新キャラ登場回になります。
それに伴ってキャラクターメモをこの後更新予定です。
(あとがきにリンクがあります。)
さて、そんなこんなで人1人が通れる程度に川沿いの雑草を焼いて道を作りつつ進む事しばし。アンジェラ嬢の齎した破壊の跡が見えなくなってきたあたりになると、流石に半魚人も増えてきた。
が、所詮は水生ゴブリン的な存在。自分の膂力を自覚したアンジェラ嬢の敵ではない。
「えいえいっ」
なんて可愛らしい掛け声で両手に握った『砂利』を投げれば、それは散弾となって並み居る半魚人を蜂の巣に変え、撃ち漏らしは魔眼の電撃で焼き払うスタイルを確立した事で川からこちらを狙う愚かな魚類共は悉くが死滅する。
というか、マジで疑問なのだが、コイツらに生存本能はないのだろうか? 同類が目の前で即死したらお馬鹿なゴブリンでも泡を食って逃げ出すのだが……。アウルベアの様な生態系における強者であれば、仲間の死を恐れず立ち向かうのも理解はできるのだが、半魚人は別に強者でも何でもない*1わけで。
……やはり知能が魚なのだろうか? 食べてもDHAとEPA*2には期待できなさそうだ。
なんて、どうでも良いことを考えている程度に暇な俺だが、もちろん仕事をサボって居るわけではない。ただ、半魚人共と来たら面白い様にこちらに馬鹿正直な軌道で突っ込んでくるので、斬撃を適当に置いておく*3だけで三枚おろしになって死ぬのだ。なんならついでに鱗取りも飛ぶ斬撃で出来てしまうぐらいに攻撃が見え見えなのである。
よって、俺の今のルーチンは斬撃を適宜置きつつ三枚おろしの半魚人を携帯式厨房に回収し、適度に進行方向の草を焼くだけ。まぁぼちぼちマルチタスクではあるが、対して難しい仕事はしていないのだ。サボらなくても取り留めのない思考を巡らす余裕程度はあるのである。
「しかしまぁ、川幅から予想はしていました*4が、先は長そうですね。野宿も視野に入れましょうか」
「うーん、結構なハイペースで進んでるつもりなんだけどなあ」
「確かにアンジェラ嬢が自身の身体能力を自覚した分、既に常人の2、3日分ほど*5は進んでいますが……流石に夜を徹して移動する訳にもいかない以上、そろそろ野営地を見繕うべきかと」
「夜は危ないもんね。暗くなってから準備してちゃ遅いし、ニスロクの言う通りそろそろ準備しよっか」
「そこでなのですが、アンジェラ嬢にご提案が」
「うん?」
俺の勿体ぶった言い回しに、首を傾げるアンジェラ嬢。そんな彼女に俺が提案するのはズバリ、『さらなる悪魔の召喚』だ。召喚術式に俺が介入することで俺とアンジェラ嬢の双方を召喚者に指定し、アンジェラ嬢に『現世への楔』としての役割と『最上位命令権』、俺に『召喚される悪魔への抑止力』としての役割と『アンジェラ嬢より下位の命令権』を付与する目論見である。
わざわざ七面倒な方式を取るのは当然、他の悪魔にアンジェラ嬢を誘惑されない様にするためだ。彼女は俺が手塩にかけて『美食』*6の道へと堕落させている最中なので、余計な茶々を入れられたくない。
そんなわけで、召喚対象は既に俺の方で勝手に決めてあったりもする。悪魔召喚はシジル*7を使えば割と対象を縛れるし、何より今回は相手よりも俺の方がシンプルに強いのでさほど心配はしていない。
「というわけで、アンジェラ嬢にはこの状況にピッタリの悪魔を喚んで頂こうかと思いましてね」
「なるほど? 野宿が得意な悪魔とか?」
「残念ながら、野宿をするだけなら俺でも十分熟せますね。どちらかと言えば『野宿をしない』為の悪魔です。……さて、召喚陣と防御円が書けました*8ので、パパッと喚びましょうか」
「はーい。んー、召喚陣自体にみっちり何か書き込んであるし、儀式云々しなくっても魔力を焚べれば良いのかな? えいっ」
なんて、ちょっと悪魔召喚とは思えないお気軽さで起動された*9召喚陣。アンジェラ嬢という『魔』の呼び声を、俺というイレギュラーの縁を辿って無理やり『魔界』に接続するその術式は、文字通り次元を超えた『窮極の門』を開き、魔界から新たな悪魔を呼び寄せる。
召喚陣から溢れ出した瘴気が防御円の外を焦がし、魔界の熱と共に顕現するのは人間の身の丈を優に越える2羽の怪鳥。空には黒雲が渦を巻き、雷鳴が轟く中、爛々と地獄の業火の様に赤い目を輝かせるその怪鳥共は、鉄板を何十枚も纏めて掻き鳴らすような不快な咆哮を上げ————
「あ、そういう演出的なものは不要ですので」
『『ゲェ!? ニスロク!?』』
————る前に、面倒臭いので俺が茶々を入れて演出を阻止した。悪魔召喚の際に大事なのはイニシアチブを悪魔側に握らせない事。*10その為にも、俺は召喚演出の妨害をした勢いそのままに、2体の悪魔に向けて捲し立てる。
「召喚者を威圧して有利な契約を結びたいというその姿勢は悪魔的には評価しますが、まずは陣から飛び出す前に召喚者の気配を探るべきでしたね、ハルファス、マルファス。あと瘴気と雷で適当に誤魔化して姿自体は素のままなのも良くないですよ。君達の悪魔としての姿って単にデカい鳩とデカい鴉なので、あんまり怖くないですし」
『『……ハイ。ソウデスネ』』
「ではさっさと人化してください。無駄に声がデカいですし、その姿じゃ契約書も読めないでしょうが。契約する気あるんですか君達。そんなだからあんまり召喚されないんですよ? というかさっきの演出も久々の召喚で舞い上がっただけでしょうし」
『『ハイ、スミマセン……人化出来ました、はい」」
「ではこの契約書に目を通して契約してください。拒否した場合は君達で鴨南蛮ならぬ鳩南蛮と鴉南蛮を作りますよ」
「「ひぇ……」」
なんて調子でゴリゴリにゴリ押せば、ネゴシエーション完了。あとは事前に用意しておいた契約書*11を読ませて契約するだけの簡単なお仕事である。
「うわぁ、どうしようマルファス、僕たちニスロクのパシリじゃん」
「どうしようもないよハルファス、そもそも僕たち魔界でも割とパシられてたし」
「「まぁでも死にたくないから契約しまーす」」
「はい宜しい。ではこれから誠心誠意アンジェラ嬢にお仕えしてくださいね」
「「はーい」」
斯くして、一方的な契約を叩きつける悪魔的テクニックを悪魔にブチかました俺の前で、怪鳥の姿から人間の美少年の姿*12へと擬態した彼らは、アンジェラ嬢へと跪く。
「初めましてアンジェラ嬢。悪魔ハルファス、魔界より罷り越して御座います」*13
「同じく悪魔マルファス、罷り越して御座います。我ら兄弟に何なりとご命令下さい」*14
「うーん、めっちゃダミ声。見た目可愛いのに……ニスロクは普通なのになんで?」
「あー、彼等は年若い*15悪魔なので、信仰の影響をモロに受けやすいのですよ。昔とあるベストセラー本*16に名が載った際に『人間の姿では嗄れた声で話す』とか書かれてしまい、以降はずっとこのザマなのです。あと、2人で1体のような扱いも受けがちなので、ハモって喋るのもそのせいですね」
「「お耳汚しすることとなり申し訳御座いません」」
「良いよー、まぁ聞き取れないわけじゃないし。ところで、ニスロクから『野宿が得意』って聞いたんだけど、得意なの?」
「「え、いえ、そんな事は……あ、いつもの感じ*17って事?」」
「そういう事です。主人を野宿させるぐらいなら君達を喚ぶべきかと思いましてね。ではいつものように宜しくお願いしますよ」
「「はーい。……ではアンジェラ嬢、暫しお待ちを。我らの業を御覧に入れましょう」」
そう告げて、総身に魔力を巡らせるハルファスとマルファス。彼等は『錬金術』に一点特化した悪魔であり、その中でも特に得意とするのが————
「「設計完了、原料算出、術式起動————築城開始」」
「おぉ〜!? お城!? 人間!?」
「流石に城というには小さいですよアンジェラ嬢。せいぜい邸宅といったところです。あと、アレは人間ではなく人形ですね。……しかし、相変わらずお見事」
「うん、凄いね!」
————と、この通り、錬金術を用いた建築なのである。しかも、
「「お誉めに与り恐悦至極と存じます。……で、ニスロク。この家作る為だけに喚んだなら帰っても良い?」」
「良いわけないでしょう? ……契約書にも『病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、アンジェラ嬢を主君として愛し、敬い、慈しむ事を誓う』と書いてあった筈ですが」
「まぁ、書いてはあったね。文面考えた奴バカじゃ無いのかとは思ったけど。*20ね、マルファス」
「そうだねハルファス。あの文面だと結婚するみたいだもんね? あ、もしかしてそう解釈すればアンジェラ嬢を美味しく頂いても? *21」
「なるほど? 君たちの分の夕食は不要、と」
「「嘘嘘嘘!
「それなら良いのですが」
「「……ちなみに契約解釈についての真面目な話なんだけど、夜伽を『命じられた』時はどうすれば? 」」
「そう命令されたなら当然従うべきですが、それはそれとして魂を穢した場合には俺は君達を拷問にかけます」
「「なるほど、大体わかったよ。線引きは『魂』の方ね」」
「ニスロク、さっきからハルちゃんとマルちゃん*22に何ヒソヒソ話してるの?」
「失礼、契約について少々質問を受けておりました。……ところでアンジェラ嬢、今日の寝床も無事確保できた事ですし、早速ですが夕食の準備を始めましょうか?」
「うん! あ、ご飯出来るまで中の探検してても良い?」
「もちろんですとも。ハルファス、マルファス、ご案内差し上げて下さい」
「「はぁい。……ではアンジェラ嬢、此方へどうぞ。邸内を御案内させて頂きますね」」
「よろしくね! ハルちゃん、マルちゃん!」
なんて会話を交わしつつ、今晩の住まいである石造の館に駆けていくアンジェラ嬢と御伴の2人。その背を追いつつ今日の夕食に思いを馳せる俺は、新たな悪魔を召喚した事による今後の予定についても思案しつつ、早速調理に取り掛かるべく、館の厨房に向かうのであった。