さて、コースのメインである肉料理が終われば、後は食後のお楽しみ。デザートである。
そして、今回はこの最後のデザートについてもゴブリンで作ってみた。
ジュレ、ギモーヴ、ババロアにグミキャンディ。ゼラチンで作れるデザート4種をカラフルに彩色した盛り合わせは、アンジェラ嬢の乙女心を無事に刺激出来たらしい。
差し出すや否や夢中で頬張り美味しい美味しいと食べる様は女子の別腹というモノを感じさせる。あとついでに言えばアンジェラ嬢のアホさも感じさせる。
オヤツの食いつきが甘やかされて育った犬並みなので、『今まで良く悪漢に拐われずに済んだな』と思ってしまうレベルだ。
そんな可愛い可愛い馬鹿犬*1系女子のアンジェラ嬢が貪っているジュレやババロア、グミ、そしてギモーヴ
というのは、どれも果汁とゼラチンで作るお菓子だ。
そして、意外かも知れないがゼラチンというのは肉や皮、骨の加工品なのである。
今回のゼラチンについても、それは変わらない。今回ゼラチン抽出に使ったのは、ゴブリンの腱。大量のそれを耐熱ガラス*2製の大鍋にぶち込み、塩酸*3に時間加速の魔術で20日ほど漬け込んでから、余計な成分が溶けた塩酸を捨て去り、真水でじっくりと煮込む。そうすれば筋が蕩けてトロトロの煮凝りが染み出してくるので、あとはこの煮凝りから不純物を濾過して取り除き、しっかりと乾燥させればゴブリンのゼラチンが完成する、というわけだ。
あとはこのゼラチンを使ってお菓子を作るだけである。一番簡単だったのはやはりジュレ。温めた生命の果実のジュースにゼラチンを溶かし込み、飾りと食感用に桑の実やヤマボウシ*4を加えて冷やして固めるだけの簡単レシピだ。
ババロアについてもジュレと似た様なものだが、こちらは卵黄、山羊のミルク、砂糖の代わりの果実ジャムを混ぜ合わせて冷やし固めたプリン風のレシピ。具はほとんど同じでも卵と乳の味わいが全く異なる印象を与えてくれる。
グミキャンディについてはジュレのゼラチン濃度を濃くするだけの滅茶苦茶簡単レシピなので割愛。違いと言えば色々な果実*5の裏漉しジャムでカラフルに作ってみたことぐらいだろうか?
そして最後にギモーヴ。名前をあまり聞いたことがない者もいるかもしれないが、フルーツピューレを使って作るマシュマロの様なお菓子だ。まぁ中身は結構違う*6のだが、食感は割と似ている。
で、このギモーヴ、煮詰めたフルーツピューレに溶かしたゼラチンを加えるところまではグミやジュレと同じなのだが、ここからが大変なデザートなのだ。何しろ、渾身の猛スピードで泡立ててフワッフワにしなければならないのである。人間であれば素直に最高速度の電動泡立て器を使った方がいいだろう*7。そしてしっかりフワフワにしたら型に流し入れて冷やし固めて完成だ。
マシュマロの砂糖の甘さも良いものだが、ギモーヴの『ジャムで出来た素敵なフワフワを食っている感覚』というのは一度知ってしまえば病みつき間違いなし。アンジェラ嬢も気に入ったのか食い付きが良好なので、今後も新しいフルーツを見つけた際は作って振る舞うことにしよう。
さて、此処からは余談だが。今回のコースで作ったいずれのデザートも甘味のベースは生命の実、というのは代わりない。多用しすぎている自覚はあるのだが、こればかりは仕方がない事情があるのだ。自然でありつつ濃厚な甘みと芳香を持つこの果実、この世界で今まで遭遇した果実とは比べ物にならないほど甘い。
この世界にも蜂蜜はあるらしいのだが、悲しいかなアルクの近郊では養蜂が盛んでは無いとのこと。そんなわけで、甘い物は現状生命の実に頼るほかないのである。俺の知る世界と植生や魔物以外の生物のが同じなので、甘草やサトウキビ、製糖用のビーツ*8などはあるはずなのだが。それらを入手するまでは我慢するほかないだろう。
だがまぁ、そんな生命の実一辺倒な甘味でも、今回の様にベリーで味を変えたり、食感を変えてみれば、アンジェラ嬢を喜ばせることは充分に可能だ。
甘味とは罪の味。アダムもイヴも逆えなかったその味で是非、アンジェラ嬢には『暴食』と『美食』の喜びを知ってもらいたい物である。
ま、心配しなくても唇をクリーム塗れにしている彼女なら既に『暴食』の快楽には堕落しているとは思うのだが。魂も良い具合に魔に寄ってきているので、彼女が種族的な意味で『魔女』になる見込みは十分にある。
その為には、もっと多くの魔を喰らい、その存在の格を引き上げる必要があるのだが————
「アンジェラ嬢、デザートのお代わりと食後のハーブティーはいかがですか?」
————差し当たっては、甘くて美味しいデザート軍団で、彼女の別腹を埋め尽くすとしようか。