水星の魔女と地球の悪魔   作:yomiyomi

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第10話「近付く想い、離れる心 ~その3~」

 

プラント・クエタ ドックにて

 

 

ティル「.....お疲れ様」

 

ドック手前の通路でティルが手を挙げているのが見えたので、アムロも彼に対して手を小さく挙げ返す。

 

アムロ「やあ、ティル」

 

ミオリネ「本当に疲れたわ...」

 

無重力なので手すりを押すような形で前に進む、一度方向を決めて壁を押すなりして一方に力を加えれば、スイスイと真っ直ぐに空中を進める。

 

ミオリネとアムロはティルの隣まで来ると、通路の手すりに手をかけて止まった

 

ミオリネ「.....それで、これが例の船?」

 

3人が眺める先には一隻の船がドックに泊まっている。

 

ティル「改修船だからカラーリングは違うけど...」

 

ミオリネ「塗装分安く済んで助かるわ」

 

アムロ「だがその分傷みもひどいぞ。ハリボテを貼っつけてる所も早く修復したほうがいい」

 

ミオリネ「それはあんた達に任せる。.....あとは学園まで運んでくれる操舵スタッフね...」

 

購入した社用艦を運ぶ操舵者を決めかねていたミオリネは、顎に手を当てて、小さく唸る。

 

 

「_______行き先は」

 

いきなり後方からミオリネの言葉に呼応するように聞こえたその声に、3人は一斉に振り向く。

 

フェン「地球じゃなくて、よろしかったですか?」

 

アムロ「.....ミオリネ、知り合いか?」

 

ミオリネ「あなたは....」

 

その女性、フェン・ジュンはニコリと微笑みを返す

 

 

....結局、フェンが学園までこの社用艦を連れて行ってくれることになった。

 

フェン「いろいろやらないと食べていけない身でしてね」

 

フェン「よければ、今からでも地球にお送りしますよ?」

 

ミオリネ「それは...遠慮しとく」

 

フェン「残念、お忙しそうですものね」

 

ミオリネ「会社作っちゃったからさ」

 

ミオリネ「おかげでクソ親父にもいちいち業務報告しなきゃならないし、出張ばっかで授業には出られないし、従業員も教育しなきゃで......あ〜もう、めんどくさ」

 

ミオリネは大きくため息をついて肩を落とす

 

そんな様子をみたフェンはクスりと笑う

 

フェン「よかったじゃないですか」

 

ミオリネ「全然......で、あんたたちは一体何者なの?」

 

ミオリネ「最初はクソ親父目当てかと思ったけど、このタイミングで来たってことは...私がガンダムの会社を作ったから?」

 

フェン「....ふふっ」

 

フェンは作業をしつつ、その話を聞いている

 

ミオリネ「欲しいのはガンダム?それとも、ガンダムがあったら困る人?」

 

フェン「....当ててくれたらお教えしますよ」

 

その返しにミオリネは即答する。

 

ミオリネ「...宇宙議会連合」

 

フェン「あら、お見事」

 

ミオリネ「連合もガンダムは放っておけないってことね」

 

フェン「今はまだ調査の段階です。あなた達の敵ではありませんよ」

 

ミオリネ「じゃあ....味方になってもらおうかな。」

 

ミオリネはふわりと微笑んだ。

 

 

アムロ「.....もしもし、オジェロか?」

 

船の一室、アムロは手帳からオジェロへと連絡を回している

 

アムロ「今、アスティカシアに向かってる。それで、トーチといくつかの資材を用意していて貰えないか?」

 

アムロ「社用艦艇を連れて行く。ただ中古だから、修復しなきゃいけない所が山ほどあるんだ」

 

その頼みに、画面の向こうのオジェロは承諾したようだった。

 

アムロ「.....ああ、頼む。」ピッ

 

アムロ「......さて、修繕箇所を見ておくとするかな」

 

アムロはペンとメモ用紙を持って、部屋を飛び出した。

 

 

*  *  *

 

 

アスティカシア

 

放課後に寮へと帰ってきたスレッタが、もうすぐアムロ達がアスティカシアに着くという知らせを知るのに時間はかからなかった。

 

スレッタ「私、ミオリネさんが帰る前に温室の様子を見てきますね!」

 

満面の笑みを浮かべて寮を飛び出ると、一直線にミオリネの温室へと向かって行った

 

 

スレッタ(ようやく渡せる!喜んでくれるかな〜)

 

上空のバーチャルグラフィックは既に夕刻であるということを示すように、青からオレンジへとその空色を変えている。

 

「スレッタ・マーキュリー」

 

スレッタ「.....えっ?」

 

ふと、彼女を呼ぶ声がした

 

しかもその声は、彼女にとって忘れられない....待ち焦がれていた声であった

 

スレッタ「......エラン、さん?」

 

声がした方を振り向くと、そこにはパーティー会場以来言葉を交わすことができなかった相手、エラン・ケレスがいたのだ。

 

エラン「久しぶりだね」

 

木の影に佇んでいた彼はゆっくりとスレッタの方に近付く

 

スレッタ「えっと....もう大丈夫なんですか?」

 

エラン「うん。ペイル社の用事は全て済んだから、今日から復学だよ」

 

スレッタ「そうなんですね....!よかったです。」

 

エラン「会社のPV見たよ?かわいく映ってた」

 

以前のエランから考えれば似つかわしくもなく、優しい笑みを浮かべる。

 

スレッタ「えっ!?えっあっ...えっと.....//」カァ

 

異性から『かわいい』など直接言われたことなどありもしなかったスレッタにとってはその言葉は刺激が強かったようで、顔を真っ赤にしてふるふると身悶えている

 

エラン「.....本当だよ」

 

そんなスレッタの顎を優しく指先で引き上げ、親しみを込めた声でそう囁く

 

スレッタ「あ.....っ///」

 

そんなエランの行動に、既に赤みがかったその顔がますます赤くなってしまった。

 

スレッタ「....あ、あのあのっ....っ!エランさん、な...なんか、変わりました....?」

 

あまりの恥ずかしさにエランの目を直視できないスレッタは、その潤んだ瞳をそらすように問いかける

 

エラン「変わったよ.....君が変えたんだ」

 

そんな言葉に再びスレッタの心の臓が飛び跳ねた。

 

スレッタ「わ、私は特になにもしてませんから.....っ//」

 

エラン「君が意識していないだけさ」

 

後ろへ下がろうと足を引きずるスレッタの顎を引き寄せて言葉を続ける

 

エラン「ねぇ、今度デートしようよ」

 

スレッタ「でっ、デート!?」

 

エラン「嫌?」

 

スレッタ「いえ、その....そんなことないですけど....」

 

エラン「前は僕の勝手な都合で、君を待たせた挙げ句にキャンセルしてしまったから.....今度は僕にエスコートさせてよ」

 

エランとスレッタの顔の距離が徐々に縮まっていく

 

エラン「ね?今度の休み、いいでしょ?」

 

スレッタ「でも...会社とか....皆さんとの、予定が....」

 

ついに鼻と鼻がくっつくような距離まで近付いた

 

あと1センチ、その首を前へと傾ければ、その唇が一つになってしまう。  

 

エラン「会社なんて...ミオリネのワガママに利用されてるだけだよ。そんなことに付き合わされるより、僕と一緒に楽しいことを沢山しよう?」

 

スレッタ「え....エランさん....」

 

スレッタの頭にはもう、エランのことしか入ってこない

 

徐々にその体温が、息遣いが、近付いてくる...

 

 

 

 

アムロ「.......スレッタ?」

 

 

 

スレッタ「っ!?」

 

その声にハッとして、エランから距離を取る

 

エラン「......チッ」

 

アムロ「エラン・ケレスか?」

 

エラン「やぁ、アムロ。直接会うのはインキュベーションパーティー以来かな?」

 

スレッタ「あ、アムロさんっ!こ、ここ...これは、ですね?」ワタッ

 

スレッタの顔が赤らんでいることに気付く。

 

アムロ「...()()()()()()は、こんな道のど真ん中でするもんじゃないと思うが...」

 

エラン「彼女に久しぶりに会えたから、嬉しくってさ」

 

エランはスレッタに向かってニコリと微笑むが、彼女はアムロの背中に逃げ込んで余計に縮こまってしまう。

 

アムロ「恋仲でもない女性にいきなり口づけとは...関心しないな」

 

エラン「なぜ?スレッタは僕に惹かれていて、僕だって彼女に興味がある.....これって両想いじゃないのかい?」

 

アムロ「何を言ってる....」

 

エランは見下すようにアムロの前に立つ

 

エラン「....なぜ僕たちの逢引を邪魔したのかな、君にはミオリネがいるだろう?」

 

アムロの背中に隠れる少女は小さく震えている。

 

アムロ「お前......本当にエラン・ケレスか?」

 

エラン「面白い冗談だね。僕がエラン・ケレスでなければ、一体なんだと言うんだい?」

 

アムロ「........」

エラン「........」

 

二人は互いに睨み合う。

 

エラン「.....なんて、同じ会社の社員なんだから言い合いは良くないよね」 

 

エランはアムロに握手を求める

 

スレッタ「え.....社員?」

 

エラン「そうだよ?株式会社ガンダムはペイル社の開発部門も買収したからね」

 

スレッタ「そう...だったんですか?」

 

アムロ「ああ....そうさ」

 

エラン「そんな顔しないで、これで終いにしようよ」

 

アムロは差し出されたその手を握る

 

エラン「よろしく、アムロ・レイ」

アムロ「こちらこそ.....エラン・ケレス」

 

 

アムロ「....スレッタ、ミオリネに渡したいものがあるんだろ?早く行こう」

 

アムロはサッと手を解くと、その手をスレッタに差し出す。

 

スレッタ「え...あ、は....はいっ」

彼女はその手をしっかりと握ると、アムロと共に歩き出した

 

アムロ(なんだあの感じは....以前の彼とは全く別の気配を感じた...)

 

スレッタはチラリと後ろを振り向いてみると、優しく微笑みながら手を振るエランがそこにはいる。

 

エラン「またね、スレッタ・マーキュリー」ボソッ

 

スレッタ「」ゾクッ

 

しかし、スレッタはそこに獲物を狩る肉食獣のような....獰猛な()()()を感じてしまい、身震いした

 

 

 

エラン「.......ふぅ」

 

歩く度に揺れるその赤髪を眺めながら、エランは息を一つ吐く

 

エラン「逃げられちゃったけど、押せば堕ちるな...あれは」

 

エランは再び植え込みを越えて、人工林の中へと入っていく

 

エラン「ただ.....アムロ・レイ。あいつ、やっぱり邪魔だなぁ」

 

エラン「いっそのこと、消しちゃおうかな?」クスッ

 

 

*  *  *

  

 

スレッタ「.......」

 

アムロ「大丈夫かい?スレッタ」

 

スレッタ「っは、はい!私は大丈夫...です」

 

口では平気ぶるものの、その動揺からくる震えがスレッタの本意を表していた。

 

しかしスレッタはそんな様子をいつまでもアムロに見せまいと、落ち着いて呼吸を整える

 

スレッタ「ふぅ......それよりも、ミオリネさんも学園に帰ってきたんですよね?」

 

アムロ「ああ、そうだよ」

 

スレッタ「えへへ...ようやくミオリネさんにプレゼントができます」

 

そう言って手のひらのキーホルダーをアムロに見せた

 

アムロ「ああ、これが?」

 

スレッタ「はい!かわいいと思いませんか」

 

それはなにかのキャラクターを模したもので、スレッタ曰く『かわいいもの』であるらしい。

 

アムロ「へぇ....いいじゃないか。きっとミオリネも喜ぶ」

 

スレッタ「.....あの、アムロさん」モジ

 

どこか緊張した様子のスレッタにアムロは首を傾げる

 

アムロ「スレッタ?どうかしたか?」

 

スレッタ「これを...アムロさんに」

 

スレッタは懐からもう一つ同じキーホルダーを取り出すと、そのキーホルダーをアムロに差し出したのだ。

 

アムロ「....僕に?でも、大丈夫なのかい?」

 

スレッタ「大丈夫です。実はアムロさんの分も用意したんです!びっくり...してくれましたか?」

 

スレッタは微笑んで答える

 

アムロ「......サプライズか」

 

スレッタ「『サプライズプレゼントを渡す』って、やりたいことリスト...です!」

 

アムロ「他人からプレゼントを貰うなんて....初めてだよ。ありがとう、スレッタ」ニコ

 

スレッタ「.....っ//」

アムロが見せる温かい笑みに、スレッタの胸がトクンと小さく跳ねた。

 

スレッタ(エランさんの時の激しいドキドキとは違う....なんだろう、この優しい感じ......)

 

 

スレッタ「......あっ?」

 

そんなことを思いつつミオリネの温室を覗くと、そこには作業服に見を包む、見知らぬ男性達が入口から入っていくのが見える

 

スレッタ「だ、ダメっ!」

 

アムロ「お、おいスレッタ!あの人たちは.....」

 

自分が水星にいた時から憧れていた、友人よりも親しい存在.....ミオリネは自分を『親友』てあると見込んで、大切な温室の番人を任せてくれた。

 

『誰も入れるな』

 

せっかく出来た親友の、その言いつけを破るわけにはいかない

 

破ったら...もし破ってしまったら、ミオリネを裏切ることになってしまう。

 

そんな一心で温室へと駆ける

 

 

業者「....ん?」

 

スレッタ「ダメです!出ていってくださいっ!」

 

スレッタ「勝手に温室に入ったらダメですっ!この子達のお世話、私が頼まれたんです!」

 

業者「い...いや、私達は......」

 

スレッタ「ミオリネさんに直接言われてっ、『あんたしかいない』って.....!」

 

アムロ「おいスレッタ、落ち着けって」

 

スレッタ「だ、だって!」

 

温室の奥の扉が開く

 

ミオリネ「....何やってんのよ、あんた」

 

スレッタ「ミオリネ、さん?」

 

業者「では、見積もり通りこちらの金額で」

 

ミオリネ「請求書は会社のほうに回しといて」

 

ミオリネは同意書にサインをして、業者を帰らせた。

 

ミオリネ「アムロ、業者が来てること伝えなかったの?」

 

アムロ「伝えるつもりだったんだが....スレッタが見つけるほうが早かったな」

 

スレッタ「業者って....なんのことですか?」

 

ミオリネ「ファームの業者にこの子たちの世話を頼んだの。出張、これからもっと増えそうだから」

 

 

ピリリリ...

 

アムロの手帳が鳴った

 

アムロ「....オジェロからか」

 

アムロは温室の外に出て、通話に出る。

 

 

ミオリネとスレッタ、2人きりになった一室に微妙な雰囲気が漂う

 

スレッタ「........あの、ミオリネさん...」

 

ミオリネ「.......なに」

 

机に向かって作業をするミオリネの背で、スレッタがぽつぽつと話しかける

 

スレッタ「ミオリネさんの大切....私、任されたって」

 

ミオリネ「うん、ありがとね。お疲れ様」

 

ミオリネのさらりとした返事に唇を紡ぐ

 

ミオリネ「あと、エランにも合った?」

 

スレッタ「は、はい....アムロさんと一緒に...」

 

ミオリネ「あいつもテスターやってくれるから、あんたにしょっちゅう頼まなくても良くなったわ。」

 

ミオリネ「この子たちも業者が見てくれるし、あんたはもう面倒なことしなくても大丈夫よ」

 

スレッタ「....それって、私....いなくてもいいって、ことですか」

 

ミオリネ「んー、そうね」

 

スレッタ「っ!」

 

スレッタは手の中のキーホルダーを握りしめる

 

スレッタ「.....です、よね」

 

ミオリネ「....ねぇ、アムロ?社用艦の件なんだけど____」

 

そんなスレッタに見向きもせずに横を通り過ぎるミオリネ

 

 

スレッタ「あはは....私、一人で勘違いして.....」

 

 

アムロ「なぁ、ミオリネ。この分だとだいぶ費用が嵩むぞ?」

 

ミオリネ「.....なんとか抑えられない?」

 

アムロ「ここにあるものでなんとかやってみるよ。」

 

ミオリネ「そう?じゃあ5日後までにやっといてね」

 

アムロ「ああ....分かった」

 

スレッタ「........」

 

そんな2人をただ黙って見つめるスレッタ

 

ミオリネ「....そうそう、エアリアルだけどプラント・クエタまで取りに行くことになったから、あんたも来てよ」

 

ミオリネ「楽しみでしょ?久しぶりにエアリアルに会えるの」

 

アムロ「......スレッタ?」

 

ミオリネ「電気消すから、扉閉めてきてよね」

 

アムロ「あ...ああ」

 

電気が切られ、温室に残ったのはアムロと奥で立ち尽くすスレッタのみ。

 

 

スレッタ「.......」

 

アムロ「早く寮に戻るぞ....スレッタ?」

 

スレッタ「私の親友は....アムロさんだけだったみたいです

 

アムロ「僕がどうかしたのか?」

 

 

_______カラン!

 

アムロ「.....あ」

 

床に音をたててキーホルダーが落ちる

 

アムロ「これは...プレゼントするんじゃなかったのか?」

 

スレッタ「.......てください」

 

アムロ「.......?」

 

 

スレッタ「っ捨ててください!そんなものっ!」

 

スレッタは思いきり叫んだ。

 

アムロ「なっ、スレッタ....!?」

 

スレッタ「っ!」ダッ

 

スレッタはそのまま走り去ってしまい、暗くなったその部屋に、アムロと2つのキーホルダーだけが残されていた。

 

 

11話へ続く。

 




スレッタはエランより少しアムロ寄りに恋心(なのでしょうか?)を抱いている印象です。

次回からいよいよ物語を動かそうと思います。
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