段ボール箱入り娘   作:大葉景華

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一日目

帰り道。 電柱の横に段ボールが置いてある。 側面には「拾ってください」と書かれた貼り紙。

今時と言うかなんというか……。 いや、昔だろうと電柱の横に拾ってくださいなんてシチュエーションには見たことがない。 生確に言うなら一昔の物語に出てくるシチュエーションと言うのが正しいだろう。

しかし、古今東西空前にして絶後。 この光景はフィクションだろうと体験することは無いだろう。

何故なら、段ボールの中に入っているのは犬猫ではなかった。 段ボールで膝を抱えているのはまだ顔立ちに幼さが残る少女だった。

 

なんの気の迷いか、自分の家に連れて帰ってしまった。 彼女は俺が差し出したココアをチビチビと舐めている。 その様子はまさに子猫の様で思わず和んでしまう。

ある程度落ち着いたところで彼女に話を聞いてみた。

 

「あ、あのさ。 どうして段ボールの中なんかに入ってたの?」

 

彼女はココアの残りをじっと見つめている。 そしてぽつりぽつりと話し出した。

 

「…………捨てられたから」

 

「捨てられた? えっと……、ご両親とか?」

 

「分からない。 でも、捨てられたの」

 

どうやら行く当ては無いようだった。 元の家の事はいくら聞いても答えてくれなかった。

とりあえず今日は家に置いておくしかないだろう。 予報では今夜から数日間は雨となっている。 流石に外に放り出したら最悪命の危険がある。

 

「とりあえず、今日はもう泊っていってくれ。 悪いけど布団は一つしかないから毛布でも……」

 

と言いながらクローゼットを開けようとすると彼女が俺の袖をつかむ。 何かを訴えようとしているが唇が震えるだけで言葉にはなっていない。

その仕草が本当に猫みたいでいじらしく感じる。 そっと彼女の頭に手を置いて撫でてやる。 彼女は俺が手を頭の上に置いた瞬間身を竦ませたが、俺に害意がない事を感じると撫でられるがままになっている。 しばらく撫でてやっているとだんだん目がトロンと落ちてきて船を漕ぎだしている。 それでも頑なに俺の袖は放そうとしない。

もはや全体重を俺に預けてほぼ寝落ちている。 しょうがないと思いながら起こさないように新著に抱き上げてそのまま同じベッドに潜り込んだ。 布団をかけてやるとすぐにすうすうと寝息を立てた。

今日だけだ。 明日には警察なりなんなりに連絡して保護してもらおう。 そう思いながら俺も眠りに落ちて行った。

 

翌朝。 目を覚まし、腕を伸ばして眠気を吹き飛ばしていたら隣から「フガ」と変な声が聞こえた。 まだ覚醒しきっていない頭で何があったかと思いながら横に顔を向けると、そこにいたのは例の女の子が伸ばした俺の腕に潰されている姿だった。

数分後。 顔を洗ってお互いの朝食の準備をしている。 目覚めた時は謝り倒したが、特に気にしてはいない様だった。 と言うより、感情の起伏が少ないって感じだ。

とりあえず今日は何から始めようかと思いながらトーストにバターを塗ったものとホットミルクを彼女の前に置く。 彼女がそれに口をつけるのを確認してから俺も朝食を食べる。 お互い食べ終わって合掌。 片付けをして改めて向き合う。

 

「えっと。 ……改めて君のご両親とかお家の事聞いてもいいかな?」

 

「…………」

 

だんまりか……。 別の話題で突っついてみるか。

 

「えっと。 君の名前は?」

 

「……わかんない。 お父さんもお母さんも私の事を呼んでくれなかった」

 

「えっと……。 君は何歳?」

 

「なんさい?」

 

「えっと…………。 小学何年生かな?」

 

「学校……行ってない。 お母さんが行かせてくれなかった」

 

この問答を聞くに、おそらく……と言うかほぼ間違いなく育児放棄だろう。 大方望まぬ妊娠で産んだはいいが育児などせず、ついには捨てたという感じだろう。 ここ数年路上売春のせいで望まぬ妊娠の数が増え、自宅で誰にもバレずに出産する件数が増えたらしい。 その結果、コインロッカーベイビーやストリートチルドレンが増加している事が社会問題になっている。

この子も恐らくそうなのだろう。 そして俺のとるべき行動は決まっている。 児童相談所だ。 非道な事だが、こんな子供はいま全国に何人いるか数えきれない程だ。 そしてこのような子供でも自宅に泊めていると俺は未成年誘拐罪で両手首に縄がかかってしまう。 俺だってつかまって人生オシャカにしたくない。

自分の人生と、見ず知らずの子供。 どちらを取るなんて考えるまでもない。 合理的に考えるならそのはずなのに……。 昨日、彼女の頭を撫でた時の掌の温かみを忘れることが出来なかった。

 

「最後にもう一個聞いても良いかな。 君が前にいたお家と、今この家。 どっちに居たい?」

 

彼女の眼をじっと見つめる。 琥珀色の目には様々な感情が浮かんでいる。 虐待していたとはいえ家族への思い。 ネグレクトから解放されたいという思い。 拾ってくれた俺への信頼と不安。

どんなに感情が渦巻いても彼女が俺から目をそらす事は無かった。 だから俺も目を逸らさない。

 

「た……」

 

彼女の唇が小さく震え、息を吸い込んでもう一度言った。

 

「助けて……。 私を拾って下さい!」

 

きっかけは小さなことかもしれないし、世間的に見たら間違っているし、社会的に見たら意味のない事かもしれない。

それでも、俺は、彼女を救いたい。 救われたいと言うこの子を見捨てる事なんて出来ない。

 

「分かった」

 

その言葉に彼女は目を見張った。

 

「一緒に住もう」

 

「……うん!」

 

そうして俺はこの子と家族になった。 いつ終わるかもしれないし、誰にも許してもらえない生活を始めた。




作者が死なない限りぽつりぽつり続きます
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