AI挿絵をたくさん投入してみましたが、数量やクオリティなどは如何でしょうか?
25. 蒸し物『
さて、野営らしく無い野営の翌日。屋敷を片付けた*1俺達は再び上流に向けて進行を開始した。
が、その速度は昨日までの比ではない。
「いやはや、コレなら君達をもっと早く呼んでおくべきでしたね」
「すっご〜い! 私、船とか初めて乗った!」
「「僕達は軍備一般を担い得る戦争の悪魔だし、コレぐらいはね」」
なんて会話の通り、今日の俺達は船で大河を遡り、飛沫をあげて進む舳先で数多の半魚人を轢殺しながら、上流に向かって猛進している。
だが、この船には一つとんでもない欠点が存在しているのだ。
「しかし、何故にアヒルさんボート*2なんです?」
「「悪魔が3人に半人前とはいえ魔人が1人なら下手なエンジンより早いもん。あと単なるアヒルさんボートじゃなくて人力滑走艇だよ?」」
「何が違うので?」
「「船底の形状を工夫して推進時に揚力で船体を持ち上げる様になってるから、水の抵抗が減って速くなるんだよね。すごく揺れるけど」」
「確かにはや〜い!」
「「でしょ?」」
なんて会話の通り、俺たちが乗っているのは下半身がモーターボート風になったアヒルさんボートなのである。軍備どうこう言っていたが、足漕ぎボートが軍用船舶になる世界線はあるのだろうか? *3
だがまぁ、人を超えた馬力を持つ4人漕ぎのパワーで爆走するアヒルさんは確かに速く、水面を水切りの石のように飛び跳ねながら、ざっくり時速70kmほどで川を遡上することができている。ムカつくことにアヒルさんの胴体部分は窓や壁がしっかり塞がっているので水飛沫を立派に防いでおり、屋根についたアヒルの頭部分には換気口が空いていて乗員の窒息を防ぐという謎の機能性が付与されている。ついでに言えば、船の前方にはアヒルの脚を模した衝角的なもの*4が搭載されている謎の凝りようだ。*5
ちなみにこのアヒルさんボート、しれっとステンレス製である。まぁ錬金術をある程度使える者ならば卑金属*6の錬成は容易だが、それをしっかりと耐食ステンレス*7に仕上げてくる技量はさすがという他ない。
で、そんな馬鹿げたボートで水と半魚人を切って進むことしばし。
俺たちの眼前に現れたのは、広大な湖だった。
で、この湖。襲ってこないものの凄まじい数の半魚人がひしめいている。
そして、この湖に半魚人が群れる原因が、今まさに俺たちの視線の先にあるようだ。
心地良く響く旋律。透き通るような歌声。濃密な魔力を含むその音声を表すならば『呪歌』。
その声の主は半人半魚という点では半魚人の同類と言えるのだろうが、上半身は半魚人とは比べものにならないほど精巧な人型で、逆に下半身は完璧に魚のそれだ。
————人魚。
俺の知る知識と同様の魔物なら、魔術の如き歌を行使して他者を魅了する、強力な存在である。
知能は高く、エラと肺のハイブリッド呼吸によって水陸両用。種によっては上半身に羽根があって飛ぶ連中*8までいる魔物界のビッグネームだが……この世界においては、結構ガッツリ魔物なようだ。
水面から出た大岩の上に腰掛けて、日差しの元で呪歌を歌うその姿は、目を滅茶苦茶薄目にすれば舞台俳優のようにも見え無くはないが、屈強な魔物という印象が強すぎる。
見たところオスのようだが、その黒光りする肉体はまさに巌の如し。というか、呪歌もバッチリ渋いバリトンボイスである。
そしてどうやら、彼はその見た目に違わず獰猛な捕食者のようだ。
突如として呪歌が止んだその瞬間、人魚は勢いよく水に飛び込み、歌に魅了されていた半魚人達をブチ殺して貪り食う。いやはや、やはり魔物だなぁというか、なんというか。
しかし、察するにド低脳の半魚人が呪歌であっさり集まっては狩られているこのちょっと笑える光景が、おそらく半魚人が川を下ってきた原因なのだろう。
現に、突然の惨状に慌てふためき、歌で麻痺していた本能を取り戻した半魚人の一部は、逃げ惑ううちに俺たちの上ってきた流れへと入り込み、そのまま河を下っていく。
湖をざっと見た*9ところ、この湖を『ハブ』として周囲の山々から流れ込んだ水がいくつかの川に分かれて流れているようなのだが、どうやらアルク近郊へと流れる支流は最も細い『支流』らしい。
そして、半魚人は普段は本流*10や此処より大きな支流*11に生息しているようなのだが、どうやら先ほどの人魚がこの辺りに住み着いた影響で呪歌によって引き寄せられ、アルク方面に流れてきているということらしい。
とすれば、すべての元凶となる人魚を追い払うのが一番。俺やアンジェラ嬢、双子、誰を取ってもあの人魚を屠る程度は訳はない。
が、眼鏡型双眼鏡*12で人魚の様子を伺っていたアンジェラ嬢の意見は、少々俺とは異なるものだった。
「人魚かぁ〜持って帰れないかな! アレ!」
「持って帰る、と言いますと? いや、もちろん意味は理解しましたが、何故に?」
「歌が上手だし、庭に池掘って飼えないかなって。多分ハルちゃんとマルちゃんなら池ぐらい作れるよね?」
「「そりゃあまぁ……でも人魚マジで飼うの?」」
「発想が覇王のそれですね……確かに人魚の歌う池は風流でしょうが……そうですねぇ、アレはオスですし、メスか子供を探して捕まえませんか?」
「オスじゃダメなの?」
「オスよりも歌声が可愛らしいと思いますよ? オスは聞いての通り声が野太いようですし」
「そっか。確かに女の子の方が良いかも? じゃあ、あのオスは?」
「それはまぁ、殺して食おうかと」
「いつもの流れだね? じゃあ、今日はアレを狩って、女の子の人魚探して向こうの小島で一泊して帰ろっか」
「承知しました。では、先に小島に拠点を構築しましょうか」
「わかった!」
人魚狩りに妙な作戦目標が追加されてしまったが、主人の意向なら出来る範囲で叶えてやらねばなるまい。
かくしてアンジェラ嬢の元気な返答に応じて手近な小島の砂利浜に船を寄せた俺達は、全員が上陸した後に一旦船を分解し、昨日も使った館を再錬成すると、人魚狩りの準備を開始した。
幸い、今のところ例の人魚はこちらに興味がないようだが、それもいつまで続くかわからない以上、早急に地の利を確保できたのは大きい。陸から狙撃する態勢さえ整えてしまえば、あとはこちらのものだ。
が、拠点を守るように土塁を構築し、
思ったよりちゃんと魔術が使えるようである。
しかし、当たれば骨が折れそうな勢いの水の塊だが、土塁や石塁の前には無力。雨垂れ岩を穿つとは何処かの諺だが、そんなに気の長い戦闘をする予定は無い。
そんな防御網の陰でしっかりと狙いを定めたアンジェラ嬢が放つのは、無詠唱の雷の矢。そのトンデモ技術に双子がギャグ漫画みたいな顔で驚いているが、そういえば彼らはアンジェラ嬢の凄まじさを見るのは初だったのか。にしても、どうやってるんだその顔。骨格変わってないか?
なんて、ふざけた雰囲気ではあるが、アンジェラ嬢の雷撃は見事に人魚の左肩を直撃し、その上半身を派手に痺れさせる。その一撃で形勢不利と判断したのか、人魚は再び呪歌を歌い始め、俺たちに対して半魚人の群れをけしかけようとする。
が、それよりも何よりも、アンジェラ嬢の魔眼の方が早かった。迸るその電流はまさに雷速でオス人魚へと直撃し、その意識を奪い去る。
あとは正気に戻った半魚人に喰われる前に、俺が飛翔して人魚を回収し、首を一思いに撥ねて、砂利浜の奥までトンズラだ。
人魚の肉。伝承で語られるその味は素晴らしいものだと言われるが、さて。