水星の魔女と地球の悪魔   作:yomiyomi

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お久しぶりです。


第11話「嵐の前夜 前編」

 

「_____それで、彼女たちの様子はどうだ?」

 

全身を赤に統一したスペーススーツに身を包んだその男は、船室の窓辺に備え付けられたソファにゆっくりと腰を下ろす。

 

そう聞かれるのを見計らっていたかのように美しい黒髪の少女、ルナ・シェーラが彼の傍へ行き、タブレット型の端末へ事前に映しておいたデータをその男に見せる。

 

ルナ「少佐のプラン通り、薬物投与による方法ではなく、心理的な刷り込みによる感覚強化のみを行いました」

 

淡々と説明を行うルナであるが、その声色には慈しさを感じさせる。

 

「2名共に能力の伸びが行き詰まるような事はなかったのか?」

 

ルナ「はい、今のところ数値の停滞や低下は見られません」

ルナはそのまま画面をスワイプして次の画像を映す

 

ルナ「被験体03号 ノレア・デュノク...彼女は精神的にも非常に安定しており、試験中の心理グラフにもこれといった乱れは今のところ見られません。」

 

ルナ「こちらが強化前....そして、こちらが強化開始一ヶ月後のデータです。AIによるシュミレーションの結果より、能力の上昇ペースが15%高くなる結果となりました」

 

視線を端末から前面に移した男は、感慨深い様子で宇宙空間を眺めている。

 

「....ノレア・デュノク。能力値の上昇がこれほどとはな」

 

ルナ「はい、刷り込みに対して彼女自身の精神的抵抗が少ない結果だと思われます。素行も良く命令違反もないため、このままのプランで期日まで強化を行います」

 

男が頷いたのを確認し、ルナは画面を更にスワイブする。もう一人の少女の顔写真と共に、彼女の身体データがグラフと数値によって表示されており、今度はそれらについての説明を行う。

 

ルナ「続いて、被験体04 ソフィ・プロネ....こちらにも大きな問題はありません。能力の数値的な停滞ないし低下は見られません。ですが、対象の精神が不安定な点が非常に気がかりです」

 

「精神グラフに問題は見られないが?」

 

『強化施行による精神的汚染の傾向』と表記されたグラフは、データ上では一ヶ月前後で微々たる変化しか見せておらず、不安定であるとは判断できない

 

男はそれを指摘したが、ルナは問題点がそれとは別にあることを告げた。

 

ルナ「精神汚染は問題ございません。しかし、彼女はシュミレーションとはいえ作戦行動で幾度も命令無視や反発を繰り返しています」

 

ルナ「強化に成功したとして、少佐のご命令を受付けないようであればそれは失敗と同義です。」

 

ソフィ・プロネによる多数の問題行動に対して、業を煮やしていた彼女の言葉から静かな、しかし確かな憤りを感じ取った男はただ一言、「そうか」とだけ返す。

 

ルナ「作戦遂行に支障を来すようであれば、これ以上の刷り込みは無意味では?......よって、投薬による矯正を視野に入れた強化への切り替えを検討してみてはいかかでしょうか」

 

男は少々考えた後すぐに答えを出した。

「彼女は上手くやっている。若いのさ、年頃の娘はあれくらい活発なものだ」

 

ルナ「しかし....」

 

「心配することはない、彼女には相応の持ち場に付いてもらう。それに()()()()をこれ以上弄るべきではないと、私は思っている」

そう言って男は宥めるように微笑み、彼女の示したその提案をやんわりと却下した。

 

 

男とルナがいる船室の大窓からは、ドックから出撃していく2機のガンダム機が見えていた。

 

「出たか」

 

ルナ「ガンダム型2機の改修、彼女たちへの強化.....戦艦が3隻ほどは余裕で作れてしまいそうです」

 

「金は宇宙議会の連中が湯水のようにばら撒いている。今回私が発表した人体強化研究の件も、奴らは支持すると言ってきた。

企業連も自分らの投資金がアーシアン側に流れているとは夢にも思わんだろうな」

 

『ジオン軍』は単なるテロ集団ではない。

 

突如として現れ、スペーシアンからの地球開放を歌い、地上各地に点在する宇宙企業が保持する治安部隊基地の壊滅を繰り返しては、占領した地域を自らの縄張りとしている。

 

更には、地球各地に点在する様々なテロ組織とコンタクトを図り、共同戦線の構築やテロ組織そのものをジオン軍に併合して戦力の拡大を図ってきた。

 

今やその活動範囲は地球全土に及びつつある。

遂には国家との同盟関係に至るなど、もはやその影響力はテロリストの範疇を越え、立派に一つの『国』と言っても差し支えないものであった。

 

そんな中、宇宙側の行政機関とも呼べる宇宙議会はジオン軍との友好条約を締結。

 

地上行政との立場の相互確認のために結んだ条約、それが表向きにメディアなどでスペーシアン側へ発表された内容だ。

 

実際は、地上での各宇宙企業によるこれ以上の権力巨大化を阻止するために、宇宙議会がジオン側へ持ちかけた友好条約と言う名の茶番である。

 

宇宙議会としては、ベネリットグループのような巨大権力を持つ企業たちの権力弱体化を望み、ジオン側としても地球統一という大義を成すべく、この話に乗っかった形になる。

ジオンと宇宙議会は今、一種の利害関係にあるのだ。

 

 

そんなジオンの心臓は今、深めにかけたサングラス越しに宇宙(そら)を舞う二機のガンダムを感慨深く見つめている。

 

金や権力に固執する宇宙企業のトップ連中、地球を捨てた()()()()()()のにやけきった顔が頭中に浮かび、それらを嘲笑するかのように鼻を鳴らす。

 

「俗物どもが.....今頃、自分達の首を絞めているとも知らずにな」

 

そんな下世話な思考をかき消すように、ルナ・シェーラの優しい声質が男の耳にかかる。

 

ルナ「少佐には人を引きつける力があるんです。」

 

少女は男の肩に腕を回すと、とても愛おしそうにその頭を自らの胸に抱き寄せた

 

ルナ「ここまで物事が私達の思うままに進んでくれていることも、地球の皆が少佐を愛している事も、あなたが巨大な恒星の様に周りを引きつける大きな力を持っている証拠です。」

 

男はその想いに応え、そのグローブ越しにもわかるほど細い手のひらに、己の手のひらを重ねる。

 

「........しかし、大勢の先頭に立つというのも辛いものだ。こうやって、君と二人の時間を過ごすこともままならないのだから」

 

男はルナをそっと抱き寄せると、その胸により深く頭を埋めて、ゆっくりと目を閉じた。

部屋は薄暗く、室外からは艦の稼働音が微かに聞こえる。

 

ルナ「少佐....お疲れで?」

 

「ああ........やはり君に包まれていると、私は心から安らいでいると実感できるんだ」

 

ルナは男の隣に腰掛けると、一旦は離れたその頭を再び、よりしっかりと抱いた。

彼女の胸奥からトクトク...と心地よい心拍音が聞こえ、男はだんだんと意識を手放していく。

 

ルナ「ではこのまま、少し休まれてはいかがですか?」

 

「そう....するかな」

 

 

「おやすみなさい」と小さく囁いて、まるで子供ををあやすようにその黄金色の髪を撫で続ける。

 

苦悩やストレスを一切感じさせない、穏やかなその寝顔にルナは一人でに笑みをこぼした。

 

 

 

❖  ❖  ❖

 

 

 

地球寮 社用艦にて

 

 

アリヤ「.....っと、そろそろ減速スラスター制御始める?」

 

マルタン「ちょっとまって。入港軌道上の危険物確認が先じゃないか?」

 

今回が地球寮にとっては学園からプラントクエタへの初操舵である。艦内では各々が慌ただしくも、事前に頭へと詰め込んだマニュアルの通りに艦を進めている。

 

アリヤ「あれ、そうだっけ?」

リリッケ「オペレーションシートを出しますね!」

 

とはいうものの、操舵スタッフなど付ける余裕のない彼らは、学園での航行シュミレーションを受けつつ速攻で蓄えた知識のみで宇宙空間を突き進む。

 

当然慣れない中で段取りの手違いも起こる、そこはオペレーションシートを使いつつ、安全?な航行を継続させている。

 

アリヤ「『軌道上の危険物を確認してから減速スラスターな制御を開始』.....本当だ、危うくやらかすところだった。ありがとうマルタン」

 

マルタン「....僕ら、ちゃんとプラント・クエタに着けるかなぁ」

 

艦長役に抜擢されたマルタンはというと、緊張と不安で出港以来、こびり付いてしまいそうなほど眉をハの字にしている。

 

初の航行であることもあるが、一番の不安点はこの艦の状態にあるらしい。

 

中古、格安で買い取った船だとは聞いていたが、操舵室や外装、それぞれの船室や航行に必要な様々な機器類は全てボロボロ。唯一旧式のメインエンジンが辛うじて動く程度の有様であった。

 

数少ない資材を使い、出港時までになんとか単独航行が出来るように仕上げたものの、外装など多くの部分をガラクタで補ったため強度的に不安がある。

 

岩石等が外装にぶつかれば、一発で航行不能に陥る。

目的地まで何事も無いようにと願うマルタンであるが........

 

 

ビーッ、ビーッ

 

 

突然の警告音がブリッジ内に響き、全員が顔を上げる中、とうとう心配事が現実になってしまったのかと少々パニックになるマルタン

 

マルタン「こ、今度はなに!?まさか、外....!?」

 

ティル「いや船内だな。ルーム11から緊急コールが出てる」

 

アリヤ「11...ティコ達だ」

 

慌ただしい様子を見せるデッキ内に工具箱を持ったアムロが入ってくる。

 

アムロ「警告止めといてくれ、ティコが修繕箇所を頭突いただけだ」

 

ティル「傷は?結構やっちまった系か?」

 

アムロ「いや、傷は大したもんじゃないが、ティコたちを一旦移動させたい。だれか手を貸してくれないか?」

 

アリヤ「ああ、私がいく___「私が、手伝います!」

 

立候補しようとしたアリヤの背中からスレッタが大きく手を上げて応える

 

アムロ「いいのか?...じゃあ頼む、ついてきてくれ。」

 

スレッタ「はい!」

 

___________________

 

 

 

ルーム11

 

 

アムロ「すまない。出港以来ティコの気が立ってな、緩衝材を付けとくべきだったな...」

 

スレッタは傷ついた壁を修復するアムロの横顔を、なにか申し訳なさそうに見つめている

 

アムロ「.....よし、これでいいか」

 

スレッタ「あ、あの...アムロさん」

 

アムロ「ん?どうした」

 

スレッタは足についてしまうのではないかというほど、勢いよく頭を下げた。

 

スレッタ「こ、この前は突然怒鳴ったりなんかして...本当にすいませんでしたっ!」

 

唐突な謝罪に目を丸くするアムロだったが、すぐに顔を上げるようにスレッタへ伝える

 

アムロ「いいよ。別に気になんてしていないし、むしろ僕がスレッタに謝るべきだと思ってたんだ」

 

スレッタ「えっ...」

 

アムロ「あの時、もう少し君の心を汲み取ってやればよかった....すまないことをした」

 

スレッタ「そんなっ...あれは私が!」

 

アムロ「ミオリネに冷たくされたって、そう思ってるんだろ?」

 

アムロに悩みの核心を突かれたスレッタはピクリと体を震わせる。

 

スレッタ「そ、それは........」

 

アムロ「別に、ミオリネは君に冷たくしてる訳じゃない。寧ろとても大切に思ってる筈だ」

 

スレッタ「そ、そんなの...ミオリネさんは私なんか要らないって、そう言って.....」

 

アムロ「ああ...ミオリネは言葉足らずだからなぁ。しかしな、本心で彼女は_____「頼りにしてるからね」

 

そんな話をしていると、廊下から話題の彼女の声が聞こえてきた。こちらへと近づいてきているようである。

 

スレッタ「この声、ミオリネさんっ....!?」

 

 

ミオリネ「___で、ニカには次のプロジェクトのリーダーやってもらうから」

 

ニカ「でも、私よりベルメリアさんじゃなくていいの?」

 

ミオリネ「彼女にはサポートを頼むわ。実力はこれから追い抜いて」

 

ニカ「あはは....買いかぶりすぎだよ。でも、ありがとう」ニコ

 

 

ふと、ハッチが開きっぱなしになったルーム11番の室内を見る。ハッチ越しにではあるものの、アムロの姿が見えたため、ミオリネは様子見に室内へ寄ってみることにした。

 

ミオリネ「アムロ?なんであんたがここに?」

 

アムロ「あ、ああ....ティコに補修箇所(弱いところ)を突っつかれちまってさ。補修の補修ってとこだよ」

 

ミオリネ「ヤギの頭突きくらいで凹むってどうなのよ...」

 

アムロ「仕方ないだろ?素材が少なかったんだ。頑丈な素材は全部エンジン側とブリッジに充てるから、残ってるのはハリボテくらいなもんさ」

 

ミオリネ「ふーん、布切れよりマシってことね」チラ

 

赤毛「」ゆらゆら

 

そんなアムロの隣、積み立てられた資材箱の裏側から何やら飛び出た赤毛が、無重力空間で海藻のようにゆらりと浮いている。

 

それを見たミオリネは、隠れている者にも聞こえるようにわざとらしく「ハァ」と大きめのため息を洩らした。

 

 

スレッタ「.......っ」ビクッ

 

ミオリネ「....で。アムロ、エンジンルームの点検したの?」

 

アムロ「ここの補修も終わったし、すぐに行く」

 

ミオリネ「それが終わったらヌーノ達とコンテナの機能点検してよね。」

 

アムロ「ああ」

 

 

ふん、と小さく鼻を鳴らして、ミオリネは11番ハッチを後にした。

 

ティコの背に隠れ(きったつもり)ていた彼女は、ソロリと顔を覗かせてハッチを見るが、もうそこにはミオリネの姿はない

 

スレッタ「......はぁ」スッ

ミオリネが部屋から出て行ったことを確認し、アムロの前に頭を垂らして出てくる。

 

アムロ「別に隠れなくても良かっただろ?」

 

スレッタ「ごめんなさい....つい」

 

彼女の頭にちょこんと生えたアホ毛が、心なしか萎れているように見えた。

 

アムロ「破損箇所も修復出来たし、俺はエンジンルームを見に行く。スレッタは_____」とアムロに自分の名前が呼ばれて、スレッタはすぐに手を上げる。

 

スレッタ「わ、私もいきます!手伝いますっ!」

 

アムロに必要とされることを期待しているスレッタであった。しかし、彼女の予想した反応は得られなかった。

 

アムロ「ありがとう。だけど、ここからは俺だけでいい。スレッタが良ければブリッジに戻って皆を手伝ってやってくれ」

 

アムロは工具箱を持ってハッチから出ていく

 

スレッタ「えっ.....あ、あの.....」

 

 

(私、遠ざけられてた?.....アムロさんにも.....?)

 

(アムロさんも親友じゃなくなったら、私.......私、は.....)

 

 

と、そんなナイーブな感情を感じ取ったのだろう。アムロはスレッタの方を振り向いて言った

 

アムロ「スレッタ、俺はミオリネときちんと話をするべきだと思うぜ。友達を辞めるとか、そんなつもりないってことも分かるだろうし、なにより彼女もそれを望んでる筈だからな。」

 

微笑んでスレッタに軽く手を振ると、アムロはそのままエンジンルームへと去っていった

 

 

スレッタ(ミオリネさんと、話す.....でも.....でも.....)

 

彼女の迷いはブリッジに戻ってからも続いた。

 

 

〜続く〜

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