ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず 作:ピグリツィア
ヘスティアのとんでもない借金を知って、俺はもう疲れた。今日はこの辺りで引き上げたい。
「じゃあ、用事も済んだし帰るか。ありがとうヘファイストス、何から何までな」
「まったくよ…そうだヘスティア、ちょっと血をもらうわよ」
「うん?ああ、君の用事かい?神友のためなら幾らでも…死なない程度にはあげるさ!」
神の血かぁ、何に使うんだか。
別室で採るらしいので暫く部屋で待つ。
「主神様よ!いつまで思案しているんだ!手前は準備できているぞ!」
ノックもなしに部屋の扉が開けられる。入り口を見たら眼帯をした褐色肌の女が堂々と立っている。露出度高くない?
「お〜う、ヘファイストスファミリアの人か?主神様は今そっちで仕事してるから入んないほうがいいと思うぞ」
「む?客人がいたのか、失礼した。手前は椿・コルブランドだ。ヘファイストスファミリアの団長をやらされている」
やらされている、と言うあたり嫌々なんだろうな。実力で決まっているのかな。
「ローランだ、よろしく…今からお茶淹れるけど何か要望があったりするか?」
それを飲み切ったら好きなものを自分で淹れて良いわよ、なんて言われたからな。せっかくだし椿のも淹れてやろう
「おお、すまんな。好きなものを淹れてくれ」
それならコーヒーは飲んだし次は紅茶でも淹れるか、ビナーのおかげで結構上達しているしな。
缶に書いてある銘柄を見て…わからん!少し開けて匂いが良い奴でいいか。
「う〜ん、これにするか」
図書館から紅茶の葉とかコーヒー豆とか送れないものかな。あとは銃弾か、EGOは…まあ無理か。
「粗茶ですが」
「有り難く頂こう…美味いな」
椿からは良い反応を貰えた。ビナーは厳しいからな、下手な物を出したらやたら難しい言い回しでボロクソ言ってくる。
「それで、ローランは何故ここに?」
「うちの神さまの付き添いだな、今二人でそっちにいる」
執務室横の部屋を指し示して…随分と怪訝な顔でこっちを見るな。
「お主はゴブニュの所の者ではなさそうだが?」
「誰だソレ、俺の神はヘスティアだよ。個神的な友神って奴だな」
「ああ!居候の!」
何だそれ、聞いた事ないぞ。
「一時期主神様の所で食っちゃ寝をしてぐうたら過ごしていたあの小柄な神であろう」
「何だそれ、あいつそんなことしてたのか」
後からどんどんこのファミリアに入った事を後悔しそうな要素ばかり出てくるな。とりあえずアイツは甘やかしちゃいけないタイプなのはわかった。
そうこう話しているうちに採血が終わったのかヘスティアが顔色を悪くしながら戻ってくる。
「終わったわよ、あら椿、どうしたのかしら?」
「主神様がいつまで経っても帰ってこんから迎えに来たのだ。それは必要な素材か」
「ええ、これも多少は効果があるはずよ」
へファイストスと椿が話し合っているが…ヘスティアは少し具合が悪そうだな。
「大丈夫かヘスティア?血を抜かれすぎたか」
「ここ最近ずっと血を使っているからねぇ…特に今回は結構抜かれたしね」
本当に何に使うんだ?全く想像できないぞ…
「よし、手前もまだ仕事が溜まっているのでな!早々に帰らせて貰うぞ、ローラン!」
「ん、おう。じゃあ俺たちも帰るか」
「背負って〜、ちょっとだるいや」
「じゃあ、またねヘスティア。明日は…厳しそうね、仕事には明後日から来てちょうだい」
ヘスティアが俺の背中の上でんむ〜と鳴きながら力なく手を振る。
「メシはどうするかね」
鉄分とかが多いやつが良さそうか、とりあえず明日の飯はそうしよう。
「ベルが帰って来てくれていたら良いんだけど…」
「そうだねぇ、ボクもはらぺこだよ」
教会の扉を開けていつもの部屋に入る。
「あ、おかえりなさい。ローランさん、神様…大丈夫ですか神様!?」
「おう、ただの貧血だから落ち着け。メシはどうする?」
「帰りに食材を買ったので今から作ります!」
用意周到だな、それじゃあ任せるか。
ベルの作ったご飯を食べながら、ベルの今日あった事を聞く。
「それで、エイナさんに怒られちゃって…」
「ステイタス的にも、技術的にももうちょっと潜っても良さそうだけどな」
今回は7階層まで潜ったらしく、それについてアドバイザーからお小言をもらったようだ。
「まあ初心者のソロって考えたらもうちょっと余裕を持ってくれって事なんだろうけどな」
「ええ、それでステイタスを見せることになって…」
「…見せたの?」
「はい…」
ええ…そう言う情報は見せちゃいけないって習ってないのか?
「こらぁ〜べるくぅ〜ん、そう易々と他の女に肌を晒すなぁ〜」
どうやらヘスティアは頭に血が回っていないようだな。発言が盛大にズレている。
「まあいいや、それで?めでたく免許皆伝、10層程度までなら潜って良いよってなったのか?」
「いえ、明日はエイナさんと防具を見に行くことになって…」
ガタンッと椅子を蹴倒す音に釣られてヘスティアを見る。
「そ、それって…デートって事かい!?」
「お〜、頭に血が登ってちょうど良くなったか」
「茶化さないでくれローランくん!ボクは認めないぞ!」
まったく、大事な所はそこじゃないだろうに…
「まあ、初心者用の装備なら良いかな。それじゃあ明日は俺がダンジョンに行ってみるか」
「い〜やダメだね!ベルくんにはボクとデートして貰う!」
もうダメかもしれんうちの神さま。ベルも否定しろ、武器を見に行くだけだろうに。
「口を挟むのはそこじゃないだろ、まあ明日の予定はわかった。ヘスティアはここでちゃんと療養していろよ?」
「うう〜…仕方ない、ローランくんがそう言うなら…」
「すみませんローランさん…」
「いいって、次装備が壊れたり買ったやつが役不足になって来たら俺と見に行こうな」
「はい!」
夜にはベルと訓練をする。今回は耐久を上げるか。
「そういえばローランさんも恩恵を貰ったんですよね、どうでしたか?」
「う〜ん、まあまあと言うべきか微妙と言うべきか…」
正直どのスキルも人前じゃ使いにくかったり、そもそも使い方がわからなかったりって感じだからなぁ。
「あんなに色々書いてあったのに微妙なんですね…」
「マジで微妙だな、って所で今回は趣向を変えて武器は一本だ」
その言葉でベルの目が輝く。そこまでのことか?
「これで目まぐるしく武器が変わってそれに合わせた対応を強いられる事はなくなるんですね!」
「ああ、今回は得意武器一本での純粋な力押しだ。明日はダンジョンに潜らないしな、耐久上げがてらボコボコにするぞ」
ベルの目から光が消える、裏路地でよくみる目だな。
「ごめんなさいエイナさん、明日は行けそうになさそうです。もしかしたら生きてすらいないかもしれません」
「失礼な、俺が間違ってベルを殺すとでも?」
そういうのはもっと強くなってから言ってほしい。今のベル相手なら目を瞑っていても半殺しで止められるだろう。
「殺気!?」
「馬鹿なこと言ってないで始めるぞ」
デュランダルを構える。それを見たベルも慌ててナイフを構える。
「いつも通り先手は譲ってやろう、好きなようにかかって来な」
「はい!行きます!」
〜8分後〜
そこには顔以外が変色したベルがあった。
「まあこんなもんかな」
「シヌ…シンデル…」
「生きてるぞ、ほれ起きろ」
軽く足でつつくとビクンビクンと反応する…起きないな。
「ちょっとやりすぎたかな…骨は折ってないし後遺症も出ないはずだけど」
「モウチョットマッテ…マダムリ…」
う〜ん、予想以上に打たれ弱いな。これでどれだけ耐久が上がってくれるかな。
「ウウ…武器ほとんど使ってなかったですよね?僕の攻撃をいなすだけで攻撃は蹴ったり殴ったりで」
「そりゃそっちの方が攻撃しやすかったからな、武器にばっかり気を取られすぎだぞ〜」
「どんな修行をしたらそんな技術が身につくんですか…」
…流石にベルにはまだ早いよなぁ、冒険者になってまだ一ヶ月も立ってないペーペーに話すには血生臭すぎる。オラリオは人同士での殺し合いも今はかなり少ないらしいし。
「レベルが3…いや2になったら教えてやろう」
「うう、たった1つでも一年は掛かるんですよね」
「最速でな、なんなら大多数は1すら上がらないらしいぞ」
相応に高いハードルと言えるだろう。まあ生き残るための基礎は一年以内に叩き込んでやろう。
「まあ、気長にやろうか。いつでも冷静に、だ」
「いつでも冷静に、ですね」
口を酸っぱくして言い聞かせている事の一つだ。頭に血が登っていたらいつもはしないミスも起きるからな。
「何度もやったからなぁ…」
「何か言いました?」
「いや、独り言だよ。じゃあ汗ながして寝るか」
「はい!」
「ウゴゴ…」
寝袋で寝ていると、ソファから異音が聞こえる。時間的には…早朝か。そういえばベルってかなり早起きだよな。
「か、体が…痛い…動け、動けよぉ…!僕の身体…!」
なんか物語の主人公が土壇場で言いそうなセリフを言ってるな。仕方がない、手を貸すか。
「ほれ、大丈夫か?」
「あ、ローランさん。ありがどう゛っ゛!?」
おお、歯を食いしばっている。でもこれじゃあ動けないか…仕方ない、あまり使いたくはないがこれの出番か。
「苦痛に耐えられぬ時のむがいい」
「こ、これは?」
L社の特産品、エンケファリンだ。基本的にはエネルギー資源として使われるけど、今回は薬物として利用する。
「これで頑張れるようになる筈だ」
「鎮痛剤ですか…いただきます…」
まあ精神安定剤と言った方が正しいんだがな。これがあれば辛い時も頑張れるようになるってネツァクが言ってた。
「お、おお〜なんかふわっとしますね」
「中毒症状はなさそうだな、よかったよかった」
ウン倍に希釈しているとはいえぶっつけ本番だったしな…もしこれで変なことになってたらやばかったな、気をつけねば。
「なんか気分がいいです!」
「まあそういう薬だからな」
ネツァクも太鼓判を押していたからな。アンジェラたちも『用法、用量を守れば非常に有益な薬品にもなるわ』って言ってたしな。
「よーし!神様のご飯を用意したら支度して行って来ますね!」
「おう、俺もダンジョンに行くかな」
中層域まで行ければ良いんだが…目指すは迷宮の楽園かな。ダンジョンの中の街ってのも気になるしな。
やけに元気いっぱいになったベルと朝食をとり、支度をしたら教会を出る。ヘスティアには書き置きを残しておこう。
ダンジョンへ向かう前にベルから教えてもらった道具屋に寄るか。そこでマジックポーションと、一応普通のポーションも買っておくか。
「すみませ〜ん、ポーション買いたいんですけど〜」
「はい、何が必要ですか?」
店内には垂れているタイプの犬耳を持った女の子がいた。気怠げそうに店番をしているが…
「…ああ、じゃあマジックポーションとこれを」
「はい…丁度ですね。ありがとうございました」
やっぱり義手だ、動きや音で何となくわかる。
「…まだ何か?」
「ああいや、何でも。ありがとうございました」
まじまじと見すぎたな。アレについて聞きたいけど…あまりお行儀がよろしくないのでやめておこう。
さて、初めてのダンジョンなんだが…やけに明るいな。光源っぽい物は見当たらないんだけど、そこはダンジョンの不思議パワーだと考えておこう。
第一村人、ではなく第一ゴブリン発見。雑に頭を蹴り飛ばしたら捥げてどっかに飛んでいく。近くにいた冒険者がドン引きしている。…次はちゃんと斬ろう。
そのまま残った胴体から魔石を取り出す。ちっさいなぁ~、これがオラリオを支えている謎パワーの源らしい。謎の化け物から採れるエネルギー物質、オラリオのエンケファリンだな。
そういえばヘファイストスが魔石にも魔力が含まれているって言ってたからこれを使って図書館のあれこれが出来ないか試してみよう。
「なにか起きてくれよ…」
魔石を手に念じてみると、何かが流れ込んでくる…と言うよりはコップの中の残り少ない液体をストローで啜ったような感覚と共に、何処かから微かに声が聴こえてくる。
「.........ら、ロー............目そうね......こし力を...」
どうやら出力不足のようだ。もっと魔石を集めてから試すか。
〜ローランの異世界見聞録〜
ベルが利用している道具屋に義手を使っている店員がいた。情報は欲しいけど戦闘に使えて安く手に入っても義体換装はなぁ...都市でも基本不可逆だから本当に最後の手段かな。
とは言え義体があるなら外骨格もあるかもしれない。探しておこう。
ハロウィンだしなんか書くかぁ...時系列どうする?
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ベルとヘスティアの三人で!
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ちょっと未来の5人だな!