ダンジョンに黒い沈黙を向かわせたのは間違いではないはず   作:ピグリツィア

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『戒め』アンケートを止めるのを忘れてはいけない。
この話は本編とは九割九分関係ないです。


『ハロウィン企画』女神達の性戦

 ある日の事、ベル、ヘスティアと一緒に朝食を食べている最中、いきなり茫然自失になったヘスティアをベルと一緒に眺める。

「はっ!」

「どうしたヘスティア、変な電波でも受信したか」

「疲れているんですかね?あまり無理はしないでください」

 どうやら意識を取り戻したようだが、まだ目の焦点が合ってない。

「仮装だ…」

「はい?」

「仮装大会に参加するぞ!」

「なに言ってんだコイツ、エンケファリンでも使ったか?」

 パニック状態になったようだ、『懺悔』で叩けば治るかな。

「仮装大会だよ!この時期オラリオでやってるアレ…って言っても二人は知らないか」

「まぁここに来てまだ一年経ってないしな」

「でも町中で何回か祭の張り紙を見た気がします」

 アレか、収穫祭の一種だっけ?豊穣とか退魔だかのアレだ。

「そうそれ!それに仮装大会があるんだよ!」

「それに参加するのか、頑張れよ~」

「君達も参加しようよ!」

 え~、嫌だなぁ。もうそういうのを楽しめる年齢でもない...って言ったらヘスティアはどうなるんだ。でも気は進まないな。

「露骨に嫌そうな顔をしないでくれローランくん!ベルくんは参加するよね!?」

「え、ええ?どうしますかローランさん?」

 何でそこで俺に振るんだ、見てわかってくれベルよ。

 

「話は聞かせてもらったわ、面白そうだしローランも参加しなさい」

 こ、この声は!

「ほらローランくん!これで二対一だぞ…誰!?」

「アンジェラよ、仮装の衣装は決まっているの?」

 俺の友達兼雇い主のアンジェラだ、いつでもEGOを出せるように繋いでいたから反応したのか。外郭に放逐されてからやけにこういうイベント事に関心を寄せるようになっている。

「どういう魂胆だよ、俺としてはあまり気が進まないんだけど」

「これも人間のことを知る一助になるだろうし、異世界の祭がどういうものかってことも知りたいのよ」

「どうだいローランくん!アンジェラくんもこう言っているし君にも参加して貰うぞ!」

 それでも嫌だなぁ…良い大人が参加するような物じゃない気もするし…

「そんな顔しないでちょうだい。衣装はこちらで用意できるけど何か要望はあるかしら」

「それじゃあ何かインパクトのあるやつ!一目見たら忘れられないようなやつ!」

「わかったわ、ヘスティアとベルの分も用意しましょうか」

 黙っていると勝手に話が進んでいくな…何を用意するんだ?

「ボクの物は自分で用意しようかな?ベルくんはどうする?」

「僕は…アンジェラさんにお任せします」

「わかったわ、こちらで厳正な審査をして一番良いのを送るわね」

「待て待て待て!何を用意するんだ!なんか嫌な予感しかしないぞ!」

 こいつ変な所で世間知らずだからな。まぁ文字通りの箱入り娘だから無理もないけど…

「インパクトのある仮装よ。大丈夫、皆と相談して決めるから」

 本当に大丈夫かなあ…頼むぞティファレト、なんだかんだ一番しっかりしているのはお前だから。

 

「様々な文献から推測すると、今回の祭はいわゆる神秘主義者達の祭りね。異世界からの悪霊や死霊が大勢くるから怪異の仮装をして身を隠すとか」

「悪霊ね…幻想体だったりする?」

「さあ?光の種シナリオより前の伝承だし、その時期から外郭には色々いるから一概にこれと断定はできないわね」

 随分と由緒正しい祭りだったんだな…

「どうしたんだヘスティア、随分と挙動不審だぞ」

「いやいやいやいや、そんな訳ないだろう!?ああそんな訳ないとも!」

 本当に大丈夫か?目が泳ぎまくっているぞ。

「ところで、そっちの祭の由来はなんなの?ホクマーも気にしているから教えて欲しいわ」

「ほ、ホクマーって?」

「宗教の階の指定司書だな。確かに宗教と密接な関わり合いがありそうなイベントだ」

 堅物だし何を考えているのかようわからないが仕事に対して真摯なのは間違いない。だから今回の祭の由来も気にしているんだろう。

「…えーっと、どうしても教えなきゃダメかな?」

「嫌なら良いわよ、ローランに調べさせるわ」

「俺任せかよ!いやまぁそれしか手は無いんだろうけどな…」

 出来れば素直に教えて欲しいが、知らなかったりするのか?

「ベルも気になるよな?」

「えっ?まあ少しだけ…」

「そうか、ベルくんも気になるんだね…じゃあ教えよう」

 ヘスティアのリアクションからして大層な所以がありそうだな。

「この祭はね、神々の悪ノリで出来た物なんだ」

「解散!もう勝手にやっててくれ!」

「わあああ〜!待ってくれ!もうちょっとだけ聞いておくれ!」

 薄々勘付いてはいた、でも実際に言われたら少し腹立たしくなってくるな。

「本来は大体アンジェラくんの言った通りの祭だったんだ!でも神々が降りて来てからはいろんな祭が天界ナイズされていったんだよう!」

「ああ、他民族の行事と混ざり合って訳がわからなくなっていく物ね。いくつか前例があるわ」

「ええ…変なところで説得力を出さないでくれ」

 そんな前例知りたくなかった。しかもアンジェラをして訳がわからなくなっていくって…マジで謎祭りになっているんだろうな。

「そんなこんなで今回の祭はほとんどおもしろ仮装大会になったんだよ…元はモンスターだったり幽霊の仮装だった物が、どんどん変な方向になっていって…」

「今日に至ると…まあアイツらならやりかねないな」

「後で原点になる行事を調べてみましょうか、とりあえず今の祭は特にこれと言った仮装の指定は無いのね?」

「ああ、大体は元の祭らしくモンスターとかの仮装だけど、仮装大会はその限りじゃ無いよ。むしろイロモノが多いね」

 すっごい参加したく無くなったな、イロモノばかりってところが特に。

「それでインパクトのある仮装ね…わかったわ、用意しておきましょう」

「いやあ心強いね!こんな識者が身近にいるのはいいね!」

「俺は嫌な予感しかしないけどな…大会は何時なんだ?」

「三日後だよ!それまでに準備できそうかい?」

「余裕ね、明日でも大丈夫よ」

 ヘスティアがうきゃほ〜う!と盛り上がっているとゴンゴン、と教会の扉を叩く音が聞こえる。

「は〜い、どなたですか〜っと」

「あ、ローラン様。おはようございます」

 教会の外にはベルのパーティーメンバーであるリリとヴェルフが立っていた。

「はいおはようっと、ベルを迎えに来たのか。結構話し込んじゃってたな」

「なあローラン、ヘスティア様が随分とはしゃいでるけど何があったんだ?」

「ああいや、三日後の祭の話でな」

 ああ、と二人とも合点がいったらしく微妙な表情になる。

「どうしたんだ、そんな顔して」

「いや、私はそういう浮ついた話とは無縁、というか余裕がないので…」

「俺もそういうのはあまり得意じゃねえからな…」

 …そうかそうか、そうなんだな。

「まぁまぁ、何もないけどとりあえず一度寄っていきなよ。ベルも下にいるしさ」

「え?まあ良いですけど…」

「俺も構わねーぞ、ここまで来たんだしな」

 

「ヘスティア!こいつらに仮装させたいんですがかまいませんね!」

「ああいいよ!衣装はそっちで用意するんだろう!?」

「ああ!特別な物を用意してやる!」

 よ〜しこれで一蓮托生だ。赤信号、皆で渡れば、怖くない。

「ちょちょっと!何勝手に決めてるんですか!困りますってそういうの!」

「俺もやらなきゃダメなのか!?いや…いやいやいや、困るなァ〜そういうのは。まず主神を通して貰わないと…」

「オーケーだ!ヘファイストスから許可をもらって来てやるぜ!」

「ああ畜生!そうだったこいつヘファイストス様と神友だった!」

 場はまさに混沌と化していた。ベルは急展開についてこられずワタワタしている。

「リリもそういう目立つのはちょっと…」

「なあベル!リリの可愛い仮装見てみたいよなぁ!?」

「えっ!?ま、まぁ?」

「やりますよ!やれば良いんでしょう!?」

 計画通り…いやぁ、ベル様様だな!

「つっても仮装用の衣装なんて持ってないぞ?」

「リリも持ってませんね…ローラン様が用意してくださるのは有り難いですけど…」

「ああ!任せておけ!とびきり良い物を用意してやるからな!」

 アンジェラがな!どうせ一着二着増えたところで変わらないだろ!

「な〜んか嫌な予感するんだよな…ローランがこんなにノリノリなのが特に…」

「ええ、リリも同じです。でも気にはなるので渋々ですが話に乗ってあげます」

「俺はヘファイストス様にまで話が行ったらいよいよ逃げられないからな…なるようになれって感じだ」

 

 時は流れて、仮装大会当日。ホームには朝早くから俺とベル、ヘスティアに加えヴェルフとリリが集まっていた。ヘスティアは既にお着替え完了だ…露出度高すぎない?

「さて、今から持ってくるから待ってろ」

「どんなのがくるんでしょうね…」

「もうなるようになれだ。くそっ、なんでヘファイストス様までノリノリなんだか…」

 

 裏に回ってアンジェラから衣装を受け取る…

「なんだこれ」

「まずはローランね、インパクトのある物って聞いたから幾つか候補を用意したわ『失楽園』『ミミック』『笑顔』『黄昏』よ」

「どれもALEPHじゃねーか!?オラリオを滅ぼす気か!?」

「せっかくだから都市的にもインパクトのある物を選んだわ。安心してちょうだい、そういうデザインの普通の服よ」

 確かにインパクト絶大だったよ…ええ、これから選ばないとダメ?

「『崇高な誓い』とか『ダ・カーポ』じゃダメ?」

「見た目的なインパクトは少ないじゃない、おすすめは『失楽園』か『黄昏』ね」

「…『黄昏』で」

 地獄みたいな二択だな…まさか全部EGOがモデルか!?

「次はベルの衣装ね、これはこっちで大きく割れたの」

「嫌な予感しかしないな…」

「『オズマ』『レティシア』『絶望の騎士』ね」

「どれも女物じゃねーか!?どうなってるんだ!」

 似合うか似合わないかで言ったら似合うかも知れないけど!ベルの尊厳が死ぬ!

「ホドが最初に女の子と間違えてレティシアを選んだのよ、そこから悪ノリが加速して…」

「こんなの着せられるか!?ちゃんとしたの持ってこい!」

「じゃあ多数決的に『オズマ』で…」

「『絶望の騎士』だな!それの方がまだマシだ…」

 

 もうグダグダだ。俺の心労がヤバい。

「リリルカは全会一致で『愛と憎しみの名のもとに』に決まったわ」

「まあ確かに可愛らしいけどさ...世界観に合ってなくない?」

 装飾品が沢山付いた、文字通り魔法少女のような見た目の衣装だ。確かに小柄な女の子が着れば可愛らしいだろうけど...

「ティファレトの犠牲を無駄にしないでちょうだい」

「...着せかえ人形にされたか」

「それはもう、凄かったわよ」

 ゲブラーも乗り気だったし、と言うアンジェラの呟きを聞き逃さなかったぞ。ゲブラーも乗り気だったならいろんな意味で拒否権は無いよなぁ。

 

「じゃあ最後にヴェルフね」

「...おい、なぁこれって」

「『壊れゆく甲冑』ね」

「もうまんま幻想体じゃねーか!」

 もうEGOじゃねーじゃん!駄目だろ!駄目だろこれ!

「これもそういう見た目のレプリカだから安心してちょうだい」

「当たり前だろ!本物持ってきたら説教だぞ!」

 幻想体はその性質上、下位の物でも人間の精神に甚大な影響を与える事もある。もしそんな物を一般人も多く居るオラリオで置いたら ...面白くない事になるだろうな。下手すりゃオラリオ版ピアニスト事件だ。

「最初はローランの衣装を『使徒』にしようって提案したのだけれど、猛反対を受けたわ」

「使徒ってアレか、白夜のアレか」

 まあL社職員なら反対するだろうな。『L社の大規模事故記録集』で見たけど問答無用で職員11人が馬鹿みたいに強い上に無限に復活する化け物になるって悪夢以外のなんでもないよな。

「一応ヘスティアの物も用意したけれど」

「…一応聞こうか」

「『規制済み』」

「お前はオラリオを崩壊させたいのか?」

 それも記録集で見たぞ。規制を外したらマジでヤバいあれだろ。

「それと『ラブ』ね」

「確かにあれも見た目のインパクトはあるか…」

 でもベルの性癖がねじれそうだからダメだね。見た目がアレだからね、しょうがないね。

 

「ああもう、さっさと選んだ物を出してくれ」

「わかったわ」

 目の前の空間が歪み、穴から黒い衣類カバーに包まれた服が4着出てくる。ご丁寧にそれぞれに名前と、可愛らしくデフォルメされた顔の絵が付いている。

「随分と凝ってるな」

「せっかくだから色々と手を加えてみたわ、どうかしら」

「見せてみればわかるよ」

 部屋から出てベル、リリ、ヴェルフそれぞれに服を渡す。

「み、見るからに高そうな袋ですね…」

「こんなちゃんとした衣類カバーに入って…おいちょっと待て、俺の奴から金属音が聞こえるんだけど。鎧か?それってこういうカバーに入れるような物じゃないだろ」

「僕の服は鎧とかじゃ無さそう…」

 ベルよ、強く生きてくれ…

「それじゃあ一人ずつ着替えて来てもらうか、誰からいく?」

「俺から行くかな、さっきジャンケンで決めたしな」

「時間がかかりそうですね…ローラン様、手伝ってあげてください」

「それもそうだな、とは言え俺も着たことのない装備だからどれだけ力になれるか…」

「何が入ってるんだこれ…」

 

 ヴェルフの衣装を衣類カバーから取り出すと、そこには所々破損した見るからに曰く付きといった様子の鎧があった。

「おお!コレって極東の鎧か!?」

「へ〜、こっちにも似たような物があるんだな。多分それだ」

 実際は曰く付き所じゃないほどヤバい代物だったんだけどな。教える必要はないだろう。

「ほお〜、面白いなコレ、一応極東鎧は見た事はあるが細部の意匠は結構違うな…」

「気に入ったんなら後でじっくり見せてやるからさっさと着るぞ」

「お、悪い悪い。いや〜思ったより仮装って感じじゃなかったな!」

 ヴェルフに鎧を着けていく。何だコレ、すっごい着せづらいな。

「これ左腕はどうしたんだ?壊れてるっぽいけど…」

「アーソーイウデザインナンダーキニシナイデクレー」

「すっごい片言だな。まあいいか、仮装祭だしな」

 

 甲冑の装着を済ませてベル達の所に戻る。

「おお〜、雰囲気ありますねぇ」

「うん!僕も後で似た物を着てみようかな…」

「カッコイイじゃないか!朽ちかけているのも今回の祭りにおいては高得点だ!」

 反応は上々だな!この後は…なるようになれだ。

「じゃあ次は誰だ?」

「リリです…先にどのような物か聞いても?」

「そうだなぁ…着難いかもしれないからヘスティアに手伝ってもらいな」

「合点承知ィ!どんな物かお先に見せてもらうぜ!」

「不安しかありません…」

 

 二人が隣の部屋に移動する。

「え?なんですかコレ!?」

「うわぁ!すごいねぇ!」

 やっぱり世界観に合ってないって。都市に合っている服かと言われたら全く違うが。

「これ確か魔法少女って奴だ!ヘルメスがなんか言ってた!」

「なんですかソレ!?魔法って言ったってリリは…」

 なんだかんだ言ってちょっと嬉しそうな声色だな。

「おいローランの旦那、どんな服を選んだんだ?」

「俺が選んだ訳じゃないぞ?ヴェルフとリリの服に関しては知り合いが決めたんだ」

「ほ〜う、その知り合いってのが気になるが…ああわかってる、深くは詮索しない」

「僕の服はローランさんが選んだんですか?」

「...出された候補から出来るだけマシな物を選んだが、まあ、そうだな」

 罪悪感!やっぱり事前にちゃんと選んでおけばよかった!

「ベ、ベルさま~どうでしょうか…」

 リリの呼び掛けで振り向くと、そこには可愛らしいメルヘンな衣装に身を包んだ魔法少女マジカル☆リリルカちゃんが居た。

「すっ!すごいかわいい…です…」

 よく言った、リリルカちゃんのご機嫌はかなり良さそうだ。ヘスティアは少しご機嫌斜めか。

「ローラン様…このいかにも高そうな服は?」

「知り合いから送ってもらった衣装だ、まあそこまで高くないからそう気張らなくて良いぞ」

 どうせ本から出した物だろうし。元手ゼロだし事故で破損しても痛くも痒くもないだろう。

「あんな事言ってますけどこれ絶対高いですよね…」

「おうリリ助、俺のこの鎧さ、むっちゃ意匠が凝ってるのに実用性も有るんだよ…まるで御偉いさん用だな、つまりは滅茶苦茶」

「やめてください、リリに変なプレッシャーを掛けないでください」

 

「じゃあ次はベルか?」

「ぼ、僕はまだ心の準備が…」

 全く、そう気負わなくても良いって言ってるんだが。

「それじゃあ俺から着替えてくるよ」

「お願いします!」

「今までの流れだととんでもない物が出てくるかもな?」

 …何にも言えねえ

 

 着替える為に一人で別室に移動する。

「やっぱり無理言って葬儀頼めば良かったかなぁ」

 もう見た目が明らかにおかしい。だって服に付いている大きな黄色い眼が動いてるんだもん。こんな服オラリオで見たこと無いぞ。

「本当に着て行っても大丈夫かなぁ」

 騒動になるんじゃないだろうか…気にしないでおこう。

 

「待たせたな~」

「あ、出てきたね…」

 ヘスティアのリアクションが服と目が合った所で止まる。他の皆の目も俺の服に釘付けだ。

「…あの~、ローラン様?その服は」

「ハジメテノオマツリダカラフンパツシテカッチャッターエヘへー」

「いやいやいやいや!何でできてるんだそれ!?むっちゃ目が合ってるんだけど!?生きてるだろそれ!」

 そう言えばそうだ、これ本当にレプリカなのか?

「まあそういう見た目の不思議な衣装なんだろ。そういうことにしておいてくれ」

「あっそういう系ですね。わかりましたローラン様、触れないでおきます」

 リリの死んだ目が何もない天井の方に行く。そこに何かを見ているような目の動きだ。

「僕は何を着せられるの…?」

「だ、大丈夫!ヴェルフ君とリリ君もアレに比べたらマトモだっただろう!?ローラン君を信じよう!」

「そうです!ここまで来たら一蓮托生です!」

 リリの言葉でベルの目にうっすらと涙が浮かぶ。

「ほら、これ。ガンバレ!」

 そんなの知ったことかと服を渡せばすごすごと別室に消えていく。

「わあああああぁぁぁぁ!?」

「どうしたベル!?」

 扉を閉めて少しするとベルの絶叫が聞こえてくる。慌てて扉を開けるとそこには…

 

 白い王冠と、端が赤黒く汚れた白い、幾重もの大きなフリルのついたドレスに身を包んだ白兎が居た。

「…………………は?」

 どこかで見た記憶がある。あれは…そうだ、『オズマ』だ。社会科学の…

「ベル君!?だいじょ…」

「ベル様!返事を…」

「ベル!何があった…」

 一拍遅れて後ろから3人が傾れ込んでくるが、ベルの姿を認識すると動きが止まる。

 

 

 

 

 

 長い沈黙の間、俺は必死にアンジェラを呼び出していた。

(アンジェラアンジェラアンジェラアンジェラ!お前ええ!)

「何ようるさいわね、何か問題でもあったの?」

(問題も問題、大問題だアホンダラ!悪ふざけにしても悪質がすぎるぞ!)

「何があったのかしら?」

(おまっ!ベルの衣装!取り違え!)

「取り違えなんてするはず…」

「私だよ」

 この声は...ビナー?

「最近は少しばかり暇を持て余して居たのでな、そこの少年を利用させて貰おうと思案していた」

(え?それがこれ?)

「此れ如きで終るとでも?」

 だよなぁ!こんな可愛らしい趣味してないって言うのは知ってたさ!

(おいアンジェラ!止めてくれ!)

「ビナー、あまり変なことをするのはやめてちょうだい」

「大丈夫だ、節度位は弁えるさ。死人怪我人は出さないよ」

 本当かなぁ…正直信用できない。

「只、少しだけ余興に付き合って貰うだけだよ」

 全員がベルの状況を理解してここまで20秒程か、いきなりベルが走り出した。

「ベル!?」

 クソッ不意を突かれた!俺達の脇を抜けて凄まじい速さで外へと逃走する。他の奴らは…まだフリーズ中だ。復帰までにかなり掛かりそうだし無視して追いかけるか。

 

「天使が居た…」

「はい、そこらの女神様より女神様でした…」

「ベルってそういう趣味が…?」

 

 レベル2になって足が速くなってもまだ普通に追い付ける速度だ、その筈だったんだが…

「ああクソ!邪魔するなビナー!」

 何処からともなく飛来してくる柱や鎖を回避する。

「其れは無理な相談だな、私は私の目的を果たす為動く」

「純情な少年を女装させて楽しいかよ!」

「其れは飽くまで手段だよ」

 何、とビナーの言葉に気を取られた瞬間に鎖で拘束される。

「ベル!止まれ!ベルー!」

「なに、悪い様にはしないさ」

 俺の必死の呼び掛けも虚しく、その白い背中は何処かへと消えていった。

 


 

 何が起きてる!?ローランさんの渡してくれた服のカバーを開いた瞬間眩く輝いたと思ったら、僕は町中を疾走している。

「え!?どういう状況!?」

『流石に復帰も早いか』

 何処からともなく大人びた女の人の声が聞こえる。

「誰ですか!?助けて貰えませんか!?」

『悪いが聞けないな、君には神々の戦いの火種になって貰う』

 神々の戦い!?火種!?物騒な単語ばかり聞こえる。

「何をするつもりですか!?」

『大丈夫だよ、痛い目には逢わせないさ』

 そう言っている内に…やけに豪華な屋敷に突っ込んでいく。

「助けてくださああああい!」

「ちょ、止まれ!ここはロキファ」

 門番の人が身体を使って止めようとしてくれたけど…僕の身体はそれを勝手に回避して敷地内に突っ込む。って言うか、もしかしてここって…

 助走をつけて高く跳躍、窓に激突する瞬間にひとりでに窓が開く。そこに居たのは赤髪で糸目の神様だった。

「ロキお姉ちゃん!僕のお婿さんになってください!」

 口から勝手に変な台詞が出た。目の前の神様は目を見開いたまま動かない。

「僕を捕まえて?」

 小さく首をかしげて上目遣いで言う。すっごい嫌な予感がする。

「…しゃーなしやな!据え膳食わぬは女神の恥やもんな!」

 うひょー!と言いながら僕に突撃してくる神様、それをヒラリと避けて窓から飛び降りる。

 

 再び街中を疾走する。

「ちょっと!勝手に何てこと言わせてんですか!」

『其れが一番効率が良いからそうしたまで、まだ今日は始まったばかりだぞ?』

「まだやるんですか!?」

『もう少しな』

 嫌だ!もうあんな恥ずかしい台詞は言いたくない!助けてローランさん!

 次に向かっているのは…煙突から煙の上がる建物だ。

「次は何処に向かっているんですか!?」

『神聖浴場と云う名に聞き覚えは?』

 確か神様が少し愚痴をこぼしていた気がする、リリと会って数日後くらいだったはずだ。

「確か神様用の公衆浴場…まさか!?」

『此処まで来れば悟るか、その通りだとも』

 まずいマズイ不味い!この人は僕を神聖浴場、それもおそらくは女湯に突撃させるつもりだ!

「ちょっと!それは洒落になりませんって!」

『安心したまえ、手は有る』

 そう言って建物に突入、数十人の警備が謎の鎖によって拘束されていく。

「なんだ!?侵入者か!?」

「わかりません!くそっ、この鎖異様に硬いぞ!?」

「全員あいつをなんとしてでも止めるんだ!」

 警備の皆様の奮闘も虚しく、僕の浴場への行進劇を止められない。

 とうとう浴場に突入、周囲は全体的に肌色だ。

「お姉ちゃん!一緒に寝よ?」

 僕の口が気迷ったことを抜かすと周囲は沈黙する。数瞬後、何人かの女神が立ち上がる。

「仕方ないわねぇ〜お姉ちゃんが一緒に寝てあげるわ!」

「私の方が包容力があるわよ?ほらこっち来て!」

「あっずるい!この子は私と一緒にお風呂で遊んでから寝るの!ね〜!」

 目を血走らせてジリジリとにじり寄ってくる全裸の女神様たち。僕は死を覚悟した。

「じゃあ一番最初に僕を捕まえたお姉ちゃんと一緒に寝る!」

 そう言って踵を返して浴場から出る。背後からは地獄のような騒音が聞こえてくる。もうどうとでもなれ。

 

「つぎはどこですか…もう解放して…」

『ああ、想定以上に此方の損耗が大きいな。男神にも手を出したかったが…仕方無いな、次で最後だ』

 どうやらようやく解放されるらしい。

「どこかだけ教えて貰えませんか?」

『バベルの頂上だ』

 とんでもないこと言ってないこの人?確か頂上には…

『あの女神を自ら動かせて見せよう』

「フレイヤ様ですよね!?オラリオ最強冒険者のオッタルさんがいるファミリアの主神様じゃないですか!?」

 そうこう言っているうちにバベルの根元に到着した。流石にここから50階までは跳べないと思うけど…そう考えているとどこからともなく飛んできた柱がバベルに突き刺さる。

「これ絶対やっちゃダメなことですよね!?いや今までの行為もやっちゃダメなことなんですけど!」

 突き刺さった柱を足場にしてどんどん上へと跳んでいく。あっという間に半分を超えた。

『矢張り腐っても最強か、反応が良いな。赤い霧程では無いが』

「何の事ですか!?って言うかこれすっごい怖いんですけど!」

 もう頂上に着いた…女神様の前に怖い顔をした獣人の男の人。僕の冒険はここで終わりを告げるらしい。

「何者かは知らんが無礼者を通す程俺は甘く無いぞ?」

 

 

 

 初手、正面から来る五本の柱を受け流す、想定以上の威力に驚愕したが問題は無い。

 二手目、足元が輝くのを確認。一歩引いて回避する、瞬間鎖が飛び出す。

 三手目、背後から気配。横目で確認して二本の鎖を回避。

 四手目、頭上から六本の柱、内二本が被弾する進路だったので回避。床に少し亀裂が入ったがまだ余裕はある。

 五手目、周囲から八本の鎖、三本の柱による同時攻撃。鎖は回避し柱を受け流す…と同時に床が一気に崩れる。

「なにっ!?うおおおおおお!」

 瓦礫を足場にして跳躍しようとするが鎖と柱によって阻害される。もう一度、残った瓦礫を利用して復帰を試みるが、鎖によって穴を封鎖される。駄目元で鎖を切り付けるが、空中にいる状態では自分を押し出す形となって終わる。

 

 

 

 数度の轟音と閃光の後、いつの間にか獣人の男は消えていた。

『想定以上に粘られたな』

「まさか…やっつけちゃった?」

『少し席を外して貰っただけだ、傷一つ無い』

 都市最強をこうも簡単に退けるなんて…本当にこの人は何者なんだ?

「まさかオッタルが一本取られるなんてね…それで、あなたの用事は何かしら?」

 僕は何も言わず怪しげに笑う女神様に近づいて…彼女の両手を取る。

「フレイヤお姉ちゃん…貴方の色に染めて?」

 

 


 

 

 その日、オラリオで女神同士の大規模な乱闘騒ぎがあった。その中でも特筆すべきはロキファミリアとフレイヤファミリアの騒動だろう。

 激昂したオッタル、何時になく深刻な表情のフィン、赤い霧を纏った全身鎧の冒険者がオラリオを駆け回り、血走った目を見開きながら街中を疾走するロキ、自らの足で何かを探し回るフレイヤ等、オラリオは前代未聞の混沌へと陥っていた。

 これは四日後、ロキファミリアとフレイヤファミリア、そしてギルドが一丸となって出した『女神達の休戦協定』(お姉ちゃん協定)によって一先ず終息を迎える。

 この惨状は比較的関わりの薄かった男神達によって『女神達の性戦』(ジハード)と呼ばれる事となった。

 


 

「何だよこれ…」

 確かに死人は出なかった。軽傷者は出たらしいが騒動の規模からすれば無いも同然だ。俺たち4人はこの数日食事が喉を通らなかったが。

「とんでもない事をしてくれやがりましたね…ええ、歴史書に残る大事件ですよ」

 問題はオラリオの機能が一部完全停止したのだ。この件に関わった女神達は本業そっちのけで全眷属を謎の白い女の捜索に向かわせた。

「素材の供給も流通も停滞したからな…へファイストスファミリアにも影響があったぜ?」

 そして手段を選ばなかった何処ぞの過激派女神(フレイヤ)の手によって一部の男神も捜索に文字通り全力で協力した結果事態は悪化、複数のファミリアに罰則が課せられる事態にもなった。

「ベルくんの様子はどうだい?」

「ああ、落ち着いてる」

 あの日、ベルの逃走劇は事態を見かねたアンジェラによって図書館へ避難させられる形で終息した。過度の疲労によって一日中魘されながら寝込んだらしい。表向きは俺の伝手で安全な所に隠れていることになっている。

 ビナーは1ヶ月紅茶禁止の刑に処された、俺の仕事を妨害したようなものだから当たり前だ。そこまで効果は無さそうだったがやらないよりはマシだろう。

「はあ~、本当に、君の友人ってのは何者なんだい。オラリオをこんなアホみたいな騒動で混乱させて…」

「動機が暇潰しでしたっけ?ここまでやって只の暇潰しってどんな奴なんですかその人...」

「ベル一人使うだけでこれだもんな。この事態を影響の無い所から高みの見物して面白いのか?」

 面白いんだろうなぁ…一人の少年によって阿鼻叫喚に陥るオラリオ、女神達の壮絶な争いとそれに巻き込まれて戸惑い嘆く一般人達、それを紅茶を啜りながらのんびり眺めるビナー。普通に想像できるな。

「ベルは傾国の美女だったって事だな!」

「それ、ベルくんに直接言ったらたぶん泣くぞ」

「泣くでしょうねぇ、今回の事件の事もトラウマになってそうですし」

「まあいくら女神が美人揃いだったからと言ってあんな血眼になったのが大勢追って来たらな…ヘファイストス様がベルの毒牙に掛からなくて良かったぜ」

 ベルの毒牙って、それを言うならビナーの毒牙だろ。ある意味では間違ってないけどさ。

「本当に今度からこういうことは無いようにしてくれよ?」

「アンジェラが抑えてくれれば…俺にはどうしようもないしな!ハッハッハ…はぁ…」

「この反応でどれだけ苦労しているかわかりますね」

「マジでどうしようも無いんだろうな」

 ゲブラーでも正面から本気で戦うとなると不利らしいからな。もう手の付けようがない。

 

 3日後、アンジェラの計らいで幻想体との交戦で飛躍的に成長したベルが帰還して俺達の仮装祭は終結した。

 

 こうして、オラリオの危機は去った。然し油断すること勿れ、其れから目を逸らした時再び理解の司書の玩具として弄ばれる事に為るのだから…




思いついたから書いた。後悔はしてない。

ハロウィンだしなんか書くかぁ...時系列どうする?

  • ベルとヘスティアの三人で!
  • ちょっと未来の5人だな!
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