ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
図書館の能力を使う為、俺は悪戦苦闘している。
それっぽい力を込めたり、それっぽいポーズをきめてみる。
「こう!こうか!?それともこうか!」
しかし、なにもおきなかった
「こっちのほうがいいかな?これもいいな。これか?これか?」
「なにやってるんだい…こう!」
「こう!…違うみたいだな」
何をやっているんだ俺たちは。魔力…魔力か…
「魔力ってどうやって使うんだ?」
「なんかこう…ひねり出すんじゃない?ふんっ!って」
感覚かぁ…ふんっ!
「出ないな」
「出ないね」
代わりにヘスティアの腹が鳴る。
「これが俺の魔法!?」
「そんなわけ無いだろ!とりあえずご飯にしようか」
いつかの余り物を…と考えたが流石にもう何もない。
「買い物…お金もほとんど無いや」
「仕方がない、これを使うときが来たか」
あまり使いたくはなかったが懐からソレを出す。
「それは!?…なんか嫌な予感がするぞ!」
「フッフッフ…この棒は俺の世界の携帯食料だ。栄養満点で腹持ちも良いぞ…」
「…で、味は?」
「フッフッフ…食え」
ヘスティアのやる気が最低になった。
「さて、今後の予定だが」
「うん」
「明日からは俺もダンジョンに潜ろうと思う」
「うん」
「様子を見ながらとはいえ、そこそこの収入源になる筈だから期待していてくれ」
「うん」
「ヘスティアは明日も携帯食料な」
「やだー!」
生きてた。てっきり感情が死滅してイエスマン(直喩)になったのかと。
「ヘスティアは予定あるか?」
「明日からはまたバイトかな~」
「神がバイトか…」
この世界も世知辛いな。蒼星や白夜がバイト…流石に絵面がヤバすぎる。
「問題は明日ベルについていくか一人で行けるところまで行くかだな」
「まだ人数も少ないし収入に関してはそこまで重く捉えなくても大丈夫だぜ!」
確かに贅沢しなければそんなもんか。昨日は色々あって奮発し過ぎたな…
「ベルの戦勝祝いとはいえ…いや普通に俺が酒を飲みすぎたな」
反省しよう、うん。
「ところで昨日は何があったのさ。戦勝祝いってそんな強い相手と戦わせたのかい?」
「シルバーバックって奴だ、白い大猿」
「確かにローランくんと一緒だと余裕なのかも知れないけどまた厄介な相手だねぇ」
…ここは真実を言うべきか、いや言わなくて良いな。
「まあそういう訳でちょっとご馳走をな」
「ベルくんが帰ってきたら褒めてあげよう。それもウンとね!」
…真実を言うべきだったか、いやベルを信じよう。ぼろを出さないと…
ふと、昨日考えていた予定を思い出す。
「ベルの装備も見直したいんだよな。武器は良いとして防具の方」
「ああ~、確かに今の装備はなにも知らないベルくんが良さそうなのを買っただけだから…ローランくんが見てくれればもっと良いものを安く手に入れられるかもしれないね!」
「そうだな、ベルの戦闘スタイルも定まってきたしそれに合った防具を選ぼうか」
基本的には受けるよりも回避を重視しているからもっと軽量の武装でまとめたいな。
「良いねぇ~、どんな感じの防具を選ぶんだい?」
「まず今の金属鎧系は論外かな、重くて嵩張るし…刺青と、体に密着するタイプの、製法はともかく性能的にはヌオーヴォ生地が良いな。でもあれけっこう高いしなぁ…どうしたヘスティア?」
「ローランくん、色々言いたい事はあるけど…この世界は金属鎧が主流なんだ」
「あ〜…布系防具が高いとか?」
「確かアマゾネスが装飾品系のマジックアイテムを使ったり、エルフの服がそういう物だった気がするけど、どれも無茶苦茶高いし、服は君が考えているような奴じゃなくてローブが主流だった筈だよ」
「刺青とかは?」
「多分これかな?っていうものは君と考えているのと全く違うし癖がありすぎてあまり推奨できないかな、個人的にもね…」
そういえば刺青は特異点だったな。ヌオーヴォ生地は…まあ無いだろう。冷静に考えて別世界にまであんなのあってたまるか。とりあえず普通の強化繊維くらいならあるか?
「とりあえず今度一緒に見て回るか、この世界の防具とか身体改造について何も知らないからな」
「あの〜…身体改造って何をやるのかな?」
「分かりやすい物だと義体とか外骨格、人気なのは刺青かな。こっちにはそういうのは無いのか?」
「戦闘用でそういう物は無かったと思うよ。医療用の義体はあるけど戦闘には使えないんじゃないかな?」
マジかぁ、だとすると本当に一通り見てから決めないと駄目そうだな。
「とりあえず今日のベルの収入で明日ダンジョンに潜るか決めるか。装備の更新って金もかかるしな」
フィクサーになったばかりの頃は趣味なんかに割ける金なんて全くなかったもんだ。金に余裕ができたら色々と強化施術を施して、また金を稼いでなんて感じだったからな。
「う〜ん…今から見に行くかなぁ」
色々話してはいたが今はちょうど正午と言ったところか。ざっと見るだけなら時間的には十分そうだ。
「お!それならボクもついていくよ!なんてったってあのナイフもボクの神友が作ったものだからね!」
「もし直接話せるなら話したいな。この世界の一般的な武器がどんなものかを本職に教えてもらいたいし」
少なくともベルの短剣はスペシャルでユニークな武器だろうから参考にならん。とはいえ武器に特殊な能力をつける事は不可能では無いだろうからな。
北西のメインストリートにあるヘファイストスファミリアの支店に武具を見に行く道中。
「ん?」
「どうしたんだいローランくん?」
時々、何となく気になる人間が居る事に気がつく。あそこにいる赤髪の男の子とか、向こうの子供…じゃなくてパルゥム?とか。神にも似たような感覚を纏っている奴がいるな。
「うーん、なんだろうな。アレ」
「アレ?何かあるのかい?」
ヘスティアには分からないらしい。どっかで感じたことのある気配なんだけどなぁ…今度改めて調べよう。
壁面いっぱいに並ぶ武器をざっと眺めていく。
「あ~、低品質品とは言えある程度の性能は保証されているのか」
向こうと比べればここら辺は優良と言えるが…
「うーん、初心者用武器と比べてこの性能でこの値段か…」
良い武器になるほど値段が高くなるのはわかるが、性能に対して急激に値段が上がりすぎている。
「どうだいローランくん?」
「難しいな…」
いっそのこと赤い霧やシャオみたく自力でEGO発現してくれないかなぁ。そうすれば全部の問題が解決するんだけど、まあ無理だろうな。そんなポンポン発現できるものでも無いし、白夜を経験しないともっと発現しにくいはずだ。流石に赤い霧みたいな偉業をベルに求めるのは酷すぎる。
「とりあえず基準はわかった、だいたいどの程度の資金が必要かとかな」
「それなら良かった…ってあれ?へファイストスだ。お〜い!」
例の鍛治師の神友か。話したいとは言ったが、自分の出自を易々と広げる訳にもいかないしな。ここはどうするべきか…
「あら?どうしたのヘスティア。忘れ物かしら」
「ベルくんの防具の下見に来たのさ!彼はローランくん!…あー、えーと、とにかくボクの二人目の眷属さ!」
どうやら今の状況に気付いたらしい。とりあえず軽く挨拶をしておくか。
「どうも、ローランです。今朝までヘスティア様がお世話になっていたようで、なんとお礼を言えば良いものか…」
「へぇ、随分と良い子じゃない。大丈夫よ、友神のよしみって奴だから」
ああ、良い目をしているな。良い子っていうのは外面だけの話じゃ無いな。
「ヘスティア?この子はどうやって誘ってきたのかしら?」
ほれみろ、思いっきり怪しまれているぞ。そりゃそうだ、鍛治の神って事は相応にそれを使う相手のことも見てきているだろうからな。誤魔化し切れるとは思っていなかったが…
「…え、えっと」
だからヘスティア、こっちにチラチラと視線を送らないでくれ。
「はぁ、それじゃああなたはどうしてヘスティアの所についたのかしら?」
「色々と良縁に恵まれまして」
これで引き下がってくれたらなぁ、無理だろうなぁ。
「…随分と訳ありのようね、大丈夫なの?ヘスティア」
「あ〜、一回作戦タイムを貰えるかい?」
作戦タイムってなんだよ、もはや開き直ってるだろ。
「まったく…良いわよ。私もあなたに一つ用事があったし」
「へ?ボクに?」
流石にそれは想定外だ。朝方に別れたばっかりじゃ無いのか?この短期間で用事ができると言ったらあの短剣しか心当たりがないぞ。
「まあこっちの用事はすぐに終わるから、ほら作戦を立ててきなさい」
しっしと手を振っているのでお言葉に甘えさせてもらおう。
へファイストスから少し離れたところでヘスティアと視線を合わせて小声で話す。
「どどどどうしよう!どうすれば良いんだ!?」
「どうすれば良いんだって、そっちはどうしたいんだ?」
俺は話してみたかったとは言ったが別にどうしてもという訳ではないし、この状況なら適当に話したくないと言って黙秘してもも良いと考えているが。
「正直よくないことだってのはわかっているんだけどさ、君の司書のスキルについてへファイストスに相談しようかなって考えているんだ」
「ああ、確かに結構大きいファミリアだしな。何かしらの手がかりは得られそうだけど…」
それは色んな意味で最終手段じゃないか?他のファミリアの主神に俺の情報を流すのはあまりよろしくないんだが。
「というかなんでへファイストスはあんなに君のことを気にしているんだい!会って3秒で目をつけられていただろう!」
「お前なぁ、相手は鍛治師だぞ?しかもこの道ウン百年の鍛治の神だろ。自分の作った武器やら防具を使う相手を見続けてきてるんだから、俺がどれだけ戦闘慣れしているかもなんとなくわかるだろうよ」
自慢じゃないが俺は結構強い、弱いなんて口が裂けても言えない程には。そんな奴が零細ファミリアに入団してたら怪しむだろうさ。
「うう〜正直へファイストスを舐めていたよ」
「神友が怪しい男に騙されたり、良いように扱われてないか心配なんだろ」
決して悪意があってあそこまで警戒している訳ではないだろうからな。親友を思っての行為だろう。
「それもあるだろうね…観念してある程度は話すか…」
「これからも友達で居たいならそれが一番無難だろうけど…最初は俺が話すよ。ヘスティアに任せたらいらないことまで言いそうだ」
「うん、そうしておくれ…」
「作戦会議は終わったかしら?」
「ああ、終わったよ。ローランくん頼んだ!」
「出来れば盗聴の危険がない部屋を用意できませんか?相応の内容になるので」
頭を抱えてため息を吐かれてしまった。気持ちは十分に理解できる。
「ヘスティア、あなた何を引っ掛けたのよ…」
「そういうものだよ…正直すっごい持て余しているんだ」
「…とりあえず私の部屋に行きましょう」
さて、どこまで情報を渡すかな。
〜ローランの異世界見聞録〜
今回はこの世界の武器についてだが…
都市の裏路地では碌に使えもしないようなゴミが売っているのに対してオラリオでは最低限の品質が保証されているようだ。
そしてちょっと良いものは高い、びっくりするほど高い。正直『え?この程度の差でこの値段?』と思ってしまう程度には跳ね上がる。
おそらくこちらの世界では武具の製造が個人に依存しているからだろうな。良い物は相応の腕を持った鍛治師が一つづつ作らなきゃいけない訳だ。都市だと大きい工房は…何というか、性能も生産性も凄いからな。
防具が異様に高いのも身を守るものがそれしかないからだろう。義体化やら刺青やら外骨格と手段が多い都市と明確に違う点だろう。
防具の値段の違いでもう一つ心当たりがある。命の重さだ。オラリオはとても平和で、そこらで三日に一回は死体が見つかるなんて事はないしな。あっちは死体から剥ぎ取った物を横流しするなんて日常茶飯事だ。人口も都市の方が多いし、冒険者とフィクサーの数を比べたらとんでもない差になるんじゃないか?そもそもオラリオ自体、巣一つの大きさと大差ないしな。需要と供給の差も大きいんだろう。
とりあえずベル用の防具にある程度の目星はつけた、今度一緒に見て回ろう。