ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
へファイストスに案内された部屋で来客用のソファに座る。お茶はへファイストスに命令されたヘスティアが出してくれた。
「堅苦しい口調は抜きにしていいわよ」
「それじゃあ早速失礼して…俺ってレベル1なんだよ」
「…嘘でしょ?いえ、嘘じゃないのは分かるんだけど」
いつぞやのヘスティアと同じリアクションだな。
「え?この子明らかに戦い慣れしてるわよね?この身のこなしでレベル1?」
「うん、なんなら今朝恩恵を与えたばかりの新米冒険者だよ」
「嘘でしょ…今すごく後悔しているわ、明らかに厄ネタじゃない」
「もうここまで来たら神友と言えども絶対に逃さないからな!」
胸を張って言う事じゃないぞヘスティア。へファイストスは頭を抱えて項垂れてしまった。
「でも正直あんなにあっさり見破られるとは思わなかったな、そこらのチンピラ程度に立ち振る舞ってた筈なんだけど」
「年季が違うのよ、まあ対人戦とかに慣れてない準一級なら騙せるとは思うわよ」
う〜ん、今度自分の立ち振る舞いを見直してみるか。
「ぜ、全然わかんなかったよ…」
「あんたは荒事とは一切縁がなかったしね、私の見立てだとレベル4以上だと思っていたのだけれど…結果は大外れね」
「でもローランくんはあの剣姫と戦って勝てるかもしれないって言ってるんだぜ?」
自慢げに言うなよ…そこまで教える予定はなかったんだぞ。
「彼の実力を見てないから流石に自信を持って言える訳じゃないけど、剣姫が魔法を使わなければ良い勝負するんじゃない?もちろん純粋な技術だけの話でステイタスの事は考えていないけど」
魔法、ね…いったいどんな魔法を使うんだか。
「それで次は…」
「まだあるの?もうお腹いっぱいなんだけど」
「俺って異世界人なんだよね」
へファイストスはいせかいじん…と呟いてから10秒、20秒とじっくり考えて、こてんと可愛らしく首を傾げる。
「異世界人?」
「うん、異世界人。異なる世界から来た人って意味だ」
「ああ、うん、私の思い違いじゃなかったのね…」
再び項垂れたへファイストスの肩を、ヘスティアはポンと優しく叩く。
「そういう事で、ファミリアの先達として何かアドバイスを…」
「異世界人なんて知らないわよ!あんた私を何だと思ってるの!?」
「とっても頼りになる神友さ!」
ウインクしながら白い歯を見せサムズアップ。それに対するヘファイストスの返答はアイアンクローだった。
「ああああああー!いだいいだいいだい!割れる!りんごみたいに割れる!」
必死にヘファイストスの腕をタップするヘスティア。しかしながら効果は薄いみたいだ。
「なんて物持ち込んでくれるのよ…あんたといいロキといい…」
ようやく解放されたヘスティアは頭を抑えながら床を転げ回る。声を上げる余裕すらなさそうだな。南無。
「正直な所、ディアンケヒトに頭を見てもらうように勧めるくらいの事を言っているのだけど…本気?」
「頭がおかしいかおかしくないかで言えばおかしい寄りかもしれないけど、異世界から来たってのは大真面目だぞ」
「少なくとも嘘ではないようね…で、何を聞きたいの?」
「とりあえずこの世界の装備事情についてかな、俺の先輩でヘスティアの眷属1号に防具を見繕いたいんだ」
「例のナイフもその子のものね。ヘスティア、あまり一人だけを贔屓しないようにしなさいよ?」
確かに今はベルと俺しかいないから問題ないけど、他にメンバーが増えたら諍いの元になりそうだな。注意して見ておくか。
「うぅ…分かってるよ、あとスキルについても聞きたいことがあるんだ」
「スキルねぇ、あまりそういう事を口外するのは褒められた行為じゃ無いんだけど…仕方がないわね、乗りかかった船…強引に乗せられた船って事で聞いてあげるわ」
う~ん、罪悪感。
この世界の武器について粗方聞いた後、ふと気になった、と言うよりは思い出したが正しいか。
「ああ、そういえば」
ヘファイストスも居ることだし、あまり気は進まないが聞かなければならないだろう。
「例のナイフって幾らだったんだ?友達割引で結構安かったり?」
ヘスティアから変な音が鳴った。ヒキュッって感じの奴。
「あら、ヘスティアからなにも聞いていないの?」
「今朝の事だったしなぁ、色々あって聞く機会が無かったんだよな」
ヘスティアが席を立ってそろりそろりと執務室の扉に寄る。
「へぇ…ヘスティア、幾らだったかしらねぇ?」
声をかけられたヘスティアのツインテールがビックゥ!と跳ね上がる。これは…嫌な予感しかしないぞ?
「…2…」
「2?2000万か?」
流石にトップクラスの武器だけあって値段もトップクラスだな。この支店の中じゃ四桁万の武器は片手で数える程度しかなかった筈だ。
「におく」
…………???
「2億よ、2億ヴァリス」
「におく?」
…………におく
におく
200000000!?
「2億!?」
「そうよ、2億」
嘘だろ!?たった二人の、出来てから一年も経ってない弱小ファミリアに2億払えってのか!?
「あの性能で!?言っちゃ悪いけど吹っ掛けすぎだろ!」
「失礼ね、聞いてないの?あのナイフは持ち主の成長とともに強化されていくのよ?」
「それでもだよ…天井は?」
「ほぼ青天井ね、余程のことがない限りは限界も来ないでしょう」
それなら…いや、流石に無理があるわ。武器一つ、それも材料費とかの少ない筈のナイフでこの値段って…
「もしかしてアレってとんでもない素材とか技術が使われてたり?」
「素材代も大きいけれど、私は鍛治を司っているのよ?相応の技術には相応の価値があるものよ。正直規定的には白寄りのグレーゾーンだけれど。ロキあたりが知ったらしばらくはいちゃもんをつけてくるでしょうね」
色々な意味で地雷だったか…ええ、2億?2億、2億かぁ…
「今からファミリア抜けられない?」
「うわあぁぁあ!見捨てないでおくれローランくん!せめてベルくんが一人前になるまでは!」
だって2億だろ?俺とベルで半々だとしても1億、ベルの日給って幾らくらいだ?1万あるか?あったところで年中無休でも27年以上掛かるって?
「…」
「こわい!ローランくんの視線がすごく怖い!」
「自業自得ね、私に仕事を頼んだ時点でこうもなるわよ」
…気は進まないけどフィクサー業に近いことしないとかなぁ。
「…」
「ローランくん!何か言ってくれ!無言が一番怖い!」
「へファイストス様、何か仕事はありませんかね?俺けっこう何でも出来ますよ」
「そっち系の仕事は無いわよ。というかヘスティアが許可しないでしょうし、そんなお金受け取らないわよ」
「わあああ〜!ごめん!本当にごめんローランくん!だから後ろ暗い仕事はやめておくれぇ!」
手段は選ばなければいけないようだ。マジでどうすんだこれ…
「神っていうくらいならとりあえず10年くらいは飲まず食わずでも生きてられるかな」
「むりむりむりむり!今のボクたちは普通の恩恵もない一般人と変わらないから!か弱いから!」
「ヘスティアを虐めるのもそこら辺に…って言いたかったけど本気で言ってるのね、気持ちはわからなくも無いけどやめてあげてちょうだい。こんなのでも私の神友だから」
ベルの素質はまあ凡夫って感じだけど、俺が無茶苦茶強引に強化して…レベルアップを現状最速の1年としてみても、借金返済は普通に10年以上かかるだろ…え?どーすんのこれ。
「流石に10年も滞在する気もないし…どーすんだこれ」
「一応返済の予定は立ててあるわよ」
神様仏様へファイストス様!何かしら手があったらしい。聞いてみよう。
「ヘスティアが自分でバイトして返済する予定よ。35年ローンの420回払い」
「日給にして16000…ヘスティア、神といえども体は大切にしたほうがいいぞ?確かにお前みたいな見た目の子が好きな奴ってのもいるだろうけどさ、そういうのはお前には早いんじゃないかってオジサン思うんだ」
ヘファイストス…そっち系の仕事じゃなくてこっち系の仕事を取り扱ってたのか…
「とんでもない勘違いされてる!?ボクが体を売る訳ないじゃないか!ヘファイストスの所でバイトするだけだよ!」
「ちょっと、変な勘繰りはやめてちょうだい。普通にうちの鍛治師の手伝いをさせるだけよ」
「それで日給16000ヴァリス?ちょっと破格すぎるんじゃないか?」
「まあ、そこはね」
神友のよしみ、か。
「いい友神を持ってるんだな、ヘスティア」
「うう…ありがとうよヘファイストス…」
この事はしばらくはベルにも伏せておこう。少しでも稼ごうと無茶を始めかねない。
「まったく、一応俺もちょっとは手伝うけどあまり期待するなよ?」
「う、ううん!これはボクの個神的な借金だから子供たちに背負わせる気はないよ!」
「まあ汚いお金は受け取るつもりはないけれど、ファミリアが大きくなって余裕が出て来たらファミリア資金からも少しずつ出したらどうかしら?」
…とりあえず一年以内にベルをどこに出しても恥ずかしくないような二級冒険者にしてやろう。そうすれば少しは気も楽になる、筈だ。
俺が頭を抱えて借金とベルの教育方針について考えている間にヘスティアが話を進める。
「それじゃあ次はボクから…ローランくんのスキルについてなんだけど」
ヘスティアの言葉でへファイストスが少し表情を固くする。
「ヘスティア、分かっているとは思うけどそういうのはあまり口外しない方がいいわよ?」
「分かってるよ、でもボクみたいなひよっこファミリアじゃ誰にも聞けなくてさ…」
「はぁ、仕方ないわね。言ってみなさい」
「ローランくんのスキルでさ、魔力を消費して使うものがあるんだけど使い方が分からないんだよね」
あれやこれとポーズをとっていたがうんともすんとも言わなかったアレだ。
「魔力を使うスキルねぇ…魔力が足りないとかじゃないの?」
「それもあるんだろうけどさ、魔法は使おうと思えば使えるらしいからどうにか出来ないかなって」
「そうねぇ…マジックポーションを使ってみるとか、魔石を使うとか?あれって魔力の塊だし」
「ポーションと魔石か…試してみるよ!」
「まあ期待しないでよね。適当に言ってみただけだから」
ヒントが一切ない状況よりはだいぶマシだ、帰ったら試してみよう。
〜ローランの異世界見聞録〜
この世界の武器は良いものになると色々な特殊能力を付与できたりするようだ。代表的なのは再生らしい。頑丈さも折り紙付きで絶対に壊れないとまで言われてるんだとか。
それでも2億はいかないあたりベルのアレがどんなものか良くわかるな。やっぱり流石に吹っ掛けすぎじゃないか?いや、そもそもヘファイストスがオーダーメイドを受ける事自体滅多にないらしいからそういう点でも上乗せされているのか。
とりあえず俺はその借金について気にしなくても良いらしい。もしヘスティアがバイトをサボろうとしたら尻を叩く程度にしておこう。
ハロウィンだしなんか書くかぁ...時系列どうする?
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ベルとヘスティアの三人で!
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ちょっと未来の5人だな!