かいご・ざ・ロック 作:男の娘って良いよね
助けて。
「おーい!」
「あっ! 理斗くん、ぼっちちゃんって、え?!」
「ワッ、ワン!」
ひとりちゃんいつまで犬になってるの?
いつの間にか首輪まで着けてアップデートされてるし。
「ぼっちちゃんが犬になってる!?」
「これがペットプレイか」
なんてことを言うの!?
「桃斗くん……」
何その呼び方!?
「喜多ちゃんまで引かないで! これはひとりちゃんが店長さんに怯えて勝手にやってるだけだから!」
「冗談よ、理斗くん。理斗くんは恋人でもないのにそんなことするはずはないもの。それにひとりちゃんが奇行をするのはいつものことだし」
ああ、よかった。
呼び方が戻った。
喜多ちゃんは好感度で呼び方が変わるタイプなのか。
気をつけよう。
もし喜多ちゃんに嫌われたら死んでしまう。
「まあ、それは良いとして」
全く良くは無いんだけどね。
このままじゃ話が進まないから仕方ない。
「店長さんは次の土曜日にオーディションするからそれで認めさせろって。つまり出す気が無いんじゃなくて前回みたいに審査なしじゃ出させないってだけだよ」
「もぉ~! なにそれ! お姉ちゃん意地悪!」
「まぁまぁ、虹夏ちゃん落ち着いて。店長さんが口下手なのは分かってるでしょ?」
「そうだけどさぁ!」
怒ってる虹夏ちゃんもほっぺが膨らんでて可愛いなぁ。
やっぱり天使だ。
観てて癒やされる。
「でも、後は頑張るだけですもんね!」
「アア、ウンソウダネ」
嬉しそうな喜多ちゃんに反して虹夏ちゃんは一気に不安そうな顔になった。
「この二人が一番不安なんだけどって顔してる」
まあ虹夏ちゃんがそう思うのも分からなくはない。
喜多ちゃんはギター始めたばかりだし、ひとりちゃんが本当は上手いってことも知らないからね。
「じゃあ、二人のパートはオケ流しとくから当て振りの練習だけしっかりやってくるように」
「「はい!」」
はいじゃないが。
「だーめ! エアバンドじゃないんだよ」
「一週間しかないから、今回は頑張らなくても」
「下手っぴでも頑張れば熱意は伝わるって」
「「下手っぴ……」」
「ああ、ごめん。でも二人とも最初より上手くなってるし、ね! リョウ!」
「んん~」
「ちょっと! フォローしてぇ!」
虹夏ちゃんは追い打ちをかけるのが上手いなぁ。
でも確かに上手くなっているよね。
喜多ちゃんは物凄い上達速度だし、ひとりちゃんだって段々と本来の実力を出せるようになってきている。
二人共最近は僕が言わなきゃ休憩も取らないほどに熱中してるし。
「ああちょっとぼっちちゃん!? 土管の中引きこもらないでぇ! ああ、ぼっち節が響いてる……」
ひとりちゃんは土管の中に籠もってしまった。
「え? 私はともかく、後藤さんが下手?」
喜多ちゃんがぽつりと呟く。
「僕もひとりちゃんは上手だと思うよ」
音楽に詳しい訳ではないただの素人だから、どのくらいかまでかは分からないけど。
喜多ちゃんに教えてる時とかひとりで弾いている時なんかとても上手い。
それにひとりちゃんのあの弾き方、見たことがある。
どこだったか忘れたけど。
ともかく、かなりの腕前だろう。
でもひとりちゃんには致命的な欠点が存在する。
「でも、ひとりちゃんは演奏が一人で突っ走っちゃうんだ。そのせいで上手く実力が発揮できないんだよ」
そう、ひとりちゃんは自分に自信が持てないせいか、みんなと演奏するときにはいつも余裕がない。
当然アイコンタクトなんか取れるはずもなく、息の合わない演奏をしてしまうのだ。
「だから二人に下手だと思われてるんだと思うよ。だって喜多ちゃんに教えてる時は上手でしょ?」
「なるほど、そういうことだったのね」
もっとひとりちゃんも自信持てばいいのにな。
演奏についてもっと褒めたら自信を持ってくれるかな?
まあどちらにせよそんなすぐには変わらないだろうし時間が解決してくれるのを待とう。
「だいじょーぶ! みんなにリョウ並の技術を求めてる訳じゃないから。熱量? バンドとしての成長? とかを見せれたら納得させれるよ!」
バンドとしての成長……かぁ。
ひとりちゃんも、喜多ちゃんも、リョウちゃんも、虹夏ちゃんも、確かに成長している。
でもそれはあくまで個人としての成長。
バンドとしての成長とは違う気がする。
そもそも、バンドとしての成長が何か、僕には分からない。
だって、僕はバンドをしたことがないから。
それは結束バンドのみんなにしか分からないだろう。
僕に出来るのは、ただみんなを信じることだけだ。
オーディションの日が近づいてくる。
四人はバイトを休み、時間の許す限り練習を続けていた。
そしてみんなもバンドとしての成長が何か、分からないからか迷走していた。
ある時は虹夏ちゃん以外の三人がスーツ姿でキノコヘアーになっていた事もあったし。
リョウちゃん曰く、飲酒、喫煙、女遊び、そしてキノコヘアーがバンドマンらしい。
喜多ちゃんとひとりちゃんが男装してるのは珍しいけど、アレも格好良くて良かった。
「い、いつも送ってくれてありがとうございます」
「いいのいいの、気にしないで」
最近はひとりちゃんを家まで送ってあげている。
その方が早く家に着くから、ギリギリまで練習できるし。
「理斗くーん! ぼっちちゃーん!」
そろそろ行こうかと考えていると、虹夏ちゃんがこちらへやって来た。
「虹夏ちゃん何か飲む? ぼっちちゃんは……コーラでいいよね?」
「え? あ、はい」
「じゃあ私はレモンで」
「はい、どーぞ」
ひとりちゃんにはコーラ、虹夏ちゃんにレモネードを手渡す。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとね」
「それで虹夏ちゃん、どうしたの?」
「いやぁ、二人に聞きたいことがあって」
「え?」
聞きたいこと……なんだろう。
「二人がバンド手伝ってくれる理由、まだ聞いてなかったって思って。ほら、ぼっちちゃんが結束バンドに入ってくれたのもそうだし、理斗くんもバンド活動手伝ってくれるのって成り行きっていうかかなり強引にだったじゃん」
ああ、なんだそんなことか。
まあ確かに強引ではあったね。
「全然気にしなくていいのに」
「私はさ、夢っていうか……目標があるからさ。つい熱くなり過ぎちゃうことがあるから。二人に無理させてないかなーって」
虹夏ちゃんの夢……か。
「全然無理だなんて思ってないよ。思う訳ないじゃん」
「……理斗くんはどうしてそこまでしてくれるの?」
「そんなの決まってるよ」
僕が結束バンドを……四人を手伝う理由。
友達だから?
ああ、確かに友達だっていうのも勿論あるよ。
でも、一番の理由は……
「みんなのことを愛してるから……かな」
「「……え?」」
次回は虹夏視点。