かいご・ざ・ロック 作:男の娘って良いよね
「逃げたギターボーカルの子が喜多さんだったんだ〜、なるほどね~」
「はい……」
「そっかぁ〜、喜多ちゃんギター弾けなかったんだぁ〜。だから合わせの練習頑なに避けてたんだね」
「はい……」
まさかこんな偶然があるなんてね。
「突然音信不通になって心配してた」
「先輩……!」
「毎日線香上げてた」
「勝手に殺さないであげて」
リョウちゃんほんとにロックすぎるよ。
この人に毎日ツッコまなくちゃいけないなんて、虹夏ちゃん苦労してるんだね。
「あの……怒らないんですか?」
「気づかなかった私達にも問題あるし。あの日はなんとかなったからね」
「そ、それじゃあ私の気が収まりません! なにか罪滅ぼしをさせてください!」
二人共喜多さんのことを赦しているが、罪悪感が消えないのか罪滅ぼしをさせて欲しいと要求する。
「じゃあ今日一日手伝ってくれない? 忙しくなりそうだから」
「はい!」
「じゃあ、着替えてきて」
着替える?
別にここ制服があるわけでも無いのに何に着替えるんだろう?
着替え終わり戻ってきた喜多さんはメイド服を着ていた。
かわいい。
喜多さんのメイド服、すごくいい。
白いフリルの付いたエプロンにロングスカート。
The・メイドって感じの服装だ。
凄い似合ってる。
「あいつ臨時なのに使えるな」
「手際いいねぇ〜」
「ねぇ~」
ホントに手際良いな。
テキパキと働いている。
バイト経験あるんだろうか。
「惰眠を貪る時間までできてしまった」
「給料から引いとくな」
リョウちゃんは相変わらずだ。
忙しくなるって店長さんが言ってたのにサボろうとするなんて。
まあ一応バイト慣れてきたし多少忙しくても僕一人でも何とかなるけどさ。
それにしても喜多さんノリノリだな。
鼻歌交りにモップをかけている。
メイド服恥ずかしくないのかな。
「ところで店長」
「あ? どうした」
「バイト初日にメイド服がどうのこうのってつぶやいてましたよねぇ。僕に着せるつもりだったんですか?」
そもそもなんでメイド服なんか持ってるの?
もしかしてコスプレとかしてるのだろうか。
「き、聞こえてたのか」
「僕耳いいんですよね。いや、まあ別にいいですけどね。なんなら今度メイド服着てあげましょうか?」
「いいのか?」
僕の言葉に目をキラキラと輝かせる店長。
えぇ……そんなに僕のメイド服姿見たかったの?
まあ恥ずかしいけど、メイド服ぐらいなら大丈夫でしょ。
「喜多さんいい匂いしますね〜」
一方その頃PAさんは喜多さんの頭をクンクンと嗅いでいた。
何やってるの?
「喜多ちゃん愛想いいし受付もやってみたら?」
「はい! 私人と関わるの大好きなんです!」
ひとりちゃんと真逆の人種だね。
「ひとりちゃんどうしたの?」
「あっアイデンティティの喪失中です」
いつの間にかひとりちゃんはゴミ箱に入っていた。
ギターを取り出してエレジーを奏で始めると、体から魂が抜け、天へと登っていく。
リョウちゃんも何も言わずにひとりちゃんの魂を見ていた。
ホントにどこから取り出したの?
……いや、もう考えるのはやめよう。
もとから爆発したり溶けたりと物理法則を無視することはよくあるし。
「ほーらひとりちゃん、ゴミ箱から出ようね〜」
ゴミ箱からひとりちゃんを引きずり出し起き上がらせる。
流石にゴミ箱の中は汚いから辞めようね。
「ぼっちちゃんは喜多ちゃんにドリンク教えてあげてよ」
「あっはい!」
「理斗くんはひとりちゃんをサポートしてあげて」
「はーい」
まあひとりちゃんも成長してるし大丈夫でしょ。
そう思っていた矢先にひとりちゃんはやらかした。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
「っ!? ひとりちゃん!」
コーヒーが溢れてひとりちゃんの左手にかかる。
僕はひとりちゃんの手首を掴み、急いで流水に晒し冷やした。
よかったそこまで火傷はひどくなさそうだ。
カバンから取り出した軟膏を取り出し喜多さんに渡すと、それを塗り、ハンカチを巻き付ける。
これでとりあえず大丈夫かな?
「大丈夫? 大体分かったから後藤さんは休んでて」
「ありがとうござっ……!」
「ん? どうしたのひとりちゃん」
「いっ、いえ、何でもないです……」
火傷が痛かったのかな?
五時になりバイトが始まる。
店長の予想通りいつもより人が多く忙しかった。
「後藤さんはなんでバンドを始めようと思ったの?」
「あっ、世界平和、世界平和を伝えたくて……」
ホントに?
僕が聞いた時「インドア趣味なのに派手でかっこよくて人気ものになれるから」って言ってなかった?
僕がジト目で見るとひとりちゃんは目を逸らし話題を変えた。
「あっ、あの、尊敬してる先輩って……」
「うん……リョウ先輩。私は後藤さんと違って不純なんだけど……先輩の路上ライブ見て、憧れちゃったんだ。ちょっと浮世離れしてる雰囲気とか、ユニセックスな見た目とか、もう何もかもキャー! って感じで!」
ホントに喜多さんはリョウちゃんのことが大好きなんだなぁ。
憧れの先輩がリョウちゃんだって何となく分かっていた。
リョウちゃんを見て土下座したし。
「そして、何より楽器が様になってて……!」
その後、二人はギターやバンドのことで話が盛り上がった。
そして喜多さんも不思議な子だと判明した。
バンドが第二の家族って言う気持ちは分かるけどリョウちゃんの娘になりたかったていうのはよくわかんないな。
「お疲れ様、帰っていいよ」
今日のバイトも無事終わりを迎えた。
ひとりちゃんが火傷をしたこと以外は。
喜多さんと話していて分かった。
このままだと喜多さんは結束バンドに入らない。
入りたいと思っているのに、自分にその資格はないと自分に言い聞かせて、諦めている。
でも、喜多さんを引き留めるのは僕には無理だ。
そもそも僕は結束バンドのメンバーじゃないから。
だから
「ひとりちゃん、喜多さんをお願い」
「はいっ!」
ひとりちゃんに、結束バンドのみんなに任せることにした。
「それじゃあ今日はありがとうございました。結束バンドのことは陰ながら応援しています」
そう言って帰ろうとする喜多さんを、ひとりちゃんが引き留める。
「えっ、あっ、あの! やっ、ひゃっ!」
転けそうになるところを手を回し防ぐ。
あぶない危ない。
「大丈夫?」
「あっはい! すみません!」
転びかけたのが恥ずかしかったのか顔が赤くなる。
「後藤さん、もしかしてまだ私のことを? ごめんね? さっきも言ったけど、私結束バンドには入れないわ。ギターも弾けないし、何もできず逃げ出しちゃうような人間だし……」
「喜多さんの左手……指の先の皮が硬くて……そっ、それは!」
「かなりギター練習してないとならない」
ひとりちゃんの言葉をリョウちゃんが引き継ぐ。
そうか、あのときの反応はそういうことだったんだね。
「喜多さんは楽器を弾くのは苦手かもしれないけど、努力の才能は人一倍あります」
喜多さんは、嘘を本当にするため、練習し続けていたんだ。
「喜多ちゃんもこれから結束バンド、一緒に盛り上げてほしいな!」
「っ! どうしてそこまで」
「だって喜多ちゃんが逃げ出してなかったら、ぼっちちゃんも理斗くんとも出会ってなかったもん」
確かにそうだ。
喜多さんが逃げなかったら、ひとりちゃんが代わりにライブをすることはなかった。
ひとりちゃんが結束バンドに入っていなければ、僕は友達としてではなく、ただのファンとしてしか、結束バンドに関わらなかっただろう。
「私もバンドやりたかったからさ〜、引け目を感じちゃうのも、まだ憧れちゃうのも分かるもん」
「私もですっ!」
ひとりちゃんが大声を出す。
「あっ、すみません。思ったより声が……」
「あははは、喜多ちゃんが戻ってきたら助かるな。ねっ! リョウ!」
「スタジオ代もノルマも5分割」
リョウちゃんは素直じゃないなぁ。
「先輩分のノルマ……貢ぎたい!」
「爛れた関係が誕生しそうなんだけど!」
ボケが一人増えた!
いや多分リョウちゃん関わらないとまともなんだろうけど。
この二人組ませたら駄目だ。
虹夏ちゃんの負担が増えるのが目に見えてる。
「で、でも……私ギター弾けないし……」
「それなら大丈夫、ぼっちちゃんが先生してくれるよ」
「いいの?」
「はいっ!」
ひとりちゃんははっきりと返事をした。
「……うん。私、頑張る……結束バンドのギターとして……」
こうして、個性豊かな4人が結束し、結束バンドは正式に結成された。
「でも、本当に大丈夫かしら……やっぱり不安だわ。私いくら練習しても本当に弾けなくって、なんだかボンボンって低い音がして……」
うーん?
低い音がする?
もしかしてそれって……
「それベースじゃ」
「私もそこまで無知じゃないって〜。ベースって弦が4本の奴でしょ?」
喜多さんがケースを床に置き、開く。
そこに入っていたのは紛うことなき六弦ベース。
「ほら~ちゃんと六本あるでしょ」
「弦が六本のもあります」
「うん、これは間違いなく六弦ベースだよ。そりゃあいくら練習しても上手くならないよね」
「ガッ!」
喜多さんは死んだ。
六弦ベースにショック死させられたのだ。
ギターと間違えて六弦ベースを買うなんてお店の人に聞いたりしなかったんだろうか。
ようやく結束バンドが揃ったよ