆れたような、困惑したような表情を浮かべていた。
「おい、もういいから行──」
ナツキスバルの言葉をそこで途切れた。
どうやら通行人と肩がぶつかったようだ。
慌てて、反射的に謝ろうとしたが、
「っ!」
その言葉は目の前のぶつかった相手を目にした途端、喉の中で突っかかった。
「あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?」
「……え、あ、だ、だいじょびだいじょび。俺ってこれでも丈夫だからさー」
「うふふ、楽しい子ね。それで?ほんとに大丈夫?」
「……っ」
覗き込まれるナツキスバル。冷や汗、激しくなる動悸。当然だ。彼は"2度、この女に殺されている"。
脳内には死の光景がフラッシュバックしていた。
「──そんなに恐がらなくても何もしないのだけれど」
「こ、怖がってなんかねーよ。どこ情報ですか?何を根拠にそんな…!」
「
蛇のように、ナツキスバルの体じっくり見るように視線を這わす女。ナツキスバルの体の周りを歩きそして、その肉食獣のような目が彼の目と交差した。
「……気にかかるとこはあるけれど、まあいいわ。今は騒ぎを起こす訳にもいかないもの。だから……"後ろのあなたもその殺気を仕舞って貰えないかしら?"」
「………」
その言葉に花を見ていたタイヨウは腰に差したナイフから手を離し、その様子に女は、恍惚な表情で舌なめずりをしていた。
それを真正面から見ていたナツキスバル。背筋が震える感覚を感じた。
「お、穏やかじゃねーな。あんまし脅かすと美人が台無しだぜ?」
「あらお上手。敵意を隠せばさらに上出来だわ」
見据える視線に体が硬直する。
そんな様子に女は口元を綻ばし踵を返して歩き出した。
「それじゃ、失礼するわ。あなた達とはまた会えそうな気がするわね。そっちの子は……また今度"遊びましょうね"」
そうして立ち去っていく女。
彼女を見送って、スバルはドッと疲れを感じながら壁に身をもたれた。
「よ、予想外の遭遇だったな」
「……あれが?」
「ああ、俺を殺した女、エルザだ」
「ふーん」
ナツキスバルの言葉に素っ気ない返答のタイヨウ。
雰囲気は抜き身のナイフ。歩き方からなにか技術を身につけている様子は感じられなかった。ただ、人外じみた何かを感じる。
タイヨウの所感はそんなところだった。
「は!そうだ、フェルトだ!確かねぐらはこの奥だったよな!?」
女、エルザが歩いてきた方向。そこは2人の目的の場所。フェルトがねぐらにしてると教えて貰った場所だ。
暴れたのか?そんな不安がナツキスバルの頭に過った。が、
「ここ、だよな?それこそねぐらっつーんだから、間違いじゃねぇと思うけどよ……でもこれって人の住む場所か?」
あれから歩いて5分ほど。着いた場所に血痕等はなく、荒らされた形跡もない。
ただそこにあったのは、小ぎたないボロ小屋。
ボロボロの扉らしき木の板。壁が剥がれたのか布をかぶせて応急処置。今にも崩れそうなソレの前でナツキスバルは少しフェルトのことを哀れに思っていた。
「こんなとこで小さい体をよりちっちゃくして生きてるんだ。そりゃ性根がねじくり曲がっても仕方がないよな」
「言いすぎだろ、胸糞わりーな。人の寝床見てどんだけだよ、兄ちゃん」
と、どこからが聞こえてきた声。
後ろを振り返ると、いつの間にかそこには1人の少女が立っていた。
腰に両手を当て、いかにも怒ってますよ感を醸し出す金髪の小柄な少女。言われなくともタイヨウは理解した。彼女こそが"フェルト"だと。
「………」
「わりーわりー、とりあえず会えて何よりだぜ」
「なんだ客かよ。確かに格好からしてここら辺の住民じゃ無さそうだけど……盗みの依頼なら前金出せよ。相手の質次第じゃ、追加貰うけどな」
「あこぎな商売してんなー。……俺の用件はひとつ。お前が盗んだ徽章をこちらで買い取りたい」
それを聞いてタイヨウは頭を押えた。馬鹿だ。こいつは馬鹿だ、と。
盗みが起きたのはついさっき。ルートのことを知ってるナツキスバル自身とその話を聞いたタイヨウなら知っていることではあるが、相手は"今を生きる"人間だ。情報を耳にするにはいささか早すぎると感じるはずだ。
危機管理意識の低さ。焦りがナツキスバルの判断を鈍らせていた。
フェルトのこちらに対する警戒度が一段階上がる。タイヨウは取引の難易度が上がったことを嫌でも理解した。
「──徽章を買取りたい?なんで知ってんだ?このことはアタシと依頼人しか知らないはずだ。盗んだのもついさっき。小耳にはさむにゃ耳がでかすぎんじゃねーか?」
「言われてみりゃその通りだ、焦りすぎだよ俺マジ迂闊!」
「……はぁ」
さらけ出しすぎるナツキスバルにため息がこぼれるタイヨウ。
「もうちょい腹ん中隠せよ。お仲間にもため息吐かれてるぞ……。んー、まあそこはどうでもいっか。アタシとしては高く買ってくれる方に売るだけだ。儲かる話があるってんならいくらでも聞くぜ?」
その言葉に静まるナツキスバル。
やがて、その口を狐に描き口を開いた。
「……こっちは聖金貨で二十枚以上の価値があるものを用意してる」
──え、まじ?
そんな話をタイヨウは聞いてなかった。ハッタリか事実か。
……いや、この自信ありげな顔からして事実なんだろう。
「へ、へー、なるほど。けっこーな値段付けてくれんじゃん。アタシの苦労も報われるよ。……でも、アンタの商売敵もそんぐらいの値段できてるぜ?」
「嘘こけ聖金貨十枚の取引きだろ。欲かくと死ぬぞ」
「し、知ってんのかよ!……で、でもな交渉相手が出たと知れたらもっと出すかもしんねーだろ!」
「素直にこっちで手ぇ打っておけ、って言っても聞かないんだろうな」
「たりめーだ!ってか、そもそもアンタのさっきの話も眉唾だかんな!」
流れは今ナツキスバルにある。業界に慣れてると言ってもフェルトはおそらく14、5歳ってところだろう。さらにナツキスバルは口が上手い。これはもらった。とは思うがここからさらに長くなりそうだ。
タイヨウは地面に座り、ありがせっせと作る行列を眺めて微笑んだ。
ほのぼのとしてるね。