一般人時々バーサーカー 作:黒カム
殺人鬼とバーサーカーが対峙。
双方睨み合う中、タイヨウは口に溜まった血を地面へ吐き出した。エルザが駆け出したのはそれと同時だった。
一瞬目を離したそのタイミングで一気にタイヨウの懐へ。
しかし、それを止めたのはタイヨウでは無く、無数の氷柱だった。
「こっちの相手も忘れないでよね!」
「そのお遊びもそろそろ見飽きたのだけれど……まだ私を楽しませられそう?」
回避しながらそんな軽口を言うエルザ。エルザにとってこれくらいの攻撃ならば特段脅威にはなり得ないものなのだろう。
「うらああああ!!」
そこに来たのはロム爺の棍棒を手にしたナツキスバルだ。
野球のスイングのような、力任せのぶん殴り。
エルザはそれを事も無げにひらりと躱した。
「秘められた真の力とかがあるなら今のうちに出しといた方がいいと思うぜ!」
「……切り札はあるけど使うと私以外は誰も残らないわよ」
「まさかの自爆技…!お願いだから早まらないでね?」
そんな会話を続ける2人。エルザもまたそちらに視線を向けていた。……だから気が付かなかった。
「──ッ!?」
唐突に後頭部に走る鈍痛。驚くエルザは目線だけを自分の背後に移した。
そこには銃身を両手で握り、野球バットのようにして振り抜いたタイヨウが居た。
「よそ、見……!」
「そうね、ごめんなさいね…!」
振り返りざまに刃を振りかぶるエルザ。
タイヨウもそれに反応し、即座に銃剣を盾替わりに構える。
ぶつかり合う音が鳴り響き、鍔迫り合いが始まった。
しかし、タイヨウは銃剣から片手だけ放し、腰から先程エルザからくすねた刃を抜き放つ。
そのまま脇腹に向けて切っ先を立て刺そうとするが、これまた飛び退き回避するエルザ。
「行くぜぇ!テメェをぶっ飛ばしてハッピーエンドだァー!!」
そこにすかさず走り込むナツキスバル。
それを見てもエルザは余裕そうに微笑むだけ。
「元気が有り余ってるのね」
そんなことを言い放った刹那、エルザはナツキスバルの背後にいた。
「でも遅い」
「──ッ」
無慈悲に振り抜かれる刃。
それは確実にナツキスバルの命を奪うもので……しかし、その一撃は水色がかった透明な壁によって阻まれた。
偽サテラの氷の盾である。
「狙った所に創るのは得意じゃないんだけど!」
驚くエルザ。そこに飛来した1つの影。
それは銃剣。タイヨウがやり投げの要領で投擲したものである。
銃剣はエルザの頬をかすめるが、それだけ。決定打にはならない。
手にした刃で打ち払い回避した。
しかし、彼女が避けた先に既にタイヨウが走り回り込んでいた。
その手に握るは相対する彼女から奪った刃。
両者振りかぶり―エルザとタイヨウの一撃が交わった。
「やっぱり、あなたは楽しいわ」
「ああ…!俺も楽しいぜ……エルザァ…!!」
パワーでは勝ってる。しかし、刃を持つ手は負傷した方の肩。力があまり込められない。
エルザはそれを好機とばかりにタイヨウを押し返した。当然体勢が崩れる。そうして、間髪入れずエルザの二撃目が腹へと向かって伸びてきた。
咄嗟に、地面に転がっている銃剣のスリングに足をかけ、エルザの顔面向けて蹴りあげた。
その切っ先は肩へと刺さったが、エルザは止まらない。無理やり体を前に進め、タイヨウへと肉薄した。
その瞬間だった。
「──そこまでだ」
屋根を貫き盗品蔵の中央に一つの影が降臨する。
その存在感にエルザもその動きを止めた。タイヨウもまた素っ頓狂な顔で崩れた体勢のまま地面へ。
「危ないところだったようだけど間に合ってなによりだ」
「お、お前は……」
その姿を見てナツキスバルは声を上げた。
そこに居たのはタイヨウも知る人物。
その圧倒的な威圧感の前に、エルザの顔から余裕の笑みは消えた。
「さあ、舞台の幕を引くとしようか──!」
紅い髪をかき上げて、ラインハルトは高らかにそう言った。
「ライン、ハルト……か?」
「そうだよスバル。さっきぶりだね、遅れてすまない」
放心するナツキスバルに爽やか笑顔でそう応えると、今度は目の前にいる敵意むき出しな麗人へと視線を移した。
傍らにいるのは血まみれのタイヨウ。それを目にして少し驚いたように目を見開いた。
「タイヨウも血まみれじゃないか。僕が遅れたせいで無茶をさせすぎたね。すまない」
「……俺、名前言ったっけか?」
「スバルがそう呼んでいたから呼んだけど……違ったかな?」
「………合ってる」
──距離の詰め方、煽り運転かよ
ジト目でラインハルトを見つめるタイヨウ。
そんな視線が向けられたラインハルトだが気にしたする事なく……エルザに鋭い視線を向ける。そうして、ふとその瞳が何かを思い出すように細められた。
「黒髪に黒い装束。そしてくの字に折れた北国特有の刀剣。それだけ特徴があれば見間違えたりはしない。君は『腸狩り』だね」
「なんだその超物騒な異名……」
「その殺し方の特徴的なところからついた異名だよ。危険人物として、王都でも名前が上がっている有名人だ」
ナツキスバルの呟きに応じて、ラインハルトはその双眸をエルザへと向けた。
「ラインハルト──騎士の中の騎士。『剣聖』の家系ね。すごいわ、こんなに楽しい相手ばかりだなんて」
「色々と聞き出したいこともある。投降をお勧めしますが」
「血の滴るような最高のステーキを前に、飢えた肉食獣が我慢できるとでも?」
そんな言葉と共に艶めかしく舌なめずりをひとつ。
そんな様子にラインハルトもですよねと言わんばかりに肩を竦めた。
「仕方ない。スバル、少し離れていて。できればあの老人を安全圏へ。そのあとはあの方の側にいてくれると助かる」
「かしこまり。……化け物みてぇな女だから、油断しないでな?」
「幸いなことに、怪物狩りは僕の専売特許でもあるんだ。タイヨウは動けるかい?」
「動ける…がバトンタッチな。ぶっちゃけ疲れた」
「……ああ、任せてくれ」
血だらけのまま、ラインハルトの横を通り過ぎるタイヨウ。
常人ならば死んでいてもおかしくない、そんなダメージで平然としているその生命力、そのタフネスにラインハルトは少なからず驚愕していた。
さて、避難も終わり。ようやく始まるラインハルトとエルザの一戦。
ラインハルトは気負う様子もなく歩き出す。腰に下げた剣には手も触れず、無手のままの前進だ。
そこからの展開は早かった。
ラインハルトに向けて振るわれたエルザの刃は届く前に蹴りひとつで体ごと吹き飛ばされ。
起き上がったエルザは盗品蔵にあった剣を握ったラインハルトと打ち合うが、それでも届かない。
懐から出したナイフの投擲は物理法則を無視してラインハルトの体を避け、隠し持っていた刃はナツキスバルに看破され。全く歯が立たない。
「全ての武器を切り落とせば、満足してもらえるかな」
「牙がなくなれば爪で。爪がなくなれば歯で。歯がなくなれば骨で。骨がなくなるのならば命で。──それが戦闘狂というものよ」
そこからエルザは自慢の機動力を活かしながら四方八方からラインハルトへ攻撃を仕掛ける。
両手の刃はもはや嵐のような攻撃。しかし、それを事も無げに弾き、防ぐラインハルト。そして、
「やっちまえ!ラインハルト!」
ナツキスバルのそんな声にラインハルトは僅かに顎を引き頷いた。
「何を見せてくれるの?」
「──アストレア家の、剣撃を」
エルザの言葉に短く、厳かに答えるラインハルト。
剣をたかだかと上へ構え、
その瞬間、空間が歪むのを感じた。
大気がラインハルトに引き寄せられるのを感じる。
変貌した室内。
その中央にいるラインハルトは低い姿勢に構えた。
エルザは理解した。この瞬間に剣聖が"初めて剣を構えた"のだと。
「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」
「『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」
互いに名を名乗り、もはや一騎打ち。
このほぼ廃墟と化した盗品蔵にて剣聖と殺人鬼が互いに向かい合っている。その様は1種の英雄譚のような光景だった。
やがて、2人は互いに向かって動きだし、
「────ッ」
誰の声か。エルザかラインハルトか、はたまたナツキスバルか。
声すら掻き消える轟音がその場に鳴り響いた。
極光が盗品蔵……いや、空間を二つに引き裂き、空間がズレた。
光がその場を包み込み、真っ白い空間へ。やがて光が収まると次にやってきたのは大きな衝撃。
タイヨウはすぐ様、ナツキスバルらを守ろうところがるテーブルを1つ掴み取り盾のようにして構えた。
「な、なんだこりゃあああああ!?」
ナツキスバルの声が響く。
分からない。何が起きたか分からないが、これを起こした原因は分かる。
やがて、この嵐が収まるとそこはもはや盗品蔵と呼べるものではなかった。何も無い。ただの廃材と化した盗品蔵しかない。
そして、これを引き起こした原因、ラインハルトはその場の中央で爽やかな顔で立っていた。
「な、なにが化け物狩りは自分の領分だ。お前のが十分化け物じゃねぇか!」
「そう言われるとさすがに僕も傷付くよ、スバル」
ナツキスバルの叫び声にバツが悪そうな顔をするラインハルト。
彼の握る剣はあの意力に耐えられなかったのかボロボロと崩れ落ちていった。
「無理をさせてしまったね。ゆっくりおやすみ」
慈愛に満ちた表情。
剣すら壊す、それほどの威力。そんな一撃を受けたエルザはと言うと、
「肉片1つものこってねえな。スプラッタ感がなくて逆にコレでいいのか?」
エルザのたっていた場所。そこは抉れるように外へと続き、何も残っていない。
ラインハルトの圧倒的な強さにタイヨウもまた、あのとき攻撃しに行かなくてよかったな、なんてことを思っていた。
「無事に、終わったの?」
「ああ、ホントの意味でどうにかな」
弱々しい少女の声に明るく答えるナツキスバル。
「ラインハルト。まだ礼を言ってなかった。マジ助かった。さっきの路地のことといい、俺の心の叫びが聞こえたのかよ」
「それができたなら僕も胸を張るんだけどね」
そう言って照れくさそうにラインハルトの示した方向。底にはひょっこりとか顔を出したフェルトがいた。
「お」
「彼女が必死で路地を走り回っていたんだ。そして僕に助けを求めた。僕がここにこれたのは彼女のおかげだよ」
あのときフェルトを逃がしたナツキスバルの判断が功を奏した。
穏やかな時が流れ闘いは終わった。
そう思った。
「───!?スバルッ!」
廃材が吹き飛んだのと、ラインハルトの声が響いたのはほぼ同時だ。
一つの影が偽サテラに向かって突き進んでいる。
エルザだ。
この瞬間、タイヨウはすでに駆け出していた。
幸い偽サテラの近くにいた彼は悠々と彼女の前へ躍り出る。
一撃にかけた様子のエルザ。
銃剣を手放している無手のタイヨウ。
──ラストバトルだ
その意気込みひとつに腰を落とし構えた。
前から進んでくるエルザもまたタイヨウの顔を見て笑みを浮かべた。
狙いは腹。分かっている。が、スピードが尋常じゃない。
振るわれた刃はタイヨウの腹の中へと沈みこんだ。
そのまま引き裂くように進み。ピタリと途中で止まった。
「ぐうぅぅぅぅう……!」
「……ほんとうに、元気いっぱい、ね」
エルザの腕を掴み、刃の進みを止めていた。
そこに走り込んでくるラインハルト。
エルザはこれ以上は無理だと、身を引こうとするが、タイヨウの力がさらに強まる。やがてゴキリと嫌な音が鳴り響いたかと思うと、横から飛んできたエルザの蹴りが顎にクリーンヒット。
思わず手を離してしまった。
即座に離脱するとエルザ。
一瞬にして誰の手にも届かない場所まで下がってしまった。
「いずれこの場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい腸を可愛がっておいて」
そのセリフを言い終えると同時にタイヨウは腹に刺さっていたそれを投擲。しかし、それは当たることなく、エルザの姿は一瞬にして消えたのだった。
「………」
息がこぼれるタイヨウ。
その目はエルザの消えた方向を見据えていた。
「……元気になって戻ってこい」
「「「「っ!」」」」
タイヨウの呟きに驚く4人。彼の顔は痛みに苦しむ訳でもなく、にげたエルザに悔しがるわけでもなく………気持ち悪いほどに"笑顔"だった。
──ぶっ殺してやるから
その場にいる者たちは、タイヨウ口からその言葉を口にしていないはずなのに、その言葉を確かに聞いた。
金カムらしくできたかめちゃ不安。
なんで一般の出なのにこんなにバーサーカーなのって言うのは………な、何でだろうねぇ?