一般人時々バーサーカー 作:黒カム
「──なんじゃ?見覚えのない小僧たちじゃが…」
あれからナツキスバルとフェルトの交渉は滞りなく終わり、結論としてはナツキスバルの持っていた聖金貨二十枚相当の品物というのは"携帯"だった。
携帯の写真機能、それを空間と時間を切り取って閉じ込める"ミーティア"、所謂魔道具として交渉材料にした。
物珍しくはあるがそれの価値が本当に聖金貨二十枚以上のものなのか確かめるために来たのが、ここ、盗品蔵。
出入口から顔をのぞかせたのは褐色肌の巨大な初老の男だった。
「アタシの客たちだ。入れてやってくれ」
「オッス」
「……どうも」
「……とっとと入れ」
「これが魔法器。さしもの儂も見るのは初めてじゃが……」
「たぶん世界に一個しかない。あと、わりとデリケートな機械だから扱いには注意。ぶっ壊されるとマジで死ななきゃいけないレベル」
ナツキスバルのケータイを両手に鑑定する男。
世界に一つ……実はタイヨウも持ってはいるがここでは言わないでおいた方がいいと判断した。賢明である。
「時間を切り取ってそこに封じ込める魔法器さ。人の手によるもんじゃ到底できない綺麗さだろ?」
「興味はあるがおっかない感じもするのぅ。命とか取られんか?」
「……どこの世界でも写真を見たらそういう反応なるんだな」
タイヨウの言葉にナツキスバルは「八十までは生きるから安心してくれ」と言葉を返し、ケータイを手にし男をパシャリと撮影。
出来上がったそれを見て感嘆の声を漏らしていた。
「これは確かに恐れ入ったわい。もしも儂が取り扱うなら聖金貨で十五、いや、二十枚は下らずにさばいてみせる。それだけの価値はある」
「だろ!? んじゃ、交渉成立ってことで!うまく売るのはそっちのやりようだ!頑張ってくれ!」
「う、うむ」
「んじゃフェルト、徽章もらってもいいか?交渉成立にみんなで一杯やりに行こうぜ!」
「………」
ナツキスバルのそんな態度に黙るフェルト。
まずい、タイヨウは焦った。
急ぎすぎた。完全に警戒され始めてる。こういうタイプの相手は"欲"を出してくるのが世の常だ。
「……怪しい。兄ちゃんはなんでそんなに焦ってんだ?」
「ほ、ほら人生ってのは有限なんだ。一秒一秒を大切に、無駄を極力省くことで……」
「あーはいはい。そーゆーのはいいんで」
──ほら見ろ
タイヨウはため息をこぼし肩をすぼめやれやれと首を横に振った。
「考えてもみろ。この徽章を横から掠め取ろうってんだ。見た目以上の価値があるってことなんだろ?」
「いや待──」
「フェルト、欲のかきすぎは自分の首を絞めるぞ。価値があろうがなかろうが聖金貨二十枚が確実に手に入る。それで手を打っとく方が賢明だぞ」
「う……」
ここまで黙っていたタイヨウが前へと出た。
ナツキスバルが下手に口を滑らせるよりはいいとの判断だ。事実、フェルトもその言葉に納得しかけている。
いや、実のとこはタイヨウの睨むその目に怯んでる部分も半分はあるが。
「そもそも、それは俺らの知り合いのものだ。ほんとうなら力づくでいいところをこっちは金を渡して平和的に引き取ろうとしてるんだ。この話が飲めないなら俺らは衛兵に話をつけに行くしかないぞ」
「……は、はあ!?」
「ちょ、タイ──」
叫ぶナツキスバルを手で制す。
衛兵は呼びたくないとは聞いている。"盗まれちゃいけない"ものを盗まれたと知られたくないとの話だった。つまりこれはハッタリでしかない。だが交渉は強気にでなければいけない。それをタイヨウはしっかりと理解している。
「も、持ち主に返す?大金まで払って盗んだ相手から買い戻してかよ?馬鹿馬鹿しい」
「……フェルト。どうもこの小僧、嘘をついてるようには見えんが。それに衛兵を呼ばれるのはさすがに不味いぞ」
「ロム爺までほだされんなよ。冗談に決まってんだろ?つくならもっとマシな嘘をつけよ。真剣なふりしても騙されねーよ。そうじゃなきゃ、アタシは……そうさ。アタシは騙されない」
フェルトの悲痛な面持ち、何かを振り切るような様子。男、ロム爺と呼ばれたこの男もフェルトの胸中を知ってか目をつぶり痛ましげな表情だ。
だが、
「信じるも信じないも勝手だが、それを手にしてどうするかなんてこっちの勝手だ。金は払う。そんで俺らは徽章を手に入れる。不満はなんだ?さらに上乗せか?」
「うぅ…!」
「──誰だ」
ロム爺がその表情を変えて、盗品蔵の入口を睨んだのはそのときだ。
同時にタイヨウも気づく。外に誰かがいる。
遅れてナツキスバルもまた答えの1つが脳裏をよぎった。
少しはやい、しかし、ここで来るとすればあの女。
「あ、アタシの客かもしれねー。まだ早い気がするけど」
そうして扉へと近づくフェルト。
それを見てナツキスバルの中に急速に込み上げてきた焦燥感。
「開けるな!殺されるぞ!!」
その言葉にタイヨウは臨戦態勢をとる。
フェルトに近づき迎撃できるように構えた。
しかし、不満の動きはそれで止まらなかった。扉に手をかけ、姿を現したのは、
「殺すとか、そんなおっかないこといきなりしないわよ」
銀髪をたなびかせた白いローブの少女。
ナツキスバルから話しを聞いていた偽サテラだった。
「……今度は逃がさないから」
「いい加減諦めろよ。ホントにしつけーぞ姉ちゃん!」
手を構える偽サテラ。それに腰を落とし構えるフェルト。一触即発。こうなったらどうすればいいのか分からないタイヨウ。
「私からの要求はひとつ。徽章を返して、あれは大切なものなの」
「ロム爺」
「動けん。厄介事を厄介な相手ごと持ち込んでくれたもんじゃなフェルト」
「ケンカやる前から負けなんて認めんのかよ!?」
「ただの魔法使い相手なら儂も引いたりせんがな……この相手はマズイ」
やはり魔法使い。
偽サテラの周りには氷柱のようなものが切っ先をこちらに向けて浮かんでいた。
「あ、憧れぇ…」
そんなものを前にしてタイヨウは自分も使ってみたいなぁなんてことを思っていた。
「お嬢ちゃん。あんたエルフじゃろう?」
「正しくは違うわ。私がエルフなのは、半分だけだから」
その言葉にフェルトとロム爺は驚きを顕にした。
銀髪のハーフエルフで浮かぶ人物は1人。世の誰もが恐怖する存在。
「まさか…!」
「他人の空似よ!私だって迷惑してる」
「くっ…!……兄ちゃん。さてはまんまとアタシをはめたな?」
「なに?」
また始まった。
フェルトの疑いがまたナツキスバルに向けられる。そんな様子をタイヨウは呆れたように眺めるだけ。
敵も近くにいるはずなのに、呑気な事だ。
やがて2人がヒートアップしていく内に、
──出入口に差し込む夕暮れの光、そこに1つの影が差し掛かった。
初めに気づいたのはタイヨウだ。
扉近くにいた彼は、偽サテラの腕へ手を伸ばして掴み、ナツキスバルの方へ投げ飛ばす。
空いたもう片手は店内にあった椅子を。
光を反射する刃を咄嗟に打ち払うようにぶち当てた。
「あら…」
「………」
とぼける女に腰からナイフを抜き出し、刺突。バックステップで距離を空けられた。
「反応、早いのね。やっぱり……あなたはいいわ」
「………あ」
頬が切れてる。刺突の時に少し反撃を貰っていたようだ。
「タイヨウ!」
「ヨユー、慌てんな」
「中々紙一重だったね。リアを投げてくれたのは君だね。ありがたい……けど少し雑だよ」
偽サテラのそばに現れた猫のような犬のような空飛ぶ獣。ナツキスバルの話だとパックとかいう名前だった。俗に言う精霊である。
「文句は受け付けないんで。死んでないならいいだろ」
「……まあね」
「へぇ、精霊ね。ふふふ、素敵。まだ精霊のお腹は割ったことがなかったわ」
微笑むエルザ。綺麗な顔に似つかわしくない程の狂気が含まれた視線。
「た、タイヨウ…!」
「下がっとけナツキスバル。この時のための俺なんだろ。やることはやるさ」
そうして、彼はナイフを構えた。
次回、戦闘回!
戦闘シーンなんて書きなれてないから不安なんだぜ!