異世界召喚ディアボラ風〜魔女の半熟卵を添えて〜   作:黒山羊

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本日2話目の更新です!
新キャラ登場回になります。
それに伴ってキャラクターメモをこの後更新予定です。
(あとがきにリンクがあります。)


23. 小料理『半魚人の夕餉』②

 

 さて、そんなこんなで人1人が通れる程度に川沿いの雑草を焼いて道を作りつつ進む事しばし。アンジェラ嬢の齎した破壊の跡が見えなくなってきたあたりになると、流石に半魚人も増えてきた。

 

 が、所詮は水生ゴブリン的な存在。自分の膂力を自覚したアンジェラ嬢の敵ではない。

 

「えいえいっ」

 

 

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 なんて可愛らしい掛け声で両手に握った『砂利』を投げれば、それは散弾となって並み居る半魚人を蜂の巣に変え、撃ち漏らしは魔眼の電撃で焼き払うスタイルを確立した事で川からこちらを狙う愚かな魚類共は悉くが死滅する。

 

 というか、マジで疑問なのだが、コイツらに生存本能はないのだろうか? 同類が目の前で即死したらお馬鹿なゴブリンでも泡を食って逃げ出すのだが……。アウルベアの様な生態系における強者であれば、仲間の死を恐れず立ち向かうのも理解はできるのだが、半魚人は別に強者でも何でもない*1わけで。

 

 ……やはり知能が魚なのだろうか? 食べてもDHAとEPA*2には期待できなさそうだ。

 

 なんて、どうでも良いことを考えている程度に暇な俺だが、もちろん仕事をサボって居るわけではない。ただ、半魚人共と来たら面白い様にこちらに馬鹿正直な軌道で突っ込んでくるので、斬撃を適当に置いておく*3だけで三枚おろしになって死ぬのだ。なんならついでに鱗取りも飛ぶ斬撃で出来てしまうぐらいに攻撃が見え見えなのである。

 

 よって、俺の今のルーチンは斬撃を適宜置きつつ三枚おろしの半魚人を携帯式厨房に回収し、適度に進行方向の草を焼くだけ。まぁぼちぼちマルチタスクではあるが、対して難しい仕事はしていないのだ。サボらなくても取り留めのない思考を巡らす余裕程度はあるのである。

 

「しかしまぁ、川幅から予想はしていました*4が、先は長そうですね。野宿も視野に入れましょうか」

「うーん、結構なハイペースで進んでるつもりなんだけどなあ」

「確かにアンジェラ嬢が自身の身体能力を自覚した分、既に常人の2、3日分ほど*5は進んでいますが……流石に夜を徹して移動する訳にもいかない以上、そろそろ野営地を見繕うべきかと」

「夜は危ないもんね。暗くなってから準備してちゃ遅いし、ニスロクの言う通りそろそろ準備しよっか」

「そこでなのですが、アンジェラ嬢にご提案が」

「うん?」

 

 俺の勿体ぶった言い回しに、首を傾げるアンジェラ嬢。そんな彼女に俺が提案するのはズバリ、『さらなる悪魔の召喚』だ。召喚術式に俺が介入することで俺とアンジェラ嬢の双方を召喚者に指定し、アンジェラ嬢に『現世への楔』としての役割と『最上位命令権』、俺に『召喚される悪魔への抑止力』としての役割と『アンジェラ嬢より下位の命令権』を付与する目論見である。

 

 わざわざ七面倒な方式を取るのは当然、他の悪魔にアンジェラ嬢を誘惑されない様にするためだ。彼女は俺が手塩にかけて『美食』*6の道へと堕落させている最中なので、余計な茶々を入れられたくない。

 

 そんなわけで、召喚対象は既に俺の方で勝手に決めてあったりもする。悪魔召喚はシジル*7を使えば割と対象を縛れるし、何より今回は相手よりも俺の方がシンプルに強いのでさほど心配はしていない。

 

「というわけで、アンジェラ嬢にはこの状況にピッタリの悪魔を喚んで頂こうかと思いましてね」

「なるほど? 野宿が得意な悪魔とか?」

「残念ながら、野宿をするだけなら俺でも十分熟せますね。どちらかと言えば『野宿をしない』為の悪魔です。……さて、召喚陣と防御円が書けました*8ので、パパッと喚びましょうか」

「はーい。んー、召喚陣自体にみっちり何か書き込んであるし、儀式云々しなくっても魔力を焚べれば良いのかな? えいっ」

 

 なんて、ちょっと悪魔召喚とは思えないお気軽さで起動された*9召喚陣。アンジェラ嬢という『魔』の呼び声を、俺というイレギュラーの縁を辿って無理やり『魔界』に接続するその術式は、文字通り次元を超えた『窮極の門』を開き、魔界から新たな悪魔を呼び寄せる。

 

 召喚陣から溢れ出した瘴気が防御円の外を焦がし、魔界の熱と共に顕現するのは人間の身の丈を優に越える2羽の怪鳥。空には黒雲が渦を巻き、雷鳴が轟く中、爛々と地獄の業火の様に赤い目を輝かせるその怪鳥共は、鉄板を何十枚も纏めて掻き鳴らすような不快な咆哮を上げ————

 

「あ、そういう演出的なものは不要ですので」

『『ゲェ!? ニスロク!?』』

 

 ————る前に、面倒臭いので俺が茶々を入れて演出を阻止した。悪魔召喚の際に大事なのはイニシアチブを悪魔側に握らせない事。*10その為にも、俺は召喚演出の妨害をした勢いそのままに、2体の悪魔に向けて捲し立てる。

 

「召喚者を威圧して有利な契約を結びたいというその姿勢は悪魔的には評価しますが、まずは陣から飛び出す前に召喚者の気配を探るべきでしたね、ハルファス、マルファス。あと瘴気と雷で適当に誤魔化して姿自体は素のままなのも良くないですよ。君達の悪魔としての姿って単にデカい鳩とデカい鴉なので、あんまり怖くないですし」

『『……ハイ。ソウデスネ』』

「ではさっさと人化してください。無駄に声がデカいですし、その姿じゃ契約書も読めないでしょうが。契約する気あるんですか君達。そんなだからあんまり召喚されないんですよ? というかさっきの演出も久々の召喚で舞い上がっただけでしょうし」

『『ハイ、スミマセン……人化出来ました、はい」」

「ではこの契約書に目を通して契約してください。拒否した場合は君達で鴨南蛮ならぬ鳩南蛮と鴉南蛮を作りますよ」

「「ひぇ……」」

 

 なんて調子でゴリゴリにゴリ押せば、ネゴシエーション完了。あとは事前に用意しておいた契約書*11を読ませて契約するだけの簡単なお仕事である。

 

「うわぁ、どうしようマルファス、僕たちニスロクのパシリじゃん」

「どうしようもないよハルファス、そもそも僕たち魔界でも割とパシられてたし」

「「まぁでも死にたくないから契約しまーす」」

「はい宜しい。ではこれから誠心誠意アンジェラ嬢にお仕えしてくださいね」

「「はーい」」

 

 斯くして、一方的な契約を叩きつける悪魔的テクニックを悪魔にブチかました俺の前で、怪鳥の姿から人間の美少年の姿*12へと擬態した彼らは、アンジェラ嬢へと跪く。

 

「初めましてアンジェラ嬢。悪魔ハルファス、魔界より罷り越して御座います」*13

「同じく悪魔マルファス、罷り越して御座います。我ら兄弟に何なりとご命令下さい」*14

 

 

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「うーん、めっちゃダミ声。見た目可愛いのに……ニスロクは普通なのになんで?」

「あー、彼等は年若い*15悪魔なので、信仰の影響をモロに受けやすいのですよ。昔とあるベストセラー本*16に名が載った際に『人間の姿では嗄れた声で話す』とか書かれてしまい、以降はずっとこのザマなのです。あと、2人で1体のような扱いも受けがちなので、ハモって喋るのもそのせいですね」

「「お耳汚しすることとなり申し訳御座いません」」

「良いよー、まぁ聞き取れないわけじゃないし。ところで、ニスロクから『野宿が得意』って聞いたんだけど、得意なの?」

「「え、いえ、そんな事は……あ、いつもの感じ*17って事?」」

「そういう事です。主人を野宿させるぐらいなら君達を喚ぶべきかと思いましてね。ではいつものように宜しくお願いしますよ」

「「はーい。……ではアンジェラ嬢、暫しお待ちを。我らの業を御覧に入れましょう」」

 

 そう告げて、総身に魔力を巡らせるハルファスとマルファス。彼等は『錬金術』に一点特化した悪魔であり、その中でも特に得意とするのが————

 

「「設計完了、原料算出、術式起動————築城開始」」

 

 

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「おぉ〜!? お城!? 人間!?」

「流石に城というには小さいですよアンジェラ嬢。せいぜい邸宅といったところです。あと、アレは人間ではなく人形ですね。……しかし、相変わらずお見事」

「うん、凄いね!」

 

 ————と、この通り、錬金術を用いた建築なのである。しかも、土人形(ゴーレム)の武装メイド付き。*18彼等の本来の権能は城砦建築、武器弾薬の製造、軍勢の創造という戦争の為に存在するかのような能力*19なのだが、この程度の応用は効かせられるのだ。

 

「「お誉めに与り恐悦至極と存じます。……で、ニスロク。この家作る為だけに喚んだなら帰っても良い?」」

 

「良いわけないでしょう? ……契約書にも『病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、アンジェラ嬢を主君として愛し、敬い、慈しむ事を誓う』と書いてあった筈ですが

まぁ、書いてはあったね。文面考えた奴バカじゃ無いのかとは思ったけど。*20ね、マルファス

そうだねハルファス。あの文面だと結婚するみたいだもんね? あ、もしかしてそう解釈すればアンジェラ嬢を美味しく頂いても? *21

なるほど? 君たちの分の夕食は不要、と

「「嘘嘘嘘! 君の獲物(アンジェラ嬢)には手出ししないってば! 」」

それなら良いのですが

「「……ちなみに契約解釈についての真面目な話なんだけど、夜伽を『命じられた』時はどうすれば? 」」

そう命令されたなら当然従うべきですが、それはそれとして魂を穢した場合には俺は君達を拷問にかけます

「「なるほど、大体わかったよ。線引きは『魂』の方ね」」

 

「ニスロク、さっきからハルちゃんとマルちゃん*22に何ヒソヒソ話してるの?」

「失礼、契約について少々質問を受けておりました。……ところでアンジェラ嬢、今日の寝床も無事確保できた事ですし、早速ですが夕食の準備を始めましょうか?」

「うん! あ、ご飯出来るまで中の探検してても良い?」

「もちろんですとも。ハルファス、マルファス、ご案内差し上げて下さい」

「「はぁい。……ではアンジェラ嬢、此方へどうぞ。邸内を御案内させて頂きますね」」

「よろしくね! ハルちゃん、マルちゃん!」

 

 なんて会話を交わしつつ、今晩の住まいである石造の館に駆けていくアンジェラ嬢と御伴の2人。その背を追いつつ今日の夕食に思いを馳せる俺は、新たな悪魔を召喚した事による今後の予定についても思案しつつ、早速調理に取り掛かるべく、館の厨房に向かうのであった。

*1
陸上に限った話にはなるが、良い感じの棒で本気で殴りまくれば、常人でも普通に殺せるレベル

*2
ドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸。青魚に含まれる健康成分で脳や血の巡りに良い。

*3
悪魔で魔剣持ちなので、そりゃまぁ斬撃ぐらいは普通に飛ばせる。人間界で流行りのアバンストラッシュAごっこも余裕。

*4
運河に使える様な水量がある天然の大河は中流〜下流であることが多い。無論例外も多々あるが。

*5
ざっくり40km。平地の舗装路なら1日でマラソンできる距離ではあるが、俺たちは藪漕ぎと沢登りでこの距離を進んでいるので中々頑張っているほうである。

*6
基本系統としては『暴食』だが、俺の『美食』は『虚飾』『傲慢』『強欲』『怠惰』の系統も内包している。

*7
悪魔固有の紋章。ざっくり言うとマイナンバーみたいなもの。コイツで呼び出せば、大抵の場合本人が来る。ただベルフェゴールのアホを召喚する場合俺に繋がったりもする様に、相手の悪魔が強大ならその限りではない。

*8
半魚人の血は滅茶苦茶あるので書くものには困らなかったが、場所の確保は別。場所は半魚人が寄ってこない程度に水から離れた河川敷なのでそこまで移動はしていないのだが、邪魔な岩を蹴り砕いたり草を焼いたりして整地するのに少々手こずった。

*9
アンジェラ嬢のこういう勘は正直怖いレベルである。何せ俺は今回の陣を魔界語で書いたのでアンジェラ嬢は内容を一切読めていない。にも拘わらず、彼女はこれが魔力の供給により半自動で駆動する陣だと見抜き、適切に魔力を注入して見せたのだ。

*10
でないとアンジェラ嬢が俺を喚んだ時のように悪魔に好き勝手な契約を結ばされる

*11
ゴマ粒ぐらいの文字でA4両面刷り20ページに渡り悪魔がやりそうな契約出し抜き手段をミチミチに詰め込んで、それら全項目と『それに類すると解釈し得る行為』を禁止し服従するように書いてある。それ以外にも先程アンジェラ嬢にも説明した俺とアンジェラ嬢による二重の支配権に関する条項などがつらつらと書いてあるので隙はない。悪魔的には最悪な契約だが、そもそも俺に暴力で捩じ伏せられるか契約で縛られるかの2択なので初めから詰んでいるのは秘密だ。

*12
魔界でも擬態していた、オーバーオールを着た髪色以外瓜二つな双子の姿。鳩っぽい灰色の髪の方がハルファス、鴉らしい黒色の髪なのがマルファス。

*13
毎日スピリタスでうがいしてそうなガラガラ声

*14
声帯がポリープでイソギンチャクみたいになってそうなゲロボイス

*15
確かまだ400歳代だった記憶がある

*16
レメゲトンとかいうソロモン王が書いてないソロモン王の著書

*17
彼等とは2人がベルゼビュート陛下の遠征時に呼び出されて以来の付き合いだが、毎度呼び出しの用件は似たようなものなのだ。もちろん、今回も例外ではない。

*18
このメイド、見た目はとても可愛らしいが、近くで見ると全身が陶磁器製なのがよくわかる。あと基本命令しないと何もしてくれないのであくまで家具の一種である。基本命令として館の維持清掃が組み込まれているので、ルンバみたいなイメージで概ね間違いない。

*19
というか実際そう。彼等は『虚飾』と『強欲』と『傲慢』の系統を持つ、戦争の悪魔である。

*20
書いてる途中でちょっと飽きてきてふざけたのは事実

*21
十中八九冗談。明確に主君と書いてあるのでそう解釈は出来ない事は悪魔なら誰でもわかる

*22
どうやらアンジェラ嬢は彼等を愛称で呼ぶことにしたらしい。まぁ、外見的にどう見てもアンジェラ嬢より年下の可愛い美少年なので無理もない。

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